映画の盗撮の防止に関する法律

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映画の盗撮の防止に関する法律
日本国政府国章(準)
通称・略称 映画盗撮防止法
法令番号 平成19年5月30日法律第65号
効力 現行法
種類 知的財産法
主な内容 映画館における映画の盗撮行為には著作権法30条1項(私的複製)の規定を適用しない。また、映画産業の関係事業者に対して映画の盗撮防止措置を講じることを求める。
関連法令 著作権法
条文リンク 総務省法令データ提供システム
  

映画の盗撮の防止に関する法律(えいがのとうさつのぼうしにかんするほうりつ)は映画館における映画の盗撮(カム撮り)行為を禁止するために制定された日本の法律である。法令番号は平成19年5月30日法律第65号であり、2007年8月30日に施行された。

著作権法の特別法として制定された、全4条からなる法律である。

映画館における映画の録音・録画行為を原則として「盗撮」と扱い、私的使用を目的とした著作物の複製行為には著作権の効力が及ばないとする、著作権法30条1項の規定を適用しないこととした。その結果、映画の盗撮行為は著作権(複製権)の侵害となり、刑事罰の対象になる。

目次

[編集] 成立の背景と経緯

[編集] スクリーン録画による海賊版の流通

1980年代、映画館でスクリーンを録画し、館内に流れる音声を録音して作成されたと考えられる映画の海賊版ビデオが出回るようになった。これは、家庭用の録画録音機器の普及によって、映画館内に機器を容易に持ち込めるようになったためだと考えられている。この種の海賊版は、正規版のメディアから複製された海賊版と比較すると、影像や音声の品質が劣る一方で、映画が一般公開された直後に出回る点で興行収入への影響が無視できないものであった。

1990年代に入ると、カメラマイクの高性能化、小型化により、映画館における映画の録画・録音を、より鮮明に、かつ隠密に行うことが可能になった。さらに、これまで海賊版の流通媒体として主に使われてきたアナログのビデオテープに代わって、DVDインターネットといったデジタル技術を基盤としたデータ複製、送信手段が普及した結果、海賊版を、映像を劣化させることなく複製し、短時間に世界中に流通させることが可能となった。その結果、海賊版の流通による興行収入への影響はいっそう深刻なものになっていった。

アメリカ映画業協会(MPAA)の海外管轄団体であるMPAの試算によると、2005年、日本国内の映画館における盗撮によって流出した海賊版による日本国内の損害額は、邦画と洋画を合わせて180億円であったという。そして、同年の日本における映画興行収入は約1980億円であったことから、海賊版の流通が、興行収入を1割近く減少させていると指摘している[1]

[編集] 従来法の限界

[編集] 著作権法を根拠とした禁止措置

本法律の適用を待つことなく、日本の著作権法によれば、海賊版を流通させる目的をもって映画館で映画を録画・録音する行為は原則として著作権侵害にあたり(著作権法21条)、刑事罰の適用もある(著作権法119条1項)。その一方で、著作権法30条1項は、著作権者に無断で著作物を複製しても、その目的が著作物の私的使用であるならば、著作権侵害とならない旨を規定している。

この著作権法30条1項の規定が、著作権法を根拠とする、映画の盗撮の取り締まりを困難にしていた。つまり、実際には海賊版の作成が目的で録音・録画がされていたとしても、その者が本規定を盾にして、録画・録音の目的が私的使用(家に持ち帰ってもう一度鑑賞し、保存しておくなど)であると主張してきた場合には、その主張を覆すことは容易ではなく、著作権法上の責任を追及することが困難になっていた。実際に、暴力団関係者と思われる者が、映画館の客席に堂々と三脚を立てて録画を行い、映画館の職員が制止しようとしても、録画が私的使用目的であることを強硬に主張する事例もあったという[2]

また、著作権法には、映画館における録画・録音時には私的使用の目的があったとしても、その後、利用目的を変更し、当該複製物を販売し、複製した映画をネット配信などをした場合には、映画館で行われた録画・録音も事後的に複製(著作権法21条)とみなされて、結果として、複製権侵害となる規定が存在する(著作権法49条1項1号)。しかし、映画館での録画・録音行為が事後的に著作権侵害となったところで、一旦、流出してしまった海賊版を回収することは事実上不可能であり、権利者の救済を十分に図れないという問題がある。

[編集] 映画館の施設管理権や契約を根拠とした禁止措置

本法律の施行前から、既に多くの映画館には館内における映画の録画を禁止する規則があった。多くの映画館には、録画機器の持ち込みや、実際の録画を禁止する旨の掲示がみられる。また、映画上映前には映画の録画を禁止する内容のフィルム映像が上映され、観客に注意を促す措置がとられている。

著作権法によることなく、映画館における映画の録画を禁止できる法律上の根拠として、映画館の施設管理権、および観客との契約がある。

映画館の施設管理者はその施設管理権を行使することで、館内における映画の録画、館内への録画機器の持ち込みなどを禁止できる。実際に盗撮が行われた場合には、盗撮を制止し、盗撮者を映画館から退場させ、再入場を禁止するといった措置も可能である。

また、映画館における映画の録画を禁止し、館内への録画機器の持ち込みを禁止する規則約款を制定し、その規則や約款への同意を映画館への入場の条件とすることによって、映画館への入場者にはその規則や約款を守らなければならないとする契約上の義務(債務)が生じるものと解される。そうすると、観客に対して契約に基づく義務の履行を求め、違反者には契約違反(債務不履行)による契約の解除、再契約の拒否といった措置をとることができる。

しかし、施設管理権に基づく禁止措置では違反行為に対する直接の刑事罰の適用はなく、契約違反にも刑事罰の適用はないため、盗撮行為を効果的に抑止できないという問題が指摘されていた。

[編集] 立法

本法律の成立に向けた具体的な検討は、2006年9月6日自由民主党の知的財産戦略調査会において、日本映像ソフト協会会長・角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦が議員立法による映画盗撮の防止の法制化を要望したことにはじまる。

同調査会会長(当時)の甘利明衆議院議員は角川の要望に賛同し、岸田文雄に対して法案のたたき台作成を指示した。甘利は翌月の10月に開催された第19回東京国際映画祭において、盗撮防止法制定の考えを公に表明している[3]

諸外国からの要望もあった。アメリカ合衆国政府は、2006年の「年次改革要望書」の中で、映画館における盗撮禁止の法制化を要求している[4]

2007年1月31日には、日本映画製作者連盟、外国映画輸入配給協会、全国興行生活衛生同業組合連合会、MPA・アジア太平洋地域統括本部、日本映像ソフト協会が、連名で「映画の盗み撮り行為に罰則を」と題した声明を発表し、日本政府に対して映画盗撮を禁止する法律の制定を求めた[5]

こうした日本国内外からの要望を受けて、2007年2月、自民党のコンテンツ産業振興議員連盟が議員立法による映画盗撮防止の法制化を目指すことを決定した。その後、同連盟幹事長の岸田文雄が中心となって法律案を作成し、5月9日、衆議院の経済産業委員会に「映画の盗撮の防止に関する法律案」を議員立法として提出した。同委員会では民主党川内博史大田和美が法律案の問題点を指摘する質問を行ったが、その日のうちに採決されている。法案は翌日10日の衆議院本会議で可決され、23日には参議院本会議で全会一致で可決され、成立した。法案提出から成立まで、わずか14日というスピード成立であった。法律は5月30日に公布され、附則にしたがって、3か月後の8月30日に施行された。

法律の内容は、映画館における映画の録画・録音行為を原則として「盗撮」と扱い、たとえ、その目的が著作権法30条1項の要件を満たす私的使用であっても、30条1項の適用を除外するものである。本法律の適用の効果は30条1項の適用除外にとどまり、その後の著作権侵害の有無は著作権法に基づいて判断される。

[編集] 法律の内容

[編集] 法目的(第1条)

本法律の目的は「映画館等における映画の盗撮により、映画の複製物が作成され、これが多数流通して映画産業に多大な被害が発生していることにかんがみ、映画の盗撮を防止するために必要な事項を定め、もって、映画文化の振興及び映画産業の健全な発展に寄与すること」(第1条)にある。すなわち、映画の無断複製物(海賊版)の流通による著作権侵害を問題視し、海賊版の有力な作成手段である映画の盗撮を阻止することによって、映画産業における被害を食い止め、映画文化の振興と映画産業の健全な発展に寄与することが、本法律の目的である。

[編集] 定義(第2条)

第2条は本法律が阻止しようとする「盗撮」の内容を定義している。まずは1号と2号でそれぞれ「上映」と「映画館」の用語を定義し、これらの語を使用して、3号で「盗撮」を定義する構成である。

3号における「盗撮」の定義は、

「映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われる映画(映画館等における観衆から料金を受けて行われる上映に先立って観衆から料金を受けずに上映が行われるものを含み、著作権の目的となっているものに限る。以下単に「映画」という。)について、当該映画の影像の録画(著作権法第2条第1項第14号に規定する録画をいう。)又は音声の録音(同項第13号に規定する録音をいう。)をすること(当該映画の著作権者の許諾を得てする場合を除く。)」

となっている。この定義規定の趣旨および解釈について、以下に詳述する。

「映画館等において」
「映画館等」で上映が行われる映画が録画・録音されることが、「盗撮」の成立要件となっている。「映画館等」を定義する2条2号によれば、「映画館等」には、もっぱら映画の上映を目的とする施設である「映画館」に加えて、「その他不特定又は多数の者に対して映画の上映を行う会場であって当該映画の上映を主催する者によりその入場が管理されているもの」(2条2号)が含まれる。たとえば、公民館多目的ホール学校など、必ずしも映画の上映を目的としない施設において映画を上映し、観客の入場を管理する場合においても、当該施設を「映画館等」として、盗撮を禁止する趣旨である。
また、「不特定又は多数の者に対して」とあるように、上映の対象者が多数であれば、それが特定か不特定であるかを問うことなく、本法律における「映画館等」にあたる。一方、特定かつ少数に対して映画の上映を行う場合、本法律における「映画館等」にはあたらない。
「観衆から料金を受けて上映が行われる映画(映画館等における観衆から料金を受けて行われる上映に先立って観衆から料金を受けずに上映が行われるものを含み…」
有料で上映が行われる映画が録画・録音されることが、「盗撮」の成立要件となっている。無料で上映が行われる映画の録画・録音は原則として盗撮にあたらない。ただし、「観衆から料金を受けて行われる上映に先立って観衆から料金を受けずに上映が行われる」場合、たとえば上映開始に先立って開催される、無料試写会や映画祭などにおける録画・録音は盗撮になりうる。
「…著作権の目的となっているものに限る」
著作権の目的となっている映画が録画・録音されることが「盗撮」の成立要件となっている。たとえば、著作権法6条各号に該当しないことにより保護を受けない映画や、著作権の保護期間を満了した映画の録画・録音は、盗撮にあたらない。
著作権法6条各号に該当しない映画とは、日本国民の著作物(著作権法6条1号)、日本国内で最初に発行された著作物(同法6条2号)、条約により日本が保護の義務を負う著作物(同法6条3号)のいずれにも該当しない映画である。日本はベルヌ条約および世界貿易機関(WTO)の加盟国であり、加盟国の義務である内国民待遇に基づいて、ベルヌ条約およびWTO加盟国の国民の著作物と、日本国民の著作物を同等に保護しなければならない(ベルヌ条約5条(1)、TRIPS協定3条(1)、著作権法6条3号)。ベルヌ条約には世界160ヶ国以上(2006年現在)が加盟していることから、日本の映画のみならず、日本国外の映画のほとんどが本法律における盗撮の対象となりうる。
映画の著作物の著作権の保護期間は、原則として映画が公表された年の翌年1月1日から起算して70年までである(著作権法54条、57条)。
「映画の影像の録画(著作権法第2条第1項第14号に規定する録画をいう。)又は音声の録音(同項第13号に規定する録音をいう。)をすること」
盗撮の前提となる行為である「録画」および「録音」の定義は、著作権法に委ねられている。
「録画」とは、「影像を連続して物に固定」することをいう(著作権法2条1項14号)。すなわち、「影像の再生を目的としてフィルムあるいはテープという連続した有体物につながった形で影像を記録する」行為が録画にあたる[6]。したがって、写真(静止画)による複製は録画にはあたらず、たとえば「早撮りのカメラでパッパッと撮って、それをオート・スライド方式で映写することを目的とするというような行為」であっても、それはあくまでも写真複製にすぎず、録画には該当しないと解されている[6]
「録音」とは、「音を物に固定」することをいう(著作権法2条1項13号)。
「又は」とあるように、「音声の録音」のみを行う場合も盗撮となる。音声の録音のみであっても、それを盗撮と扱うことによって、日本国外の映画館で盗撮された影像(日本語吹き替えなし)に、日本国内の映画館で録音された日本語の吹き替え音声を合成するという、巧妙な手口による海賊版の作成を抑止することが期待されている。
録画および録音は必ずしも映画館の内部で行われる場合に限定されない。たとえば、映画館内部の影像と音声を一旦外部に送信し、映画館外部でそれらを受信して録画・録音する行為も盗撮となる[7]
「(当該映画の著作権者の許諾を得てする場合を除く)」
著作権者の許諾を得て録画・録音する行為は、盗撮にはあたらない。映画の著作物の著作権を保護することが本法律の目的であることを考慮すれば、著作権者の許諾を得て録画・録音する行為まで禁止する必要はないことによる。

[編集] 盗撮防止のための努力規定 (第3条)

第3条は、「映画館等において映画の上映を主催する者」および「その他映画産業の関係事業者」に対して、映画の盗撮を防止するための措置を講じることを義務づけている。ここで、「映画館等において映画の上映を主催する者」は、映画興行会社などの上映事業者や、全国各地で開催される映画祭の主催者などを指し、「その他映画産業の関係事業者」は、映画の製作事業者、配給事業者などを指すものと解される[8]

本規定は訓示規定であるため、措置を怠ったとしても罰則の適用はない。

日本映画製作者連盟、全国興行生活衛生同業組合連合会などから構成される「映画館に行こう!」実行委員会が関係事業者向けに作成した「映画盗撮防止法Q&A」は、盗撮を防止するための措置として、以下の5つを例示している[9]

  1. 映画の盗撮が処罰の対象となることの観客、一般向け周知(映画館でのポスター掲示、フィルム上映、新聞広告などの手段による)
  2. 当該映画の日本国内における最初の有料上映日および著作権者に関する情報の映画館等に対する確実な伝達
  3. 録音録画機器の映画館への持込禁止措置の徹底(持込荷物の検査、コインロッカー設置などによる預かりなど)
  4. 映画館内の監視強化や防犯システムの導入
  5. フィルムにウォーターマーク(透かし)を埋め込むことによる、盗撮が行われた映画館の特定と監視

[編集] 著作権法30条1項の適用除外(第4条)

第4条は本法律の根幹をなす規定である。

第2項の定義に基づく映画の盗撮行為には、その目的如何にかかわらず、著作権法30条1項を適用しない(4条1項)。その結果、映画の盗撮行為は、たとえそれが私的複製を目的としていたとしても複製権(著作権法21条)の侵害となる。また、私的使用を目的とした複製は、それが例外的に複製権侵害となる場合(著作権法30条1項1号または2号に該当する場合)でも刑事罰の対象からは除外されているが(著作権法119条1項)、映画の盗撮行為については私的使用目的であっても刑事罰の対象から除外しないこととした(4条1項)。その結果、映画の盗撮行為は、刑事罰(10年以下の懲役、1000万円以下の罰金のいずれか、または併科)(著作権法119条1項)の対象になる。

ただし、最初に日本国内の映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われた日(以下、最初の有料上映開始日)から起算して8月を経過した映画の盗撮行為に対しては、4条1項の規定は適用しない(4条2項)。したがって、当該行為には著作権法30条1項適用の余地が残され、著作権侵害が成立しない可能性がある。盗撮の禁止期間を最初の有料上映開始日から8月に限定した理由は、過度な規制を回避するとともに、日本における新作映画の上映期間の多くが当該期間内であるという実情を考慮したものである[10]

最初の有料上映開始日から8月の期間内であることは盗撮(2条3号)の要件ではなく、著作権法30条1項の適用除外(4条1項)の要件となっている。このことは、最初の有料上映開始日から8月を経過すれば、著作権法30条1項の適用除外がなくなる一方で、3条が定める盗撮防止のための努力義務は引き続き関係事業者に課されることを意味する。この努力義務は映画館における映画の録画・録音行為が盗撮の要件(2条3号)を満たさなくなるまで、すなわち、保護期間の満了によって著作権が消滅するまで課されることになる(2条3号かっこ書)。

[編集] 著作権法の罰則規定や刑法との関係

本法律は著作権法の特別法として著作権法30条1項の適用を除外するのみであり、著作権法や刑法に対するその他の特別規定をもたない。したがって、盗撮行為に対する刑事罰の適用は著作権法および刑法に基づいて判断される。

著作権侵害罪(著作権法119条1項)は親告罪である(著作権法123条1項)。したがって、本法律の適用によって成立する著作権侵害罪も親告罪であり、著作権者による告訴がなければ、検察官公訴を提起できない。ただし、告訴はあくまでも公訴の要件であって、捜査開始の要件ではないため、盗撮者が現行犯逮捕される可能性があり、民間人である映画館の職員が盗撮者を現行犯逮捕する可能性も指摘されている(刑事訴訟法213条)[11]

著作権法には両罰規定(124条1項1号)もあるため、法人の代表者や従業者などがその業務として盗撮をした場合には、盗撮者のほか、その法人も刑事罰(3億円以下の罰金)の対象となる。

盗撮に使用されたビデオカメラなどの撮影用機器や、盗撮によって作成されたビデオテープなどの複製物は、没収することができる(刑法19条1項)[12]。また、著作権法には未遂を罰する特別な規定が存在しないことから、未遂は罰しない(刑法44条)。

[編集] 最初の有料上映開始日の重要性

最初の有料上映開始日を明確に把握することは、本法律の誤認適用を防止する観点と、映画の権利者が本法律を戦略的、効果的に活用するという観点の両方で重要であると考えられている。

最初の有料上映開始日が不明確であると、実際には8か月の期間を経過しているにもかかわらず本法律を誤って適用し、盗撮者を誤認摘発するおそれがある。警察庁が各都道府県警察に対して発出した通達は、盗撮者を逮捕する際には、最初の有料上映開始日から8ヶ月の期間内であることを、上映主催者に対して十分に確認することを求めている[7]。また、前出の「映画盗撮防止法Q&A」でも、最初の有料上映開始日を映画館に対して確実に周知することが、本法律第3条の「映画の盗撮を防止するための措置」の一例として挙げられている[9]

新作映画の公開は関係者への公開・無料試写会・一般公開の順序で行われることが多い。8ヶ月の期間は、関係者を対象とする上映会や、有料上映開始に先立って行われる無料試写会の最初の開始日から開始する可能性もあるため、一般公開の期間における本法律の適用期間をより長く確保したい場合は、関係者への公開や無料試写会が開始されてから、一般公開の開始までの期間をより短期間とする必要がある。

[編集] 本法律の適用がない場合

仮に、映画館内で行われた映画の録画・録音が盗撮の要件(2条)を満たさず、あるいは有料上映開始日から8月を経過していることによって(4条2項)、本法律の適用を免れたとしても、著作権の対象である映画を海賊版作成の目的で録画・録音する行為は著作権侵害となる。また、私的使用目的の録画・録音であっても、映画館の施設管理権行使による禁止措置は可能である。

[編集] 本法律に対する意見

[編集] 賛成

映画産業界は総じて本法律の成立を歓迎した。アメリカ映画業協会(MPAA)は本法律が成立した直後の2007年5月24日に声明を発表し、「世界の映画産業にとっての勝利」(a victory for the worldwide film industry)とまで絶賛して、他の国々への波及を期待するコメントを掲載した[13]

マスコミでは産経新聞が「映画盗撮防止法 海賊版封じに厳罰は当然」と題する社説を2007年4月2日付で掲載し、本法律の制定を支持する論評を行っている。同社説では、一部からは重過ぎるとの指摘がある刑事罰(10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、併科あり)について、「違法なコピーや海賊版づくりは創作活動の健全な発展に冷水を浴びせる重罪行為といえる。その社会的影響の大きさを考えれば、むしろ妥当な量刑であろう。」[14]として、支持する意見を表明している。読売新聞4月8日の社説で、「盗撮のほとんどが犯罪を目的としている。到底、許されることではない。」、「自民党がまとめた法案では、最高で懲役10年か罰金1000万円を科す、という厳しい罰則も盛り込んでいる。早急に成立を目指すべきだ。」として、刑事罰の内容を支持するとともに、法案の成立に期待を寄せた[15]

[編集] 批判

本法に対しては以下のような批判が提起されている。

  • 演劇やコンサートなども著作権や著作隣接権の対象であり、盗撮によって権利侵害の問題が生じるにもかかわらず、映画のみを特別扱いして保護する妥当性について、業界に対する説明が不十分である。
  • 罰則の上限が通常の著作権侵害と同等な懲役10年または罰金1000万円(併科あり)であり[16]、重過ぎる。米国では20秒間の撮影で未成年者が逮捕された事例もあり[17]、見せしめ目的の濫用や誤認逮捕の恐れが極めて大きい。
  • 同様の議員立法が業界団体のロビイングにより乱発され、著作権法において認められている適用除外の形骸化に道を開きかねない。同趣旨の規定を著作権法本体に吸収し、その時点で本法はすみやかに廃止すべきである。
  • まずは劇場の監視体制を強化すべきであり、刑法の謙抑性の観点からも闇雲に刑罰で解決すべきではない。

また、議員立法で委員長提案による成立であったため国会での議論などの報道が非常に少なく、多くの国民が知らぬ間に成立した観があるとの指摘も存在する。衆議院経済産業委員会では上記の点に対する懸念から、以下の委員会決議が2007年5月9日に全会一致で採択された。

映画の盗撮の防止に関する件

 政府は、映画文化の振興及び映画産業の健全な発展が将来に向けての我が国文化の振興に不可欠であることにかんがみ、映画の盗撮の防止に関する法律の施行に当たり、次の諸点について留意すべきである。

一 文化的所産である著作物の公正で円滑な利用がみだりに妨げられることのないよう努めること及び利用者の表現の自由の確保とのバランスに配慮することが重要であることにかんがみ、本法の措置はあくまで特例であって私的使用の複製を認める著作権法第三十条の規定が過度に制限されることのないよう運用面でも十全を期すること。
二 世界トップクラスのコンテンツ大国の実現に向けて、我が国の重要な文化的・知的資産でもある映画産業の一層の振興に官民挙げて取り組むこと。そのため、関係省庁等は、互いに密接に連携を図りつつ、効果的かつ効率的な支援を行うこと。

 右決議する。

[編集] 日本以外の国における同様の法律

日本以外の国においても、映画館における映画の盗撮行為を禁止する法律がある。盗撮行為を知的財産権の侵害として禁止する立法例と、公共の安全の観点から盗撮を禁止する立法例が存在する。

アメリカ合衆国の連邦法では2005年4月に「ファミリーエンターテインメントと著作権に関する法律」(Family Entertainment and Copyright Act of 2005, FECA)が制定された。本法律は、著作権者の許諾を得ることなく、映画館において、映画やその他の視聴覚作品を複製、送信することを目的として録音録画機器を使用し、または使用を試みる行為を禁止している。違反時は、初犯の場合で最高3年、再犯の場合は最高6年の懲役刑が科される。また、映画館において当該機器を所持する行為は当該犯罪行為の証拠として扱われる(18 U.S.C. § 2319B(a))。

アメリカの各州法も、盗撮を禁止する条項を独自に設けている[18]。2007年7月、バージニア州アーリントンの映画館で起きた事例では、映画『トランスフォーマー』を携帯電話で無断録画した19歳の女性が逮捕された。録画時間はわずか20秒間であり、家に持ち帰って弟に見せるのが目的であったとされているが、映画館の館長は容赦ない措置を検察庁に求めたという。この女性は、バージニア州法に従い、第一級軽犯罪として最高で1年以下の懲役、または2500ドル(当時の日本円で約30万円)の罰金に処せられる可能性もあったが(Va. Code Ann. § 18.2-187.2)、結局、71ドル(同約8600円)の罰金刑が確定した[17]

香港では2000年に著作権海賊規制防止法が改正され、映画館などの公共娯楽施設に、管理人の明示的な同意を得ることなくビデオ録画機器を持ち込むことが禁止されている。違反時は、初犯の場合で最高5000香港ドルの罰金、再犯の場合で50000香港ドルの罰金または3ヶ月以下の禁固刑が科される(Cap. 544 Sec. 31C)。

イタリアでは2006年に公共安全法が改正され、公共娯楽の場での映画の盗撮が禁止されている。

[編集] 脚注

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  1. ^ 「映画館に行こう!」実行委員会「映画盗撮防止法Q&A」Q2
  2. ^ 第166国会・衆議院経済産業委員会第10号議事録、2007年5月9日(甘利経済産業大臣発言)(2007年10月26日閲覧)
  3. ^ 全国興行生活衛生同業組合連合会「日本興行ニュース」第934号、2007年9月15日付
  4. ^ U.S. Government, Annual Reform Recommendations from the Government of the United States to the Government of Japan under the U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative, December 5, 2006(2007年10月24日閲覧)
  5. ^ 平成18年度 外国映画輸入配給協会 事業報告(2007年10月18日閲覧)
  6. ^ 加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』(著作権情報センター、2006年), 51頁
  7. ^ 警察庁 生活環境課 2007年8月6日付通達 「映画の盗撮の防止に関する法律の施行について」(丁生環発第182号等)
  8. ^ 「映画館に行こう!」実行委員会「映画盗撮防止法Q&A」Q11
  9. ^ 「映画館に行こう!」実行委員会「映画盗撮防止法Q&A」Q12
  10. ^ 文化庁「映画の盗撮の防止に関する法律について」Q6
  11. ^ 第166国会・衆議院経済産業委員会第10号議事録、2007年5月9日(川内委員発言)(2009年3月26日閲覧)
  12. ^ 櫻庭倫「映画の盗撮の防止に関する法律について」コピライト556号26頁(2007年)
  13. ^ MPAA press release, MOTION PICTURE INDUSTRY APPLAUDS JAPAN'S PASSAGE OF ANTI-CAMCORDING LAW, May 24, 2007(2007年10月16日閲覧)
  14. ^ 産経新聞、2007年4月2日付社説
  15. ^ 読売新聞、2007年4月8日付社説
  16. ^ 通常の著作権侵害に対する刑事罰(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)よりも厳しい罰則が導入されたとする説明が一部に見られたが、それは誤りである。通常の著作権侵害に対する刑事罰も、2007年7月1日を施行日として「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」に引き上げられ、本法律はその後である8月30日に施行されている。したがって、通常の著作権侵害に対する刑事罰と、本法律適用による著作権侵害に対する刑事罰は、最初から同等となる予定で、本法律は成立している。
  17. ^ TorrentFreak, Teen Arrested for Recording 20 Second Movie Clip, August 02, 2007
  18. ^ fightfilmtheft.org, STATE STATUTES PROHIBITING THE OPERATION OF A RECORDING DEVICE IN A MOVIE THEATER(2007年10月22日閲覧)

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年8月17日 (月) 10:13 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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