カオス理論

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カオス理論(-りろん、Chaos theory)は、決定論的な動的システムの一部に見られる、予測できない複雑な様子を示す現象を扱う理論である。カオス力学ともいう。

ここで言う予測できないとは、決してランダムということではない。その振る舞いは決定論的法則に従うものの、積分法による解が得られないため、その未来(および過去)の振る舞いを知るには数値解析を用いざるを得ない。しかし、初期値鋭敏性ゆえに、ある時点における無限の精度の情報が必要であるうえ、数値解析の過程で出る誤差によっても、得られる値と真の値とのずれが次第に大きくなっていく。そのため予測が事実上不可能という意味である。

目次

[編集] 定義

カオスの数学的定義は、研究者ごとに違い、統一的な見解は得られていないが、およそ以下の性質を持つものとされている。

  1. リアプノフ指数が0より大
  2. 何らかのポアンカレ写像により、テント写像が確認できる(後述するローレンツカオスの場合)

また、カオスには以下の特徴が現れる。

  • 単純な数式から、ランダムに見える複雑な振る舞いが発生する
  • 短期的(リアプノフ時間程度)な未来の予測は可能だが、長期的には予測不可能
  • 初期値のわずかな違いが未来の状態に大きな違いをもたらす初期値鋭敏性がある

一部のシステムが複雑な振る舞いをするのは、その振る舞いを表す方程式非線形性が原因である(後述するローレンツカオスの場合、テント写像により引き起こされる)。

[編集] カオス研究の歴史

19世紀における一般的な非線形微分方程式の解法手法は、ハミルトン等の成果に代表される積分法(積分、代数変換の有限回の組み合わせ)による求解と、微小なずれを補正する摂動法である。この積分法による解が得られる系を、リュービルは可積分系と呼んだ。その条件は、保存量の数が方程式の数(自由度)と一致することであった。

1892年から1899年、アンリ・ポアンカレ(Jules-Henri Poincaré)は、3体問題では保存量が不足し積分法による解析解が得られないことを証明した(このような系を非可積分系と呼ぶ)。彼は、この場合に軌道が複雑となることを示唆している。ただし、この時点では、その実態は認識されていなかった。

コルモゴロフ、チリコフ等は、このハミルトン力学系(例えば、多体問題といった散逸項の無いエネルギーが保存される系)のカオス研究を進めた。大自由度ハミルトニアン系カオスは、統計力学の根源にも結びつくものでもあるが、その定義すら困難であり今後の研究が期待される。

テント写像により引き起こされるカオスについて、1963年ローレンツ・アトラクタで有名なエドワード・ローレンツ(Edward Lorenz)により提唱された。このタイプのカオスは、ローレンツカオスと呼ばれる(後述するカオスの例)。

京都大学工学部の上田睆亮は、1961年に既に、非線形常微分方程式を解析する電気回路で発生したカオスを物理現象として観測し、不規則遷移現象と称してカオスの基本的性質を明らかにしていた。しかし、日本の学会ではその重要性が認識されず長い間日の目を見なかった。この上田の発見は、ジャパニーズアトラクターとして海外で評価されている。

これらの複雑な軌道の概念は1975年、ヨーク(James A. Yorke)と李天岩(リー・ティエンイエンen)によりカオスと呼ばれるようになった。また、マンデルブロ集合で有名なブノワ・マンデルブロなどにより研究が進んだ。

一方では、非線形方程式の中にはソリトン(浅水波のモデル)のように無限の保存量を持ち、安定した波形を保ち将来予測の可能な、解析的な振る舞いが明らかになっているものもあり、カオスとは対極にある存在である。しかし、ソリトンと言えども、連続無限自由度を扱うような特殊な場合で可積分系が破れることがあり、その場合カオスになることが指摘された。

[編集] カオスの例(ローレンツカオス)

  • ロジスティック写像
二次方程式を用いた写像
X_{n+1}=aX_n(1-X_n) : 0 \le a \le 4, 0 \le X_0 \le 1
ロジスティック写像と呼ぶ。もともとロジスティック方程式という連続時間の微分方程式として、19世紀から知られていたが、写像として時間を離散的にすることで、極めて複雑な振舞いをすることが1976年ロバート・メイによって明らかにされた。
ロジスティック写像は生物の個体数が世代を重ねることでどのように変動していくのかのモデルとして説明される。ここでa(下図の横軸)が繁殖率、Xn(下図の縦軸)がn世代目の個体数を表している。
*繁殖率a<3のとき 個体数Xnはある一定の値に収束する。
*3≤a≤3.56995のとき Xnが2つの値を繰り返す様になる。さらにaを増やすとXnのとる値が4つ、8つと増加していく。この周期逓倍点の間隔は一定の比率ファイゲンバウム定数で縮まる。
*3.56995<aのとき Xnのとる値に規則性が見られなくなる。この境界値3.56995をファイゲンバウム点と呼ぶ。周期逓倍点の間隔が0に収束し、周期が無限大に発散したのである。
この様に単純な二次方程式から複雑な振る舞いが発生し、またa=4付近では初期値X0のわずかな違い(例えば0.1と0.1000001)が将来の値Xnに決定的な違いをもたらしている。
ロジステック写像
横軸はaを、縦軸はXn収束する値を表している。a=3で2値の振動へと分岐し、更に分岐を繰り返していくことが分かる。
  • 実際の個体数の変動
a=3の場合。2値の振動に収束する。
画像:Chaos(a3).png
a=3.9の場合。規則性のない変動となる。
画像:Chaos(a3.9).png

[編集] カオスの判定

カオスにはその必要十分条件が与えられていないことから、カオスの判定は複数の定義の共通を持って、カオス性があるという判定以外に方法が無い。このため、カオスの判定とは必要条件という性質を持つ。多くは、スペクトルの連続性、ストレンジアトラクタ、リアプノフ指数、分岐などを以ってカオスと判定している。

しかしながら、只のランダムノイズであっても、リアプノフ指数が正になるといった事例が指摘され、こういった面よりノイズとカオスは区別はつかない(また、カオスより擬似乱数を発生させることはできる)。 そのため、例えばリアプノフ指数や、何をもってストレンジアトラクタと見なすかの指標をそのまま信用してカオスと判定して良いかという問題が起きる。

そういった意味で、1992年ノイズか決定論的システムから作成されたデータかどうかを検定する「サロゲート法」が提案された。サロゲート法は基本的には統計学における仮説検定にもとづく手法であるため、与えられたデータが検定にパスした場合でも、そのデータについて「仮定したノイズであるとは言いがたい」という主張はできるが、「カオスである」という断定をすることはできず、その意味で決定的な検定方法ではない。以下サロゲート法の概要について説明する。

  • サロゲート法

サロゲート法には様々な方法がある。代表的な「フーリエ変換型サロゲート法」について述べる。

帰無仮説:元時系列は、(予め仮定する)ノイズである

有意水準をαとする
  1. 元時系列のパワースペクトルを計算
  2. パワースペクトルを元時系列とし、位相をランダムに設定した新スペクトルをN個作成
  3. 新スペクトルをフーリエ逆変換して、新時系列をN個作成(これらをサロゲートデータと呼ぶ)
  4. 元の時系列の統計値<N個の新時系列の統計値の下α/2を与える値 または N個の新時系列の統計値の上α/2を与える値<元の時系列の統計値 → 帰無仮説棄却(ノイズとは言えない)

[編集] 関連項目

最終更新 2009年11月9日 (月) 19:58 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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