一票の格差
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一票の格差(いっぴょうのかくさ)とは主に国政選挙などで有権者が投じる票の有する価値の差のことである。一票の重みの不平等ともいわれている。
選出される議員1人当たりの人口(有権者数)が選挙区によって違うため、人口(有権者数)が少ない選挙区ほど有権者一人一人の投じる1票の価値は大きくなり、逆に、人口(有権者数)が多い選挙区ほど1票の価値は小さくなる。通常は、人口(有権者数)が多い選挙区の選出定数を増加させたり、区割りを変更したりするなどの調整が図られるが、必ずしも十分な調整がなされていない場合があるとして問題となる。
目次 |
[編集] 何の差を基準として格差を判定するか
[編集] 人口
選出議員を非有権者を含む全ての住民(国民)の代表とする考え方に基づく。非有権者(子供など)も含めた人口による議席配分である。アメリカほか多くの国で、この説に基づき選挙区の区割りが行われる。日本でも、衆議院議員選挙区画定審議会設置法が人口を基準にしてその均衡を図ることを規定している。他の説からは非有権者が多い選挙区に住む有権者の影響力が大きくなるという批判がなされる。
[編集] 有権者数
選出議員を有権者の代表とする考え方に基づく。イギリスではこの説に基づき選挙区の区割りが行われる。人口を基準とする説からは、人口に占める有権者の割合が少ない選挙区では国民一人当たりの議員数が他の選挙区より少なくなるという批判がなされる。また、投票者数を基準とする説からは投票率の低い選挙区の投票者の影響力が大きくなるという批判がなされる。
[編集] 投票者数
選出議員は実際に投票した有権者の代表とする考え方に基づく。ドイツでは、この説に基づき、州選挙区の投票数に応じて開票後に定数配分が行われる。他の説からは、投票率の低い選挙区の住民(国民)または有権者一人当たりの議員数が、他の選挙区より少なくなることを批判される。
[編集] 問題となる格差・問題とならない格差
選挙区を区分して選挙をする方式では、州や都道府県などの境界または地理的な条件による境界を無視することはできないと考えられているし、人口や有権者数は常に流動するものであるから、選挙区を区分する選挙では一票の格差が完全になくなることはありえない。このため、合理的な範囲を超える格差がある場合に問題となる。
各選挙区の有権者数を揃えても、選挙区毎に投票率が異なり総投票数に差が出るため、投票率の高い選挙区の一票の価値は小さくなり、投票率の低い選挙区の一票の価値は大きくなるようにも思われる。これは投票者数を基準として格差を測る説に立った場合の帰結であり、多くの国の法運用では採用されていない格差論である。
[編集] 日本における問題
日本では憲法第14条、法の下の平等に反するとして各地で訴訟が提起されている。最高裁判所の判例をみると、衆議院の場合で約3倍以上、参議院の場合では約6倍以上の差が生じた場合には、違憲ないしは違憲状態との判決が出されている[1]。投票価値の不平等が一般的に合理性を欠く状態が違憲状態であり、これが合理的な期間内に是正されない場合に違憲とされる。
衆議院・参議院はこれまで一票の格差を是正することに取り組んできた。しかし、選挙制度改革とも関連しており政党や議員の利害が複雑に絡む問題であり、調整は必ずしも容易ではない。1992年の参議院選挙を最後に、最高裁判所において違憲ないしは違憲状態との判決は下されてない。
さらに、衆議院は選挙区画定審議会を設置し格差が2倍以上にならないことを目標にしているが、これは達成されていない。都道府県にまず議席を配分する基礎配分方式と最大剰余方式を組み合わせていることが障害となっており、現状の方式を続ける限り実現は難しいといわれる。過去、1986年「8増7減」、1992年「9増10減」、2002年「5増5減」の是正が実施された。
参議院は改革協議会の下に専門委員会を設置し議論しているが衆議院に比べて是正は遅れている。参議院の場合は都道府県単位の選挙区設定と選挙区選出議員の定数設定の段階から一票の格差について構造的問題を抱えている。1994年に「8増8減」、2000年に定数削減、2006年に「4増4減」を実施した。都道府県単位の選挙区設定について鳥取県と島根県の選挙区を合区すると一票の格差が是正されるため、そうした合区もたびたび提唱されるが、これには否定的な意見が根強い。最高裁判所の平成16年判決の法廷意見に付された5名の判事による補足意見においても、合区した場合には「政治的にまとまりのある単位を構成する住民の意思を集約的に反映させることにより地方自治の本旨にかなうようにしていこうとする従来の都道府県単位の選挙区が果たしてきた意義ないし機能が果たされなくなるおそれがある」と述べて、合区が行われない現状に理解を示している。
かつては定数2の選挙区が定数4の選挙区より有権者が多い逆転現象も存在していた。
参議院に関してはアメリカ上院の制度のように各都道府県から同人数の代表を選出する方式を採用すべきだという意見もある。これは各都道府県の同価値性を強調することで一票の格差という問題概念を理念的に無視するものである。しかし、この制度を導入すると、国会議員が地域(都道府県)代表としての性質を有することを理由として国民個々のもつ投票価値に大きな差異を生じさせることになるため、憲法第14条の平等権規定と憲法第43条に定められた「国会議員は全国民の代表者」という規定に反するおそれが強いことを指摘されている。そのため、このような制度は憲法改正をしない限り導入しえないともいわれる。
[編集] 最高裁判決例
| 対象選挙 | 投票日 | 判決日 | 衆議院 | 参議院 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 格差 | 判決 | 格差 | 判決 | |||
| 1962年参院選 | 1962年7月1日 | 1964年(昭和39年)2月5日 | - | 4.09 | 合憲 | |
| 1971年参院選 | 1971年6月27日 | 1974年(昭和49年)4月 | - | 5.08 | 合憲 | |
| 1972年衆院選 | 1972年12月10日 | 1976年(昭和51年)4月14日 | 4.99 | 違憲 | - | |
| 1977年参院選 | 1977年7月10日 | 1983年(昭和59年)4月27日 | - | 5.26 | 合憲 | |
| 1980年衆院選 | 1980年6月22日 | 1983年(昭和59年)11月7日 | 3.94 | 違憲状態 | - | |
| 1980年参院選 | 1980年6月22日 | 1986年(昭和61年)3月 | - | 5.37 | 合憲 | |
| 1983年参院選 | 1983年6月26日 | 1987年(昭和62年)9月 | - | 5.56 | 合憲 | |
| 1983年衆院選 | 1983年12月18日 | 1985年(昭和60年)7月17日[1] | 4.40 | 違憲 | - | |
| 1986年衆院選 | 1986年7月6日 | 1988年(昭和63年)10月21日 | 2.92 | 合憲 | - | |
| 1986年参院選 | 1986年7月6日 | 1988年(昭和63年)10月 | - | 5.85 | 合憲 | |
| 1990年衆院選 | 1990年2月18日 | 1993年(平成5年)1月20日 | 3.18 | 違憲状態 | - | |
| 1992年参院選 | 1992年7月26日 | 1996年(平成8年)9月11日 | - | 6.59 | 違憲状態 | |
| 1993年衆院選 | 1993年7月18日 | 1995年(平成7年)6月8日 | 2.82 | 合憲 | - | |
| 1995年参院選 | 1995年7月23日 | 1998年(平成10年)9月2日 | - | 4.97 | 合憲 | |
| 1996年衆院選 | 1996年10月20日 | 1999年(平成11年)11月10日 | 2.309 | 合憲 | - | |
| 1998年参院選 | 1998年7月12日 | 2000年(平成12年)9月6日 | - | 4.98 | 合憲 | |
| 2000年衆院選 | 2000年6月25日 | 2001年(平成13年)12月18日 | 2.471 | 合憲 | - | |
| 2001年参院選 | 2001年7月29日 | 2004年(平成16年)1月14日 | - | 5.06 | 合憲 | |
| 2004年参院選 | 2004年7月11日 | 2006年(平成18年)10月4日 | - | 5.13 | 合憲 | |
| 2005年衆院選 | 2005年9月11日 | 2007年(平成19年)6月13日[2] | 2.171 | 合憲 | - | |
| 2007年参院選 | 2007年7月29日 | 2009年(平成21年)9月30日 | - | 4.86 | 合憲 | |
[編集] 衆議院小選挙区の状況
| 位 | 多い選挙区 | 人数 | 位 | 少ない選挙区 | 人数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 千葉県第4区 | 483,702 | 1 | 高知県第3区 | 214,484 |
| 2 | 東京都第6区 | 481,801 | 2 | 長崎県第3区 | 214,595 |
| 3 | 神奈川県第10区 | 477,572 | 3 | 高知県第1区 | 214,807 |
| 4 | 北海道第1区 | 473,629 | 4 | 徳島県第1区 | 214,830 |
| 5 | 東京都第3区 | 473,454 | 5 | 福井県第3区 | 214,985 |
| 年 | 最多選挙区 | 人数 | 最少選挙区 | 人数 | 2倍超区数 | 最大格差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 第41回衆議院議員総選挙(1996年) | 神奈川県第14区 | 446,970 | 島根県第3区 | 192,999 | 62選挙区 | 2.32倍 |
| 第42回衆議院議員総選挙(2000年) | 神奈川県第14区 | 471,445 | 島根県第3区 | 191,241 | 87選挙区 | 2.47倍 |
| 第43回衆議院議員総選挙(2003年) | 千葉県第4区 | 459,501 | 徳島県第1区 | 213,689 | 27選挙区 | 2.15倍 |
| 第44回衆議院議員総選挙(2005年) | 東京都第6区 | 465,181 | 徳島県第1区 | 214,235 | 33選挙区 | 2.17倍 |
| 年 | 最多選挙区 | 人数 | 最少選挙区 | 人数 | 2倍超区数 | 最大格差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1995年(平成7年) | 神奈川県第14区 | 570,597 | 島根県第3区 | 247,147 | 60選挙区 | 2.31倍 |
| 2000年(平成12年) ※2002年区割変更前 |
神奈川県第7区 | 607,520 | 島根県第3区 | 236,103 | 95選挙区 | 2.57倍 |
| 2000年(平成12年) ※2002年区割変更後 |
兵庫県第6区 | 558,958 | 高知県第1区 | 270,755 | 9選挙区 | 2.06倍 |
| 2005年(平成17年) | 千葉県第4区 | 569,835 | 高知県第3区 | 258,601 | 48選挙区 | 2.20倍 |
[編集] 参議院選挙区の状況
| 位 | 多い選挙区 | 人数 | 位 | 少ない選挙区 | 人数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 神奈川県選挙区 | 1,209,224 | 1 | 鳥取県選挙区 | 244,909 |
| 2 | 大阪府選挙区 | 1,182,585 | 2 | 島根県選挙区 | 299,429 |
| 3 | 北海道選挙区 | 1,156,605 | 3 | 高知県選挙区 | 324,776 |
| 4 | 兵庫県選挙区 | 1,135,441 | 4 | 福井県選挙区 | 328,377 |
| 5 | 東京都選挙区 | 1,057,356 | 5 | 徳島県選挙区 | 332,296 |
| 年 | 最多選挙区 | 人数 | 最少選挙区 | 人数 | 格差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第11回参議院議員通常選挙(1977年) | 神奈川県選挙区 | 1,113,483 | 鳥取県選挙区 | 211,507 | 5.26倍 |
| 第12回参議院議員通常選挙(1980年) | 神奈川県選挙区 | 1,171,382 | 鳥取県選挙区 | 217,992 | 5.37倍 |
| 第13回参議院議員通常選挙(1983年) | 神奈川県選挙区 | 1,238,208 | 鳥取県選挙区 | 222,848 | 5.56倍 |
| 第14回参議院議員通常選挙(1986年) | 神奈川県選挙区 | 1,320,491 | 鳥取県選挙区 | 225,601 | 5.85倍 |
| 第15回参議院議員通常選挙(1989年) | 神奈川県選挙区 | 1,431,227 | 鳥取県選挙区 | 229,034 | 6.25倍 |
| 第16回参議院議員通常選挙(1992年) | 神奈川県選挙区 | 1,527,439 | 鳥取県選挙区 | 231,933 | 6.59倍 |
| 第17回参議院議員通常選挙(1995年) | 東京都選挙区 | 1,177,394 | 鳥取県選挙区 | 236,573 | 4.97倍 |
| 第18回参議院議員通常選挙(1998年) | 東京都選挙区 | 1,197,651 | 鳥取県選挙区 | 240,722 | 4.98倍 |
| 第19回参議院議員通常選挙(2001年) | 東京都選挙区 | 1,233,447 | 鳥取県選挙区 | 244,918 | 5.04倍 |
| 第20回参議院議員通常選挙(2004年) | 東京都選挙区 | 1,264,178 | 鳥取県選挙区 | 246,218 | 5.13倍 |
| 第21回参議院議員通常選挙(2007年) | 神奈川県選挙区 | 1,190,583 | 鳥取県選挙区 | 246,572 | 4.86倍 |
| 年 | 最多選挙区 | 人数 | 最少選挙区 | 人数 | 格差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1975年(昭和50年) | 神奈川県選挙区 | 1,599,437 | 鳥取県選挙区 | 290,656 | 5.50倍 |
| 1980年(昭和55年) | 神奈川県選挙区 | 1,731,087 | 鳥取県選挙区 | 302,111 | 5.73倍 |
| 1985年(昭和60年) | 神奈川県選挙区 | 1,857,994 | 鳥取県選挙区 | 308,012 | 6.03倍 |
| 1990年(平成2年) | 東京都選挙区 | 1,995,098 | 鳥取県選挙区 | 307,861 | 6.48倍 |
| 1995年(平成7年) | 東京都選挙区 | 1,471,701 | 鳥取県選挙区 | 307,465 | 4.79倍 |
| 2000年(平成12年) | 東京都選挙区 | 1,508,813 | 鳥取県選挙区 | 306,645 | 4.92倍 |
| 2005年(平成17年) | 大阪府選挙区 | 1,469,528 | 鳥取県選挙区 | 303,506 | 4.84倍 |
[編集] 諸外国
[編集] アメリカ合衆国
10年ごとの国勢調査に基づき、下院は州ごとにヒル方式で議席を配分したうえ、州内で均等に区割りをする。この方式が出来うる限りで一票の格差はもっとも少なくなる方法である。現状では、格差は1.4倍以下だが、各州の人口の格差が広がれば、一票の格差は増加してしまうが、他に方法があるわけではない。上院は憲法に保証された各州平等の原則に基づき、各州2議席で、格差に換算すると70倍を超える。
[編集] イギリス
イギリスでは、裁判官などからなり、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの各地域に設置された“境界委員会”が、10年程度に1度、有権者数に応じて選挙区の区割りを見直し、選挙区の分割や合併などの再編成が行われる。現在は各選挙区の有権者がおおむね5万人-7万5000人になるように調整されている (一覧はイギリス次回総選挙の選挙区(英語)を参照のこと)。しかし、離島の選挙区が例外になっており、最大の格差は有権者が約2万2000人のアウターヘブリディーズ諸島の選挙区と、約11万人のワイト島選挙区の5倍程度である。これはワイト島の住民が意図的に、2つの選挙区に分割されることを拒否しているためである。
かつてはスコットランドは多くの定数が配分され、意図的に議員数を多くしていたが、スコットランド議会の設置による自治権の拡大により国政上の優遇の必要がなくなったことから、スコットランドの定数は削減された。現在では、平均してイングランドに比べてスコットランドが1.1倍、ウェールズが1.2倍程度の優遇になっている程度である。
[編集] フランス
原則1.50倍以内で調整することになっている。しかし、実際には農村部などに人口の少ない選挙区が存在し、1999年の国勢調査ではヴァル=ドワーズ県第2区とロゼール県第2区の間に、5倍以上の格差が確認された。
[編集] ドイツ
総選挙があるたびに、1年以内に一票の格差を是正する。
全人口を選挙区数で割り、1議席あたりの人口の平均値を求め、原則としてこの+25%から-25%に収まるように区割りがなされる。ただし、州境を超えないようにするためにやむを得ない場合などは+33%から-33%まで許容される。このため、最大格差は2倍まで発生し得る。
比例ブロックは、開票後、実際に投票した者の数に比例して定数を配分する。このため、投票率の低いブロックの有権者一人当たりの議員数は減少し、一票の格差が生じる。
[編集] イタリア
1.22倍以内で調整。
[編集] イスラエル
全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差の問題自体が起こらない。
[編集] オランダ
全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差の問題自体が起こらない。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
最終更新 2009年11月17日 (火) 07:29 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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