マルス (システム)

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マルス(MARS)は、旧国鉄JRグループの座席指定券類の予約・発券のためのコンピュータシステムである。

MARSで発券された乗車券
MR32型マルス端末

元々は"Magnetic electronic Automatic seat Reservation System"(磁気的電気的自動座席予約装置)の略とされていたが、現在では"Multi Access seat Reservation System"(旅客販売総合システム)の略となっている。ローマ神話の軍神マルスにかけたネーミングでもある。アルファベットでは"MARS"と書くが、一般にはカタカナで「マルス」と書かれる。装置は日立製作所の製品である。但し、端末装置には一部に同じ芙蓉グループ沖電気工業製もある。沖電気製はMV30端末やJR東日本のMEM端末で主に使用されているほか、M型端末は日立製作所と共に2社で製造していた。

目次

[編集] 概説

JRの指定席券を主として、乗車券類・イベント券などの座席管理・発行処理および発行管理(精算業務)を行う巨大なオンラインシステムであり、ホストシステム、端末ともに「マルス(端末)」と呼ばれることが多い。中央装置で一括管理する集中型をとっており、中央装置には、歴代日立製作所の大型コンピュータ・超大型コンピュータが採用されている。

中央装置(ホストコンピュータ)は東京都国分寺市にあり、国鉄分割民営化以後は鉄道情報システム株式会社(JRシステム)が保有・運営している。

もともとは鉄道切符(乗車券類)の発売のために開発されたシステムだが、現在では乗車券類だけでなく、航空券、宿泊券、遊園地展覧会などイベント入場券等の販売も行えるようになっている。

JRの鉄道駅や旅行センターに設置される端末(MR端末、JR東日本では主にMEM端末=JR東日本の子会社であるジェイアール東日本情報システムが、JR東日本向けに開発した端末)とは、鉄道情報システムが管理するJRネットなどを経由しホストと接続されている。また、JTB近畿日本ツーリストなど、大手旅行会社の旅行業システムともオンラインで接続されており、接続されている旅行会社に設置されている旅行業端末でも、JRの指定券などが発売できる。

端末で管理されている座席は、JRの新幹線特急列車や、急行・快速・普通列車の「座席指定席」を中心に、「ドリーム号」などJRグループのバス会社およびこれらと共同運行する高速バスの座席指定席などである。バスの座席については、JRシステムなどで新たに開発された座席予約管理システムである「高速バスネット」に移行する方策が採られている、詳細は後述

JR鉄道駅みどりの窓口や旅行会社の端末に、駅員や旅行会社係員が端末を操作し、列車や座席、条件等を指定することにより、端末に接続されたプリンターから自動的に切符類が発券される。端末から出力される切符は、ほとんどが磁気化券となっており、発売された切符の内容がマルス端末による自動控除(払戻処理)用と、自動改札機用の情報それぞれにエンコードされ記録されている。発売された切符のうち、定期券サイズで切符に丸印の中に×のマークが入った切符や、自動改札を通過できない旨明記された切符以外は、原則として、全国のJR各駅の自動改札駅を通過できる。

クレジットカード会社のシステムともオンラインで接続されており、カードを使用した発券の際には、与信照会などが行われる。

サブシステムとして「プッシュホン予約システム」などが接続されている。

「もしもし券売機Kaeruくん」

最近では、利用客が自ら操作できる指定席券の発券や座席の指定機能を持った指定券自動券売機(MV端末)も、主要駅に設置されている。ただし、設置箇所や設置旅客会社の方針により、発売品目や列車は限定されている。現金のほか、クレジットカードが使用できる。JR東日本の一部の駅にはセンター対話型指定券自動券売機「もしもし券売機Kaeruくん」もある。

JR各社のさまざまなニーズに応じることができるように、JR東日本におけるSuicaJR西日本ICOCA対応などシステムや機能が拡張されている。

2008年には、マルス1が電子計算機技術のオンラインリアルタイムシステムへの応用の可能性を示したこと、現代でも実際に使われているシステムへの発展の基礎となったことを評価され、電気学会の電気技術顕彰制度「第1回でんきの礎」に選定された[1]

また、2009年には情報処理学会により「情報処理技術遺産」として認定された[2]

[編集] 開発の経緯

マルスができる以前は、その列車の始発駅が属する指定席管理センターで、列車ごとに日別の指定席台帳を作って各列車の指定席を管理していた。駅で切符の申込みを受けた際は、駅員が電話でセンターへ問合わせ、センターでは指定席台帳から空き座席を探し出して見つけた座席の座席番号を回答し、駅ではその座席番号を指定券に書き写して発券していた。

指定席管理センターでの予約処理はおおよそ以下のとおりであった。

  1. 予約処理を行なう職員は、方面別の指定席管理台帳が収納されている、回転テーブルの前に着席している。
  2. 駅係員などからの指定席要求に対し、かなりの速度で回転している(直径約2m、約8秒前後で1回転)テーブルから該当の台帳を取り出す。
  3. 台帳に席の割り当てを行なう。
  4. 問い合せ元への回答を行なう。
  5. 書き込んだ台帳を、回転テーブルの所定の位置が自分のほうへ来た時に正確に投げ戻す。

これらの作業にはかなりの技を駆使する必要があった。ベテランになると、1メートルぐらい離れたところからでも所定位置に戻せるという、まさに職人技をもって対処していた。

しかしこの方式では発券に多大な時間を要し、指定席を連結する特急・急行列車が増加するにつれ、膨大な量の申込みを捌くことができなくなり指定席を必要とする利用者が居るにも関わらず発券が間に合わず空席を残したまま列車が発車してしまう事態が発生していた。さらに、主たる作業を人間が行うため、聞き間違いによる予約指定ミス、書き間違い、回答の言い間違い、転記ミスなど、発券ミスを引き起こす要因が数多くあった。そのため、当時の鉄道技術研究所の穂坂衛が、アメリカン航空が研究していた座席予約システムSABREなどを参考にしつつ、世界初となる列車座席予約システムの機械化の研究を1957年に開始した。

翌年日立製作所と共にマルスの開発が開始された。

[編集] 歴史

[編集] マルス1

マルス1はプログラム内蔵型のコンピュータではなく、すべてハードウェアで処理を行なうコンピュータを使ったシステムであった。記憶装置としては磁気ドラムを採用し、ここに4列車、3600席、最大15日分の予約をできるようにしていた。しかし、全て1からの手作りであったため、予定の1959年3月には間に合わず同年8月に完成、1960年1月18日に運用を開始した。当初は下り「第1こだま」「第2こだま」に、その後6月に下り「第1つばめ」「第2つばめ」を加えた4列車[3]の予約業務を行なった。しかし、発券内容を切符として印刷することができず、プリンタで印刷し、それを窓口係員が書き写して切符を作成していた。

[編集] マルス101

マルス1でコンピュータによる予約システムの実証ができたため、全座席予約、全国展開、乗車券の印刷を盛り込んだマルス101が、次のマルスシステムとして開発された。マルス1と違い、プログラム内蔵方式のコンピュータを採用し、通信時のデータロスト対策やデータ構造の最適化による記憶容量の削減、準備完了ランプ、データエラー発生時再考ランプなどのユーザインタフェースの改良など、大規模なシステムに対応する数々の工夫が講じられた。1963年夏に中央装置は出荷され、1964年2月23日から稼働を開始した。本体は秋葉原駅脇のビルに設置された。しかし、1列4席の列車にしか対応していなかったため、対象となる列車は在来線のみであり、1列5席の座席配置となっている新幹線には採用されなかった。

[編集] マルス102

マルス101をベースに、1列5席対応化を行なったもの。台帳管理による切符の販売に30分~1時間も時間を要して問題となっていた、新幹線の発券が可能となった。1965年10月にみどりの窓口の運用開始と共に利用開始。

[編集] マルス103

1968年10月の白紙ダイヤ改正(ヨンサントオ)をターゲットに、マルス101、102の機能を大幅に増強し、20万座席予約、団体業務専用システム(マルス201)の連携、より高信頼性なシステムを目指し、1966年から開発が始まった。マルス1、101、102とは異なり、HITAC-8400という汎用大型コンピュータを完全二重化構成で採用した。また、フロントエンドにマルス101、102とのデータ振り分けを行なう装置を配置し、既存のシステムとの並行運用を可能にした。

[編集] マルス201

団体旅行専用のシステムとして、1969年12月から稼働。

[編集] マルス104

1970年1月。万博輸送に向けて稼動。マルス103と同じ能力。マルス101は使命を終えた。

[編集] マルス105

山陽新幹線開業にあわせ、140万席の予約、10年稼働が可能なシステムをめざし、プロジェクトの方式から見直しを行ない、マルス102、103、104の置き換えを行なうシステムである。ハードウェアはHITAC-8700を協調稼働し、さらにもう1台予備系を配置した。発券機能も、2か月前からの発券、前日までの発券、割引扱いの拡充、券面への表示項目の増大など多くの改善項目が盛り込まれた。機器は国分寺市に新たに作られたコンピュータセンターに配置された。マルス105への移行は、1971年9月から3回にわけて、マルス103、102、104の順で行なわれ、同時にマルス201の移行も行なわれた。これは、マルス105への移行に伴って空いたマルス103のハードウェアをマルス201に流用し、既存のハードウェアをマルス150(電話予約システム)に置き換えるものである。

マルス105の端末として開発されたN型端末機は、それまでのシステムでは列車名や乗・降車駅の入力を券面の印字を兼ねたゴム印棒で行っていたものを、操作卓上に設置された方面別に整理されている入力器(本のページ状になっていて、それをめくる音から「パタパタ」と呼ばれた)を使用するように改良がなされ、操作性や拡張性が飛躍的に向上した。また乗車券の部分についても、以前は係員がゴム印による押印、或いは直接記入にて行っていたものをコンピュータから自動的に印刷できるようになり、乗車券のみを発券することもできるようになった。ただ、当時は漢字印刷ができなかったため(タイプライター端末のため)、漢字は非常に頻度の多いもののみの表記で、他はカタカナ表記であった。

また、「簡易マルス」と通称されていた、鉄道電話回線を利用するK型端末機があった。操作時は駅名や列車名をコード番号で入力して一回ごとにダイヤルをし、ホストコンピュータに接続して照会・予約・発券を行っていた。K型端末は紋別駅五稜郭駅足利駅などの指定券発行の少ない駅や御宿駅石打駅などの季節波動の大きい駅等で導入されたが、操作性の悪さや発券可能な券種に制限がある等の不都合が多く、後にやはり鉄道電話回線を使用するものの汎用PC(沖電気製PCを流用)を使用することで操作性を改善し、なおかつN型端末と同等の機能を持たせたL型端末機が開発されたため普及しなかった。なお、L型端末の導入によってみどりの窓口をもつ駅が急増した。

[編集] マルス202

マルス201を改良したもの。旅行会社端末との結合が行われ、団体枠のみならず旅行会社枠の個札(個人用乗車券類のこと)発券も可能となった。1975年に稼働開始。

[編集] マルス301

マルス100系、マルス150系、マルス200系の統合システム。1983年1月から開発が始まり、1985年3月に稼働開始。同時に登場したM型端末は初めてモニターとキーボードが付き、駅コード(電略)の入力が可能なため国鉄全線全駅を対象とした発券が可能となった。また周遊券などの図形を用いた券面印字や定期券にも対応した最初のシステムでもある。本来は武蔵野線・片町線などで実用実験が開始された自動改札機に対応させるべく、連続用紙から裏面に磁性体を塗布したロール紙に変更されたが、定期券以外はサイバネ規格に準拠しておらず、定期券以外が実際に自動改札機での使用が可能になるのはマルス305以降となった。1987年4月1日、国鉄分割民営化によりマルスは鉄道情報システム(JRシステム)が承継した。

[編集] マルス305

自動改札機、偽造対策などへの対応を盛り込んだ。1993年2月に稼働開始。当初はM880二台で運用。その後1997年にMP5800に移行。1999年以降のJRの特急券の地紋は現在の水色系となっている。片道乗車券の発券のロジックに問題があったことが知られている。

東京都区内発→東海道本線経由→大阪市内経由→紀伊勝浦・新宮経由→伊勢鉄道経由→東海道本線経由→東京都区内行、という片道切符を発券することが可能であ。経路中に重複区間を含む場合、本来は片道乗車券として発券しようとしたらエラー処理を行い、連続乗車券として発券しなければならないが、経路中にJR以外の路線を挟むとエラー対象外となってしまう。

[編集] マルス501

2002年10月から稼働を開始した現行のシステム。2003年10月に第二フェーズが稼働し、JR各社の個別の要求に対応できるようになった。また、システムの主要部分についてサーバー化が2004年にかけて進み、指定券自動券売機(MV端末)の機能増強も同時進行。指定券の直接サーマル券化も始まった。 それに伴い、M型端末は2002年9月30日をもって廃止され、通称「パタパタ」(ページ面)が姿を消し、L型端末(初のPC型端末機)も2003年9月30日をもって廃止された。

[編集] 類似システム

JR北海道では自社内完結の乗車券、自由席券、定期券特別企画乗車券、イベント券などの商品を発券する際は原則「総販」というローカルシステムで管理・発券している。東京モノレール券なども発券できる。端末は、MR端末を用い、MR端末のシステムの一部として組み込まれている。このシステムで発券した切符には「総販」というマークが印字されるほか、連番などの印字方法もマルスシステムとは異なる券面での発行となる。また、総販システムでは、発券ごとに国分寺のマルスホストと通信する必要がなく、通信費などの削減に効果をあげている。もちろん、座席指定を伴う新幹線・在来線特急券、指定席券のほか、JR他社にまたがる乗車券については、マルス端末機能を使用した発行となる。

JRバスグループでは、列車とは異なるバス特有の事情や、マルスがコンビニエンスストアマルチメディアステーションインターネットなどと接続されていないなどの理由から、マルスとは別にジェイアールバス関東ジェイアール東海バス西日本ジェイアールバス、JRシステムによって「高速バスネット」が開発され、2006年から稼動しており、「ドリーム号」などの「高速バスネット」での予約や購入には、路線や条件によって運賃を割り引くなどの特典を実施している。

私鉄でも、有料座席指定特急を運行する鉄道会社では、同様の座席予約システムを構築していることが多い。一例として、近畿日本鉄道は「ASKA(All-round Services by Kintetsu and its Agency)システム」を開発・運用しており、主要旅行会社のシステムとも結合されている。

[編集] 脚注

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  1. ^ 交通新聞2008年10月22日
  2. ^ http://www.ipsj.or.jp/07editj/history/2009heritage2.html
  3. ^ この当時は上下列車とも1、2の順で番号が割り当てられていた

[編集] 参考文献

  • 旅人をつなぐ“マルスシステム”開発ストーリー ISBN 4-87268-474-5
  • みどりの窓口を支える「マルス」の謎 -世界最大の座席予約システムの誕生と進化- ISBN 4-7942-1433-2

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年11月16日 (月) 14:31 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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