人工妊娠中絶
人工妊娠中絶の最新ニュースをまとめて検索!
人工妊娠中絶(じんこうにんしんちゅうぜつ、英: induced abortion)は、人工的な手段(手術または薬品)を用いて意図的に妊娠を中絶させ、胎児を殺すことを指す、妊娠中絶の一分類を言う。刑法では堕胎と言う。本稿では、人工妊娠中絶を簡単に中絶と表記する。
目次 |
[編集] 概要
日本国において中絶は、一般的には犯罪行為である。自分や他人の中絶を行った者は、刑法の第二十九章(堕胎の罪)にある、いずれかの条の罪を犯した者として訴追され、懲役刑に処せられる可能性がある。一方、母体保護法(1996年以前の法律名は優生保護法)は、「母体の健康を著しく害するおそれのある」場合等に、特別な医師(指定医師)が本人等の同意を得た上で「中絶を行うことができる」と定めており、この規定に則った中絶は、刑法の正当行為規定の適用をうけて、罰されることは無い。
後述するように、20世紀中盤以降の日本国においては、母体保護法(1996年以前の法律名は優生保護法)が幅広く適用され、多数の中絶が公に行われてきた。厚生労働省の統計によれば、2006年に日本で行われた人工妊娠中絶は276,352件で、15~49歳女子人口に対する比率は0.99%、出生100に対する中絶数の比率は25.3件である[1]。また、法的にグレーな中絶も、公然の秘密として無数に行われているとされる。
[編集] 歴史
日本における堕胎の起源は明らかでない。 江戸時代は、正保年間までは、軒頭に公然、看板を掲出し、堕胎を本業とする者があった。正保3年、初めて「子をおろす術を禁ず」という布令が出され、寛文7年、看板の掲出が禁止された。 そのため堕胎を暗示する看板を掲出し、ひそかに業を営んだ。 本所回向院境内の水子塚の石碑は約1万の堕胎児を埋葬したものであるという。 堕胎業者の多くは中条流を称し、女医がこれを専門とした。 このほかにいわゆる間引きという堕胎を産婆が行った。 また、鍼灸においては、三陰交と合谷が堕胎の経穴とされている。
現代の日本では母体保護法第2条第2項により、人工妊娠中絶を行う時期の基準は、「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」と定められており、厚生事務次官通知等([2][3])により、現在は妊娠22週未満[1]となっている(従って、人工妊娠中絶は人工流産とも呼ばれる)。なお、海外各国における法律上の中絶期限は、その地域ごとの文化背景や宗教観、福祉政策や経済的実情などを反映して大きく異なっている。
[編集] 中絶方法
[編集] 初期中絶(~妊娠11週目程度まで)
日本では、頚管拡張後、掻爬術(独:Auskratzung)や産婦人科器具(胎盤鉗子やキュレット、吸引器など)で胎児を取り除く方法で行われる(英語で「拡張と掻爬」という意味で D&C(Dilation and Curettage)とも呼ばれる)。海外では、1980年代にフランスで開発されたミフェプリストン(RU-486)という人工流産を引き起こす薬が急速に広まり、2002年にはWHOも推奨する初期中絶(ただし7週以下)の一方法になったが、日本では未承認である。厚生労働省は2004年、自己判断での使用による副作用防止のため、この薬の個人輸入に事実上禁止に近い制限を課した。最近では子宮外妊娠(頸管妊娠)の治療として、メソトレキセート(抗癌剤)の注入により妊娠組織を壊死・消失させる方法も行われている。ドイツ、フランス、イタリアなど、国によっては、法定中絶期限または医学上の理由を除く任意の中絶期限を、この初期中絶相当の時期までと定めてある所も多い。
[編集] 中期中絶(妊娠12週程度~21週目まで)
この時期は胎児がある程度の大きさとなるため、分娩という形に近づけないと摘出できない。そのためラミナリアやメトロイリンテルなどで子宮頚部を拡張させつつ、プロスタグランジン製剤(膣剤、静脈内点滴)により人工的に陣痛を誘発させる方法がある。また、海外では中期中絶にも器具を用いるD&E(Dilation and Evacuation ;「拡張と吸引」)と呼ばれる手法がしばしば行われ、WHOも陣痛誘発法より優先すべきことを推奨している。日本では妊娠12週以降は死産に関する届出によって死産届を妊婦は提出する必要もあり、人工妊娠中絶の約95%が妊娠11週以前に行われている。
[編集] 後期中絶(妊娠22週以降~)
妊婦側の申し出による中絶は法的に認められておらず、また医療上の理由で母体救命のため速やかな胎児除去の必要性が生じた場合でも、早産の新生児が母体外でも生存可能な時期以降は帝王切開など胎児の救出も可能な方法を優先すべきである。しかし、それが不可能な状況のとき又は他の方法を施しても胎児の生存の見込みが無いと判断されたとき、胎児の体を切断したり頭蓋骨を粉砕して産道から取り出す等の緊急措置が行われることも想定される。現代では必要性は少ないが、かつて医療水準が低かった時代には、分娩時に手足が引っ掛かった逆子や胎児の頭が大きすぎて骨盤を通過できず母体が体力消耗して生命の危機にさらされたとき、こうした救済措置がとられることがあった。胎児縮小術、回生術、部分出産中絶(partial-birth abortion)、D&X(dilation and extraction ;「拡張と牽出」)といった名称で呼ばれるが、法的な中絶期限を過ぎてからの潜脱手段に利用される例が横行しているとしてアメリカ合衆国で禁止法案が賛否両論の激しい議論を呼んだ。
[編集] 関連法規
刑法第214条では、医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、3か月以上5年以下の懲役に処せられる(業務上堕胎罪)。
- 現在でも、母体保護法14条1項により経済的事由による人工妊娠中絶の可能が規定されているため、拡大解釈により事実上無条件で中絶手術が行われている実態がある。
- 以前は優生保護法第14条によって、
- の中絶が認められていた。
[編集] 倫理問題
[編集] 宗教的観点
[編集] 法王声明とキリスト教右派
1968年にカトリック教会の法王パウロ6世が回勅『フマーネ・ヴィテ』(Humane Vitae)』で生命の尊重と人工的な産児制限への反対を表明するなど、中絶は胎児を殺す行為である以上殺人であり、認められないとする立場をとる者も多い。アメリカ合衆国ではキリスト教右派もそのような立場をとる。ただし、歴史的にはキリスト教圏でも、他の世界同様に間引きや中絶は行われており、とりわけ生活苦や飢饉の場合は多かった。
[編集] 左派の観点
上記のとおり宗教保守・右派は多くが教義的観点から中絶を批判しているが、リベラリスト・左派でも胎児の人権という観点から中絶に反対する論も多い。 この場合、男性支配による女性の人権侵害を、より弱い存在である胎児の生存権を犯す事で守るのは人権思想の持ち主としておかしいという論理が展開される。
[編集] 日本において
元来日本においては、間引きは「七歳までは神のうち」という考え方と結びついていた。
七五三の風習に見られるように、近代以前は疫病や栄養失調による乳幼児死亡率が高く、数えで七歳くらいまではまだ人としての生命が定まらない「あの世とこの世の境いに位置する存在」とされ、「いつでも神様の元へ帰りうる」魂と考えられた。そのため、一定の成長が確認できるまでは人別帳にも記載せずに留め置かれ、七歳になって初めて正式に氏子として地域コミュニティへ迎え入れられた。また、胎児・乳幼児期に早世した子供は、境い目に出て来ていた命がまた神様の元に帰っただけで、ある程度の年数を生きた人間とは異なり現世へのしがらみが少なく速やかに再び次の姿に生まれ変わると考えられていて、転生の妨げにならぬよう、墓を建てたりする通常の人間の死亡時より扱いが簡素な独特の水子供養がなされたりした。
そうした生命観から、乳幼児の間引きとともに胎児の堕胎も、「いったん預かったが、うちでは育てられないので神様にお返しする」という感覚があった。特に、飢饉時の農村部の間引きや堕胎は、多数の子供を抱えて一家が共倒れで飢えるのを回避するために、養う子供の数を絞るのはある程度やむを得ない選択という面もあった。
[編集] 医学的生命倫理
今後出生前診断が一般化した場合、先天的な異常を持つ児を中絶することが「生命の選択」にあたるのではないかという論議がある(障害者#日本参照)。また、不妊治療の副作用として増加している多胎妊娠において、一部の胎児のみを人工的に中絶する「減数手術」をどう考えるかも論議の対象になっている。
韓国では、儒教的観点(女児ならば中絶する。などの性別判別)から禁止されていた、出生前の性別告知規制があったが、近く解除される予定。これは親の知る権利などを侵害しているとの最高裁憲法判断によるもの。
[編集] 人工妊娠中絶を回避するための諸制度
[編集] 養子
中絶に至る人の中には、妊娠したものの社会的なバックアップを得られず、子供を育てる自信を失って中絶に至るケースがある。1973年には、宮城県石巻市の菊田昇医師が中絶を希望してきた女性に出産を奨励し、子供のいない夫婦に斡旋していた事件が発覚したが、この赤ちゃん斡旋事件をきっかけに、生誕した赤ん坊を実親との親子関係を消滅させ(従来の普通養子縁組では縁組後も実親との親子関係が並行して継続)養親の戸籍に入れて実子同様に扱う特別養子制度が設けられた。
中絶や新生児殺害をなくす他の動きには赤ちゃんポストの設置が挙げられる。2006年12月15日、カトリック系の医療法人「聖粒会」が経営する熊本県熊本市の慈恵病院が様々な事情のために育てることのできない新生児を引き取る為の設備「こうのとりのゆりかご」を計画した。こちらは2007年4月8日に熊本市から設置の許可を受け、2007年5月10日から運用を開始している。
[編集] 里親制度
中絶件数や虐待被害を減らすために、18歳までの子供を他の親に育てさせる事が出来る"里親制度"に関する条例を制定をしている自治体、しようとしている自治体がある。
条例化済み
- 東京都など
[編集] 脚注
- ^ 未熟児の生存可能性に関する医療水準の向上を受け、「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」は、昭和51年までは通常28週未満(「妊娠8月未満」)、昭和51年~平成2年は通常24週未満(「妊娠7月未満」、昭和53年に「妊娠満23週以前」の表現へ修正)、平成2年以降に通常22週未満と基準期間が短縮されていった。また、個々の事例での生存可能性については、母体保護法指定医師が医学的観点から客観的に判断を加味すべきことも、付記および保健医療局精神保健課長からの同日通知で示された。
- 人工妊娠中絶の定義 (社)日本産婦人科医会
- 人口動態編(用語の解説) 沖縄県 福祉保健企画課
- 医師と法規(2) 日産婦医会報(平成16年11月)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
最終更新 2009年11月9日 (月) 02:17 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
【人工妊娠中絶】変更履歴

