全称記号
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全称記号(ぜんしょうきごう、universal quantifier)とは、数理論理学において「すべての」(全称量化)を表す記号である。通常「∀」と表記され、全称量化子(ぜんしょうりょうかし)、全称限量子(ぜんしょうげんりょうし)、全称限定子(ぜんしょうげんていし)、普遍量化子(ふへんりょうかし)、普通限定子(ふつうげんていし)などとも呼ばれる。
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[編集] 記号の意味
「Px」という開論理式 (open formula) が与えられたとき、これが意味するところは「……はPである」ということだけで、これだけでは真偽が確定しない。そこで、「Px」にあらわれている自由変項「x」を量化記号によって束縛することにより、新たに閉論理式 (closed formula) が得られる。このような閉論理式は、しかるべき解釈をほどこすことにより真偽を確定することができる。一般に量化記号には、「すべての」を意味する全称記号「∀」と、「存在する」を意味する存在記号「∃」の二種類がある。このうち全称記号「∀」によって束縛した場合には「∀xPx」という閉論理式が得られ、これは「すべての(任意の) x について、x は P である」(より簡単には「すべての x は Pである」)という意味になる。
「∀xPx」は存在記号と否定記号とを用いて、「¬∃x¬Px」と表現することもできる。「¬∃x¬Px」は「P でないような x は存在しない」という意味だから、これはすなわち「すべての x は Pである」ということである。また、議論領域 (domain of discourse) が有限の場合、「∀xPx」は全称記号を使わずに連言のみで表現できる。例えば議論領域が {a, b, c} のとき、「∀xPx」と「Pa ∧ Pb ∧ Pc」は同じ意味となる(詳しくは述語論理、量化の各記事をみよ)。
[編集] 記号法の歴史
[編集] フレーゲ
全称量化を表現する記号法がはじめて導入されたのは、量化理論の祖とされるゴットロープ・フレーゲの『概念記法』(1879年)[1]においてである。しかしフレーゲの論理式表記法は、現在ひろく用いられている線形的な表記法とは大きく異なる2次元的な表記法であり、全称量化の表現も独特のものを採用していた。現在の表記法で「∀xPx」と表現される式は、フレーゲの表記法では、
と書かれた。Pxの左側にあるくぼみ部分が全称記号にあたる[2]。このフレーゲの表記法はそのあまりの特殊性から、その後普及することはなかった。
[編集] ラッセル=ホワイトヘッド
こののち、イタリアの数学者ジュゼッペ・ペアノによって線形的な論理式表記法が整備され、これを受け継いだラッセルとホワイトヘッドの『プリンキピア・マテマティカ』(1910-1913年)[3]においては、全称記号は「( )」によって表現された。すなわち「∀xPx」は、「(x)Px」と表記された。この「( )」という記号法のかたちは、「すべての」を意味するラテン語「omnis」の頭文字「O」に由来するという。『プリンキピア・マテマティカ』ではこのほかに「(x)[Px ⊃ Qx]」の略記法として、(これもペアノに由来する)「Px ⊃x Qx」という表記法が用いられている[4]。このラッセル流の記号法はチャーチやクワインの教科書にも採用されたため、その後も一定の影響力をもった。
[編集] ゲンツェン
現在もっともひろく用いられている「∀」という記号は、ドイツの論理学者ゲルハルト・ゲンツェンによって導入されたといわれている。ゲンツェンが1935年に発表した論文「論理的推論についての研究 1」では、「All-Zeichen」(直訳すると「すべて記号」)として「∀」が使用されており、これはラッセルが用いていた存在記号「∃」に対応してデザインされたものだという。この記号のかたちは、「all」(ドイツ語で「すべての」を意味する)の頭文字「A」を反転させたものに由来している。
ゲンツェンはラッセル流の「( )」をあえて採用しなかったが、これは、数学において「( )」はすでに別の意味で用いられており、既存の用法との混同を避けたかったためだと同論文では説明されている[5]。第二次世界大戦後の数理論理学界を代表する二冊の教科書、クリーネの『メタ数学入門』(1952年)[6]およびシェーンフィールドの『数理論理学』(1967年)[7]では、このゲンツェン流の記号法が用いられている。
[編集] その他の記号法
このほかにも様々な記号法が存在し、例えばシュレーダーやウカシェヴィチは全称記号として「Π」(存在記号は「Σ」)を、タルスキは「∩」(存在記号は「∪」)を使用している[8]。すでに述べたように、全称量化は連言(論理積)の操作と深く関係しており、「Π」や「∩」といった積の記号が全称記号として用いられるのはこの点に由来している。
こうした「∀」以外の記号法は近年ではあまりみられなくなったが、現在でも対象量化と代入量化とを区別したい場合には、代入量化の全称記号として特に「Π」を用いることがある。
[編集] 量化の記号法一覧
[編集] 符号位置
| 記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
|---|---|---|---|---|
| ∀ | U+2200 | 1-2-47 | ∀ ∀ |
普通限定子 |
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ Gottlob Frege. Begriffsschrift: eine der arithmetischen nachgebildete Formelsprache des reinen Denkens, Halle, 1879.
- ^ フレーゲの論理式表記法については、次を参照せよ。Edward N. Zalta, "Frege's Logic, Theorem, and Foundations for Arithmetic", Stanford Encyclopedia of Philosophy, 2005.
- ^ Alfred North Whitehead & Bertrand Russell, Principia Mathematica, Cambridge University Press, 1910-13, second ed., 1925-27.
- ^ 『プリンキピア・マテマティカ』における記号法については、次を参照せよ。Bernard Linsky, "The Notation in Principia Mathematica", Stanford Encyclopedia of Philosophy, 2005.
- ^ Gerhard Gentzen, "Untersuchungen über das logische Schließen I", Mathematische Zeitschrift, Bd.39, 1935, S. 178.
- ^ S. C. Kleene, Introduction to Metamathematics, North-Holland, 1952 (ISBN 0720421039).
- ^ Joseph R. Shoenfield, Mathematical Logic, Addison-Wesley, 1967 (ISBN 1568811357).
- ^ 全称量化を表わす様々な記号法については、次を参照せよ。Robert Feys & Frederic B. Fitch, Dictionary of Symbols of Mathematical Logic, North-Holland, 1969, pp. 54ff.
最終更新 2009年10月9日 (金) 00:26 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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