カルダン駆動方式

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直角カルダン駆動方式
赤い部分がカルダンジョイント
十字スパイダを用いた自在継手

カルダン駆動方式(カルダンくどうほうしき cardan jointed drive)とは、電車における駆動方式の一種である。電気モーターをバネ上(通常は台車枠)に固定し、ここからユニバーサル・ジョイント(自在継ぎ手)の一種であるカルダンジョイントを介して、車軸を駆動する方式の総称。

カルダンジョイントはイタリアの数学者、ジェロラモ・カルダーノ(Gerolamo Cardano、1501-1576)により考案されたため、この名がある。Uジョイント、スパイサージョイント、フックスジョイントの別名もある。カルダンジョイントは入出力軸のなす角が180度の時以外は1回転する間の角速度が一定とならず、完全な等速ジョイント(Constant Velocity Universal Joint = CVJ)ではないが、鉄道車両の駆動システムは例えば自動車の前輪駆動機構などとは異なり、角度変化はさほど著しいものではなく、この程度の不等速であることは重大な問題とはならない。

広くばね上電動機架装方式を指して、カルダン式継手以外のWN継手や、軸変位の吸収に金属板のしなりを利用する撓み継手を用いたものも一般的にカルダン式と呼ばれるが、狭義ではこれらの継手はカルダンジョイントと区別されており、誤用とされる。

目次

[編集] 長所・短所

旧式な吊り掛け駆動方式に比しての長所・短所は以下の通り。

[編集] 長所

  • 高速走行に適する。走行装置のバネより下の車輪側にモーターが無く、その分軽量なため(バネ下重量が小さいため)、線路のうねり(ピッチング)、左右の高さの違い(ローリング)等に対する車輪の追従性が向上し、高速走行時でも線路・車両への衝撃が小さく騒音や乗り心地も改善される。
  • モーター自体への衝撃も小さいため、過度に頑丈な大型モーターを用いる必要がない。小型で高速回転が可能なモーターを使用できるため高効率。
  • メンテナンスの容易化。吊り掛け駆動方式に比して損耗部分が少なく、給脂箇所・給脂量共に少なく済み[1]、衝撃・動揺による消耗も少ない。カルダン駆動電車のメンテナンスサイクルは、吊り掛け駆動電車の3倍にも達する場合もある。

[編集] 短所

  • 構成する機械部品点数が増えるため構造がやや複雑であり、製造コストも高い。
    • 線路のピッチング、ローリング等により車軸は上下動する。モーターから見ると車軸が遠くなったり近くなったりするため十字スパイダ間の駆動軸長さも変化する。そのための駆動軸の長さの変化を実現する機構も必要である。
  • 大出力モーターに用いる際には、カルダンジョイントの限界強度を考慮する必要がある。
  • 共振による振動を避ける設計が必要。
  • 継手や歯車の部品加工に高い精度が必要。

[編集] 歴史

1887年以降、電車の駆動方式は吊り掛け駆動が一般的であった。この方式は、当時においては実用上優れた方式であったが、モーターがバネ下重量となるためモーターに車輪からの激しい衝撃が加わることや、ギヤの歯面形状や遊間に起因する大きな駆動音など、いくつかの根元的問題を抱えていた。

この問題を解決するには、ばね上の台車側にモーターを固定し、何らかの方法で車軸に動力を伝達する方式への転換が必要である。吊り掛け駆動が登場する以前には、チェーンによる伝達も試みられていたが、これは信頼性の面からみれば問題外で、自動車産業の発展により自在継手による動力伝達が可能になったことで実用化を見た。

最初に登場したのは、ベベルギヤと自在継ぎ手を組み合わせた直角カルダン駆動で、2軸単車路面電車用として1910年代にはドイツで使用され、1920年代パリの路面電車では主流となっていた。軸距が短いボギー台車用の開発は1920年代にアメリカ合衆国で行われ、ウォームギヤと自在継ぎ手との組み合わせに改良されたものが、路面電車車両での試用が行われた後、1930年代中期に本格的な製造がはじめられたPCCカーの駆動方式に採用された。

アメリカでのばね上装架電動機用駆動装置の開発においては、並行してWNドライブの開発も進められた。直角カルダン駆動と同じく、路面電車で試用された後、1941年にシカゴ北海岸線のエレクトロ・ライナー型高速急行電車に採用され、第二次世界大戦後、ニューヨーク市地下鉄などでの本格的な採用が行われるようになった。

また同時期にスイスブラウン・ボベリ(BBC)社がBBCディスクドライブとして中空軸平行カルダン駆動方式を開発している。

ヨーロッパではイタリアETR200型特急電車に採用されたのが長距離高速電車に採用された最初の例であろう。

[編集] 採用例

[編集] 日本

1951年頃から、主要私鉄および重電メーカー・車両メーカーの協力によって、既存車両の駆動装置を改造する形で研究が進められた。

1952年には国鉄電気式気動車キハ44000形で初めて直角カルダン駆動方式の45kWモーターが試験的に採用された。44000形の系統に属する電気式気動車は1953年までに30両が製造されており、一般の電車に先駆けての大量導入であったが、1958年頃までに液体式変速機への改造で廃されており、定着には至っていない。

私鉄電車では1953年京阪電気鉄道1800系(中空軸平行カルダンおよびWNドライブ搭載)、東武鉄道5700系5720番台車(直角カルダン搭載)が新製車としての初期の例であるがいずれも半ば先行試作的なものであった。

大量に製造された最初の例は、アメリカ・ウェスティングハウス・エレクトリック社などから最新技術を導入して1953年から製造された営団地下鉄(現・東京地下鉄)300形(WNドライブ搭載)である。路面電車では同じく1953年の東京都交通局5500形電車(直角カルダン搭載)が最初となった。また5500形と同年に大阪市交通局3000形もカルダン駆動を搭載して落成した。

日本に於けるカルダン駆動の元年となった1953年に同方式を本格採用した鉄道車両は上記の5社5形式のみの採用であったが、翌1954年以降に大手私鉄を中心に急速に一般化、一般電車への採用が遅れていた国鉄も1957年モハ90系電車(のちの101系)でカルダン駆動方式に移行している。1960年代以降は、日本国内向けに新製されるほとんどの電車がカルダン駆動方式を用いるようになり、21世紀初頭の現在では吊り掛け駆動方式をほぼ駆逐している。移行の詳しい経緯は吊り掛け駆動方式の項目を参照。

[編集] カルダン駆動のバリエーション

現在の日本では、以下の3種類のいずれかが一般的である。

  • 中空軸平行カルダン駆動方式:限られた空間の中で車軸と電機子の変位量を大きく許容するため回転軸を中空にし、電動機の両側に配置した二つの撓み板継手を直結する回転軸を中空軸の中に通したもの。原型となったのは、スイスのBBCディスクドライブで、日本においては東洋電機製造が独自開発により実用化に成功した。車軸位置の偏倚量が大きくとも対応可能で、しかも継手の軸方向の長さをほぼ無視できるため、国鉄の新性能電車をはじめ、主に狭軌の鉄道で幅広く採用された。
  • WN平行カルダン駆動方式:中実軸の電動機と歯車との間にWN継手を配置したもの。三菱電機がライセンシーとして製造。中空軸平行カルダンに比べWN継手を設置するスペースの確保に特別の工夫が必要であることから、当初は標準軌の鉄道で先行して普及したが、電動機、及びWN継手の小型化技術が進展したことにより狭軌の私鉄でも用いられるようになった。中空軸平行カルダン駆動方式やTD平行カルダン駆動方式に比べ耐久性が高いことから、700系のC19編成以降のグリーン車およびN700系Z・N編成を除く新幹線西日本旅客鉄道(JR西日本)の標準駆動システムとしても採用されている。
  • TD平行カルダン駆動方式:中空軸平行カルダンの撓み板継手を2個組み合わせ小型化した形態の「TD (Twin Disc) 継手」を中実軸の電動機と歯車との間に設けたもの。東洋電機製造が開発・製造。WN方式に比べ構造が簡単で、騒音も少なく、保守性も高いことから、西日本を除くJR各社や、従来中空軸平行カルダンを採用していた鉄道事業者を中心に普及している。また、近年では耐久性が向上したことから、新幹線への採用例も出てきている。

また、現在はごく少数になったが、カルダン駆動の黎明期に多用されたものとして、以下の方式があげられる。

  • 直角カルダン駆動方式:かさ歯車、もしくはウォームギアと平歯車の組み合わせにより、駆動軸がレール方向に平行となるように主電動機を台車に装架したもの。歯車の整備性に難があること、駆動装置そのものの重量・容積が大きいこと、軸距が長くなり台車の重量が増大しやすいことなどが欠点として挙げられる。もっとも、電機子の軸方向の長さが車輪のバックゲージに制約されないため、狭軌向けであっても比較的大出力の主電動機を選択できることに加え、かさ歯車として歯を斜めに切ったスパイラル・ベベルギアを利用することで平行カルダンでは得られない静粛性が得られるというメリットがあり、日本においては初期の高性能電車で多用された。もっとも大きな力のかかる歯車全般、中でも特にスパイラル・ベベルギアは表面の耐摩耗性と内部の靱性の両立に加え、きわめて高精度な切削処理が要求されるため、材料の選定や加工が非常に難しく、日本で最初にこの方式に挑んだ東芝では材料となる合金鋼の製造・表面処理に手を焼いた。そのため、それらのノウハウが確立され、また高精度な加工を可能とするアメリカ製の専用工具が導入された1954年まで、充分実用に耐える製品が製造できなかった[2]という。日本では東芝の他、日立製作所も製造を行っており、後者では大口納入先の一つであった相模鉄道の技術陣がこの方式に固執したためもあって、その製造は21世紀に入るまで続けられた。

近年の傾向として、VVVFインバータ制御と誘導電動機の組み合わせの普及の結果主電動機の小型化並びに高出力化・高回転化が推進されたことから、中実軸の電動機を用いるWN式、TD継手式のいずれか(事業者によっては両者を併用)が主流となりつつある。

その他の方式としては以下の方式が挙げられるが、特殊構造に類し、一般的ではない。

  • 車体装架カルダン駆動方式:車両の車体側床下に電動機を固定し、カルダンジョイントを備えたプロペラシャフトで車軸を駆動する。気動車の駆動システムに類似することから古い時代の気動車改造電車に実例が見られたほか、近年では駆動装置のスペースに制約の多い超低床形路面電車などに採用例がある。
  • 垂直カルダン駆動方式:日本の神鋼電機が1954年に開発した方式で、電動機を垂直に立てた状態で台車装架する構造。かさ歯車を利用する点は直角カルダン駆動に類似するが、中間歯車を加え、カルダン継ぎ手の代わりに伸縮軸を用いて車軸の変位を吸収する。スペース制約の厳しい軽便鉄道でも使用可能な機構だったが、構造が複雑でデメリットが多く、ほとんど普及せずに廃れた。

[編集] 脚注

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  1. ^ 中空軸平行カルダンの一方式であるスイスのブラウンボベリのディスクドライブは、給脂量を可能な限り削減し、同国にとっては調達の困難な戦略物資である油脂類の消費を抑制することが、開発の重要な目的であった。
  2. ^ それでさえ仕上げとなる焼き入れ処理後の表面研磨は手に負えず、航空機用部品の研磨技術を保有していた川崎航空機に委託されていた。

[編集] 関連項目

最終更新 2009年11月20日 (金) 15:39 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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