ポジティブ・アクション

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ポジティブ・アクション(positive action)とは弱者集団、特に女性の職場環境の不利な現状を是正するための改善措置のこと。英語のアファーマティブ・アクション(Affirmative action, 肯定的措置)とポジティブ・ディスクリミネーション(Positive Discrimination, 肯定的差別)を組み合わせて造語した和製英語。外国ではこの場合の是正措置とは差別と貧困に悩む被差別集団の民族や人種やカーストの進学や就職や職場における昇進においての特別な採用枠の設置や試験点数の割り増しなどの直接の優遇措置を指す。日本においてはこのような施策は、日本国憲法第14条違反の可能性もあって、職場環境の改善措置が強調されている。

目次

[編集] 概要

ポジティブ・アクション(positive action)は、特に欧州(EUおよびEU諸国)で使用される積極的差別是正措置の英語表現であり、米語圏ではアファーマティブ・アクション(Affirmative action)と表現される。英語以外の欧州語では肯定的差別(Pozitiva diskriminacio Discriminación positiva Discrimination positive)が一般的である。外国では肯定的措置あるいは肯定的差別は弱者集団の現状是正のための進学や就職や昇進における直接の優遇措置をさす。この場合の肯定(Positive)とは改善の意味である。よって「改善措置」あるいは「改善目的の差別」とすると原意が理解しやすい。

日本ではアファーマティブ・アクションの翻訳が難しい一方で肯定的差別あるいはポジティブ・ディスクリミネーションとすると憲法十四条の違反であるであるとの批判が予想されるため「差別」の単語の使用を避けている。また日本ではポジティブ・アクションは優遇措置でなく差別環境の是正措置であると説明されることも多く、実際に平成14年4月19日の厚生労働省の発表では「ポジティブ・アクションは、単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するためのものではなく」と元々の意味が明確に否定されている。

さらに日本のポジティブ・アクションは少子化および高齢化社会による労働人口の減少に対応するための女性労働者の活用を目的にした政策という日本独特の一面が存在する。内閣府男女共同参画局の政策と深く関わっているため特に女性の職場環境の是正措置と理解されるようになりその意味は本家の被差別民族・人種やカーストに対する直接優遇措置からは大いに遊離している。また欧米やインドで肯定的差別が最も頻繁に適用されるのは大学入学あるいは公務員の採用および昇進における特別採の設置や採用・昇進基準の緩和などが代表的であるが日本においては一般公務員および大学においては男女格差がそれほど顕著ではない一方で民間企業においての女性の活躍は途上国と比べても著しく劣っているため後者の改善措置が強調されている。さらに日本は政府関連の業務において実際に障害者やや部落民や在日朝鮮韓国人などの集団に優遇措置を行っているが、これは民間企業を対象とした女性向けのポジティブ・アクションとは区別されているという点でも外国の肯定的是正措置と大いにことなる。

政府は政策目標として2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%となることを努力目標として提言しており最終的には採用および昇進における優遇措置が必要となるのではないかとの指摘も存在する。ただし日本においては外国と違い民間企業が改善対象の中心に添えられており政府機関に比べて個人の能力差がはっきりと出る傾向にある企業において仕事の能力の劣る人間が女性というだけで昇進を獲得するという事態になれば現場での軋轢は避けられないのではないかとの懸念も存在する。さらには人口縮小に対応した労働政策の側面があるため将来的には外国人労働者の受け入れ環境の向上運動にポジティブ・アクションが拡大される可能性も指摘されている。

[編集] 海外における差別是正措置

アファーマティブ・アクションは、一般には「差別撤廃」や「積極的差別是正」の方策として、理念的にはとくに問題とされない。しかしながら、その実際的運用や効果測定の場面においては賛否両論がある。

構造的に内在する差別を解消するために、機会不平等の是正策として、特定の民族あるいは階級に対して優遇措置を制度上採用し、例えば貧困層の階級出身の学生に対する生活援助や奨学金などの制度が各国で広く採用されている。このような制度を積極的に採用するアメリカ、インド、マレーシアや南アフリカなどの国々においては、政府機関の就職採用や公立教育機関(特に大学)への入学において、被差別人種とされる黒人やヒスパニック系の人種(白人のヒスパニック系は除く)、あるいは被差別カーストのために採用基準を下げたり、全採用人員のなかで最低の人数枠を制度上固定するなどの措置がとられている。

しかし他方でアファーマティブ・アクションは、「不当」な社会的・経済的格差が確固として存在している場合、特定の制度により採用の機会を平等にしたとしても、実質的にはこれまでの格差に由来してさらに機会に差を生じ、格差は是正されず機会の不均等はさらに拡大するとの議論もある。

[編集] 各国の事例

[編集] 日本

男女共同参画社会基本法の規定による男女共同参画基本計画により、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%になるよう期待し、各分野の取組を推進と定められており、各分野で積極的にポジティブ・アクションが実行されている。 具体例としては大学入試において女性優遇入試(女子特別枠)や雇用において女性優遇採用(千葉県大阪府名古屋大学東横インTOTOなど)がなされている。

障害者については、「障害者雇用枠」が一般募集枠と別に存在し、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく義務雇用率が定められている(50人以上雇用している社・団体について1.8または2パーセント)。

部落差別における同和対策事業特別措置法(1969年7月10日施行1978年11月13日法律第102号で改正、1982年3月31日失効、1982年3月31日から1986年3月31日まで有効の法律第16号地域改善対策特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律1987年3月31日法律第22号に引き継がれた)などがこれに類すると考えられる。

補助措置としては明治時代の1899年に松前藩によって弱者となっていた北海道の先住民であるアイヌを救済し保護するとの名目で北海道旧土人保護法が制定された。これは和人アイヌとの間の格差を是正し、「同じ日本人」となるような同化政策を行っていくために制定された法律であった。1997年にアイヌ文化振興法の成立に伴い廃止となった。

[編集] アメリカ合衆国

アメリカ合衆国では黒人やラテン系の平均の学力が低いために進学率が低いことを是正するために大学において一定枠の確保(理想としては黒人の全人口に対する割合と同一の合格確保)が行われている。差別が論拠とされるが非白人で被差別民族であるはずのアジア系(東洋系およびインド系)の人種は成績が全体として高いためにこの優遇措置を受けることができない。またアメリカの大学の入試においては課外活動での活躍が評価され、この分野では総じて白人が有利とされる。よって成績が平均的に優秀であるアジア系が大学入学においての不利とされる。ちなみに課外活動がアメリカの大学の入学審査で考慮されることになったもともとの理由は1920年代に遡り、学力で白人より優秀であったユダヤ人の入学数を有名大学で制限するためであった。この場合は実際の課外活動の内容に関係なく人為的にユダヤ人の点数を下げていた。現在ではこのような人為的な人種別の点数操作はなくなったが、結果として学問に熱心なアジア系の学生に対するハンディとなっている。また最高学府であるはずの大学の入学審査に課外活動が審査基準の一部であることの正当性も問われている。

アメリカの大学入試競争においてはゴールラインが人種枠ごとに別々に引かれてあり東洋系は他人種以上に成績をあげることが必要となる。別にアジア人であるから生まれつき頭がいいなどの科学的事実があるわけでなく成績はあくまで個人の努力の反映であるので、アジア系の人種は特には個々人の事情に関わらず人一倍努力が制度上義務付けられているという逆に差別的な実態が生じている。特にフィリピンやベトナム系のアメリカ人は社会的にも不利な境遇の出身者であることが多く、白人の貧困層出身者と同じで彼らの立場改善に大きな妨げになっていると指摘されている。

プリンストン大学の社会学者のThomas J. EspenshadeとChang Y. Chungの調査によるとアイビーリーグ大学の入学審査における学力以外での基準によるSAT (大学進学適性試験)の修正点は白人をゼロとすると

  • 黒人: +230
  • ラテン系: +185
  • アジア系(東洋系、インド系、東南アジア系): –50
  • スポーツ特待生: +200
  • レガシー (元卒業生の子弟および大学への献金者): +160

(満点1600): Study (PDF)と優遇措置対象であると得点一割増し以上、アジア系であると3分引きとなっている。

最近のカリフォルニア州では州立大学の入学審査で住民投票で積極的差別是正措置の適用を禁じる法律が住民投票により採択された。結果として、これらの州立大学(私立は関係なし)で白人の新入生の数は大して変わらなかったが黒人の入学率が下がりアジア系の入学率が上がる結果となった。

また、雇用の面では1964年成立の公民権法に基づき雇用機会均等委員会が設けられ、連邦機関や地方自治体に黒人、少数民族及び女性を、採用の際に一定数割り当てるよう指導した。さらに、連邦労働省連邦契約遵守局が出したガイドラインにより、連邦と一定額以上の事業契約を行う民間企業などは、少数民族に平等な雇用を提供するよう、採用に人種による割り当ての具体的な数値目標を示すことが必要とされた。また、解雇の際も黒人や少数民族を優先保護し、従来の労働慣行を無視して白人を先に解雇することが認められた。

職場における昇進に関してもアファーマティブアクションが用いられており、アラバマ州警察では一時期、最高裁判決に基づき、白人警察官が一人昇進するたびに、自動的に黒人警察官も昇進させる制度が採られた。

[編集] マレーシア

マレーシアではマレー人が華人に対して経済的に低水準であることを解消するため、マハティール政権の下、大学進学や公務員採用でのマレー人優遇、会社役員・管理職へのマレー人登用義務づけなどの措置(ブミプトラ政策)が行われてきた。結果として経済的格差は縮小したが、消滅することはなかった。大学生の知的水準の低下をもたらしたとの批判もある。マハティール首相は辞任に際して「何を行ってもマレー人を変えることはできなかった」と述べた。

[編集] 法的議論

アメリカにおけるアファーマティブ・アクションで有名な判決はBakke判決、Weber判決、Paradise判決などで、それぞれ教育、職業訓練、昇進に関する判決である。最も直近のアファーマティブ・アクション審理はミシガン大学の入学試験における人種割り当てに関する問題であり、ジョージ・W・ブッシュ大統領はこれを違憲とみなしている。基本的に人員割り当ては違憲であると最高裁で決定されたが優遇措置(成績の引き上げ)は違憲ではないとされた。すべての最高裁判事がアファーマティブ・アクションを逆差別でアメリカ憲法修正14条の違反であると認めたが、違憲の審議において優遇措置の「公共の利益」にたいする判断で判事の判断が分かれ、結果として5対4の僅差で合憲とみなされた。しかしブッシュ政権においてこの裁判で合憲判断を下した二人の判事が引退し保守派とみなされる判事が代わりに就任したため今後の最高裁の判断が注目されている。

[編集] 肯定派

肯定派は、アファーマティブ・アクションは実効的な意味での機会を平等にすると考える。

例えば、ある特定の民族に属する人々に対して政治、経済上の差別が制度的、歴史的に存在し、その特定民族が階級的に下層に位置するためその民族からの学生の平均の学力が低く、高等教育進学率が著しく低かったとする。差別措置肯定派はこれにより学歴が低いために専門的な職に就くことは難しくなり、世帯の収入の差を生み、子女の基礎的な教育機会の差にも繋がり、次世代における進学率の差を再生産されていると主張する。アファーマティブ・アクションとは、このような自己保存的な問題を解消し差別されてきた人々の社会的地位の向上を図るために、入学基準や雇用の採用基準で積極的な優遇措置をとることをいう。上の例では、その民族の生徒を高等教育に受け入れるための成績に関わらず、特別枠を設けたり、入学試験において点数のかさ上げを行ったりすることで彼らの進学率を向上させる。これにより長期的には差別構造そのものが消滅し、最終的にこの措置を必要としないまでに改善すると期待できると肯定派は主張する。

また、否定派が主張するような逆差別の問題は制度を注意深く設計することで許容可能な範囲に留まると考える。

[編集] 否定派

否定派は、アファーマティブ・アクションがもたらす逆差別の弊害を深刻に捉える。

弱者のための優遇を行うとき、入学・就職枠が無限にあるわけでないのでこの優遇措置が大規模に行われれば当然この優遇措置を受けられないものに対する逆差別となる。アファーマティブ・アクションにおいては進学率あるいは就職率などその手段としてまず結果における数の平等を求めているので、場合によっては競争の不公平という弊害が無視できないほどに大きくなる危険性がある。また、生活補助などの政策と違い「積極的」差別是正措置は機会の平等を逆転させるものであり平等の理念に背くという批判も存在する。

アメリカでこの政策の批判として黒人の経済学者であるトーマス・ソエル著の『世界の積極的是正措置:実証研究』がある。アメリカだけでなくマレーシア、スリランカ、ナイジェリア、インドの政策を分析した結果彼の出した結論は

五カ国の優遇政策の共通する結果として

  • 優遇対象でないグループによる優遇対象獲得の政治活動を誘発する。(例:インドの下の中のカーストが下の下のカーストと同じ優遇措置を勝ち取ろうとする。これが与えられた場合次の一ランク上のカーストが同じ特権を要求する。)
  • 優遇対象グループのうちでもっとも恵まれているもの(例:黒人の中・上流階級)が非優遇対象グループのうちで最も恵まれていないもの(例:白人の貧民層の勤勉な学生)を犠牲とする形で制度の恩恵をこうむる傾向にある。
  • 優遇対象側は努力する必要が無くなり非優遇対象側は努力しても仕方がないとなり両方の向上心が削がれる。よって社会全体で競争の阻害となる。
  • 制度によって優遇対象群と非優遇対象群の対立が深まる。アメリカの例をあげれば白人の貧民層の黒人に対する憎悪を増幅させるだけでなく、優遇措置と無関係の黒人の貧民層と黒人の中・上流階層の対立を深める傾向にある。

特にアメリカにおいての記述では 「積極的是正措置が黒人を貧困からすくい上げたといえるのだろうか。積極的是正措置の導入以前に黒人の貧困は半減されたのに導入以後は殆ど変わっていない。」 「積極的是正措置がないと黒人は大学や短大に入学できないといえるのだろうか。積極的是正措置がカリフォルニアで廃止された後、カリフォルニア大の黒人の生徒の数は増加した。」 「積極的是正措置が無ければ競争率の低い学校に入学し、優良な成績で卒業できたのにマイノリティの生徒は人種優遇制度のために学力に不相応な学校に送られ、他の同学校の生徒と比べて落ちこぼれる、あるいは落第する憂き目に遭う可能性が高い。」 「一流の大学が二流の大学向けの学力しかない黒人の学生を吸い上げればそのぶん二流の大学は三流の大学向けの学力しかない黒人の学生を入学させなければならない。このプロセスは最高学府から最低学府まで続き、すべての学府のレベルで黒人の生徒の学力と学府教育レベルの不適応がおこる。」 最近の問題としてカリフォルニアの司法試験では受験生の出身校および人種を記録していたので、難関法科大学院に優遇措置で入学させてもらえた少数民族が法科大学院の目的である司法試験にどれだけの割合で合格しているのかという情報を明確に統計的に検証できる重要な情報源である。優遇措置に反対する学者が情報公開を求めたところ、個人情報の保護を理由にその公開が拒否されている。しかし、別の学者にはその情報を公開しており、その対応が問題になった。現在裁判で争われている。もし情報が公開された上で優遇措置のおかげで難関の法科大学院に入学させてもらったものが司法試験で最終的に挫折という結果が出れば、優遇措置無用論に有利であると考えられている。

[編集] 関連項目

最終更新 2009年10月6日 (火) 14:21 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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