債務不履行

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債務不履行さいむふりこう)、デフォルト: default)とは、債務者契約などに基づき発生した債務を履行(弁済)しないことをいう。法律学的には「債務者が債務の本旨に従った履行をしないこと」と表現される。なお、法律上の「債務」の不履行とは、貸金の返済などの金銭的債務だけを含むのではなく、いわゆる「義務」の不履行も含まれる。

その中でも特に、債務者に債務を履行しない点についてのなんらかの原因(帰責事由、という)があって債務を履行しない場合をさして使われることもある。債務者がこの意味での債務不履行に陥った場合、債権者は契約の解除損害賠償を求めることができる。

債務不履行という言葉はしばしば二つの意味で用いられる。一つは債務を履行しないという客観的な事実状態をいい、もう一つは債務者の帰責事由による債務不履行である。以下、後者を念頭に解説する。

  • 民法は、以下で条数のみ記載する。

目次

[編集] 債務不履行の類型化

日本の法学界において債務不履行は、ドイツ民法学に倣って以下の3つの類型に分けて考えられてきた(ただし日本の民法典においてこれらの分類が用いられているわけではない)。

履行遅滞(りこうちたい)
履行期を過ぎても債務が履行されないことを言う。例えば、2月3日までに豆を届けるという契約において、3日を過ぎても豆が届かない場合である。
履行不能(りこうふのう)
契約を結んだ後に何らかの理由で債務の履行が不可能になった場合のことを言う。例えば、ゴッホの絵を買う契約をしたが、それを引き渡すまでの間に火災によって絵が燃えてしまった場合がこれにあたる。
不完全履行(ふかんぜんりこう)(積極的債権侵害)
一応債務は履行されたものの、その内容が不完全である場合をいう。例えば、ビール3本を注文したのに2本しか届かないというのがこれにあたる。

これに対して近時の有力説によると以下のように分類される。

  • 本旨不履行
  • 履行不能

このうち本旨不履行については帰責事由は要件ではない(したがって無過失の抗弁は認められない。ただし不可抗力の抗弁は認められるという。)が、履行不能については危険負担との関係から帰責事由が要件となる(したがって無過失の抗弁は認められる。)。判例は従来の通説に従って一般的に帰責事由を要件としており、民法現代語化の際にこれが条文化されそうになったが、前記有力説からの反対が強く、現在においても条文上は履行不能についてのみ帰責事由が抗弁として規定されている。

[編集] 債務不履行の三類型

[編集] 履行遅滞

  • 履行遅滞の要件
  1. 履行期に履行することが可能であること
  2. 履行期を徒過していること
  3. 債務者に帰責事由が認められること
  4. 違法性が認められること - 債務者に同時履行の抗弁権留置権がある場合には違法な遅滞ではない。
  • 履行遅滞の時期
確定期限があるときは、期限の到来したときから(412条1項)、不確定期限があるときは、期限の到来を知ったときから(412条2項)、期限がないときは、履行の請求を受けたときから(412条3項)。
  • 履行遅滞の効果
  1. 強制履行
  2. 損害賠償 - 損害賠償の内容は遅延賠償填補賠償である。
  3. 契約解除(相当の期間を定めて催告することが必要、541条1項)
  • 金銭債務についての特則
金銭債務は、金銭が必ず市場に存在し、調達が可能であるから、履行不能になることはなく、金銭債務の不履行は、履行遅滞となり特則が定められている(419条)。

[編集] 履行不能

  • 履行不能の要件
  1. 債務成立後に債務の履行が客観的に不可能となること
    後発的不能といわれ債権発生前に履行が不可能となる原始的不能とは区別される。また、「不可能」とは物理的に履行が不可能になった場合だけでなく、事実上不可能になった場合も含まれる。
  2. 債務者に帰責事由が認められること
  3. 違法性が認められること
  • 履行不能の効果
  1. 損害賠償 - 損害賠償の内容は填補賠償である。
  2. 契約の解除(履行遅滞の場合と異なり催告は要件とされていない、543条
  3. 代償請求権の発生

[編集] 不完全履行

  • 不完全履行の要件
  1. 債務の履行はあったものの履行が不完全なものであること
    商品の数量が足りない場合や品質基準に満たない場合、あるいは安全配慮義務など付随義務が完全でない場合などである。なお、特定物債権の場合には弁済者は目的物が毀損している場合でも引渡時の現状で目的物を引き渡せばよく(483条)、この場合には善管注意義務違反や瑕疵担保責任の問題として扱われる。
  2. 債務者に帰責事由が認められること
  3. 違法性が認められること
  • 不完全履行の効果
  1. 追完請求権・瑕疵修補請求権
  2. 損害賠償 - 損害賠償の内容は遅延賠償である。
  3. 契約の解除 - 追完が可能である場合には履行遅滞に準じた扱いとなり催告が必要となるが、追完不能の場合は履行不能に準じた扱いとなり催告は不要であると考えられている。
  • 積極的債権侵害
通常の不完全履行とは異なり、履行を行う弁済者が注意義務などの付随義務を怠ったために債権者に損害を与えることがあり積極的債権侵害と呼ばれる。家畜として飼われるヤギの売買契約において売主が伝染病にかかったヤギを給付したために、買主のもとで飼育されていたヤギにまで伝染病が感染してしまった場合などである。本旨に従った履行がなされなかったことにより、債権者が被った損害のうち、債権者が履行の受領前から持っていた財産に対して生じた損害を拡大損害という。付随義務違反により拡大損害を生じた場合には、その部分についても損害賠償が認められることになる。

[編集] 帰責事由の内容

帰責事由の具体的な内容については条文上明らかではない。伝統的には故意もしくは過失または信義則上それらと同視すべき事由が帰責事由であると理解されている。よって債務不履行が不可抗力によって生じた場合か、債務者が無過失である場合には損害賠償責任は発生しないことになる。ただし、債務不履行の類型によってその内容は異なると考えられている。特に履行遅滞の場合、不可抗力でも無い限りはほとんど帰責事由があると解されている。

債務者本人ではなく、債務者の使用人等、履行補助者といわれる者の過失によって債務不履行が生じた場合、この過失は債務者の過失と信義則上同視される。つまり、履行補助者の過失があれば債務者が責任を負う。これは履行補助者を用いることによって経済的活動範囲を拡大し、利益を増幅させている者はそれに伴って責任の範囲も拡大されるべきであるという報償責任の考えが背景にある。

帰責事由の有無については、債務者が立証責任を負うというのが通説および判例の考えである。

過失相殺の適用に関しては、被害者に過失がある場合には考慮される(418条)。

[編集] 債務不履行の効果

債務者が債務不履行に陥った場合、対する債権者がとりうる手段には以下のようなものがある。

  • 履行請求権(414条1項)
    • 現実的履行の強制(強制履行)
  • 契約によって生じた債権の場合には契約の解除541条
  • 損害賠償415条
    • 上記2つの手段と合わせて行使できる。

[編集] 強制履行

まず債権者は履行請求権を有する。これは、あくまで債務を履行せよと請求する権利である。具体的には、履行遅滞に陥っている債務者に「早くもってこい」と請求する場合や、不完全履行の際に「完全な履行をせよ(足りないものを補充せよ、など)」と請求する場合(追完請求または完全履行請求という)がある。債務者がその請求に従えばそれでよいが、従わない場合もある。そうした場合に債務者の意思を無視して、あるいは心理的な強制を与えることによって債務の内容を実現する方法がある。これが「現実的履行の強制」、または強制履行といわれる制度で、民事執行法に規定されている。なおコモン・ロー体系においてはこのような制度を設けず、損害賠償を原則とする法制度もある。

強制履行の態様は強制する債務の内容に応じて様々であるが、大まかに2つのタイプに分けることができる。

  1. 債務者の意思に関係なく債務の内容を実現する直接強制
  2. 罰金を科す等して債務者の行為を促す間接強制

である。以下、強制する債務の内容に分けて説明する。

  • 上記以外の場合で、債務者自らが何らかの行為をすることが内容となっている債務で、債務の性質が強制執行を許さない場合については、直接強制はできない。(民法第414条第1項)なぜなら奴隷的拘束を禁じた憲法18条に反するからである。そこで債務者以外の者に行為させ、それにかかった費用を債務者に負担させる代替執行(民法第414条第2項民事執行法171条)や間接強制民事執行法172条)が用いられる。無論、間接強制であっても苦役からの自由を規定した憲法18条に違反する可能性があることに違いはない。

強制履行は債務者がどのような理由で債務不履行に陥っていても可能である(つまり債務者に帰責事由が無くてもよい)。ただし強制履行ができない債務もあり(自然債務を参照)、また履行不能の場合にこの手段を採ることは当然不可能である。

[編集] 契約の解除

債権者は相当の期間を定めてその履行をするよう催告を行い、その期間内に履行がないときは契約を解除してしまうこともでき(541条)、履行不能となったときは、催告せずに、解除をすることができる(543条)。これによって契約は初めから「なかったこと」になり、既に代金を支払っていたりすればそれを元の持ち主に戻す義務が生じる(545条)。これを原状回復義務という。

解除をするためには債務者に帰責事由が必要であるというのが学説の多数意見であった。これは条文に規定されてはいないが、解釈上認められている要件である。しかし解除は債権者が反対債務から自己を解放するために行われるものであるため、債務者の帰責事由を要求する理由が無いとの説も有力になった。当初2004年の民法改正において解除に帰責事由を要求する旨を条文に規定する予定であったが、通説が確立されていないとの反論を受けて見送られた。

契約が、債務者の債務不履行を理由として解除された場合の法的構成

  • 直接効果説
  • 間接効果説

詳細は「解除」を参照

[編集] 損害賠償

債権者は履行請求や解除をした場合でも、それとは別に損害賠償をすることができる。たとえ強制履行された場合でも物が遅れて納入されたために損害が発生しているという場合や、期限内に納入されたけれども物に瑕疵があった(これは不完全履行にあたる)ために損害が発生したという場合に別途損害賠償を認める必要性が出てくる。例えば届いた野菜が腐っていたために客が食中毒になった場合などが挙げられる。

損害賠償請求をするためには以下の3つの要件が必要とされる。

  1. 債務不履行の事実があること
  2. 債務者に帰責事由があること
  3. その債務不履行によって損害が発生したこと(損害の発生と因果関係)

「債務不履行の事実」は債務不履行の類型によって異なる。履行遅滞では債務の履行が可能で、しかも同時履行の抗弁権や留置権のように履行を拒む理由が無いにも関わらず、履行期を過ぎても履行がされていない状態が「債務不履行の事実」にあたる。履行不能では、契約成立等によって債権が発生した後に履行が不可能となった場合が「債務不履行の事実」にあたる。不完全履行では、一応履行の事実はあるものの債務の本旨に従ったものではない場合が「債務不履行の事実」にあたる。

損害賠償は不法行為の制度によっても可能な場合がある。ただし、債務不履行に基づく請求の方が、不法行為によるそれより時効となるまでの期間が長い点以外では不利となることも多い。

  • 損害賠償の範囲については、原則として債務不履行によって通常生ずべき損害であり、特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは含めることができる。
  • 損害賠償の方法は、別段の意思表示がない限り、金銭による。
  • 過失相殺の適用 - 債務不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、損害賠償責任及び額の決定にあたり考慮される。
  • 損害賠償額の予定 - 当事者は債務不履行について損害賠償額や違約金を予定することができる。
  • 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は原則として10年となる(167条)。

詳細は「損害賠償」を参照

[編集] 参考文献

  • 平井宜雄『債権総論(第二版)』(1994年、弘文堂)

最終更新 2009年5月30日 (土) 10:35 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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