ロールス・ロイス トレント

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エアバスA380に搭載されたトレント900

ロールス・ロイス トレント (Trent) は、英のロールス・ロイス plcが製造する航空機エンジン。本項では3代目に当る大型旅客機用高バイパス比ターボファンエンジンの現行シリーズを主に扱う。

尚、歴代ロールス・ロイス社製ジェットエンジンの殆どにイングランドを流れる河川名の愛称が与えられている理由については、ウェランド (Welland) の項を参照されたい。

目次

[編集] 初代 (RB.50)

詳細は「en:Rolls-Royce Trent (turboprop)」を参照

1945年に遠心式ターボジェットエンジンのダーウェント (Derwent) Mk.II から試作されたターボプロップエンジンで、単段遠心圧縮器と10本のカン式燃焼筒、単段タービン、同軸遊星減速ギアボックスを持つ。 グロスター ミーティア (Gloster Meteor) F.3 改造機に積まれ、世界で初めて単独飛行に成功したターボプロップになった。軸出力750shp、余剰推力450kgの実験機で、この開発で得られた知見は後にベストセラーのダート (Dart) に活かされた。

[編集] 二代目 (RB.203)

SEPECAT ジャギュア三菱T-2F-1に搭載されたアフターバーナー付小型超音速ターボファン、ロールス・ロイスRB.172/チュルボメカT260アドーア (Rolls-Royce Turbomeca Adour) をコアに用い、低圧系を付加した世界初の3軸式ターボファンエンジン

バイパス比8、静止推力5tクラスの中型機で、日本航空機製造YS-33等に予定されていたが、他の採用案も計画のみに終わったため、製作された5基は各種試験に用いられた。

この基礎研究は拡大版RB.207を経て、複合材料の投入や可変静翼の廃止、完全にシームレスなアニュラー燃焼器の実現、プレーンメタルベアリングの採用等、革新的設計で知られる初の実用3軸式ターボファン、RB.211で具現化した。

[編集] 三代目(RB.211 ファミリー)

[編集] 前史

技術的飛躍を目指したRB.211の開発に難航した結果、経営難に陥り1971年から一時国有化されていたロールス・ロイスが、1987年サッチャー政権下で再民営化された頃、大型民間機市場に於ける同社製エンジンのシェアは8%にまで下落し、競業社ゼネラル・エレクトリック・エアクラフト・エンジンズ(GEAE)とプラット・アンド・ホイットニー(P&W)の後塵を拝していた。これは主にRB.211を標準搭載するロッキード L-1011 トライスターの販売不振と、イギリス航空産業の斜陽化、冷戦緩和に伴う軍縮に起因するもので、伝統に裏付けられた高い技術力と製造品質を誇る同社は起死回生の機会を渇望していた。

折りしも、2マンオペレーション可能で三発機よりも経済的な中〜大型双発機計画(後のボーイング777エアバスA330等)が持ち上がり、新世代の大推力エンジンの需要が勃興した。これらにはETOPSExtended-range Twin-engine Operational Performance Standards、非常時の洋上片発飛行能力)認証に叶う超高信頼性も同時に要求されており、ロールス・ロイスはRB211-524L計画案を元に、これを更に拡大洗練する方途を選んだ。

既存機のスケールエンジニアリングのため開発は極めて順調に進み、早くも1988年ファーンボロー航空ショーの場で、「トレント」と名付けられたRB.211発展型の発表に漕ぎ着けた。

トレントが開発された結果、キャセイパシフィック航空ブリティッシュ・エアウェイズカンタス航空と言ったイギリスに関係のある航空会社以外にもシンガポール航空タイ国際航空マレーシア航空ルフトハンザドイツ航空ニュージーランド航空等過去にロールスロイス製エンジンを採用しない航空会社がこぞって発注するようになりシェアを拡大するようになった。更にボーイング787ローンチカスタマーである全日本空輸(ANA)がトレント1000を50機分発注する等ロールスロイス・トレントのシェアは拡大している。特にキャセイパシフィック航空・シンガポール航空はロールスロイス・トレントが選択できないケース(B777-300ER等)以外は殆どがトレントを発注する。

[編集] 技術的特徴

[編集] 3軸式

RB.211の3軸式レイアウトを継承している。一般的な2軸式ターボファンより軸受機構が複雑化する反面、圧縮機設計を最適化できるため、エンジン全体として小型軽量化、高剛性・低騒音化、高性能・高信頼化等のメリットがある。

また3軸ユニット各々の規模を拡大縮小する事で、多様な需要に応えるファミリーを形成する事が可能になっている。例えば900はA380に要求される高推力を得て、新騒音基準も満たしつつ、一方でタービン入口温度は十分に低く、整備コスト低減も果している。また800は700と同一の高圧系と中圧タービンを用いつつ高圧縮化されているが、これは中圧コンプレッサと低圧タービンの容量拡大のみで達成されたものだ。

軸受機構はRB.211から一新され、騒音、排出ガスを共に軽減している。700シリーズ(RB211-524G, -524H)には、新高圧系が導入され改良版の-524G-T, -524H-Tへ各々発展した。

[編集] 可変静翼機構

3軸化によって企画段階では全廃する予定だった可変静翼だが、加速時のサージ耐性を高めるには少なくとも中圧コンプレッサの最前列(インレット・ガイドベーン)を可動にすべきという事が研究過程の初期で明らかになり、RB.211とトレントシリーズにも採り入れられている。しかし他の2軸式ターボファンでは必須の多数の可変静翼機構が3軸式のRB.211には存在せず、簡略化、軽量化、信頼性向上が図られている。

[編集] チタン製中空ファンブレード

チタン製で中空のファンブレードは、摩擦攪拌接合により3枚のチタン薄板の外周部を接合し、金型内で板の間に液体を注入して加圧(ハイドロフォーミング)する事により、3次元的に成型されている。GEアビエーション等、耐衝撃性に劣る複合材のファンブレードを採用している他社が、バードストライク対策として前縁部のみチタン複合材としているのに対し、ロールスロイスはRB.211で当初、自社開発したCFRP(商品名ハイフィル)製ファンブレードがバードストライク試験をなかなかパスできなかった経験を活かし、堅牢で軽量なチタン製中空ファンブレードを独自開発した。

[編集] 各種型

トレント600
最初の生産型でMD-11向けに開発されたが、MD-11自体の販売不振に加え、カスタマーはブリティッシュ・カレドニアン航空エア・ヨーロッパのみに留まり、前者は1987年のブリティッシュ・エアウェイズへの吸収合併に伴い発注をキャンセルされてしまい、後者は湾岸戦争の影響で倒産した。600は2000年、長距離型B767-400ER向けにエンジン・アライアンス GP7172と共に採用されたが、アメリカ同時多発テロ以降の航空機需要の冷え込みと原油価格の高騰で計画放棄された。近代化型B747-8にはGEnxだけが残されている。
トレント700
エアバスA330向けには当初トレント600(680)が予定されていたが、A330が計画値より重量超過したため、拡大版700(720)が新規に設計された。1989年にキャセイ・パシフィック航空から10機、トランス・ワールド航空から20機の確定発注を受けて翌1990年に進空し、1994年に90分、1995年に120分、1996年には180分間のETOPS認証を獲得した。2007年パリ航空ショーまでに700は140基を受注し、A330搭載エンジンの41%のシェアを獲得している。
トレント800
ボーイングのB767X(767の拡大版)案に対しては760が提示されていたが、計画は1990年に推力80,000ポンド級の高推力エンジンを要求する、より大型のB777に変更された。ファン径を700系の2.47mから2.79mに拡大した800を新設計するに当り、ロールス・ロイスは川崎重工業石川島播磨重工に技術協力と、11%の生産分担を要請した。800の地上試験は1993年に開始され、1995年に耐空証明を、翌1996年には180分間のETOPS認証を700と共に得た。永年のパートナーであったブリティッシュ・エアウェイズがB777のローンチカスタマーとしてGE90を選定した事もあり(背景には米からの政治的圧力も存在した)、販売面では当初苦戦したが、P&Wユーザーだったシンガポール航空から大量受注してから後は、800の高信頼性と同社のアフターサービスの良さが好評を博して形勢を逆転し、ブリティッシュ・エアウェイズもB777の追加発注に際しては800を指名した。トレント800はB777で43%のシェアを持ち、更に拡大中である。
トレント8104/8115
1998年に持ち上がったB777の長距離型777X計画に、トレント800の拡大版8104、続いて8115を提案したが、ボーイングから777Xの開発リスク分担を求められたロールス・ロイスはこれに難色を示し、今や世界最大手級の金融業者(GEグループの収益に実業部門が占める割合は10%未満)でもあるゼネラル・エレクトリックは呼応したため、GE90-110BとGE90-115BがB777ERの唯一のエンジンになった。行き場を失った8104はデモンストレーション専用にされている。
トレント500
エアバスの四発長距離機A340に従来用いられていたCFM56は性能向上の限界に達していた。ストレッチ型のA340-500/-600に対し、1996年にはGEとエアバスの間で新エンジン開発が一旦合意されたが、独占供給契約を要求する GE の高姿勢に反発したエアバスはこれを拒否した。残るP&Wとの競争に勝利したロールス・ロイスは縮小版500の開発に着手し、1997年のパリ航空ショーでA340-500/-600への採用が発表された。500は1999年に完成し翌2000年に耐空証明を得て、15の航空社で150機以上のA340シリーズに搭載されている。
トレント900
1990年代初頭にエアバスがB747への対抗機案A3XX(後のA380)を構想した際、ロールス・ロイスは900計画で即座に呼応し、ローンチエンジンに採用された。ファンの更なる巨大化に伴い、最内軸がトルク打ち消しのため反転された。リスク・収益分担パートナーは以下の7社。ITP (Industria_de_Turbo_Propulsores)(西、低圧タービン)、ハミルトン・スタンダード(米、電子装置)、アヴィオ(伊、ギアボックス)、丸紅(日、部品)、ボルボ・エアロ(瑞、圧縮機容器)、グッドリッチ(米、ファン容器、センサ類)、ハネウェル(米、油圧系)。また三星電子(韓)、川崎重工業、石川島播磨重工も従来通り協力している。A380は当初計画より12か月遅延しているが、2007年9月現在53%で900が選択されている(残余はエンジン・アライアンス GP7000 )。
トレント1000
B787 の開発に際しボーイングは当初GE一社に供給を絞る心算だったが、インターフェースを共通化して、各社のエンジンをパイロンごと交換可能な民間機初のシステムを採用する事になり、ロールス・ロイスも1000で開発に参加した。総計35%を担当するリスク・収益分担パートナーは以下の6社。川崎重工業(中間圧縮機モジュール)、三菱重工業(燃焼器、低圧タービンブレード)、ITP (低圧タービン)、カールトン鋳造所 (Carlton Forge Works) (加、ファンケース)、ハミルトン・スタンダード(ギアボックス)、グッドリッチ(電子装置)。787 の「ワーキングトゥゲザー」で最大手ユーザーになる予定の全日空2004年に 1000 を選択した事を発表し、ANA 向けトレントの契約額は10億米ドルを越えた。その後、世界最大の航空機リース会社 ILFC (International Lease Finance Corporation) からも大量発注を受け、B787用で38%のシェアを占めている。1000は2006年頭に初火入れされ、ロールス・ロイス社有の747-200改造機で試験された結果、翌年夏に耐空証明を得たが、2007年中に予定されていた787の進空は約2年遅延している。
トレント1500
B777-200LR/300ERの対抗機として計画された、A340-500/600に用いられる予定だった500の改良型。新型双発機A350 XWB (Xtra Wide-Body)が代替する事になり、実機は製作されなかった。ファンの直径が97.4インチでトレント1000/XWBのガス発生器と低圧タービンを改良し使用する予定だった。
トレントXWB
787の対抗機として、エアバス社は2005年にA330の改良機A350構想を発表し、ロールス・ロイスは川崎重工業の協力下1000シリーズの強化版1700を計画したが、A350の新味の無さに市場は冷淡な反応を示したため、エアバス社は2006年7月17日、B787より更に広く大きいA350 XWBへの改案に追い込まれた[1]。同機用エンジンもトレントXWBの仮称で再設計され、シリーズ中最強力になる予定である[2]
このトレントXWBは中東のエアラインを中心に多数の仮発注を受けている。静止推力75000ポンドである。トレント1700は従来のブリードエアエンジン[3]で、開発には川崎重工が参加する。
2011年、推力83000ポンドのトレントXWB-83が、2013年にはトレントXWB-900がA350 XWB-800に搭載され運用開始される予定である。2014年には推力74000ポンドのトレントXWB-74がA350 XWB-800に搭載され、最終的には推力92000ポンドのトレントXWB-92が2015年A350 XWB-1000への搭載が予定されている[4]
GEはA350 XWB用にGEnxを売り込んでおり、Flight International誌ではエンジン・アライアンス社(GE/プラット&ホイットニーの合弁)のGP7000を第2の選択肢として提案している。[5]
2007年6月18日、ロールスロイスはクオーター航空とトレントXWBを80機のA350 XWBの動力として受注した。総額56億ドルである[6]2007年11月11日、ドバイ・エアショウでエミレーツ航空から50機のA350-900と20機とオプション50機のA350-1000の動力として受注した。納入は2014年からでオプションを含めると総額84億ドルに及ぶと見られる。[7]。2008年7月末、ロールスロイスはA350 14機分を受注した。

[編集] 諸元

仕様
500 シリーズ 700 シリーズ 800 シリーズ 900 シリーズ 1000 シリーズ XWB(仮称)
バイパス比 7.5〜7.6 5.0 5.7〜6.2 8.5〜8.7 10.8〜11.0 ?
ファン直径(in) 97.4 97.4 110 116 112 118
中圧コンプレッサ段数 8 8 8 8 8 8
高圧コンプレッサ段数 6 6 6 6 6 6
燃料インジェクタ数 20 24 24 ? ? ?
高圧タービン段数 1 1 1 1 1 1
中圧タービン段数 1 1 1 1 1 1
低圧タービン段数 5 4 5 5 6 6
性能・適用
型式 静止推力(lbf) 自重(lb) 推力重量比 全長(in) ファン直径(in) 就航年 搭載機
553 53000 10400 5.1 154 97.4 2003 A340-500
556 56000 10400 5.4 154 97.4 2002 A340-600
600 65000 ~10400 ~6.3 154 97.4 MD-11
768 67500 10550 6.4 154 97.4 1996 A330-300
772 71100 10550 6.7 154 97.4 1995 A330-200/-300
875 75000 13100 5.7 172 110 1996 777-200(506,000lb)
877 77000 13100 5.9 172 110 1996 777-200(545,000lb)
884 84000 13100 6.4 172 110 1997 777-200(590,000lb)
892 92000 13100 7.0 172 110 1997 777-200(656,000lb)/-300(660,000lb)
895 95000 ? ? ? ? 2000 777-200(656,000lb)/-300(660,000lb)
8104 104000 14400 7.2 172 110 N/A
970 75152 13842 5.4 179 116 2007 A380-841
970B 78304 13842 5.6 179 116 TBA A380-841
972 76752 13842 5.5 179 116 TBA A380-842
972B 80231 13842 5.8 179 116 TBA A380-842
977 80781 13842 5.8 179 116 TBA A380-843F
977B 83835 13842 6.0 179 116 TBA A380-844F
980 84098 13842 6.0 179 116 TBA A380-941
1000-A 63800 11924 5.4 160 112 2008 787-8
1000-C 69800 11924 5.9 160 112 2008 787-8/-9
1000-D 69800 11924 5.9 160 112 2008 787-8/-9
1000-E 53200 11924 4.5 160 112 2010 787-3
1000-H 58000 11924 4.9 160 112 2008 787-3/-8
1000-J 73800 11924 6.2 160 112 2010 787-9
1000-K 73800 11924 6.2 160 112 2010 787-9
XWB-74 74000 ? ? ? 118 2014 A350-800 XWB
XWB-83 83000 ? ? ? 118 2013 A350-900 XWB
XWB-92 92000 ? ? ? 118 2015 A350-1000 XWB

[編集] 航空機以外のトレント

[編集] MT30

詳細は「ロールス・ロイス マリン トレント」を参照

マリントレント30は、トレント800のコアに500のギアボックスを組み合わせた派生種(ターボシャフトエンジン)で、出力30メガワット(MW)から現状で36MWに発展した。

洋上用では発電機〜原動機を介してウォータージェットプロペラを機械的に駆動し、英国海軍次世代大型空母への搭載が見込まれている。

[編集] トレント 60 ガスタービン

マリントレントに類似した発電専用型で、出力58MW時の熱効率は42.8%[8]。.

大別してDLEとWLEの2バージョンがあり、トレント700と800から部材を流用した[9]WLEは、水噴射時出力58MW、ISA条件では52MW。

定格排気温度は420℃[10]で、排熱はパッケージ全体の効率向上のため温水供給や蒸気タービンの駆動で回収される。

[編集]

[編集] 外部リンク


最終更新 2009年9月9日 (水) 16:42 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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