キックスターター

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カワサキ・500SSのキックスターター

キックスターター(kickstarter, kick starter)とは、内燃機関、それも主にオートバイ用エンジンで採用される、人力でエンジンを始動する為の装置である。単にキックと呼ばれることもある。また、キックスターターでエンジンを始動させることは「キックスタート」と呼ばれる。オートバイ以外では全地形対応車スノーモービルでも採用例が見られるが、本頁では主として、現在でも採用例が多いオートバイにおけるキックスターターについて述べる。

目次

[編集] 概要

キックスターターは、エンジンに取り付けられた「キックペダル」や「キックレバー」と呼ばれる足踏み式のレバーを踏みおろすことでエンジンを始動させる、人力のエンジン始動装置である。人力によるエンジン始動装置という意味では自動車におけるクランク棒によるエンジン始動と同じだが、クランク棒は着脱式がほとんどでその操作は手で行なうのに対して、キックペダルは据え付け式がほとんどでその操作は足で行なうという違いがある。

[編集] 構造

キックペダルが踏みおろされると、その運動が歯車(ギア)などを介してクランクシャフトを回転させ、それがピストンの上下往復運動を起こしてエンジンの始動を促す仕組みである。人力による操作であり、起動トルクは大きくないのでそれを補う為に、キックペダルのレバー部を長くしてレバーを高めたり、伝達ギアで減速することでトルクを高めたりしている。

エンジンが始動した瞬間にその回転力がキックペダルまで逆に伝達されてしまうと、ペダルが勢いよく跳ね上がり、踏みおろすのに使っていた脚に怪我を負う可能性がある。これを防ぐ為に、キックペダルを踏みおろされた時だけその駆動力がエンジン側へ伝わるようにラチェット機構やワンウェイクラッチが装備され、ペダルが上がる(戻る)為には弱い戻りばねが装備されることが多い。

なお、キックペダルからクランクシャフトまでの伝達経路の途中に変速用クラッチを介しているかどうかで、キックスターターはプライマリ式キックスターター(primary kickstarter)とセカンダリ式キックスターター(secondary -)の2種類に分けられる。伝達経路にクラッチを介さないプライマリ式では、クラッチを切っていてもエンジンを始動できるが、伝達経路にクラッチを介するセカンダリ式では、クラッチを切っているとエンジンを始動できない。

[編集] 利点と欠点

起動に電力が必要なセルモーターと違って人力のみで始動操作を行なえる。この為に、点火プラグへの点火をバッテリーに頼らない方式を採用するエンジンであれば、キックスターターのみを装備してバッテリーを搭載しないことも可能である。点火をバッテリー電圧に頼る方式でも、キックスターターのみを装備して搭載バッテリーの容量を必要最小限にすることが可能である。また、セルモーターとキックスターターの両方を装備していれば、万一セルモーターが作動しない場合の予備の始動手段として、キックスターターを使うことができる。

キックスターターは、セルモーターのように一回の始動操作でクランクシャフトを何秒間も連続して回し続けることが構造上不可能なので、その始動性はセルモーターにやや劣る。ただしキャブレター等の吸気装置の調整が適正でエンジンにも問題がなく、キックスターターに慣れた者が始動操作を行なえば、始動は充分に容易な場合がほとんどである。

キックスターターでの始動操作(後述)のうち、キックペダルを一気に下まで踏みおろす際に、踏み込みに勢いが足らなかったりして一番下まで踏みおろす前にペダルが途中の位置で止まってしまうと、ピストンが圧縮上死点を越えられずに、それまでの圧縮圧力が逆作用してクランクシャフトが逆回転し、その力でキックペダルが勢いよく跳ね上がるという現象が起こる。このクランクシャフト逆転によるキックペダルの跳ね上げは、俗に「ケッチン」などと呼ばれ、圧縮比が高いエンジンや、気筒あたりの排気量が比較的大きいエンジンで起こりやすい。勢いよく跳ね上がったキックペダルで脛などを強打すると、最悪の場合には骨折に至るので注意が必要である。

[編集] 一般的な操作方法

エンジンの形式に関わらず、キックスターターによるエンジンの始動操作は概ね次の通りである。

  1. 閉まっていた燃料コックを開けたり、必要ならティクラーチョークを効かせるといった、事前操作をあらかじめ行なっておく。
  2. キックペダルを軽く何度か踏み込み、単気筒エンジンならその気筒、多気筒エンジンならいずれかの気筒の圧縮上死点までクランクシャフトを回しておく。圧縮上死点に近づくとキックペダルは次第に固くなり、圧縮上死点に達した状態では軽く踏む程度ではペダルは容易には動かなくなる。
  3. デコンプ機構を持つ車種の場合はデコンプ操作を行いシリンダーの圧縮を抜く。デコンプのない車種の場合は、圧縮上死点に達して固くなったキックペダルに少しずつ足で荷重を掛けていき、圧縮が抜けるのを待つ。(荷重を掛け続けるとそれまで固かったキックペダルがあるポイントから急に軽くなる。これが圧縮が抜けた合図である)。
  4. 圧縮を抜いたらもう一度ごく軽くキックペダルを踏み、ピストンを「圧縮上死点を少し過ぎた位置」まで進める。
  5. キックペダルを一度完全に上まで戻す。
  6. キックペダルを一気に下まで勢いよく踏みおろし、エンジンを始動させる。

以下には操作上の注意点などを記す。

  • 人力による始動である故に、何度も始動に失敗して労力を浪費するのを防ぐ意味もあり、始動性を高める目的で冷間始動でなくてもチョーク等を効かせる場合も多い。
  • 「ピストンが圧縮上死点を少し過ぎた位置」を探すのは、車種やエンジンによってその方法やコツが異なる。ヤマハ・SR等のように目視確認できるインジケータや圧縮上死点を乗り越えやすくする為のデコンプレバーが装備されているものもある。しかし、多くの場合はキックペダルが軽い踏み込みでは動かなくなる位置を少し過ぎたあたりがその位置である、といった曖昧なものである。この位置は上記の「圧縮が抜ける位置」とほぼ同じなので、デコンプ機構を持たないエンジンの場合は何度も反復練習をして圧縮の抜き方を足に覚え込ませるとよい。なお2ストロークエンジンは、4ストロークよりも始動性が良好な為に、この過程を重視しなくても良い場合がある。
  • キックペダルを一気に下まで踏みおろす際に踏み込みに勢いが足りないと、一番下まで踏みおろす前にペダルが途中の位置で止まってしまうと、ペダルが勢いよく跳ね上がる「ケッチン」が起こる可能性がある。それを防ぐ為にも、キックペダルを踏みおろす際にはためらいなく力を込めて、勢いよく下まで踏みおろすことが重要である。
  • キックペダルを踏みおろす操作は操作する者の体重を使って勢いよく行なうのが普通であり、サイドスタンドやセンタースタンドを立てた状態で操作しているとその取り付け部分(付け根)に大きな負荷(衝撃)を掛ける。その為に、それを繰り返して長い年月を経ると、スタンドやその付け根部分が破損してしまうこともあり得る。その為に車種によっては、スタンドを立てずにキックスターターを操作するよう指示している場合もある。

[編集] オートバイにおけるキックスターター

自動車におけるクランク棒によるエンジン始動が比較的早い時期にセルモーターにとって代わられて衰退したのに対して、オートバイにおけるキックスターターはそれほど急速に衰退しなかった。これには主に二つの原因がある。

まず、キックスターターがクランク棒に対して比較的安全な始動手段であったことが挙げられる。クランク棒での始動操作は屈んだ姿勢で手で行なう為に、万一クランクシャフト逆転が起こるとクランク棒で腕や胸などを強打し最悪の場合には死に至る可能性があったのに対して、キックスターターでの始動操作は車両にまたがった状態で行なう為に、万一クランクシャフト逆転が起こってもキックペダルが強打するのは脚であり最悪の場合でも骨折する程度で済むからである。

そして、登場当初のセルモーターやその関連部品(バッテリー等)が大型で重かったことも挙げられる。補機類の収納場所が少なく、全体として小型軽量が求められる多いオートバイでは、大型で重いセルモーター等は避けられる傾向があった。排気量が自動車に比べて小さい場合が多いオートバイでは、キックスターターでも始動性が充分に良好であり、セルモーターはオートバイにとって必須の装備ではなかったからでもある。やがて技術の進歩によりセルモーター等が小型軽量になり、オートバイも大排気量化や高出力化などによりキックスターターでは始動が難しい車種が増えたこともあって、オートバイにもセルモーターが普及していった。なお過渡期には、セルモーターとキックスターターの両方が装備された車種も存在した。

では現在ではキックスターターを装備するオートバイがなくなったかというと、そうではない。現在でも、キックスターターのみを装備する車種も極少数ながら存在し、セルモーターとキックスターターの両方を装備する車種や、オプション装備としてキックスターターの設定がある車種も存在する。これには、幾つかの理由がある。

まず、自動車に比べてセルモーターの普及が遅かったことと、現在でもキックスターターで充分に良好な始動性を確保できるエンジンもあることから、キックスターターでの始動を趣味の一環として楽しむ需要が極少数ながら存在することが挙げられる。自動車よりも趣味性が強いという側面も持つオートバイでは、クラシック系の車種を中心に、こうした趣味性を考慮してキックスターターを採用する例がいまだに存在する。

また、不具合や故障を起こす箇所を減らし生産コストや運用コストを下げる目的で、敢えてセルモーターを採用せずキックスターターのみを装備する例がある。これは、原動機付自転車のような小排気量車種、4ストロークよりも爆発間隔が短い2ストロークエンジンを搭載する車種など、比較的始動性の良好なものにおいてこの傾向が強い。

最後に、キックスターターを予備の始動手段としてセルモーターと共に装備する例もある。現在では、小排気量スクーターに類する車種においてその例が多い。これは、無段変速機(オートマチックトランスミッション)を採用することの多いスクーター故に押しがけができず、小排気量の為にキックスターターでの始動がかなり容易なこともあって、万一セルモーターが作動しない場合の予備手段としてキックスターターの有用性が高いからである。

以上のような理由から、キックスターターを装備するオートバイは、現在でも製造販売されている。ただし近年では、自動車排出ガス規制騒音規制法等の環境規制の強化により、オートバイでも燃料噴射装置をはじめとした電子化が進む傾向があったり、2ストロークエンジンを搭載する車種もほぼ生産終了となっている状況がある。これらから、キックスターターの衰退は更に進むとみられるが、小排気量においてはスクーター等で燃料噴射化後もキックスターターを装備する例が多く、現在のところ完全に廃れる様子はない。

[編集] 関連項目

  • ヤマハ・SR - 現在製造販売される日本製オンロードスポーツバイクで唯一、キックスターターのみを装備する車種。
  • スズキ・チョイノリ - 現在製造販売される日本製小排気量スクーターで唯一、キックスターターのみを装備する車種。
  • ホンダ・カブ - 2007年式(50cc)にて、世界で初めてキックスターターのみ装備のまま燃料噴射化した。

最終更新 2009年11月17日 (火) 07:29 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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