ミーム

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この項目では、文化の伝播や情報伝達における情報単位としてのミームについて説明しています。

ミーム(meme)とは、人類の文化進化の文脈において用いられる概念で、文化を人の脳から脳へと伝達される自己複製子(情報)であると見なしたときに、伝達される情報の最小単位のこと。動物行動学者進化生物学者リチャード・ドーキンス自然選択の働きを説明するために、遺伝子以外にも存在しうる理論上の自己複製子の例として提案した。

ドーキンスの視点によれば、自然選択に基づく進化が起きるためには、複製され、伝達(あるいは遺伝)される情報が必要である。またその情報はまれに変異を起こさなければならない。これは生物学的進化では遺伝子である。この複製、伝達、変異という三つの条件を満たしていれば遺伝子以外の何かであっても同様に「進化」するはずである。訳語としては摸倣子摸伝子意伝子がある。文化を脳から脳へ伝達される情報と見なす視点は、文化を個人の振る舞いを規定する超個体的な実体(社会的事実)と見なす伝統的な社会学の視点と対照的である。

災害時に飛び交うデマ、流行語ファッション言語などの文化情報の伝承伝播の仕組みを、論者の定義に基づいてすべてミームという仮想の主体を用いて説明することがある。 例えば「ジーパンを履く」という風習が広がった過程をある論者のミームの遺伝子との類推から捉え直せば、次のようになる。

1840年代後半のアメリカで「ジーパンを履く」というミームが突然変異により発生し、以後このミームは口コミ、商店でのディスプレイ、メディアなどを通して世界中の人々の脳あるいは心に数多くの自己「情報」の複製[1]を送り込むことに成功した。』

目次

[編集] 定義

「ミーム」の概念は、ドーキンスが唱えたミーム=情報伝達における単位としての定義を超えて、どのようなものでもミームであると誤解され論じられることが多い。さらに論者によって、また同じ論者でも研究の発展に応じてその指し示す対象にはかなりのずれと合理的解釈があるので、各ミーム論者の理論に対する信憑性の判断にはミーム論争自体への客観的な理解と、文化研究を専門とする人類学をはじめとした社会科学分野への理解が必要である。ここではいくつかの定義を例示する。 [2][3]

  • 文化複製の単位 (ドーキンス、1976)
  • 脳内にある情報の単位 (ドーキンス、1982)
  • 文化的に伝播された教訓の単位 (デネット、1995)
  • 心の中で影響力を持ち、かつ複製可能な情報の単位 (ブロディ、1996)
  • 強い伝染力を持つ知識、アイデア、概念 (リンチ、1996)
  • 脳に貯蔵され突然変異によって変質した習性に近い教訓 (ブラックモア、1999: 邦訳106ページ)

[編集] 分類

佐倉統ほか(2001)によるもの。[4]

  • 流行ミーム - すでに広まっているもの。定着したものは、習慣あるいは伝統ミームへと移行する
  • 習慣ミーム - 意識されることなく繰り返されているもの。
  • 伝統ミーム - 意識的な活動によって維持されているもの。
  • 掟ミーム - 規範としての正式な承認を受けたもの。ルールなど。
  • 仕掛けミーム - 広めることを意図して人為的に作られたもの。
  • 伝道ミーム - 他者にも伝えようという呼びかけが含まれているもの。
  • 伝説&物語ミーム - 事実かどうか判断のつかないもの。あるいはフィクション
  • ミームに関するミーム - ミームの視点から問題を捉えなおしたもの。メタミーム。

ブロディ(1998)によるもの。[5]

  • 条件づけ(反復) - ミームとの接触を繰り返させること。ときには快ないし不快による強化を伴うこともある(オペラント条件づけ)。
  • 認知的不協和(矛盾の解決) - 第三のミームを作り出すことで、対立していたミームを双方とも存続させること。あるいは、当のミームを解決手段として必要とさせるような問題を故意に作り出すこと。
  • トロイの木馬(どさくさ) - 関心をひきやすいミームをおとりとして利用し、本命のミームを、相手に気づかれないように送り込むこと。

[編集] 歴史

ミームは、「進化論というアルゴリズムに支配される遺伝子」というパラダイムの、文化への適用という形で提案された。リチャード・ドーキンスの著書『利己的な遺伝子』(1976年)で初めてこの語が用いられ、定着した。ドーキンスは「ミーム」という語を文化伝達や模倣の単位という概念を意味する名詞として作り出した。模倣を意味するギリシャ語の語根 mimeme から遺伝子 (gene) に発音を似せてミーム (meme) としたという。以降、進化論・遺伝学で培われた手法を用いて文化をより客観的に分析するための手段として有用性が検討されている。

文化遺伝子のような単位で伝達されるという考え方はドーキンス以前にもあった。

  • 旧制度学派経済学者のヴェブレンは、社会や経済の進化がダーウィン的だという考え方を持っていた。
  • 人類学者クロークは、1975年に断片的な「文化的な指示」を人々が模倣しあうことで文化が伝達されると考えた。
  • 最近では、イギリスの生物学者ジュリアン・ハクスリーやドイツの生物学者リヒァルト・ゼーモンらも、20世紀初頭に類似の概念を提唱していたことが指摘されている。とくにゼーモンは1904年に「ムネーメ(mneme)」という用語を提唱している。

さらに歴史をさかのぼると、18世紀啓蒙思想による社会や文化の進歩思想の影響が大きい。もともと生物の進化論は社会の進歩論を自然界に適用したものであり、ミームの考えかたは、進化生物学経由でもういちどこの考えかたが社会現象や文化に回帰してきたとみなすこともできる。

また、1985年にはロバート・ボイド(Robert Boyd)とピーター・リチャーソン(Peter Richerson)が、ミームなどの文化的な複製子による文化の進化と、遺伝子による人間の生物的な進化とが相互に影響を与えあって共進化する、という考え方である二重伝承理論(Dual Inhertance Theory, DIT)を提唱し、注目を集めた。日本では佐倉統などがこの理論を研究している。また文化に関心を持つ一部の認知科学者はミームを文化や宗教の理解の助けにしようと試みる。例えばパスカル・ボイヤーは著書『神はなぜいるのか?』で、宗教がなぜ今あるような形で存在するのかを明らかにするためには、どのように個人が持つ「概念」が(ミームとして)記憶され、伝達されるのか人間の認知能力の構造を理解せねばならず、それは認知心理学の実験によってしか知ることができないと述べた。

しかし、文化研究において有効な概念かどうかについて広く支持されているとは言えない。『ダーウィン文化論―科学としてのミーム 』[6]などに全否定する論文がみられる。このようにミームは生物学はもちろん、文化人類学や社会学、心理学において支持されている概念にはなっていない。これはミームは支持されるような経験的な証拠、または理論的な背景を持たず、従来の文化理論や学習理論の代替物になっていないことが原因に考えられる。

[編集] 関連語

[編集] 類語

  • 文化遺伝子 (culturgen) (Lumsden and Wilson, 1981)

[編集] 派生語

[7]

  • ミーム型(memotype) - 遺伝学における遺伝子型に相当する概念。
  • ミーム学者(memeticist) - ミーム学を学ぶ人、またはミーム技術者のこと。
  • ミモイド(memeoid, memoid) - 自身の命さえも危険にさらす程の強い影響をミームから受けている人。例えば神風特攻隊自爆テロ犯など。
  • レトロミーム(retromeme) - 既存のミーム複合体に自身の分身を送り込もうとするミーム。
  • メタミーム(metameme) - ミームに関するミーム。
  • ミーム複合体(memeplex, coadapted meme complex) - 相互に支えあいながら進化してきたミームの複合体。例えば宗教、科学など。

[編集] 脚注

  1. ^ 複製における忠実度は突然変異率が高く、ラマルク的変異の傾向をもつとされる。
  2. ^ Geoffrey M. Hodgson (2001) "Is Social Evolution Lamarckian or Darwinian?", in Laurent, John and Nightingale, John (eds) Darwinism and Evolutionary Economics (Cheltenham: Edward Elgar), pp. 87-118. 原文(一部相違あり)
  3. ^ Oxford English Dictionary 内、ミームの項目。
  4. ^ 佐倉統ほか『ミーム力とは?』数研出版、2001年。
  5. ^ リチャード・ブロディ『ミーム―心を操るウイルス』講談社、1998年。
  6. ^ ロバート・アンジェ編、ダニエル・デネット等著、佐倉統、巌谷薫、鈴木崇史、坪井りん訳 『ダーウィン文化論―科学としてのミーム』産業図書、2004年、ISBN-10:4782801491。
  7. ^ スーザン・ブラックモア著、垂水雄二訳『ミーム・マシーンとしての私』草思社。序文より

[編集] 関連項目

[編集] ミームをモチーフにした作品

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年10月20日 (火) 03:52 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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