β1,3-グルカン

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β1,3-グルカン(β-glucan、べーた-)とは、グルコースがβ1-3型の結合で連なった多糖である。植物菌類細菌など自然界に広く分布するが、アガリクスやメシマコブ、霊芝などのβグルカンは強い免疫賦活作用、制癌作用を持つとして特に注目が集まっている。β1,4-グルカンが由来に関係なく全てセルロースという名前を持つのに対し、β1,3-グルカンは由来によって様々な名前が与えられている。また、単にβグルカンと言った時には通常β1,3-グルカンのことを指す。

βグルカンはそのカタカナの呼び名が示す通り元々アメリカで発見された物質である。β1,3グルカンもアメリカの研究陣(米Tulane医科大学のNicholas DiLuzio博士(1926-1986)等の研究陣だと言われている)が酵母細胞壁から発見した,糖質分子(六単糖、Hexose)が1-->3方向で水素結合した3重螺旋構造の鎖状物質を名づけた言葉である。炭素配置の右回転方向を表す"D"を加えて、日本ではβ1,3Dグルカンと呼ばれることもある。糖の分子が1-->3結合だけではなく、酵母細胞壁からβグルカンへの分離抽出過程で1-->6方向で水素結合したいわゆるβ1,6グルカンと呼ばれる分子の鎖もわずかに残るため、日本ではβ1,3/1,6グルカンなどと呼ばれることもある。米国などで免疫調整の材料として研究対象となっているのは酵母saccharomyces cerevisiae(いわゆるイースト菌やビール酵母)の細胞壁から抽出されたβ1,3グルカンであることが多い。研究者の実験論文の中では"Poly(1-6)-Glucopyranosyl-(1-3)b-D-Glucopyranose"という学名を使ったり、(1-->3)(1-->6)-D-Beta Glucanという呼称を使う場合が多いが単にBeta Glucanという言葉を使うこともあるようだ。

原料母体となる酵母(パン酵母、ビール酵母等)は世界各国で数千年にわたる食菌としての歴史に支えられて相当量が確保できる。そこから抽出されるベータ1,3Dグルカンという物質が生体に及ぼす好影響についても歴史は浅いが相当数の実験結果がある。一方において、西暦2008年5月現在では酵母から抽出されるベータ1,3Dグルカンという物質の特定とその物質の及ぼす作用機序については未知な部分が多い。ベータ1,3Dグルカンという物質のさらなる特定方法と定量分析方法の早期確立、統計的実験以外にヒトを対象とした実際の経時による安全性と作用機序の立証などが望まれていると言われる。

目次

[編集] 酵母ベータ1,3Dグルカン

最も一般的に採り上げられているベータグルカン(ベータ1,3Dグルカン)の起源はsaccharomyces cerevisiae等の(イースト菌やビール酵母等長い歴史の中で食菌として親しまれているものもあるが)、本来免疫細胞が敵(非宿主)と認識する「菌」である。世界各国の研究陣が実験研究の中でベータ1,3Dグルカンの免疫刺激を機序とした非宿主細胞に対する抵抗を主題としている。西暦2008年6月までに発表されている研究報告に限って言えば、宿主細胞のマクロファージがベータ1,3Dグルカン断片をより細分化して好中球に伝達し、好中球が変異細胞(新生物、腫瘍細胞、癌細胞などと呼ばれる宿主細胞が変異したもの)に対する攻撃力を増加させるという作用機序を観察したものもある([The Journal of Immunology 2005,174:7050-7056], [ The Journal of Immunology 2006,177:1661-1669])。

このときから約66年前の1940年代初頭(1941年とされる)、米国のルイス・ピレマーが研究対象としていた酵母サッカロマイセス・セレビシアエ細胞壁の抽出物(高分子炭水化物画片)が現在のベータグルカン(ベータ1,3Dグルカン)の始祖といえるのではなかろうか。この物質は1943年に【ザイモサン(ZYMOSAN)】という名称でウェブスター辞典にも名を連ね、後の研究者が改良を重ねて現在に至っている。ルイス・ピレマーに関するはっきりした記録は残っていないが、彼の研究対象であった酵母細胞壁高分子炭水化物画片は1960年代に入り米国ツーレン大学(Tulane University)のニコラス・ディルジオ(Nicholas DiLuzio, 1926-1986)によって更に明確化、ディルジオの手で高分子炭水化物画片中の主構成物ベータ1,3Dグルカン【(1-->3)(1-->6)-D-Beta Glucan】が特定され、米国各地の研究者に引き継がれていったと思われる。

酵母β1,3Dグルカンは西暦2008年6月現在世界で約9,000例の動物実験やヒトによる治験報告例が記録されている(その時点での米国医療文献サイト[MedLine]による)。その殆どは酵母β1,3Dグルカン画片[fragments]が白血球細胞中のマクロファージや好中球などの自然免疫細胞に結合されて(貪食されて)それら自然免疫を刺激することにより、ウイルスや菌等の外敵あるいは変異した宿主細胞(新生物、腫瘍細胞などとも呼ばれる)に対する免疫抵抗力が強化される、というものだ。一方で酵母βグルカンは白血球を特異的に刺激することによって過剰あるいは不要な免疫抵抗を起こすのではないか、との疑問も呈されてきた。例えば酵母由来β1,3Dグルカンは組織移植によって起こる宿主細胞の拒絶反応を促進(増大)するのではないかといったような疑問である。1996年に米国外科医療誌[Journal of Surgical Research]62(2)で発表されたW.K.Washbum博士等のマウス実験論文(論文表題は日本語で「白血球特異性免疫刺激剤のβグルカンは組織移植のGVHD(*)や拒絶反応を促進しない」)はこうした疑問を払拭し、酵母β1,3Dグルカンを投与してもドナー組織移植による拒絶反応を促進しないという結果を発表している(*GVHD=移植片対宿主病変)。

ベータ1,3Dグルカンは高分子の糖質【Saccharides】で、それ自体には抗腫瘍作用や抗酸化作用などの薬理作用は無いといわれている。一方でベータ1,3Dグルカンが生体内に入ると免疫細胞に働きかけて悪性新生物(ガン細胞)を攻撃させたり、抗酸化酵素(スーパーオキシドディスムターゼ、SODに代表される)に働きかけて遊離基(生体に悪影響を及ぼすいわゆる活性酸素、フリーラジカル)消去効果を高めたりするという医療統計学的実験論文も公表されている(上記細胞レベルでの抗腫瘍実験・治験報告および、活性酸素除去様作用については2006年にA. Pietrzycka博士等がActa Pol Pharm誌63号で発表した実験論文等が該当する)。一方において2007年にJournal of Agricultural Food Chemistry誌 55(12):4710-6でS.C. Jaehrig博士、S. Rohn博士らによって発表された酵母細胞壁画分の実験では、抗酸化作用はベータグルカンそのものよりも酵母細胞壁蛋白によるものが大きいと結論付けている。酵母ベータ1,3Dグルカンの持つ抗酸化作用・機序については前述の通り2008年6月末現在では未解明な部分が多い。しかしながら、これまでの研究結果から、酵母細胞壁から抽出されたベータ1,3Dグルカン複合画分は免疫細胞や抗酸化酵素など生体に備わった機能に働きかけて宿主を存続させるという役割を果たすのではないかと推定される。今後は【ベータ1,3Dグルカンが生体機能に働きかける】という間接的作用・機序だけでなく、ベータ1,3Dグルカンという物質自体の持つ物理・化学的作用の解明と安全性検証の積み重ねが期待されている。

[編集] 酵母ベータ1,3Dグルカンの抗酸化作用

1980年代後半から2000年代にかけて一部研究者の手によって酵母サッカロマイセス・セレビシアエから抽出したベータ1,3Dグルカンの持つ抗酸化作用の有無に関する実験検証が行われていることは上述されている。実験検証の多くは酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカン画片(高分子炭水化物連鎖体)が示顕する抗酸化作用(生体においては活性酸素消去様作用)の現象をとらえたものではなかろうか。もし酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカンに抗酸化作用があるとすれば、この多糖物質にはそれまでに実証が試みられていた免疫調整機能とは別の「抗酸化環境維持能」のような機能があるのではないかということも否定できない。酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカンを含む高分子多糖成分が抗酸化作用にかかわっているのかということについては、より精細な検証が期待される(2008年11月1日現在)。

[編集] 酵母ベータ1,3Dグルカンの特許関連

1980年代から2000年代にかけては酵母細胞壁抽出物である高分子多糖物質、特にベータ1,3Dグルカンの免疫調整作用が喧伝され始めた時期である。その時期と合わせるようにして米国を中心としてこの物質の製法や用法に関する特許が多く申請されるようになった。(用法についての特許が多いのは米国ならではであろう)。それにつれて米国内で特許係争も見かけるようになった。

[編集] 酵母ベータ1,3Dグルカンと中枢神経組織

酵母ベータグルカンが免疫細胞を刺激する、という前提に基づいて1994年以来この物質が中枢神経組織の免疫細胞にも影響を及ぼすのか、という実験が進めらる(1994年 Res. Immunol, 154(4): 267-75, 2008年 J. Immunol, 180(5): 2777-85)。中枢神経組織には【マイクログリア、Microglia】という貪食免疫細胞が在住して神経細胞を守っていると言われる。実験は酵母ベータグルカンがこの免疫細胞にも影響を及ぼすのかどうかという検証である。2009年現在これらの実験は動物(マウス等)が対象である。非常に大くくりな言い方をすれば、これら実験の結果はマイクログリアは酵母ベータグルカンによって刺激され活性されるが、周囲の神経細胞に害を及ぼすような過剰な免疫反応は起こさない、といったものであろう。

[編集] β1,3Dグルカンと酵母

β1,3Dグルカンという呼称は、そもそも酵母(YEAST)細胞壁の抽出複合物から発見された一物質につけられた名称と言われる。この物質の母体となる酵母の効用というものは数千年という長い歴史の中で度々出てくるようだ。たとえばピラミッドの埋蔵物から発見された、紀元前16世紀(推定)に書かれた古代エジプト医学書とされる【エーベルス・パピルス】には既に強壮の秘薬として酵母が記述されていると言われる。強壮の原因がβ1,3Dグルカンに帰するものであったかどうかは不明であるが、β1,3Dグルカンの含有が最初に発見された酵母が何千年にもわたって人の生活に浸透してきたことは確かなようだ。

[編集] 研究の歴史

  • 1941年 アメリカの化学者、ルイス・ピレマーが出芽酵母Saccharomyces cerevisiae細胞壁から抽出した物質に「ザイモサン」と名づけた。
  • 1960年 アメリカ・チューレーン大学の創始者、ニコラス・ディルジオ(1926-1986)が同じく出芽酵母の細胞壁から抽と出し、構造を明らかにしてβ1,3-グルカンと名づけた。
  • 1963年 βグルカンが、がん細胞の縮小に効果を持つことが初めて発表された。
  • 1984年 米マサチューセッツ工科大学(MIT)とAlpha Beta Technology社(ABT)の産学共同研究で酵母βグルカンの微粒子精製に成功。
  • 1985年 日本で、シイタケ由来のレンチナンが天然由来の抗がん剤として認可を受けた。2007年現在ではこの他に、カワラタケ由来のクレスチンスエヒロタケ由来のソニフィランも認可を受けている。
  • 1990年 MITとABTが共同で酵母βグルカン粒子から医療向け水溶性βグルカン(注射液)の開発に成功。
  • 1990年 水溶性βグルカン(、実験用の注射液と思われるリン酸グルカン)の開発特許認可(米パテント番号4,975,421)
  • 1994年 米ルイビル大学で酵母βグルカンが癌に及ぼす影響の研究を開始。
  • 1996年 米外科医療誌[Journal of Surgical Research]62(2):179-183でW.K. Washbum博士、R. Gttschalk博士、I. Otsu博士等の研究陣が臓器移植ラットを使って実施した水溶性ベータグルカンの実験では、臓器移植後のGVHDや移植拒絶反応を有意に増加させなかったという結果が発表された。
  • 1999年 米ルイビル大学微生物学研究室と同大学ジェームズ・グラハム・ブラウン癌センターが共同で酵母βグルカンと最新分子標的抗癌剤(モノクロナール抗体抗癌剤)の併用効果について前医療実験開始。
  • 2001年 酵母細胞壁β1,3Dグルカンは免疫細胞だけでなく、ヒトの皮膚線維芽細胞上の受容体に結合して皮膚組織修復を促進する、という実験結果が米免疫・感染症医療誌「Infection and Immunity」69(6)で発表された。
  • 2002年 日本の研究機関とアメリカルイビル大学病理学研究室が2001年に共同で行った酵母由来ベータ1,3Dグルカンの経口投与による抗腫瘍作用マウステスト実験結果が米健康医療誌[JANA(The Journal of American Neutraceutical)]2002年Vol5.No.1号で5ページにわたり紹介された。
  • 2004年 米免疫医療誌[The Journal of Immunology]2004 173で経口投与による酵母β1,3Dグルカンと分子標的抗癌剤(リツキシマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ等)併用による抗腫瘍相乗効果の前医療動物実験結果が発表された。
  • 2005年 米外科医療誌[Neurosurgical Review]2005年28(4)号では、H.カヤリ博士、M.F.オズダグ博士等の研究陣が酸化ストレス状況に置かれたラットを使って実施したベータグルカンの抗酸化作用の実証実験が発表された。
  • 2007年 米食品化学誌[Journal of Agricultural Food Chemistry]55(12):4710-6でS.C.Jaejrog博士、S.Rohn博士等によって酵母細胞壁抽出複合体は、(1-->3)(1-->6)ベータDグルカン画分の抗酸化作用よりも細胞壁蛋白画分の抗酸化作用が大きいという実験結果が発表された。

[編集] β1,3-グルカンを主とする多糖

[編集] β1,3-グルカンに関する学術的資料(論文・著作など)

最終更新 2009年10月5日 (月) 00:33 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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