反復説
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反復説(はんぷくせつ)とは、ある動物の発生はその動物の進化の道筋をたどって行われるという主張である。
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[編集] 概要
反復説は、エルンスト・ヘッケルが唱えたもので、生物発生原則とも言われる。往々にして、簡単に「個体発生は系統発生を繰り返す」という風に言われる。ここで個体発生とは、個々の動物の発生過程のことである。系統発生とは、他に使用例が少ない言葉であるが、その動物の進化の過程を発生に見立てた表現である。つまり、ある動物の発生の過程は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われる、というのが、この説の主張である。
具体的には、彼が1866年にその著書『一般形態学』に記した以下のような文が元である。
- 「個体発生(ontogenesis)、すなわち各個体がそれぞれの生存の期間を通じて経過する一連の形態変化としての個体の発生は、系統発生(puylogenesis)、すなわちそれが属する系統の発生により直接規定されている。個体発生は系統発生の短縮された、かつ急速な反復であり、この反復は遺伝および適応の生理的機能により条件付けられている。生物個体は、個体発生の急速かつ短縮された経過の間に、先祖が古生物的発生の緩やかな長い経過の間に遺伝および適応の法則に従って経過した重要な形態変化を繰り返す」(岡田・木原 1950 より引用)
[編集] 反復説の根拠とされた観察事例
よく実例に挙げられるのが、哺乳類の発生である。特に、その初期に形成される鰓裂は哺乳類では使用されることなくすぐにふさがってしまうから、哺乳類が魚類を経て進化した証拠であり、その時期の胚は魚類の段階の姿である、と主張される。また、鰓列の形成→四肢の形成→鰓列がふさがる、という順番は、無顎類の鰓形成→魚類の対鰭獲得→両生類の鰓消失の順番と対応しているとされる。
また、さまざまな無脊椎動物の発生の研究から、幼生の形態が大きな分類群ごとに共通である例も知られてきた。例えば甲殻類は、成体の姿はさまざまだが、初期の幼生はノープリウスのように共通の姿をしている。さらに、フジツボなど蔓脚類では、その類縁関係が長らく不明であったものの幼生がノープリウスに近いものであることから、甲殻類であることが明らかになったという例もある。つまり、フジツボの姿があまりに甲殻類的ではないのは、明らかに固着生活への適応であるが、それが比較的新しい適応であって、それ以前の歴史を他の甲殻類と共有してきたと主張できる。
脊椎動物の胚では親の間よりも類似性が見られ、発生をさかのぼるほど、縁の遠いものでも類似性が見られるようになるという。
[編集] 先行する研究
この説は、必ずしもヘッケルの独創ではなく、先行する動物の発生に関する研究から、ある程度は自然に導き出されたものである。
19世紀初頭に比較発生学がその成果を収める中、発生に関する並行仮説というものがあげられるようになった。これは、動物の発生の過程には群が異なっても似たような流れが見られること、高等な動物のそれは下等なもののそれをなぞるように行われる、というものである。ベーアはさらにそれを以下の四原則にをまとめて見せた。これは一般にベーアの法則と呼ばれる。
- 大きな動物群に共通な形質は、特殊なものより先に形成される。
- 形態的に一般的なものからより特殊なものが形成される。
- 一定の動物形に属する胚は、一定の諸形態を経過すると言うより、むしろそれから離れてゆく。
- 高等な動物の胚はほかの動物に似ているのではなく、その胚に似ている。
これらは具体的な内容としてはヘッケルが認めたものと相違なく、彼の説はそれらを進化の過程に結びつけて読み直したものといってよい。さらに進化論が発表された後、これに感化を受けたミュラーは1864年に甲殻類の発生や変態について論じ、「進化は先祖の発生をたどり、その先へ進むか途中で別方向へ進むかの形で行われる。前者の場合、発生は先祖の進化の系譜を反復し、後者の場合、横道までの部分を繰り返す」と、ほぼ反復説と同内容のことを述べている。
しかしヘッケルの表現が目を引くのは、個体発生と系統発生といった人の気を引く造語と、細かい場合分けなどを無視した割り切った表現にあるとも言える。後年、この説が批判された際も、その対象はほぼヘッケルに集中している。これはある意味で、この説がいかに多くの注目を集めたかを示すとも言える。
[編集] 影響と批判
ヘッケルは、これらのことからさらに飛躍して、もっと初期段階の発生までもが進化の過程をなぞるものであると考えた。すなわち、受精卵は単細胞段階を表すものと考え、卵割によって細胞が増え、胞胚から原腸陥入によって消化管が作られる過程を多細胞動物の進化の過程であると見なし、これによって多細胞動物の進化の道筋を明らかにしようとした。動物の系統に関する彼の考えはブラステア説と呼ばれ、長らく正統的な定説の位置にあった。
反復説の影響は、ダーウィニズムと同様、曲解に近い形で社会的広がりを見せた。たとえば子供は大人にくらべて進化的に前の段階であるとか、いわゆる原始的種族は、進化の段階が低い状態にあるといった拡張がおこなわれ、ナチス・ドイツを始めとするレイシズムに良く利用された。
しかしながら、現在では数々の点で批判の対象ともなっている仮説である。例えば、彼は自己の考えを強調するために図を歪曲したり、彼が進化の中間型として発表した微生物が偽物だったりと、捏造があったことが指摘されており、この説の根拠を自ら揺るがすこととなってしまった。また、近年では「脊椎動物の胚では親の間よりも類似性が見られ、発生をさかのぼるほど、縁の遠いものでも類似性が見られるようになるという」反復説の考えにも疑問符がつけられており、新たな仮説(発生砂時計モデル)も出されている。
[編集] 参考文献
- 八杉竜一,『進化学序説』,(1965),岩波書店
- 岡田要・木原均編集 (1950)『発生 現代の生物学第2集』共立出版株式会社.

