単記非移譲式投票

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単記非移譲式投票 (たんきひいじょうしきとうひょう、single non-transferable vote、SNTV) は、大選挙区制で用いられる投票制度の1つである。この投票制度では、1つの選挙区に複数の候補者が複数の当選枠を争い、各々の有権者は1人の候補者にだけ票を投じ、得票数の上位から当選者が決まる(たとえば4議席の選挙区であれば得票数で上位4人の候補者が議席を勝ち取る)。ただし、1人の候補者が当落線よりも多く得票したとしても、超過分の得票を他の候補者に移譲することはできない。

目次

[編集] 仕組みと特徴

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単記非移譲式投票の大選挙区制選挙で、5人の候補者(a1、a2、b1、b2、c1)が3議席を争い、a1、b1、b2が当選したとする。

得票数 候補 政党
3207 a1 A党
1999 b1 B党
1996 b2 B党
1804 a2 A党
819 c1 C党

これを政党ごとに集計する。

政党 得票数 得票率 議席数
A党 5011 51% 1
B党 3995 41% 2
C党 819 8% 0

A党はB党より多くの票を獲得したが、候補者間で非効率な票の偏りが起きたため獲得議席数が少なくなった。仮にA党やB党が3議席を独占しようとして3人の候補者を擁立し、さらに得票が偏在した場合は、C党の議席獲得のチャンスが高くなる。

[編集] 比例代表

ゲイリー・コックスらによれば、単記非移譲式投票は、有権者の支持に関する情報を各党がかなり正確に把握し、有権者の支持の程度に従って候補者を擁立するとき、理論的には比例代表制ドント式)と同じ結果になる。また、当選枠の数をMとすると、候補者aは得票数の\tfrac{1}{M+1}(ドループ基数)以上を獲得すれば当選が保証される。なぜなら、得票数で上位(M+1)番目以降の候補者は、候補者aよりも多くの票を得ることができないからである。

しかし、各党が自党の力量に比例した当選者数を得ることは非常に難しい。なぜなら、自党と他党の力量と、他党の候補者擁立数の動向を正確に判断したうえで、自党が擁立する候補者数を決めなければならないからである(戦略擁立)。たとえば擁立する候補者が多すぎると、自党支持者からの票が分散(票割れ、Split vote)し、各候補者の得票数が他党の候補者の得票数を下回ってしまうことで、結果的に共倒れになる恐れがある。逆に擁立する候補者数が少なすぎると、候補者が過剰に得票した分は無駄票(広義の死票)となり、自党への支持に比べて獲得議席数が少なくなってしまう。さらに、たとえ適正な人数の候補者を擁立できたとしても、自党支持者からの得票を候補者間で偏りなく分散(票割り)させないと、政党単位での得票数に比べて獲得議席数が少なくなってしまう恐れがある(上記の例のA党)。

なお、単記非移譲式投票は、選挙区の大きさ(当選枠の数)が大きくなるにしたがって、より比例的な選挙結果をもたらす。

[編集] 戦略投票との親和性

単記非移譲式投票は、有権者に戦略投票を促す可能性が大きい。選挙結果の推測が可能で、合理的な投票行動をとる有権者ならば、自らの1票が死票になることを避けるために、(本命の候補者ではなく)当落線上にいる次善の候補者に投票することになる。このため、この条件の下では特定の候補者が極端に大勝することは無い。このことは、政党が他党の候補者から票を奪うためにその対立候補に似た候補者を立てる戦術擁立の可能性を示唆している。

また、選挙予測報道などで一旦「当落線より低い得票数しか獲得できない」と多くの有権者に判断された候補者は、当落線上の候補者に票を奪われさらに得票率が下がる、という悪循環に陥る。立候補の時点で十分な得票数の見込みを有権者にアピールできない候補者は、立候補の瞬間からこの悪循環に嵌まり、落選確実になる(泡沫候補)。逆に言えば、有権者の選択肢は公示日の時点から事実上制限されており、被選挙権を持つ人がその権利を実質的に行使するには、有力な集票組織からの公認やそれに代わる知名度(たとえばタレント政治家)が必要となる。このように、当選枠の数がMの選挙区では、泡沫候補に転落することなく選挙戦を戦い抜ける候補者は(M+1)人に限られるので、この選挙区から出馬する候補者数も次第に(M+1)人へ収斂していく(デュヴェルジェの法則)。

[編集] 後援会、党内派閥、利益誘導

単記非移譲式投票の大選挙区制選挙に出馬する候補者は、他党の対立候補だけでなく、場合によっては自党の候補者とも得票を競わなければならない。政党としては擁立した自党候補者を目論見どおり全員当選させたいと考えるが、支持者からの票を候補者間で均等に票割りすることは、よほど高度に組織された政党でない限り困難である。

J・マーク・ラムザイヤーとフランシス・ローゼンブルースは日本中選挙区制について分析し、単記非移譲式投票の選挙制度が、(1)自前の後援会組織の育成と地元選挙民へのサービス、(2)党内派閥への帰属、(3)地元選挙区への利益誘導による自党対立候補との棲み分け、に対して強い誘因をもたらしていたと論じている。

詳細は「中選挙区制#政治的帰結」を参照

[編集] 各国の例

[編集] プエルトリコ

プエルトリコでは、単記非移譲式投票はrepresentación por acumulación(英語ではat-large representation、「全域区代表」) として知られ、上院選挙で採用されている(en:Elections in Puerto Rico)。

[編集] 中華民国

中華民国(台湾)では、立法院と地方議会の議員が単記非移譲式投票で選ばれていたが、立法院選挙については2008年1月から小選挙区比例代表並立制(小選挙区選挙の一部は大選挙区制)が採用されている(en:Elections of the Republic of China)。

[編集] 韓国

韓国では、かつては国会議員選挙で単記非移譲式投票が採用されていたが、現在では小選挙区比例代表並立制が採用されている(en:Elections in South Korea)。

[編集] 日本

日本では、かつては衆議院議員総選挙(いわゆる中選挙区制)や参議院議員通常選挙全国区で単記非移譲式投票が採用されていた。現在でも参議院の選挙区、都道府県議会、市区町村議会(一人区を除く)で使用されている(日本の選挙)。

[編集] 他の国々

単記非移譲式投票はアフガニスタンヨルダンの立法府選挙、インドネシアと1997年憲法下のタイの上院選挙で使用されている(en:Elections in Afghanistanen:Elections in Jordanen:Elections in Indonesiaen:Elections in Thailand)。

[編集] 参考文献

  • 伊藤光利、真渕勝田中愛治 『政治過程論』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2000年。
  • M・ラムザイヤー、F・ローゼンブルース 『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択』 加藤寛監訳、弘文堂、1995年。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年10月12日 (月) 06:49 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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