小さな政府
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小さな政府(ちいさなせいふ:limited government)とは、経済に占める政府の規模を可能な限り小さくしようとする思想または政策である。アダム・スミス以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入を最小限にし、個人の自己責任を重視する。市場原理主義(英:Market fundamentalism)においてあるべき行政府の形態であり、小さな政府を徹底した体制は夜警国家あるいは最小国家ともいう。基本的に、より少ない歳出と低い課税、低福祉低負担を志向する。主に、保守派またはリバタリアンによって主張される。
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[編集] 概要
「小さな政府」では、低福祉、低負担、自己責任などを元に、歳出の抑制や低い税率はもちろん、国営事業の民営化、私企業化(privatization)、規制の撤廃、国有資産の売却なども含まれる。インフラや公共サービスなどの公共財を、私有化されるような施策をとる。80年代以来、英米ではそれまで政府が担ってきた業務を民間の独立した公共部門である非政府セクター(nongovernment sector)、非営利セクター(nonprofit sector)に移管する試みが行われているが、日本においては日本国有鉄道・日本電信電話公社・日本専売公社(3公社)の民営化や、特別会計事業の第三セクター化や非営利公共団体化、公益法人、独立行政法人化など、現実には政府の天下り出先機関に過ぎない組織が乱立しかえって財政を逼迫させ、小泉政権下ではもっぱら私企業化が行われた。
背景には、市場は神の見えざる手により、最適なコストと価値に見合う資源配分を達成するという期待があり、市場の判断により効率の高い経済が実現されると信じられている。一方、相続税なども否定する立場であるため、世代間にまたがる富の偏在と固定化、教育機会の不均衡、職業の世襲的独占など「スタートの平等」が担保されにくくなる。これについては「先に豊かになったものが後続のものを豊かにする」との考え方(トリクルダウン)が主張されることがあるが、批判も多い。
[編集] 歴史
国家を財政面でとらえた場合の呼称は国庫であるが、市民社会における経済運営と国庫の問題はルネサンス期のイタリアに体系化されたものと見られ、都市の経済運営のため税を担保とした公債が発行された。この慣習が神聖ローマ帝国の諸領域国家に広まり、租税収入を担保に国王が有力商人に公債を発行する慣習がなりたちオランダでは市議会が皇帝の歳費を肩代わりする形で公債を引き受け課税権や徴税権を獲得してゆき、国富のうちで現実に近代的国民の全体的所有にはいる唯一の部分としての国債[1]が成立した。(⇒国庫)
市民社会を対象に、国家と経済のあり方が論じられたのは重商主義以降、クロムウエルの元での航海条例やルイ14世の元でのコルベール主義に関わる議論であり、啓蒙思想の諸学派は国家による経済介入は国の富をそこなうとする理論的な集約をみる(⇒レッセフェール)。一方フランス革命後とりわけナポレオンの総領政権の頃にはアダム・スミス以来の伝統的な自由放任主義(レッセフェール)を主張するセイはナポレオンの目にとまり戦争経済の構築のため保護政策と規制について書き直すように要求される。
アダム・スミスによれば政府による経済活動はすべて不生産的労働であり、政府が公衆から資金を借入れて消費することはその国の資本の破壊であり、さもなければ生産的労働の維持に向けられたであろう生産物を不生産的労働に向けるものである、とした。古典的な経済理論においては、行政府の支出はその源泉が租税であろうが国債によろうが民間の経済活動は圧迫(クラウド・アウト)されるとした。これに対する理論的な反論は19世紀前半におこった過少消費説(一般過剰供給論争)であり、所得の不平等や貯蓄過多(投資不足)による経済的不均衡が生産縮小のサイクルを産むと理論化された(⇒過少消費説)。
英国では均衡財政にもとづく経済運営のもと、救貧法などに見られる糊塗的・懲罰的な貧困対策は格差問題の解消になんら寄与せず、貧困と不平等を問題視する人々の中からラッダイトなどの社会運動、やがて社会主義の思想が生まれ欧州全体に拡散した。1880年代にビスマルクの「飴と鞭」政策により導入された公的福祉制度(社会保障制度)は各国に広まり、また1930年代の世界恐慌において、ケインズにより提唱された有効需要理論に基づいた数々の政策が実行に移され、政府の経済への関与と財政の占める規模は増大した。米国で失業保険や公的年金、生活保護などの社会保障が設けられたのはこの時期である。
1960年代には、財政政策と金融政策をミックスし完全雇用を志向する「大きな政府」が主流となるが、1970年代にスタグフレーションを招いたため、フリードマンら経済学のシカゴ学派による批判に基づいて、イギリスやアメリカで「小さな政府」への転向が始まった。肥大化した政府による資源配分の歪みや規制、財政政策依存による財政赤字拡大、クラウディングアウト効果による民間投資の過少化、政府支出へ依存した産業構造、それらの結果としての供給力不足がインフレーション体質の問題点であると考えられた。「小さな政府」は、新自由主義(ネオリベラリズム)あるいは新保守主義と親和性が高い。
[編集] 「小さな政府」論への批判
- 国内に失業者があり、資金余剰が多く低金利での資金調達が可能な場合、行政が公債を発行して事業を行うことで国富が拡大する可能性がある(ケインズ政策)。
- 一般に行政の管轄する人口規模や域内市場規模の多寡と政府の規模は逆相関(インフラ投資や行政実務の効率化の観点から小国や都市国家のほうが行政負荷が高い)ことが想定されるが、現実にはかならずしもそうではない。また政府支出の域内市場(GDP)に占める割合規模と域内の経済効率に明確な因果関係を見いだす研究は提出されていない。
- 国債の累積発行問題や行政部門での浪費問題、行政支出やプロジェクトの失敗問題を棚上げにして、義務的支出である教育・福祉・医療等関連予算を削減する名目として「小さな政府」を標榜するのは論点のすり替えであり、小さな政府を実現すれば財政上の諸問題が解決するかどうかは(論証的には)分からない。
[編集] 日本の場合
- 日本では財政再建の名の下、与党第一党の自由民主党が積極的に「小さな政府」を掲げている。金融市場においても、企業利益の増大をもたらす「小さな政府」を推す政権が好まれる傾向が強い。小泉内閣以降の自民党政権は、「『小さな政府』でなければ日本に未来は無い」として、歳出の抑制や規制緩和、法人税減税、郵政公社や特殊法人の民営化などを進めている。
- 欧州諸国やカナダなどと比較して、福祉の支出が公共投資よりも少ないことから、小さな政府が行き過ぎているのではないかという批判が、主に左派からなされている。これに対しては、日本の(高齢者)福祉の給付水準は先進国の中でも最高レベルであり、また、総支出でも、急激な少子高齢化に伴って、将来的には一部の欧州並みの規模まで膨らまざるを得ないとする反論もある。
- 最低限度の安全保障自体も完全に達成できていない現状ではいくら理想である「小さな政府」を掲げて社会保障分野の業務を民営化、削減したとしても、警察官などの増員による治安維持部門の肥大化によって財政的には結局「大きな政府」になっていく可能性がある。こういった状況ではこうした論争自体に意義を見出しにくい。
- 小さな政府の根幹である最低限度の安全保障の部局である防衛省・警察庁においてすら職員の不祥事や装備品の水増し調達などの不正経理・背任行為、天下りなどの官民癒着を根絶できる見通しがない。解決すべきは、職員の不正や背任・天下りなど官民癒着の問題(モラルハザード、モチベーションのクラウディングアウト)であって、本来無関係な「大きな政府」に関わる民業圧迫(クラウディングアウト)問題を持ち出すことがかえって混乱をもたらしている。
- 本来、「小さな政府」を推進する場合、セーフティ・ネットを張り巡らさなければ所得格差の急激な拡大などによって社会的な混乱を招く蓋然性がある。ところが、日本で議論されているのは生活保護の切り詰め・医療費の値上げなどの福祉の抑制や、ハローワーク事業の民営化論・年金保険料の段階的値上げなどの社会保障の抑制などが議論されており、セーフティーネットに含まれる公的業務の削減・廃止が他の公的業務より進められている。これらは「小さな政府」を推進している経済財政諮問会議などの多くの改革会議の顔ぶれが社会保険料の企業負担の削減を大幅に減らした上で、所謂官制ビジネス・貧困ビジネスといわれる行政や社会保障を給付される国民を対象としたビジネスを展開したい財界人や「御用学者」と見られる場合もある政府要人ときわめて近い学者などで占められていることから、いわゆる「政商」的な自分達の利益を優先させる為「小さな政府」論を提唱しているに過ぎないとする批判が後を絶たない。
- 人口千人あたりの公的分野における国家公務員数[2]は日本が約33人、フランス約88人、アメリカ約73人、イギリス約68人であり比較的少ない人数で日本を支えていることになる。こうした中での単純な国家公務員の頭数の削減は、国民の安全や地域経済に悪影響を与える恐れがある[3]。
[編集] 脚注
- ^ 酒井昌美「物象化生成過程的資本原蓄とアムステルダム」帝京経済学研究第35巻第 1号
- ^ 人事院国家公務員紹介ページ
- ^ 「「行革」法案審議入り 吉井議員 “日本の公務員少ない”」『新聞赤旗』2006年3月24日付配信
[編集] 文献情報
- 「政府の大きさをめぐる議論」西川明子 国会図書館レファレンス2007.12[1]
[編集] 関連項目
最終更新 2009年11月14日 (土) 14:50 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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