アメリカ合衆国下院121号決議

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アメリカ合衆国下院121号決議(アメリカがっしゅうこく かいん ひゃくにじゅういちごうけつぎ、"United States House of Representatives proposed House Resolution 121")とは、慰安婦に対する日本政府の謝罪を求めるアメリカ合衆国下院決議案である。「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」などとも呼ばれる。本決議ではアメリカ軍慰安婦については一切言及していない。

2007年6月にアメリカ合衆国下院外交委員会で可決された。最終的に日本時間7月31日未明に下院本会議で議事進行簡潔化の為に議論が40分以下に制限されるサスペンション・オブ・ザ・ルール動議が適用された(通常、議論の必要のない議案をすばやく可決するのに用いられる手法である)。10人程度の議員が出席して投票ではなく声による反対意見無しが確認された上で、満場一致で採択された[1]。この決議は法的に非拘束のものであり、行政府に政策を取るように求めるものではなく、上院に送られる性質のものではない。

目次

[編集] 決議内容(日本語による全文)

121号決議 アメリカ下院  2007年7月30日

 1930年代から第2次世界大戦までの間、日本政府は、「慰安婦」と呼ばれる若い女性たちを日本軍に性的サービスを提供する目的で動員させた。日本政府による強制的な軍隊売春制度「慰安婦」は、「集団強姦」や「強制流産」「恥辱」「身体切断」「死亡」「自殺を招いた性的暴行」など、残虐性と規模において前例のない20世紀最大規模の人身売買のひとつである。

 日本の学校で使われている新しい教科書は、こうした慰安婦の悲劇や太平洋戦争中の 日本の戦争犯罪を矮小化している。また、最近日本には、慰安婦の苦痛に対する政府の真摯(しんし)な謝罪を含む河野洋平官房長官による1993年の「慰安婦関連談話」を弱めようとしたり、撤回させようとしている者がいる。

 日本政府は1921年に「婦人および児童の売買禁止に関する際条約」に署名し、2000年には武力紛争が女性に及ぼす影響についての国連安保理決議「女性、平和及び安全保障に関する決議第1325号」も支持した。下院は、人間の安全と人権・民主的価値・法の統治および安保理決議第1325号に対する支持など、日本の努力を称える。米日同盟はアジア太平洋地域での米国の安保利益のいしずえで、地域安定と繁栄の根本だ。冷戦後、戦略的な環境は変化したが、米日同盟はアジア太平洋地域で政治経済的な自由、人権と民主的制度に対する支持、両国国民と国際社会の繁栄確保をはじめ共同の核心利益と価値に根ざす。下院は日本の官僚や民間人らの努力により1995年、民間レベルの「女性のためのアジア平和国民基金」が設立されたことを称える。同基金は570万ドル(約7億円)を集め、日本人たちのしょく罪の意識を慰安婦に伝えた後、2007年3月31日に活動を終了した。


 以下は米下院の共通した意見である。

1、日本政府は1930年代から第2次世界大戦終戦に至るまでアジア諸国と太平洋諸島を植民地化したり戦時占領する過程で、日本軍が強制的に若い女性を「慰安婦」と呼ばれる性の奴隷にした事実を、明確な態度で公式に認めて謝罪し、歴史的な責任を負わなければならない。

2、日本の首相が公式声明によって謝罪するなら、これまで発表した声明の真実性と水準に対し繰り返されている疑惑を解消するのに役立つだろう。

3、日本政府は「日本軍が慰安婦を性の奴隷にし、人身売買した事実は絶対にない」といういかなる主張に対しても、明確かつ公式に反論しなければならない。

4、日本政府は、国際社会が提示した慰安婦に関する勧告に従い、現世代と未来世代を対象に残酷な犯罪について教育をしなければならない。

[編集] 背景

慰安婦問題は、吉田証言などにより、最初に慰安婦の強制連行があったという報道がなされたが、その全てが事実とは限らないことが証拠で明らかになっていった。ところが、海外で特に韓国では、『朝日新聞』などの慰安婦と女子挺身隊を混同させる報道が訂正されないまま伝わり、それに基づいて慰安婦問題に対する反発が固定化していった[2]。ここで、女子挺身隊は女性に対する勤労動員のことでありいわゆる徴用の一種であるから、徴用を強制連行と同視する韓国の視点からはこの報道は慰安婦強制連行そのものこととなる。韓国では、この報道の内容が正しくないとの認識が広まりつつあるが、慰安婦として動員された女性が、挺身隊として動員されたと認識していたため、この混同は整理されていない。

このような慰安婦に関する報道に危機感を抱いた、日本保守右翼政治家や同種論壇において、軍組織による直接的な強制ではなく、もろもろの理由(その主なものは経済的事情)で慰安婦になった人はいるが政府による強制連行は行われていないと言う反論が繰り返しなされた。もろもろの理由の中には、業者による詐欺的な勧誘があったであろうこと、家族などによる身売りのケースなどがあっただろうという説明がなされている。この主張は『読売新聞』や、新保守主義を標榜する政治家や知識層に多く見られるもので、産経新聞社発行の『正論』のほか、『諸君!』や『WiLL』、『Voice』といった保守系論壇雑誌に慰安婦強制連行否定論が度々掲載されている。

この動きに対して日本国内の慰安婦問題批判派から、慰安婦強制連行の真偽が問題なのでは無く、「経済行為者としての慰安婦」は平和時なら兎も角、戦時に於いて軍の威嚇強制行為が無い事はありえないという指摘が行われた。そういった歴史的事実を資料を持って反論する行為自身が戦後日本の体制を脅かす右傾化という批判点の転換を行ったのである。

一方で、慰安婦と挺身隊とを混同した『朝日新聞』の誤報や、政府による強制連行があったという誤報に基づいて、アジア各地の慰安婦と支援団体、及び慰安婦の出身地域の政府がある朝鮮半島ではそれに基づいた批判が大きくなっていった。 また、中華民国台湾は、台湾の中華民国外交部(外務省)[3]は、「従軍慰安婦を集めるために旧日本軍が直接、強制した具体的な証拠はない」とした安倍晋三首相の発言(後述)について「深く遺憾に思い、厳に抗議する」との声明を発表した。 また、中華人民共和国フィリピンインドネシアなどのアジア諸国やかつてインドネシアの宗主国で自国民が慰安婦として従事させられたオランダ(軍人が慰安婦狩りを行いながら処罰されず、戦後に戦争犯罪として裁かれた白馬事件。事実関係は後記参照)など欧米から過去の日本軍による戦争犯罪を否定する歴史修正主義であるとして批判がみられる[1]

このように、海外では慰安婦行為の強制性を重視して、それにもとづいた主張が行われ、日本では強制連行が無かった事を重視して、強制性の問題を矮小化するという、批判派の論点のねじれが生じている。また、海外では日本政府や保守派の反論が強制連行が無かったことなどの具体的な点に対してのものであることもよく伝わっていないか隠蔽され、歴史修正主義一般としてとらえられている傾向がある。保守派の広報はこの点をただすものであったが、国内における論点のすり替えと、国外の論点の認識不足の板挟みにあっている。この点をとらえて、広義の謀略であるとする人もいる。

そうしたなか、日系アメリカ人でカリフォルニア州シリコンバレー選出のマイク・ホンダ下院議員は、日本政府への慰安婦に対する謝罪要求決議案を2007年1月に下院に提出した(直接の請願者はマイアミで慰安婦救済活動に取り組んでいるEvelina Galangである)。なお、ホンダ議員はカリフォルニア州議会議員であった1999年にも日本政府は犠牲者に対して明確に謝罪し、賠償を行うべきとするAGR-27決議を可決させたことがある。なお、ホンダ議員の選挙資金には中国系の資金が多いことが報道されている。

こうした動きに対し、『朝日新聞』などは自らの過去の報道の修正を行うことに消極的なまま反論をすることを差し控えるべきと言う報道を繰り返した。一方、『読売新聞』などは、名指しは避けたものの、『朝日新聞』などの一連の新聞社の誤報が慰安婦問題の誤解の原因となったことを指摘し、誤解を解く努力の必要性を訴えた。

日本政府の謝罪を求める同様の一連の決議案は、過去5回提出されていずれも廃案になっており、2006年のアメリカ下院759号決議案などの5回は否決されていたが、6回目は今までになく注目を集めていた。これは、2006年の中間選挙でアメリカ共和党が大敗し、アメリカ上下両院で民主党が多数を占め、従軍慰安婦問題のような政治問題を民主党は重要視するようになったためである。また背景には中国・韓国系アメリカ移民がカリフォルニアを中心に人数、経済力ともに力をつけ、政治的発言権の増大もある。

この動きに対して、『朝日新聞』では、日本側の保守論壇が試みた米国紙への慰安婦問題の広告掲載が開き直りととらえれて米議員の反発を呼んだという報道がなされた。しかし実際には、決議後に対日友好決議を下院があえて行ったように、ホンダ議員が中国の献金を受けていたことが報道され、また、議会の最終的な報告書では前回のものと異なり、慰安婦の強制連行の有無については日本政府の立場を支持し、政府としての強制連行は無かっただろうと結論づけており、また決議案もかなりトーンダウンしており、日本政府による強制連行などについては言及が無くなっているなど、保守派や日本政府の反論がアメリカ下院にも一定程度伝わっていると考えられている。

[編集] アメリカ世論の動向

日本の野党第一党の民主党の有志による「慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会」が2007年3月に設立されたが、旧日本軍・政府の強制連行とされるような関与はなかったという立場から、いわゆる河野官房長官談話(軍による従軍慰安婦強制を認めたとされる)の見直しを安倍首相に提言する議員連盟として立ち上げられた。かつて一議員であった時代に河野談話を否定・批判する発言をした安倍晋三首相が、同会の要請に応じる形で3月に「(従軍慰安婦に)強制性はなかった」と国会答弁した。この答弁に対して韓国・中国・台湾・フィリピンなどからも批判を受けたが、アメリカ合衆国のメディアが注目することとなった。

アメリカの有力新聞社ワシントン・ポスト紙の社説は「北朝鮮による日本人拉致問題に熱心なのと対照的に日本自身の戦争犯罪には目をつぶっている」として「二枚舌」とし、また、ノリミツ・オオニシ、ニューヨーク・タイムズ東京支局長などが、日本政府の動きを批判するなど、アメリカの主要各紙が日本政府のこの問題での不誠実な態度だとして批判した。またアメリカ院外交委員会には慰安婦問題で日本政府に謝罪を求める決議案をマイク・ホンダ議員らが提出していたことが大きく報道されたため、この決議案に注目が集まるようになった。

この決議案可決を阻止するため、日米関係を重要視する安倍首相は4月末の訪米時に、ブッシュ大統領や議会関係者らに、「おわび」を表明することで、5月に予定されていた採決は見送られていた。しかしベラルーシ中華人民共和国の人権問題と同様に、女性を「性の奴隷」にした大きな「人権問題」とされたため下院のこの動きを封じるまでには至らなかった。また4月に安倍晋三首相の訪米に合わせて韓国系市民を中心とする団体が同紙に「従軍慰安婦の真実」と題した全面広告を出していた。

安倍首相はもともと河野談話に否定的だったが(詳しくは河野談話を参照)、2007年3月には、国内、国際世論の動向を見つつ、当初の強硬姿勢を修正し、国会答弁で慰安婦への「同情とおわび」に言及した。また4月には月末の訪米を控え、米誌ニューズウィーク等の取材に答えて従軍慰安婦問題について「人間として心から同情する。首相として大変申し訳なく思っている」と改めて陳謝したうえで「彼女たちが慰安婦として存在しなければならなかった状況につき、我々は責任がある」と述べ、日本側に責任があるとの認識を示した。4月の訪米時にも、慰安婦問題について謝罪と釈明を繰り返すこととなった。これにより、米国政府からの謝罪圧力は沈静化したが、米国議会では日本政府の慰安婦問題に関する対応への不満がなお存在した。一方日本の保守派・右派の中には慰安婦動員の強制性、女性に対する性的搾取など存在しないという主張から安倍政権の対応を『弱腰』として批判する意見も噴出し、後述する抗議活動を展開してゆくことになった。

[編集] 2007年6月ワシントン・ポストへの全面広告

強制連行の証拠はないとする一部の日本人は、屋山太郎櫻井よしこ花岡信昭すぎやまこういち西村幸祐の保守論壇5人からなる「歴史事実委員会」名で、『ワシントン・ポスト』(2007年6月14日付)に全面広告を出した。内容は、慰安婦募集に日本政府や軍の強制はなかった、進駐したGHQは日本側に慰安所の設置を要請した(実際には日本政府が自主的に設置したもの、詳しくは「特殊慰安施設協会」を参照)、などと主張するものである(ただしこれらの主張の内容が事実かどうかには論争がある。詳しくは慰安婦の項を参照)。この意見広告には島村宜伸河村たかしら自民、民主両党の超党派の国会議員ら計44人と、保守論客らの連名[4]で「慰安婦はセックス・スレーブ(性奴隷)ではなかった」として、「従軍慰安婦の事実」と題していた。全面広告の画像THE FACTS(事実)」という見出しをつけ、旧日本軍の強制を示す文書がないと主張したうえで、慰安婦は公娼制度であったと主張した。また動機として「事実無根の中傷に謝罪すれば、人々に間違った印象を残し、日米の友好にも悪影響を与えかねない」としていた。

この意見広告について、雑誌『AERA』では、「日本政府や軍の強制はなかったと書きつつ、オランダ人女性について強制があったが関係者は日本軍により処罰されたと書くなど、内容に矛盾がある(実際には日本軍による処罰はなく、終戦後に連合国の裁判により処罰、白馬事件を参照)。また、朝鮮半島における女性への強制が裁判の判決で認められていることや、朝鮮総督府が、終戦時に大量の書類を焼却し証拠隠滅を図った事実などにはまったく触れていない。内容はずさんでアメリカの知識人の嘲笑を買う結果になった」などと主張した。一方で、保守派・右派はこれを「慰安所での慰安婦への性的虐待」「慰安婦の強制連行」などという「特定亜細亜」の「反日プロパガンダ」に対する明快な反論と高く評価した[5]

[編集] アメリカ側の反応

日本の右派・保守派はこの「歴史事実委員会」による「アメリカ思いの」広告によって、日米同盟の重要性が再認識され、決議案可決の流れをストップされることを期待していた[2]という。しかしながら、日本側の動きが、ニューヨーク・タイムズなどにより報道されたため注目が集まり、決議案に対する共同提案者がむしろ増え、共和党議員や下院外交委員会のトム・ラントス委員長も含め下院定数の3分の1を占めることとなった。そこで、「かえって藪蛇になったのではないか」などと、全面広告が逆効果になったのではと報道[6]された。また、アメリカ合衆国海軍は、戦後の日本に作られた特殊慰安施設協会に関する広告の主張に対し反論を行うと表明した[要出典]。また、ディック・チェイニー合衆国副大統領も「このような意見広告が何故掲載されたのか」という不快感を示したとされた。[3]。一方でブッシュ政権は4月の安倍首相の発言を「謝罪」したとすることで沈静化しようとしたが、この意見広告が火を付けた形となり議会の動きを制止することは出来なかったとされた。

6月26日の下院外交委員会の採決は「賛成39、反対2」で決議案は可決された。なお、決議案は原案から修正され「日本国首相の公式の声明としての謝罪」を「首相が公式な声明として謝罪すれば、これまでの声明の誠意に関し繰り返される疑問を晴らすのに役立つだろう」として、日米同盟の重要性を指摘する文章も追加された[7]。またナンシー・ペロシ下院議長が「本会議でも採択し、強いメッセージを発したい」とする声明を出し、下院本会議で数人による満場一致で採択された(下院議員総数435人のうち共同提案者は168名に達したがその大半は出席していない[1])。

[編集] 日本側の反応

[編集] 否定的反応

決議案について塩崎恭久官房長官は「外国の議会が決議したことであり、コメントすべきことではない」として発言を避け公式な見解は行わなかった。又安倍首相も同様の姿勢を示し、決議を黙殺する構えを明確化した。これは、泥仕合になることで予想される日米関係の悪化と、拉致問題などの懸案への悪影響を避けたいため、そして非拘束の実効性のない決議であるためアメリカ世論を刺激するのは得策ではないとの判断があったとされる。また同時に中華人民共和国によるウイグル人に対する人権問題と、ベラルーシの人権問題に対する非難決議案も可決された。

一方、従軍慰安婦問題の存在に否定的な「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」といった有志の保守政治家および主にネット上の「河野談話の白紙撤回を求める市民の会」を中心とした右派民族系市民団体は反発し、平沼赳夫など広告に連名した超党派の国会議員達が27日に記者会見[8]し、「事実に基づかない決議は日米両国に重大な亀裂を生じさせる」などと批判したうえ、決議案の根拠となった河野洋平官房長官談話の再検証も改めて提案した。

自由民主党の従軍慰安婦問題に否定的な「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、委員会可決を受けて公式に非難し、「慰安婦は性奴隷などではなく、自発的に性サービスを提供した売春婦に過ぎず、虐待などの事実もない」として、決議案への反論を米国下院に送致することを決定し、2007年6月29日の記者会見でその旨を発表した[9]

日本文化チャンネル桜と国会議員・地方議員や文化人等の有志は7月13日に米国大使館に「歴史的事実と全く異なる事実誤認に基づく決議案」だとして当決議案の全面撤回を求める要望書を提出し、記者会見を行った。14日に同抗議書を米下院議員全員に送致した。[10][11][12]また維新政党新風を初めとするそのほかの民族系右派の政治団体も同様の行動を行った。反『特定亜細亜』的色彩の濃い西村幸祐やそれに同調する者もブログなどネット上で意見を主張していた。

加藤良三駐米大使は、決議の採択は「日米関係にとって有害だ」との認識を示しており、「正確な事実の説明は手広く行ってきたし、引き続き努力する」と述べ、米議会に対し、日本政府のこれまでの謝罪の経緯の説明を継続する考えを示した。実際に加藤氏は決議案の委員会採決直前に米下院の有力者に決議案全面撤回を求める書簡を送っている。この文書で加藤氏は「仮に決議案が可決された場合、日本政府はイラク復興や対テロ戦争でのアメリカへの支援の見直しなども含めた対策を取らざるを得ないだろう。日米の友好関係に長期にわたって悪影響を与える。」と主張し、決議案の全面撤回を求めた。[13]

また日本の主要紙は社説などで「事実誤認」「おろかな選択」「有害である」などと批判を展開したが、『朝日新聞』社説のみ「日本に謝罪するよう要求」する論評をおこなった[14]

これらの動きに対し、米国の韓国系市民で構成される慰安婦支援団体は米領グアムで日本軍将校が米国籍のチャモロ人女性を性的に搾取したとする米海軍の裁判記録を提出した。[15]。これに対して日本の右派・保守派は個人的な犯罪であり、慰安婦に対する組織的な性的搾取・虐待の証拠にはならないと反論している。また日本の右派、保守派の中には、中央大学教授の吉見義明が述べているように、大多数の慰安婦は日本国内の農村部で食い詰めた日本人女性のほうが大多数占めていた事実[16]があり、植民地・占領地からの慰安婦は寧ろ少数派だったと主張する向きもある。一方では慰安婦問題に対し日本政府が無過失であることを実証するのは論理学上の「悪魔の証明」という困難な命題であり、歴史学者が論じるのは適当であっても政治的問題として取り扱うと、一方的に日本側が不利であるため、アメリカによるイラク戦争や拘束したアルカイーダの捕虜虐待も含め総合的な人権問題として議論するほかないという主張[17]もある。

ただしこれらの動きに対して、「安倍首相らが事態を静観する姿勢を示している[18]ため、河野談話の見直しや撤回等の何らかの対応は行われる見込みはない」という意見も強い。一方、前述のようにアメリカ合衆国の大統領サイドが4月の日米首脳会談における安倍首相の発言を事実上「慰安婦問題に対する日本国首相の謝罪」とすることで事態を収拾しようとしていた経緯があり、むしろこれらの抗議活動は決議案可決推進派の勢いに力を貸す結果となった。またアメリカ側の親日派も日本側が過激な行動に走るならば、事態のさらなる悪化を招くだけであり、特に日本政府が反応すべきでないとの主張もある[19]という。

以上のことから、慰安婦問題に対する日本政府の責任を軽減・もしくは否定しようとする抗議活動が、むしろアメリカ議会に対して反発を生じさせ、決議案に一連の慰安婦問題否定論者による動きに対する批判が決議に盛り込まれるなど、かえって日米間の意思疎通の溝が埋まらなかったと、一部で指摘[20]されている。また水面下で安倍内閣がロビイストを雇用してアメリカ側に採択回避を働き掛けてきたにもかかわらず、最終的には可決されたため日米同盟を最重要視する安倍政権にとって手痛い失点との指摘[20]もある。

[編集] 肯定的反応

安倍首相訪米前の2007年4月18日、日本の戦争責任資料センター吉見義明林博史女たちの戦争と平和資料館館長の西野瑠美子らは、日本外国特派員協会で従軍慰安婦問題に関する記者会見を開き、海外の記者に向けて、日本国の加害者責任を強く宣伝した[21]

決議案が成立すると、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案の成立を目指す民主党岡崎トミ子千葉景子らは決議の可決に感謝の意を示し、決議に反対する安倍内閣を強く非難した。また、兵庫宝塚市、東京清瀬市、北海道札幌市の各市議会で日本政府に誠実な対応を求める意見書が採択された。

2008年11月23日に開催された第9回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議では、決議可決を受けて「謝罪と補償のための法律を制定するよう、あらゆる方法を駆使して日本政府に働きかける」「国際連帯をいっそう強化する」「歴史認識を育て、記憶を継承し、女性に対するいかなる暴力も人権侵害も許さない運動を推進する」などの綱領を採択した。

[編集] 下院本会議可決

最終的に決議案は下院本会議で採決にかけられ、現地時間7月30日(日本時間7月31日)に賛成多数で採択された。アメリカ側が日本の参議院選挙後に可決したことについて、一定の配慮があった[22]とされる。提案者であるマイク・ホンダ議員は「日本国民を責めるものでなく友人としての言葉である」として反日を意図した決議案でないと強調した。また下院では「日米同盟の重要性やテロとの戦いへの日本の貢献を評価する決議」が決議も可決[23]されており、これに対して共同提案者にホンダ議員も入っておりバランスを取っているとしている。

この決議案に対する日本側の反応は、委員会可決の時と同様にまだない。また決議に対するアメリカ合衆国の行政府の対応であるが、[24]ケーシー国務省副報道官が「ブッシュ大統領と安倍首相はこの慰安婦問題を話し合い、大統領は日本側の対応に満足の意を表明している」と述べ、下院の謝罪要求決議を支持せず一定の距離を置く姿勢を示した。

保守論客で構成されている新しい歴史教科書をつくる会はこの決議について「慰安婦の証言は嘘であると明確に証明されているにもかかわらず、このような決議が米国下院で採択されたのは残念だ。」と抗議した。[25]また同様に右派言論人で組織された史実を世界に発信する会はこの決議に対して「歴史事実を極度に歪曲し、存在しないものを捏造した前提の上で成り立っているもの」と強く批判し、7月31日に下院議員全員に抗議書を送致した。[26]産経新聞読売新聞は「誤った歴史認識に基づく根拠のない対日非難」とこの決議を厳しく批判した。また毎日新聞の社説は、イラク戦争におけるアメリカ軍による人権侵害やアメリカにある広島・長崎に対する原子爆弾投下を正当化する歴史認識も含め自らの過ちを謙虚さを米国には求めたいと批判した。一方で朝日新聞の社説は、決議は首相に謝罪を求めており、河野談話に沿った内容の談話を安倍首相が出すべきだと、米国の決議に沿った主張をしたため、主要新聞の中で「朝日社説だけが『孤立』」と報じられた[27]。地方紙の中には[28]安倍首相が日米間に生じた溝を埋めるための説明責任を果たす必要があるとする主張も見られた。

海外メディアとしては、2007年7月4日アラブ諸国大手のマスメディア、アルジャジーラが「アメリカは日本・中国・朝鮮半島間で問題を発生させた」という記事を掲載した。その中でアルジャジーラは「アメリカは、何故日本だけに対し従軍慰安婦決議案を出したのか?アメリカはベトナム戦争で罪もない何千人以上の人々を化学兵器で殺戮をしたのに謝罪は無く、さらには暴力でアフリカ人をアフリカからアメリカに強制移住させたことにも一切謝罪していない」と述べ、「アメリカは日本・中国・朝鮮半島間にわざとトラブルを発生させ、目的を達成させたいようだ」と述べた[29] また、 英国の大手のマスメディア BBCの記事は、アメリカ合衆国 ラントス下院外交委員長(民主)の批判「吐き気を催させる否定」 (Nauseating denial)を 引用、日本の保守論客を非難した[4]

なお、アメリカ議会がこのような態度に出たのは、いわゆる人権外交の一貫であり、アメリカの価値観にそぐわなければ同盟国であっても容赦しない姿勢があったという見方もある[30]。一方で日本の右派・保守派の中にはアメリカの揺るぐことなき第二次世界大戦における戦勝史観からすれば、背景に日本軍は卑怯で愚劣であったとする「思考停止的」な歴史認識もあるとの指摘もある[30]

一方で日本の右派・保守派の間には、この間の動きを、朝日新聞やニューヨークタイムスなどの親中国系とされるメディアが主導したことや、ホンダ議員への中国系の献金が多いことなどをとらえて、日米離間工作の一種ととらえる人もいる。

また当決議案採択の後フィリピンやオーストラリアの議会でも慰安婦問題に関して日本の謝罪を求める決議案が提出された。[31]

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

[編集] 脚注

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  1. ^ 2007年7月31日 産経新聞
  2. ^ その混同報道を行った植村隆は現在、朝日新聞中国特派員である。
  3. ^ 日経ネット2007年3月7日配信「台湾も慰安婦問題で安倍首相に抗議」2007年7月16日確認
  4. ^ 賛同者が連名で記載されているため、連名の個人が各々責任を持つといえる
  5. ^ 『AERA』2007年8月13日・20日号)
  6. ^ 共同通信2007年6月19日配信
  7. ^ 『読売新聞』2007年6月27日付朝刊
  8. ^ 『読売新聞』2007年6月28日付紙面
  9. ^ 『読売新聞』2007年6月29日朝刊「慰安婦」決議、自民議員が米下院に声明送付へ
  10. ^ 抗議書送付と記者会見の映像
  11. ^ 米下院外交委員会への抗議書
  12. ^産経新聞』2007年7月13日地方議員ら、米下院慰安婦非難決議に抗議
  13. ^ 「慰安婦決議案『日米に害及ぼす』加藤駐米大使が警告」産経新聞2007年7月20日付
  14. ^ 慰安婦決議で新聞「猛反発」 朝日社説だけが「孤立」2007年8月1日Jcastニュース
  15. ^ 「日本、米国領グアムでも慰安婦強制動員に介入」中央日報2007年7月26日付
  16. ^ 吉見義明『従軍慰安婦』岩波書店 1995年参照、
  17. ^ 『毎日新聞』2007年8月1日朝刊
  18. ^ 『時事通信』2007年7月6日配信記事2007年7月9日確認
  19. ^ 『朝日新聞』2007年6月26日朝刊
  20. ^ 中国新聞2007年8月2日社説「慰安婦決議 首相は説明責任がある」
  21. ^ 世界のメディアが注目する「慰安婦問題」 JANJAN 2007年4月18日
  22. ^ 『朝日新聞』2007年8月1日朝刊
  23. ^ 時事通信2007年8月1日付
  24. ^ 慰安婦問題、日本の対応に満足=謝罪要求決議支持せず-米政府 時事通信社、2007年8月1日確認
  25. ^ 米国下院が「慰安婦対日非難決議」を採択「つくる会」は「河野談話」破棄を求める声明を発表
  26. ^ 『米国下院議会へ陸続と抗議文 日本の保守系文化人が立ち上がる』 宮崎正弘の国際ニュース・早読み
  27. ^ 慰安婦決議で新聞「猛反発」 朝日社説だけが「孤立」
  28. ^中国新聞』2007年8月2日
  29. ^ “The U.S. wants to create trouble between Japan, China and Korea” - Aljazeera.com
  30. ^ 『中国新聞』および『山陽新聞』2007年6月28日付朝刊(時事通信社配信の記事より)
  31. ^ 「慰安婦決議案、比下院に提出 米決議の追い風期待」朝日新聞2007年8月13日付

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