バスク語

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バスク国の位置
バスク語
Euskara [ews̺kaɾa]
話される国 スペインフランス 
地域 バスク国
総話者数 1,033,900(第一言語として: 700,000)
言語系統 孤立した言語
 バスク語
 
公的地位
公用語 スペインバスク自治州
ナバラ州
統制機関 バスク語アカデミー (Euskaltzaindia)
言語コード
ISO 639-1 eu
ISO 639-2 baq (B)  eus (T)
ISO 639-3 eus 
  
バスク語の方言

バスク語(バスクご、euskara)は、系統不明の孤立した言語であり、現在はスペインフランスにまたがるバスク国においてバスク人を中心に話されている言語である。方言は大きく7つに分類されるが、音韻・形態・語彙の地域的な変異が比較的大きく「村ごとに異なる」ともいわれる[1]。またバスク語アカデミーによって標準語として制定された統一バスク語が広く定着している。文章は一般にラテン文字で表記される。音韻論的な特徴としては舌端音舌尖音の区別があり、文法的な特徴としては能格と絶対格を使用するの体系であることが挙げられる。語彙にはラテン語スペイン語起源のものが多く見られる。なおスペインではフランシスコ・フランコ将軍の時代、使用禁止になっていた。

目次

[編集] 言語名

「バスク」の名は英語あるいはフランス語basque の音訳であり、もともとはローマ帝国期に現在のナバラアラゴンにいたヴァスコン人(:Vascones)の名に由来する。ヴァスコン人とバスク語話者は完全には一致していなかったと考えられているが、中世には Vascones という名称はバスク語を話す人々を指すために使われるようになった。スペイン語における伝統的な呼称 vascuence も「ヴァスコン人の」を意味するラテン語の vasconice に由来する。

バスク語では euskara といい、方言的な変異として euskera, eskuara, üskara, auskera などがある。この語と対比させて用いられる語に erdara(あるいは erdera )というものがある。「外国語」という意味で、かつては特にスペイン語またはフランス語を指して用いられたものだが、これは語源的に erdi「半分」と era「やり方」に分けられ、「舌足らずな話し方/不完全な言葉」という意味であったと考えられている。euskaraeusk- の方の意味ははっきりしていないが、ローマ帝国時代のアキテーヌにいたアウスキ人(羅:Ausci)に由来するという説や、「話す」という意味の動詞の再建形 *enau(t)s- に関係するという説がある。

[編集] 起源

インド=ヨーロッパ語族の言語が広まる以前には、現在のバスク国を含む比較的広範囲にバスク語とその同系言語が分布していたと考えられている。ナバラ では地名によってローマ帝国時代からバスク語が使用されていたことが確認できるほか、碑文による証拠もある。フランスのガロンヌ川の西側、アキテーヌにもバスク語の固有名が記されたローマ時代の碑文が豊富にあり、アキテーヌ語はバスク語の祖先かその近縁の言語であったとされる。

またバスク語の祖先はイベリア語であるという伝統的な見解があり、バスク=イベリア仮説といわれる。イベリア語はスペイン南部および東部、ピレネー山脈北側の地中海沿岸に分布していた。この仮説の根拠は、ヴァスコン人とイベリア人の名前の構造が区別できないほど似ていることを示す碑文が存在することと、バスク語とイベリア語が音韻と形態の面で主要な特徴を共有していることである。しかしイベリア語の碑文の解読にバスク語がほとんど役立たないことから、少なくとも両者はそれほど近縁の言語ではなかったと考えられる。特徴の共有は無視できないが、これは言語接触による地域的なものとしても説明されうる。

イベリア語以外にも、日本語を含む様々な言語との系統関係が提案されてきたが、支持されていないものが多い。能格の存在からコーカサス諸語との関係が真剣に検討されたこともあったがこれも専門家の支持は得られなかった。

「ナイフ」「天井」を意味する語の語源がそれぞれ「切る石」「洞窟の上」と分析できる[2]ことを根拠に、氷河時代の先住民族の言語の直系ではないかとも考えられている。

[編集] 音韻と表記

[編集] 文字

バスク語は普通ラテン文字で表記される。統一バスク語の正書法では、スペイン語アルファベットと同じく、基本字26文字に Ñ を加えた27文字が用いられる。このうち C, Q, V, W, Y の5文字は外来語の表記にのみ用いられる。この他 Ç が外来語の表記のために、Ü がスベロア方言の表記のために用いられる。

[編集] 綴りと発音

バスク語の綴り字法は原則として表音主義的であり、綴りと発音の対応関係は比較的分かりやすいものである。統一バスク語の綴り字とその一般的な発音を表に示す。

綴り字 発音 (IPA) 発音の仕方 語例
a [a] 日本語のアよりやや前寄り ama [ama]「母」
母音間の b [β] labe [laβe]「オーブン」
それ以外の b [b] 日本語のバ行子音 enbor [embor]「丸太」
母音間の d [ð] 有声歯摩擦音
舌尖と歯の裏による有声摩擦音
idi [iði]「雄牛」
それ以外の d [d] 日本語のダ、デ、ドの子音 dike [dike]「堤防」
dd [ʝ]~[ɟ] 有声硬口蓋摩擦音または破裂音 onddo [onʝo]~[onɟo]「きのこ」
e [e] 日本語のエよりやや前寄り eme [eme]「雌」
f [f] 英語の /f/ kafe [kafe]「コーヒー」
母音間の g [ɣ] 有声軟口蓋摩擦音
日本語のガ行子音と同じ位置の有声摩擦音
lege [leɣe]「法律」
それ以外の g [g] 日本語のガ行子音 gamelu [gamelu]「ラクダ」
h [ ] 発音しない aho [ao]「口」
[h] (北東部の方言話者)英語の /h/ aho [aho](同上)
単母音の i [i] 日本語のイ mami [mami]「パンの身」
二重母音の i [j] 日本語のヤ行子音 amai [amaj]「終わり」
j [x] (西部方言の話者)奥寄りの無声軟口蓋摩擦音 jaboi [xaβoj]「石鹸」
[j̝]~[ʝ]~[ɟ] jaboi [j̝aβoj]~[ʝaβoj]~[ɟaβoj](同上)
k [k] 日本語のカ行子音 kamino [kamino]「道路」
l [l] 英語の /l/ より前寄り lagun [laɣun]「友人」
i の後ろの l [l]~[ʎ] 上または下のどちらかで発音される mutil [mutil]~[mutiʎ]「少年」
ll [ʎ] 硬口蓋側面接近音 galleta [gaʎeta]「ビスケット」
m [m] 日本語のマ行子音 mendi [mendi]「山」
母音の前の n [n] 日本語のナ行子音 nini [nini]「瞳」
子音の前の n 同器官の鼻音 日本語のン kanpo [kampo]「野外」
banku [baŋku]「銀行」
ñ [ɲ] 硬口蓋鼻音
舌先を下の歯の裏につけて n の発音をする
ニャ行子音に近い
andereño [andeɾeɲo]「小学校の女の先生」
o [o] 日本語のオよりやや丸めが強い oro [oɾo]「全ての」
p [p] 日本語のパ行子音 pago [paɣo]「ブナノキ」
母音間の r [ɾ] 日本語の語中のラ行子音 aro [aɾo]「時代」
それ以外の r [r] 巻き舌の r erdi [erdi]「半分」
rr errege [ereɣe]「王」
s [s̺] 舌尖音の s
舌尖を歯茎に付けて s を発音する
soka [s̺oka]「ロープ」
有声子音の後の s [z̺] 上の音の有声音 esne [ez̺ne]「牛乳」
t [t] 日本語のタ、テ、トの子音 tabako [taβako]「タバコ」
ts [ʦ̺] 舌尖音の無声歯茎破擦音
舌尖を歯茎に付けて発音する日本語のツの子音
atso [aʦ̺o]「老女」
tt [c] 無声硬口蓋破裂音 ttipi [cipi]「小さな」
tx [ʧ] 英語の cheek の ch etxe [eʧe]「家」
tz [ʦ] 日本語のツの子音 atzo [aʦo]「昨日」
単母音の u [u] 英語の /u/ よりやや広め ume [ume]「赤ん坊」
二重母音の u [w] 英語の /w/ lau [law]「四」
x [ʃ] 英語の she の sh xanpu [ʃampu]「シャンプー」
z [s] 日本語のサ、ス、セ、ソの子音 zopa [sopa]「スープ」
有声子音の後の z [z] 日本語の語中のザ、ズ、ゼ、ゾの子音 elizgizon [elizgison]「神父」

[編集] 文法

[編集] 名詞

  • 名詞にはの区別が無い。
  • 名詞は限定詞や修飾語とともに名詞句をつくる。
  • 形容詞は名詞に後置される。
  • 関係節などの複雑な修飾語は名詞に前置される。
  • 属格は名詞に前置される。
  • 冠詞の役割を担う接尾辞があり、はこの接尾辞によって標示される。

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  • は名詞句に接尾辞をつけることで標示される。
  • 能格 - 絶対格型の体系である。
  • 文法関係を示す絶対格/能格/与格のほか、前置詞的な格や位置を表す格など14あまりの格が存在する。

[編集] 人称

  • 二人称には普通形 zu(単数)/ zuek(複数)と親称形 hi の区別があり、動詞の活用において異なる振る舞いをする。親称には単数形しか無い。
  • 親称は使われる範囲がきわめて限られている。主に兄弟姉妹に対してか、同性同年代の親しい友人に対して用いられる。
  • 一部の方言を除いて三人称代名詞を欠いている。

[編集] 動詞

  • 動詞は絶対格/能格項/与格項の人称と数などによって活用する。
  • 聞き手が親称の hi かどうかを動詞に標示する「聞き手活用」と呼ばれる語形変化がある。
  • 動詞一語からなる単純型の活用と、分詞と助動詞からなる複合型の活用がある。
  • 単純型の活用ができる動詞は十指に満たない。ほとんどの動詞は分詞だけを持ち、複合型の活用をする。
  • 単純型では現在形、過去形、仮定形、命令形がある。
  • 分詞には完了分詞、未完了分詞、前望分詞、語根がある。

[編集] 例文

能格の例:Mendiak mendia behar ez du, baina gizonak gizona bai. 山は山を求めないが、人は人を求める。(ことわざ)

mendiak, gizonakのように-kのついたものが能格であり、つかないものが絶対格である。

[編集] バスク語学習の神話

バスク語は、他の欧米言語との共通点の少なさゆえに印欧系言語話者には習得が難しいとされる。

司馬遼太郎はその著書『街道をゆく』の中で「ローマの神学生のあいだで創られたバスク語学習にちなむ“神話”」として、神からどんな罰を与えられても全くひるまなかった悪魔でさえ、3年間岩牢にこもってバスク語を勉強する罰を課されると神に許しを乞うた、という話を紹介している[3]

英語ジョークとして「悪魔がバスク人を誘惑するためにバスク語を習ったが、7年かかって覚えたのは『はい』と『いいえ』だけだった。」、この変形として「バスク人は決して悪魔の誘惑を受けて地獄には落ちない。なぜなら、悪魔はバスク語を話せないからだ。」といったものがある。

フランスのバイヨンヌにあるバスク民族博物館では、「かつて悪魔サタンは日本にいた。それがバスクの土地にやってきたのである」と挿絵入りの歴史が描かれているものが飾られている。同じく印欧系言語話者からしたら習得の難しい日本語と重ね合わせている[4]

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  1. ^ Hualde, José Ignacio and Jon Ortiz de Urbina. 2003. A Grammar of Basque. Mouton de Gruyter: Berlin/New York. p.3
  2. ^ [1] Blanc, S. H., Grammaire de la Langue Basque (d'apres celle de Larramendi). Lyons & Paris. 1854. からの孫引き。
  3. ^ 司馬遼太郎「バスクとそのひとびと」『街道をゆく8:南蛮のみち』〈司馬遼太郎全集59〉、文藝春秋、1999年、83~84ページ。ISBN 4-16-510590-2
  4. ^ 城生佰太郎・松崎寛 『日本語「らしさ」の言語学』 講談社 1995年 p.28-29

[編集] 関連項目

[編集] 関連資料

  • EITB - バスク語放送


最終更新 2009年11月22日 (日) 06:45 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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