散乱理論

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散乱理論(Theory of Scattering):電子などがポテンシャルによって散乱されることを扱う理論のこと。電子以外にも光子(電磁波)、中性子、イオンなどの散乱もあり、フォノンによって電子などが散乱されることもある。通常、量子力学の基にこれらの散乱を記述する理論のことを散乱理論と言う場合が多いが、古典力学によって扱われる散乱もある。以下は、量子力学の立場による記述であり、散乱は弾性的(散乱前後の運動エネルギー、内部エネルギーが不変)であるとする。

位相差(Phase shift:フェーズシフトとも言う)
ここで単独に存在する(孤立した)マフィンティンポテンシャルVMT(r)を考える。この時、マフィンティン半径をrMTとし、r < rMTでVMT(r) = V(r)、rMT > rでVMT = 0とする。

このポテンシャル下での電子についての波動方程式(シュレーディンガー方程式)は、

 - \nabla^2 \Psi + V(r) \Psi = \, {k_0}^2 \Psi \quad \quad r \le r_{MT}

 - \nabla^2 \Psi = \, {k_0}^2 \Psi \quad \quad r > r_{MT}

となる。ここで、 {\hbar \over {2m}} = 1, \quad {k_0}^2 = E (E:固有値、mは電子の質量)とした。波動関数Ψを極座標表示で展開すると、

 \Psi = \, \sum_l C_l \Phi_l (r) P_l (\cos \theta)

とする。Φ(r)は動径波動関数(rは動径座標、lは軌道角運動量)、Clは未定係数、Plはl次のルジャンドル関数である。r > rMTの場合、動径波動関数は、

 {1 \over {r^2} } {d \over {dr} } (r^2 { d \Phi_l \over {dr} }) + ({k_0}^2 - {l(l+1) \over {r^2} }) \Phi_l = 0

を解くことによって次の解が得られる。

 \phi_l (r) = \, A j_l (k_0 r) + B n_l (k_0 r)

ここで、A、Bは任意の係数。jl(x)は球ベッセル関数、nl(x)は球ノイマン関数である。この解を、

 \phi_l (r) = A \{ j_l (k_0 r) - \tan \delta_l \cdot n_l (k_0 r) \}

 \tan \delta_l =\, -B/A

と変形し、ここで出てくるδl位相差(フェーズシフト)と言う。これはポテンシャル(ポテンシャルはマフィンティン型である必要はない)が存在することによる波動関数の位相のずれの効果を表わしている。r < rMTの場合は省略。

t行列と位相差の関係
ここで、z軸上の無限遠(-∞)から平面波が入射して、これがポテンシャルV(r)によって散乱され、球面波となって出て行く場合、全体の波動関数は次のように漸近される。

 \Psi \sim e^{ikz \cdot z} + f(\theta) {e^{ik \cdot r}  \over {r} }

ここで、f(θ)は散乱の確率振幅(散乱振幅、θは極座標の角度成分)であり、これは次のように表される。

 f(\theta) = {1 \over {k}} \sum_{l=0}^{\infty} (2l + 1) e^{i \delta_l} \sin \delta_l \cdot P_l (\cos \theta)

散乱振幅は本来、f(θ,φ)と表されるが(φは極座標におけるもう一つの角度成分)、マフィンティンポテンシャルは球対称なのでθのみに依存し、φに依らない。ここで散乱振幅のノルムが微分散乱断面積(dσ/dΩ、σ:全断面積、dΩ:微小立体角)となる。

 {d \sigma \over {d \Omega}} = \, |f(\theta,\phi)|^2

ここで入射波が平面波の時、k = k0。f(θ)はt行列(T行列)によって、

 f(\theta) = - {1 \over {4 \pi}} <\mathbf{k} + \mathbf{q}|t|\mathbf{k} >

と表される。t行列は次のように定義される。

 <\mathbf{k} + \mathbf{q}|t|\mathbf{k} > = <\mathbf{k} + \mathbf{q}|V|\mathbf{k} > + \int { <\mathbf{k} + \mathbf{q}|V|\mathbf{k} + \mathbf{q}' > <\mathbf{k} + \mathbf{q}'|V|\mathbf{k} > \over { (k^2 - |\mathbf{k} + \mathbf{q}'|^2 ) } }d^3 q' + \cdot \cdot \cdot

これは、

 t = V + V G_0 V + V G_0 V G_0 V + \cdot \cdot \cdot

 G_0 =\, {1 \over {E - H_0 + i\epsilon} }

と表現できる。ここで、G0は無摂動(自由電子)グリーン関数、H0は無摂動(自由電子の)ハミルトニアンである。εは無限小の数である。
t行列の式は、

 t = V + V G_0 \{ V + V G_0 V + \cdot \cdot \cdot \} = V + V G_0 t

とも表せる。そして、f(θ)とt行列の関係式から、

 < \mathbf{k} + \mathbf{q}|t|\mathbf{k}> = \,- {1 \over {k_0}} \sum_{l} e^{i\delta_l} \sin \delta_l \cdot 4 \pi (2l + 1) P_l(\cos \theta) = - {1 \over {k_0}} \sum_{l,m} e^{i\delta_l} \sin \delta_l \cdot Y_{lm} (\mathbf{k} + \mathbf{q})Y_{lm}(\mathbf{k})

となる。Ylmは球面調和関数で、mは磁気量子数(電子の質量ではないことに注意)。更に、

 < \mathbf{k} + \mathbf{q}|t|\mathbf{k}>  = \sum_{l,m} t_l Y_{lm} (\mathbf{k} + \mathbf{q})Y_{lm}(\mathbf{k})

より、これから、

 t_l = - {1 \over {k_0} } e^{i\delta_l} \sin \delta_l = - {1 \over {\kappa} } e^{i\delta_l} \sin \delta_l

を得る。これが角運動量表示でのt行列と位相差(フェーズシフト)との関係。k0はκの記号で表されることが多い。
以上は、孤立したポテンシャル下での散乱であるが、実際は多数存在するポテンシャルの存在下で、多数の粒子(電子など)が何度も散乱される(多重散乱)。これを理論的に取り扱うのが多重散乱理論である。

最終更新 2009年11月10日 (火) 01:25 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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