子癇
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子癇(しかん、羅:Eclampsia)とは周産期に妊婦または褥婦が異常な高血圧と共に痙攣または意識喪失を起こした状態である。分娩前にも分娩中にも産褥期にも起こりうる。
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子癇は症候群であり、病態の本質は子癇前症(しかんぜんしょう、羅:Preeclampsia)である。子癇前症とは妊娠高血圧症候群に蛋白尿が合併した状態を言い、これが重症化して痙攣や意識障害などの中枢神経症状が起きた場合に子癇と呼ぶ。
目次 |
[編集] 病因
子癇前症における高血圧と腎機能障害が重症化した結果として、脳の血管が攣縮し、てんかんが起こると考えられている。なお、同様の機序として肝臓の動脈が攣縮した場合がHELLP症候群であると考えられている。症状だけからは、妊娠中に発生した脳卒中との区別は非常に難しい。
子癇前症は胎盤由来の血管内皮増殖因子や胎盤増殖因子などが母体全身の血管内皮に作用し、NOへの感受性を低下させ、アンギオテンシンIIへの感受性を高める。結果として末梢血管が収縮し、弾力が低下して高血圧を生じる。また、その悪化要因として高血圧や腎疾患、糖尿病などの既往があると、胎盤梗塞が起こりやすく、これにより上記物質の分泌がさらに亢進する。
子癇前症から子癇に至る病態は分かっていない。ひとつの仮説として、腎原性の高血圧性緊急症のように脳圧の亢進と血清カリウム値の急激な上昇、脳浮腫および脳血管の攣縮によって起こるといわれている。
ほかのリスク因子として初産、子癇前症の既往、多胎、高齢(35歳以上)・若年(18歳以下)などがある。
[編集] 症状
- 前駆症状
- 頭痛、視覚障害、左上腹部痛、心窩部痛などがみられることもある。
- 症状
- 基本的には痙攣発作と意識消失である。あえて典型例を示すのなら、
-
- 誘導期:意識消失、瞳孔散大、対光反射消失、眼筋痙攣、顔面痙攣
- 強直性痙攣:痙攣が全身に広がる、後弓反射、呼吸停止、これらは10秒程度続く。
- 間代性痙攣:間歇的痙攣、瞳孔散大、チアノーゼ、これらが1分程度続く。
- 昏睡期:痙攣発作やチアノーゼはおさまるが、顔面浮腫、いびきを伴う昏睡
[編集] 疫学
妊娠高血圧症候群患者の約1%にみられる。妊娠子癇が50%、分娩子癇と産褥子癇が50%程度である。先進国においては、分娩全体の0.05%に起こる。貧困層あるいは発展途上国ではさらに高い。子癇発作は未治療であれば通常は致死的であり、途上国に於いては死亡率も高い。
[編集] 鑑別疾患
妊婦の意識障害を起こす疾患を以下に列記する。
意識障害からの回復がおそい、麻痺などの神経学的な所見があるといった場合、子癇以外を考えるべきである。しかし、これらの疾患には子癇に続発して起きるものもあり、何より救命を優先して治療すべきである。治療の項に述べるように、本症は暗室にて絶対安静が必要であり、動かすことが可能になるまではCTスキャンなどの方策は採りがたい。
[編集] 合併症
[編集] 脳血管疾患
妊娠中の脳出血はまれな疾患であるが、その多くの割合が子癇に続発するものである。アメリカにおける疫学調査では、全妊娠中で脳出血を起こす危険度は10万対で7.1(=0.0071%)であるが、その3~4割が子癇や子癇前症に続発するものであり、オッズ比で言えば10倍にもなる[1]。フランス[2]、タイ[3]等の疫学調査の結果も同様であった。
また、妊娠中の脳梗塞の発生率は10万対で4.3だが、その4割もやはり子癇や子癇前症に続発するものである[2]。また一過性盲が見られ、一過性脳虚血発作も起きているものと考えられる[4]。
従って、子癇と診断された患者に後になって脳出血が発見されたとしても、それのみを以って誤診と決め付けることはできない。こうしたことから、
- マグネシウムに反応しない
- 意識障害が遷延する
- 巣症状を認める
などの症状を呈した患者にはCT撮影を推奨した研究もある[5][6]。 しかし疫学の節で述べた子癇の発生率から逆に計算すれば、子癇発作の中でも脳出血に発展する確率は1%にも満たない。前述の通り、子癇発作の直後は体動や光などわずかな刺激で再度の痙攣発作を誘発し、生命に関わる。そのため子癇の状況で、特別脳出血を疑う所見がない限り頭部CTなどは原則として撮ることはない。
[編集] 治療
子癇の治療の目標としては、痙攣の制御、低酸素血症の補正、高血圧の管理、分娩の管理である。
- 抗痙攣薬:マグネシウム[7]、フェニトイン、ジアゼパム、フェノバルビタール[8]などを緩徐に静注する。
- 舌損傷の予防:バイトブロック挿入、患者をひとりにしない。
- 気道確保、酸素投与
- 降圧薬:ヒドララジン、ラベロールなど
- 輸液管理:尿道カテーテルを挿入し、尿量をみる。乏尿では観血的血圧測定の適応となる。
[編集] 社会とのかかわり
子癇と脳血管障害に関連した症例が近年あった。
[編集] 外部リンク
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ^ Bateman BT, Schumacher HC, Bushnell CD, Pile-Spellman J, Simpson LL, Sacco RL, Berman MF. "Intracerebral hemorrhage in pregnancy: frequency, risk factors, and outcome." Neurology. 2006 Aug 8;67(3):424-9. PMID 16894102
- ^ い ろ Sharshar T. "Incidence and causes of strokes associated with pregnancy and puerperium. A study in public hospitals of Ile de France. Stroke in Pregnancy Study Group." Stroke. 1995 Jun;26(6):930-6. PMID 7762040
- ^ Chinayon P. "Clinical management and outcome of eclampsia at Rajavithi Hospital." J Med Assoc Thai. 1998 Aug;81(8):579-85. PMID 9737110
- ^ Zeeman GG; Fleckenstein JL; Twickler DM; Cunningham FG Cerebral infarction in eclampsia. Am J Obstet Gynecol 2004 Mar;190(3):714-20. PMID 15042004
- ^ Akan H, Kucuk M, Bolat O, Selcuk MB, Tunali G. "The diagnostic value of cranial computed tomography in complicated eclampsia." J Belge Radiol. 1993 Oct;76(5):304-6. PMID 8119869
- ^ Witlin AG, Friedman SA, Egerman RS, Frangieh AY, Sibai BM. " Cerebrovascular disorders complicating pregnancy--beyond eclampsia." Am J Obstet Gynecol. 1997 Jun;176(6):1139-45; discussion 1145-8. PMID 9215166
- ^ Sibai BM. Magnesium sulfate prophylaxis in preeclampsia: Lessons learned from recent trials. Am J Obstet Gynecol 2004 Jun;190(6):1520-6. PMID 15284724
- ^ Sibai BM. "Diagnosis, prevention, and management of eclampsia." Obstet Gynecol. 2005 Feb;105(2):402-10. Review. PMID 15684172

