歯科医師過剰問題

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歯科医師過剰問題(しかいしかじょうもんだい)とは、主として歯科医師免許取得者が増加し、需要と供給のバランスが成り立たなくなる社会問題を指す。

目次

[編集] 概要

日本において、医科におけるあらゆる診療科全ての医師を養成する医学部の1年間あたりの卒業者数が7,500〜8,000人であるのに対し、歯学部単独で1年間あたりの卒業生が2,700〜3,000人であることからも歯科医師の供給が過剰であるといわれている。それに対し、主に少子化による人口減少や、予防教育などにより齲蝕になりやすい子供の数が減ったうえに、欧米諸国のように定期検診などで通うことが少ないため歯科医院への受診が減った。この結果、全国的に歯科医院の過当競争状態となり経営が悪化し、さらには倒産・廃業にいたる歯科医院が増え、特に都内では1日1軒のペースで廃院にいたっている。現在、全国統計でコンビニエンスストア店舗数より歯科医院数が多く(コンビニ数の1.4倍)、日曜診療や深夜診療を行う歯科医院が増えている。

厚労省の2005年医療経済実態調査などによれば、歯科開業医(1医院の平均歯科医師数は1.4人)の儲けを表す収支差額の平均値は1カ月当たり120万円程度。これを歯科医1人当たりの平均年収に直すと約737万円になるが、高額所得者は一部であり、5人に1人は年収200万円以下となっている。帝国データバンクによると1987年度 - 2004年度に発生した医療機関の倒産は全国で628件あり、その約43%(268件)を歯科医院が占めている。さらに100人中5人は申告所得が0となっている。 歯科の場合は、育成・開業費用等に他業種に比べて先行投資が多くなる。2007年度の厚生労働省による推定平均年収は、約737万円となっており、国民の平均年収444万円よりも遥かに多いが、多大な先行投資などが必要であることを考えると十分ではないとの声がある。一般に歯科医師は高収入というイメージが強く、それに比べて実際の平均収入は低く、年々下がる一方であるため、歯科医師のワーキングプアとしてとりあげる報道が増え、一部の歯科医師がニート的な状態にあるのが指摘されている。

政府は今後、歯科医の適正数などの調査を実施したうえで、抑制策の詳細をつめる。具体的には、歯大や歯学部の統合・再編を促して入学定員を早期に1割削減するほか、国家試験の合格基準を引き上げて合格者を絞り込む(第103回歯科医師国家試験(2010年)には新基準での試験実施を目指す)としている。

歯科医師の数は、保険診療を主体とした上で高収入が得られるという条件では人口10万人に対して50人が妥当とされている。

[編集] 経緯

う蝕(虫歯)が社会問題となりはじめ、歯科医療の充実が叫ばれつつあった1960年頃、日本には歯科医師養成大学が東京歯科大学日本歯科大学日本大学大阪歯科大学九州歯科大学東京医科歯科大学大阪大学の7校しかなく、国は歯学部の新設を推進した。そして1965年までにまず愛知学院大学神奈川歯科大学広島大学東北大学新潟大学岩手医科大学の6校に歯学部が設置された。その後1980年代前半にかけて歯学部が16校に新設・増設され現在に至る。2007年現在で、国立大学法人11校、公立大学法人1校、私立大学17校となっている。

詳細は「歯学部#歯科医師養成課程を持つ大学」を参照

以前より歯科医師過剰問題のひとつの要因として、歯学部新設・増設後に歯科受療率が横ばいから低下したのにもかかわらず、現存の歯学部歯学科の入学定員を減少させていないことが指摘されている。

この問題に拍車をかけたと考えられているのが、歯学部と定員数の増加である。 この定員数の増加は社会的要請にかなったものではない。国(厚生労働省)および日本歯科医師会は、大学に対して幾度かの定員減を要請しているが、実際の定員減はほとんど行なわれていない。

定員の合計は国公立が約500人(12大学)、私立が約2,500人(17大学)であるが、私立大学側からは、むしろ1970年頃から国の意向で創設・拡充した国公立大学の歯学部を統廃合すべきだという意見があがっている。しかし、歯科医師数の過剰感と歯科医師の収入低下、昨今の不景気、大学受験者総数の減少、医学部定員の増加、歯科医師国家試験合格率の低下、私立歯科大の高額な授業料などが要因で歯学部が受験生に不人気となり、2008年度大学入試から私立歯科大・歯学部の定員割れが目立ち始め、さらには一部にほぼ全入である大学も出始め、将来の歯科医師の質的劣化が懸念されている。

大学関係者の中には、学問の自由などを根拠に定員の削減等に反対する者もすくなくないが、歯学部ついては、公共性の高い専門職の養成機関でもあることから、定員・補助金・統廃合などに関して、相応の国策的な制約を受けることはやむをえないとする意見もある。

国としては歯学部の定員の削減を更に図ると共に、歯科医師国家試験の難易度を上げ、歯科医師免許交付率を下げることで歯科医師の過剰を抑制しようと考えている。事実、この施策を講じ始めた2004年度(第97回)の歯科医師国家試験は、合格率74.2%と史上2番目の低率となり、中には受験者の半数近くが不合格となる大学もあった。内訳としては、国立大学 590名(合格率 87.4%)、公立大学 76名 (82.6%)、私立大学 1,529名 (68%)。しかし、毎年輩出される歯科医師国家試験合格者数(第102回合格者は2383名)と厚生労働省が発表した現状歯科医師数を維持するに必要とされる歯科医師国家試験合格者数(約1200名)とが大きくかけ離れているため、結果的にそれを放置した形となった厚生労働省には非難する声もある。

歯科医師過剰問題のもうひとつの要因として、高齢の歯科医師が引退せずに診療をつづけていることが指摘されている。歯科医療行為の特性上(視力、手先の器用さ、瞬時に診断を下す頭脳、体力などが必要)、新しく国家試験に合格する者の人数を抑制するだけでなく、年配歯科医師の診療現場からの現役引退(歯科医師定年制)を促進する必要があると考えている歯科医療関係者は多い。なお、歯科医師定年制はドイツなどで導入されている。

[編集] 現状

歯科医師過剰により歯科医院数が増えることと歯科受療率の低下で、歯科医院収入は低下傾向にある。過当競争・予防知識の周知・再発率の低下・少子化による人口減少・格差社会による低所得者層の増大・先行き不安感などから、家計費における優先順位の低い傾向のある歯科医療費は、減少傾向にあり歯科医院収入の低下が問題となっている。

歯科業界においても、一部の医院から収入の低下が認められ、経費節減のため診療時間外に技工作業等を行うことによる労働の長時間化も認められる。また悪質な歯科医院では歯科助手などに違法な診療をさせて人件費を節約するケースもある。

また、現在の治療ありきの保険点数制度も経営を圧迫していると指摘されている。う蝕(むし歯)や歯周病生活習慣病の一つであるといっても過言でないことから、歯科において重要なのは治療よりも予防である。そして生活習慣病である以上、生活習慣の改善つまり正しい食習慣とブラッシング(指導)習慣、フッ素・キシリトール入りガムの使用などによって概ね予防が可能であることも事実である(外部リンクのフィンランドの歯科事情等参照)。

ところが一般的に、緊急性や即時に命にかかわる可能性の低い歯科の予防的(原則として生活習慣の改善に向けての暫定的な)通院を、日常生活において低い優先順位と位置づけて(軽視して)しまう人々は多い。国民のQ.O.Lの向上と口腔衛生への意識向上、そして歯科医院の収入安定・収入向上のためにも予防関連の診療行為をもっと評価し点数を配分するべきであるという意見もある。

なお、生活習慣病に対する合理的な評価方式は、疾患の発生率・再発率の低下に比例して、点数(医療機関の収入)が増加するような一種の定額方式(人頭払い制など)であると考えられている。しかし、定額制では、真に必要な診療まで控えられる可能性も否定できないため、日本の歯科保険制度においては出来高を基本としつつ、各種の指導・管理料等により定額制への移行を試みている段階にあるとみられる。ただし全般的に低い点数であるため、その効果を十分ではないとする声もある。

前述した歯科受療率の低下は、歯科医師をはじめとした歯科医療関係者がう蝕(むし歯)の治療に尽力した結果といっても過言ではない。しかし、う蝕予防や歯周病予防・治療にも積極的に取り組み、口腔衛生についての国民の理解を得る努力をもっと早期にはじめていれば、歯科受療率の低下はもう少し抑えられたであろうという意見もある(受診率低下の一部は、予防知識の普及・生活習慣の改善・歯科医療関係者の予防に向けての努力によってもたらされたものでもあるのだが) もちろんある程度のレベルまでは、歯科医療関係者の努力に比例して、真に治療・生活習慣の改善が必要な患者の受診率の低下を抑えられたかもしれない。

しかし、歯や口腔に対して、どの程度の関心や費用を割くか(割けるか)というのは、国民性・価値観・経済力などにも左右される面があり、民意の集大成・結果である低医療費政策の現状から見る限り、ある程度の限界があると言わざるをえない。

また、歯科医院の経営を圧迫している他の要因として、30年前と比較して物価が上がっているにも関わらず、その頃より保険点数が下がっている点である。結果として歯科医院の診療報酬が相対的に落ちていると考えられている。

[編集] 患者から見た歯科医師過剰問題(保険制度の問題)

患者消費者)の見地から考えると、歯科医師過剰問題が話題に上がることによって、自身が罹る歯科医師を見極めることになり、また歯科医師業界においても競争原理が働くことになり、個別的にみれば医院同士の切磋琢磨も促されるように考えられるため、一見それほど悪いことにないように見える。しかし、現状のような過剰ともいえる状態では、一歯科医院の収益状況が悪化すると、コスト削減のために「衛生面など安全管理の不徹底」、「過剰診療」、「過剰請求」、「人件費を抑えるための助手等による違法診療」などが起こる可能性もある。

保険制度は、元は鉱山労働などの危険な事業に就く労働者の組合から始まり、貧しい国民が一人でも多く医者にかかれるように当初は極めて低料金であった。その後、国民皆保険になり、医科の方は命に関わることと、医師会自身の努力があって概ね診療行為に見合う点数が与えられてきたが、歯科の方は(短期的・直接的には)命に関わる事は少なく、国も手が回らなかったということもあり、また歯科医師会も保険点数を診療行為に見合うものにするような地道な努力をしないで自費などで補うという形をとってきた(自費にかかわるトラブルは、比較的多い)。しかし歯科医師過剰のなかにあって、かつてのような薄利多売的な経営方針が破綻し、自費収入が減少している事情から、料金の適正化を望む歯科医師側の声もある。

一方、社会保険庁には総点数・平均点の高い歯科医院を指導の対象とする主に財政的な事情に基づく選定基準があることから、保険医が保険診療・請求を手控える傾向にあり、必然的に格差社会における低所得者層などにそのしわ寄せがくることとなる。また指導内容・基準が統一されていないためか、それが技官に徹底されていないためか、指導内容に地域差等も認められ、技官の恣意性や不公正な指導を許すこととなっている。

また社会保険庁の医師や歯科医に対する恫喝的な指導・監査により、これまでの地域貢献を否定されたり、不合理な自主返還を迫られたりするなど不利益処分を受ける可能性が指摘されており、参議院厚生労働委員会でも舛添厚労大臣が、「そういうことがあってはいけない。指導は懇切丁寧にやる。監督官だけじゃなく第三者・学識経験者などがついて暴言を吐くようなことは許さないシステムになっているはずだ。しかしそれが機能していないということは大変ゆゆしいことであり(今後このようなことが起きないように)きちんと指導していきたい」と答弁している。

しかし、単なる口約束ではなく、より公正で信頼される医療制度を目指すためにも、立会人制度、指導・監査現場のビデオ撮影、必要に応じて司法当局へのビデオ等の提出義務、義務違反者への制裁など抜本的な指導・監査制度の改善が望まれている。 なお立会人については、現在でも歯科医師会推薦の立会人が2人以上いるものの、技官との力関係などから、通常は技官側の立場をとらざるをえず、本来の立会人としての働きができないといったジレンマも聞かれる。 こういった状況の下、厚生労働省の田中智也医療指導監査室長補佐は、全国保険医団体連合会の要請に対し「国民の権利を守る弁護士の同席はやむをえない」「録音も拒否しない」と述べ、指導時における弁護士帯同・録音についても認めた(2007年11月)。

また個別指導や監査については、地方ほど行政や歯科医師会に批判的な者や歯科医師会非会員が標的にされ恣意的に行われると考える歯科医が多い傾向があることから、主に個別指導や監査逃れのために、数百万といった高額な入会金を払って歯科医師会に入る者もおり(歯科医師会を通じて行政にパイプをつくるため)、これを裏付けるかのように、都心から地方の地域にいくにしたがって、歯科医師会への入会率が高くなる傾向が認められる。行政の指導・監査についての情報開示(歯科医師会員・非会員の個別指導・監査率など)が不十分なこともこの傾向に拍車をかけている。 一方で歯科医師会への入会率・組織率の低下は、圧力団体の弱体化・歯科医師全体にとって不利益となる可能性もあることからデリケートな問題でもある。

行政側は、責任問題が波及することを恐れるあまり自らは非を認めにくいということは、しばしば指摘されている。こういった様々な事情から、恫喝指導などによる被害者の大半は泣き寝入りすることとなり、結果的に抜本的な指導・監査制度の改善がなされることなく、同様の被害が周期的に繰り返されるという反省から、被害者を中心とした訴訟を起こすことなどでこれら様々な事情を踏まえた上での客観的な立場に立った真相究明や公正な判断を仰ぐことも必要とされている。

また指導医療官への贈収賄事件も起こっており、国民の医療への信頼を裏切ったことから、厚生労働省の辻事務次官は記者会見で「本当に遺憾で、事実なら情けないの一語に尽きる。捜査に全面協力し、厳正な処分を行いたい」と述べ、「──医療機関の監査に携わる全ての職員に綱紀を遵守し、監査を厳正に行うよう指示した」との厳しい姿勢を示している。特に疑惑のある技官等に対しては重点的に、指導時の記録などを開示請求し、例えば技官等と関係の深い病院・医院とそうでないところを比較検証することで審査情報等の漏洩疑惑を含めて公正な返戻・指導等が行われているか否かを監視する一助となる。厳しく返戻・指導などを行っていると評判の技官等が、一方で自らと関係の深い病院・医院では甘い審査等を行うことで結果的に医療費が無駄に使われていること(背任罪)も否定できないことから、さらなる監視・疑惑解明・再発防止・制度改善が必要である。

特に指導・監査の公正を図るため、1指導医療官が当事者の親族であるときは、近接地などの医療官が代わりに行う。2指導医療官について不公正な事由がある場合に、当事者からの申立てによってその医療官を担当から外す。3、1や2の原因があると考える場合に、指導・監査に関与することを自分から避けることができる。といった制度改善は急務である。

皆保険制度のもとでのこのようなしくみは、WHO(世界保健機関)が世界で最も高い総合評価(質の高さ・費用の安さ・利用しやすさなど)を与えた一因であるとする説もある。ただし、実態からかけ離れたといわれる点数・要件設定は、歯科医側の過剰請求・不正請求に対する罪の意識を失わせ、大義名分を与えるような心理効果をもたらすため、その料金抑制効果を疑問視する声もある。またこれらの事情は、どの程度の不正請求に対して、どの程度の違法性が問えるかという法的な問題にも影響してくる。一方で社会保険庁等には、主として料金抑制のためのノルマが課せられており、ノルマ偏重主義の弊害が危惧されている。

いっそのこと基本的な診療領域で適正な料金設定をした上で、なお予算が足りない領域は完全な自費診療とすることによって、自由市場と競合しない(自費・民間領域を圧迫しない)公的保険診療と民間自由診療の完全分離型(必要に応じて民間保険の活用)を採用することが、一般的な先進国に近い(実態に合った)料金体系が実現しやすく、患者・歯科医師双方の信頼関係を妨げる料金に対する誤解・あいまいさを解消する早道と言える。しかしそうすることによって現在の皆保険制度の利点が失われてしまう可能性も高いことから慎重な検討が必要であろう。

一般に歯科医師は、この歯科医師過剰問題に対し歯科医師会などを通じ「歯科医師過剰による治療の劣悪化」をとなえる。これは自身の競争激化、所得減少を恐れた詭弁に過ぎないという患者側の意見もある。

[編集] 歯科医師から見た歯科医師過剰問題

歯科医師の場合、歯科診療の性格上(細かい作業・姿勢などによる目・肩・腰にかかる負担や切削器具による粉塵問題など)中年期以降の仕事量が落ち込む傾向にあること、開業医の場合は、経営者としてのリスク・開業資金なども負うことから、所得水準が高くなっている。

また「歯科医師は一般的に、一握りの経営能力に長けた(営利追求型の)歯科医や資産家の派手な暮らしぶりにより、歯科医全体が儲かるという誤ったイメージが伝わっていることから、不当な批判を受けている」と歯科医師達は主張している。

歯科医は儲かるというイメージがあるが、全体的な実情は 1か月あたりの医院の収支差額(いわゆる儲け)の平均値は、120〜130万円(一医院あたりの平均歯科医師数は約1.4人)である。これは平均年収に換算すると1028万円となる。一般的には3000〜5000万円の開業資金が必要な経費として先行投資されており、現状では回収が困難となることもあり、その上退職金や老後の年金まで準備するには、困難を伴うとも言われている。

このような状況から、歯学部入学希望者は減少傾向にあり、2009年入学試験においては私立歯科大学への受験者総数は前年に比べ約2800人減少し4973人(延人数)となった(前年比、約36%減少)。その結果、国公立大学歯学部の1学部(1名欠員、北海道大学歯学部、辞退理由は私立大医学部医学科に進学のため。辞退時期が遅すぎて大学側で欠員補充できず)、私立大学の11学部で定員割れが生じている。中には北海道医療大学歯学部(欠員率31.3%)、岩手医科大学歯学部(欠員率25.0%)、奥羽大学歯学部(欠員率44.8%)、日本歯科大学新潟生命歯学部(欠員率40.6%)、松本歯科大学歯学部(欠員率43.8%)といった欠員率が25.0%以上となる学部もあった。(読売新聞2009年4月18日夕刊など)

[編集] 地方の歯科医師不足問題(無歯科医地区問題)と歯科医師偏在

このような、供給過剰が問題として浮かび上がる中、地方では深刻な歯科医師不足に悩まされている。厚生労働省の「平成16年度無医地区等調査・無歯科医師地区等調査の概況」によると、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に歯科医療機関を利用することができない地区(無歯科医地区)は、46都道府県中40府県に1046箇所存在しており、無歯科医師地区の人口は全国で29万5千人である。たとえば、北海道に継いで無歯科医地区の多い広島県では、過半数の市町村に無歯科医地区がある(広島県中山間地域医療情報ネットワーク資料より)。 さらに、全国的にみて無歯科医地区および人口は、医師のいない無医地区787箇所、無医地区人口16万5千人よりかなり多い。医師は不足、歯科医師は過剰といわれている中、この逆転現象は「偏在」が歯科医師過剰問題のもう一つのキーワードであることを強く示唆している。これら無歯科医地区では、自治体が診療所や助成金を用意して懸命の誘致を行っているケースもあるが、都市部に偏在した歯科医師を確保するのは依然困難な状況にある。

また、地方では長期的に見れば投下した学費や開業費用などを回収する見込みが立たないこともあり進出が難しく、リスクがあっても都市部で開業せざるをえない事情もある。かつて薬局や銭湯が競合と偏在を避けるために配置基準(距離基準)が設けられていたように、都市部に歯科医師が偏在すれば、地域的な供給過剰や過当競争が発生するのは必然であり、過剰問題と偏在問題については緊密な関係が認められるため、総合的な解決策が望まれる。

[編集] 世界的な水準から見た日本の歯科医療の現状

患者側の要望・医師側の要望については、双方理想を言えばきりがない面もあるのでまずは、客観的かつ国際的な基準から考えていく必要がある。世界保健機関(WHO)によれば、日本の医療は、世界で最も高い総合評価(質の高さ・費用の安さ・利用しやすさなど)を得ている(これは、歯科を含めた総合的な医療制度に対する評価である)。この基本的な要因は、民間資本を利用して医師養成から開院までを行い(歯科医の約7割が私立大学・大半が民間の歯科医院)公的な料金・要件設定(公的保険診療による収入が全体の約9割を占める)で料金等を統制・抑制している点にあると考えられている。

しかし、現在の客観的・国際的評価(歯科も含めた医療における世界で最も高い総合評価(質の高さ・費用の安さ・利用しやすさなどWHO(世界保健機関)は、更なる厳しい査定や萎縮診療がおこなわれれば、悪質な歯科医師による手抜き・消毒の不徹底・人件費を抑えるための助手等による違法診療などが起こる可能性が増大し、結果として日本の医療の総合評価に悪影響が出るのではないかともいわれている。

一般の業種では競争原理が働けば、顧客にとってサービスなどの対価を低く抑えることができると考えられるが、日本の医療保険制度下においては、保険診療の占める割合が多く(歯科では、約9割)、価格は保険点数により定められており、このような保護市場では競争原理は機能しにくい。 歯科医師過剰において一歯科医院あたりの患者数が減少すれば、収入を確保するために、過剰診療や過剰請求などを行おうとする低モラルな歯科医師が増加する可能性があり、患者側のメリットとなる予防、早期治療、再発防止などによる医療負担軽減効果は期待できない。

歯科の場合は、

  • 小規模な個人開業医が多数を占めるため診療・研鑽・経営等の負担が過重になる傾向があること
  • 予防・早期治療・再発防止などに重点を置くほど利益が上がらなくなり経営を圧迫するという出来高制の矛盾が指摘されていること
  • 経営優先の重圧感がもたらす悪影響(患者に分かりにくい範囲での治療の劣悪化など)も軽視できないこと
  • 消費者である患者からの医療の質に対する評価が、必ずしも容易とは言えない(安かろう悪かろうといった判断がしづらい)こと

などから、供給過剰であるほど低廉な費用で良い治療に直結するとは、容易にならないところに歯科医師過剰問題の難しさがある。

また、医師と違う点は、医師に比べて過剰状態にあることであり、現在開業後3年目に約30%の新規歯科医院が経営的危機、閉鎖している。既存医院の競争(窓口負担の値引き等)も認められる。

札幌では、自己負担「無料」をうたい文句に患者を集めたり、新患を15人程度増やした患者に「報酬」を支払ったりする医院が問題となっており、これらは事実上の薄利多売的な営利活動とみなされることから、医療法に抵触する恐れもある。厚生労働省北海道厚生局は、患者が自己負担分を支払うことを定めた健康保険法に違反すると判断し、歯科医院に対し文書で改善を指導する方針を明らかにした。改善指導に応じない場合には、保険医の指定が取り消される可能性もある。

[編集] 今後の対策

これから先、日本は急速な少子化などから人口減少社会に突入し、歯科受療率も下降の一途を辿っていることも考慮すると、日本歯科医師会・全国保険医団体連合会・厚生労働省における政治的解決を含む対策をとることにより、現在の保険制度を実態に沿って、例えば以下のように改善していく努力を続けていくことが大切であろう。

  1. 国民に保険制度の現状・問題点を理解してもらう。国民の自発的な健康への意識改革(早期治療・健診(歯科検診)・予防)を促すことで、より良質で安価な医療制度を追求する。
  2. 患者や歯科医が、互いの要望や理想を押し付けあうだけでなく、草の根・市民レベルで互いの事情を理解し合い、現実的な歯科医療政策に反映させていく場も必要であると考えられる。
  3. 国公私立大学を問わない入学定員の削減(募集人員の停止・統廃合を含む)
  4. 大学教育等における時代に求められる歯科医師の育成及び国家試験における厳格な選別及び歯科医師免許の更新制による定期的な選別。
  5. 必要・合理的な範囲内での医院適正配置規制、健全な医院経営の推進により適正・良質な歯科医師数を維持し、国民の保健上の弊害(コスト削減のための消毒の不徹底・過剰診療など)を防止し過剰請求も抑制する。 加えて医師のように幅広い活躍が期待できないために医師以上にシビアな需給予想・対策が重要となる。
  6. 限度を超えた低料金の適正化により患者がコスト意識をしっかりもてるようにして、より低額な早期治療・予防へと意識転換し(将来の)無駄な受診を控え、医療費抑制につなげるという考え方のある一方で、自己負担金については、元来財政上の必要からという側面と必要以上に医者にかかることを防ぐという側面があり、ただでさえ心理的なハードルの高い傾向のある歯科などの診療科については、その効果を検証した上で、自己負担金を減額(無料も含む)するべきであるという考え方もある。

また8020(80歳で20本以上の自分の歯を持つ)達成者と非達成者でかかる医療費を調査した結果、達成者に比べ非達成者が診療報酬点数で20%以上高かったというデータもあり、歯科医療費(全体の約9%)の微増(手厚くすること)が、全体の医療費を引き下げるテコのような働きをすることを示唆している。また歯を失う原因の約8割は歯周病によるものであり、歯周病は早期に治療するほど歯を残せる確率が格段に上がる。しかし、早期には自覚症状が出にくいことから、放置されることが多い。こういう点からも、窓口負担を軽くして受診を促進することや定期健診の保険導入は歯を喪失しにくくする上で極めて重要と言える。

また保険医協会では、窓口負担ゼロ運動を行いつつある。つまり、日頃から病気や怪我に備えて、保険料・税金などを払っているのであれば ヨーロッパ諸国やカナダ、オーストラリアなどと同様、受診時の患者負担は原則無料にすべきという考え方である。日本の医療費水準は経済規模に比べて極めて低く、OECD(経済協力開発機構)30か国で22位に過ぎないことから、医療の進歩と高齢化に応じた経済力に見合う医療費を確保することが不可欠である。

加えて現状の問題点として以前から指摘されていることではあるが、日本人の約9割は、痛くなったり自覚的な問題が起きないと受診せず、ひどくなってから(ひどいところをためておいて)受診する傾向が高い。日本の医療制度は、出来高払いだから、治療の程度が重くなるほど点数も上がる。結果、欧米よりはるかに料金設定が安くても、一人当たりの平均歯科医療費が高くなりがちとなる(当然ながら多少の地域差・患者層の差はある)。

受診を我慢して病気が重症化する方が、結果的に医療費は高くつくことになることから早期受診・早期治療こそ、医療費を抑える効果的な方法と言える。必要最小限の定期健診は、義務化(罰則なし)するとさらに効果的となる。こういった政策が実現すれば、医療の充実化と受診を活発化することで歯科医師過剰問題をも一挙に解決する可能性を持っている。

なお、より適正かつ合理的な診療要件・料金設定については、例えば、厚生労働省内にある公務員向けの歯科診療所などを活用し学術団体の指導医の資格を持つ者、歯科医師会、保険医協会などの団体から派遣された者がその妥当性をチェックしつつ診療内容ごとの平均的な所要時間・カルテ記載時間・診療水準・経費などに基づいてより実態に即した診療要件・点数を設定するといった方法が提案されている。

また、現時点では実現可能性は薄いが、この問題を解決する手立てとして歯科医の医療の範囲を広げる事が検討されている。医科の診療科である「麻酔科」、「放射線科」、「精神科」などである。医師不足と歯科医師過剰の両方を解決する画期的な方法ではあるが、医師会その他からの大きな反発や、技能をどのように育成するのかなど数多くの問題をはらんでおり早急な実現は難しい。しかし、人的資源の有効活用という観点から歯科医師に対する十分な研修強化と医科における麻酔医のような法定の歯科麻酔医制度設立等が望まれる。

歯科医師の質の向上を目指すため、文部科学省の有識者会議は2009年1月30日、歯科医師国家試験の合格率が低い大学などに対し、入学定員の削減を求めていくとする提言をまとめた。 臨床実習の終了後に実技試験を必ず行うことも求めている。

歯科医師を目指す学生が学ぶ大学は現在、27大学(29学部)あるが、私立大学を初めとして昨年までの5年間 に10大学で入学志願者がそれぞれ3分の2に減少。2008年入試では3大学が定員割れだった。また合格率が40%台という大学も二つあった。

有識者会議は「志願者の減少で優れた学生が確保できなくなっている」と指摘したうえで、国家試験の合格率が毎年低い大学や臨床実習に必要な患者を確保できない大学について定員削減を提言。これを受けて、文科省は各大学に対し、自主的な定員見直し計画を2010年度中に提出するよう求める。

また、有識者会議は、質の高い教育を実現するため、臨床実習に必要な単位数を国が明確化することや、臨床実習後に実技試験を行う必要性も指摘した。 保険制度について初診料という点で見ましても、点数制度で医科が270点、歯科が180点という格差がある。 それから再診料においても、医科が71点、それに対して歯科が38点。しかし労災では医科、歯科の格差は無い、つまり制度上点数に格差に存在する理由は無いのです。現在歯科医は約2万人過剰と言われております。年3千人増加したとすると10年で3-4万人は過剰が予想されます。もし歯科が医療の中で必要で将来存在するなら、過剰な歯科医の職業の範囲を広げ(現実には医科の病院の中で歯科医が麻酔を行っている事を合法化するような)、アメリカと同じ様に自費の範囲を広げ、例えば抜髄約5千円を約5万円に(臼歯)入れ歯約3万を約10万以上にクラウン約7千円を7万位に収入増加させ、保険制度から外す事により必要有る患者だけが受診すればよい制度とし自由競争の中で存在すれば良いのではないでしょうか。現在の保険制度では1日20-30人患者診療しないと成り立ちません。3万人も過剰になったとしたら5-10人で採算を取らなければならない事となり、アメリカの5-10人診療で採算取れるシステムが必要となります。(アメリカの治療費に近づける)歯科が保険制度から外れれば指導技官不要となり政府の経費削減が可能になります。メガネやコンタクトが保険証で作れません。義歯が保険証で作れる必要が有りますか?

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年11月9日 (月) 21:57 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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