海兵隊
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海兵隊(かいへいたい、英: Marine)は多くは海軍の一部門であり、海戦に於ける接舷戦闘、或は地上戦を担う軍事組織である。海軍麾下となっている組織のほか、軍としての独立性を持つアメリカ海兵隊、陸軍所属のフランス海兵隊のように、所属や規模は国によって異なる。同様の組織に対する呼称としては海軍歩兵(露)や海軍陸戦隊(日台)がある。
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[編集] 概要
中世ヨーロッパの艦船[1]には敵の船体を破壊するような艦載砲は装備されておらず、初期の海軍は陸上部隊を運ぶ輸送船団であり、この時代の海戦とは兵士を乗せた船同士が遭遇した際に行なわれる接舷戦闘であった。艦船に大口径砲が装備されて水上艦同士の砲撃戦が行なわれるようになり[2]、海軍が陸上部隊の輸送以外の任務を持つようになると、それらの艦船に接舷戦闘や上陸戦闘を行なうために海軍が組織した歩兵部隊、或は陸軍部隊を乗り込ませるようになった。これが海兵隊の始まりである[b][c][d]。
古い海兵隊が創立されたのは16世紀から17世紀であるが、その頃の海兵隊は陸軍歩兵の制服を着用していた[e][f][3]。 これらのことは、これらの海兵隊やその後それらを手本に創設された部隊が、陸軍に近い規則や服装を現代でも採用している例が多く見られる理由にも挙げられる。
艦砲等の対艦兵器が発達していなかった時代は接舷戦闘が海戦に於て大きな位置を占めており、海兵隊はその任務を担っていた。また、欧米が海外に多くの植民地を抱えるようになると、植民地警備の軍艦に乗り組んだ海兵隊が紛争の起こった地域に上陸して戦闘を行なった。対艦兵器が発達した現代においては主に艦内警備、港湾守備などのほか、水陸両用作戦や強襲作戦など、陸海空の兵力を連携した統合作戦が主な任務となっている。困難な任務が予想されるため、志願制を取る組織が多く、徴兵制の部隊と比較した場合、士気が高いとされる。
世界で最も古い歴史を持つのはスペイン海兵隊であり、最大規模のものはアメリカ海兵隊である。海兵隊の名称や所属は、国や時代によって異なるが、海兵隊を常設していない国家では陸軍が舟艇部隊を組織したり、海軍が陸戦隊を組織する。また、海兵隊の定義とはやや異なるが、海軍が戦闘や予算削減により艦艇を失うと、陸戦部隊になる場合がある。
イギリス、オランダ、イタリア、ベトナム、イスラエル、レバノンなどの海兵隊は、特殊部隊化している。韓国、台湾などの海兵隊は米海兵隊を模範としている。韓国、台湾の海兵隊は自国領内に侵攻してきた敵部隊の背後に奇襲をかける逆上陸作戦を念頭に置いている関係で、特殊部隊としての任務にも力を入れている。
装備はその国の海兵隊の任務により異なり、最新鋭の装備が配備される場合もあるが、やや旧式でも実戦的で信頼性に富む兵器を長期間使用する例もある。[m]
[編集] 各国の海兵隊
[編集] イギリス
詳細は「イギリス海兵隊」を参照
イギリス王室海兵隊(ロイヤルマリーン)は、帆船時代に敵の船に乗り移り、マスケット銃や刀剣で戦闘する白兵戦部隊が起源となる。大航海時代のイギリス海軍の中でも荒くれぞろいとされており、植民地の獲得では港湾の占領や警備にも従事した。また、要人警護や、強制徴募された士気の低い水兵の風紀維持など、憲兵としての役割も果たしている。
当時、海兵隊を含むイギリス海軍の水兵は原則として志願制だったが、生活環境が悪く過酷な軍艦生活を志願する者は少なく、水兵については強制徴募(プレス・ギャング)も行なわれた。これは、士官を長とする数名の下士官兵で編成された強制徴募隊が、港町にいる漁師や商船乗組員、浮浪者などを軍艦に徴募するもので、身元引受のある者や、イギリス東インド会社船員などを除いて、強制的に水兵として海軍の過酷な軍規の下に置かれた。強制徴募から数日以内に自発的に海軍の勤務を希望した者は、志願兵としての待遇が与えられた。当時植民地だったアメリカでも強制徴募は行なわれており、こうした強制徴募兵が、不平不満から反乱の温床とならないよう、海兵隊は取り締まりに従事した。海兵隊員は海軍に属しながら、陸軍と同じような軍規で行動し、戦闘中は、配置を無断で離れる水兵を射殺する権限を与えられるなど、督戦隊としての任務も担っていた。
現在のイギリスは沿岸警備隊が捜索救難任務に特化しているため、海軍が海上での警察権行使を担当する。海上警備では、強行接舷を実施するため、海兵隊はその中核となって活動する。イギリス海兵隊のSBS(特殊舟艇部隊)は特殊部隊として活動している。
[編集] アメリカ合衆国
詳細は「アメリカ海兵隊」を参照
アメリカ海兵隊は上陸作戦、即応展開などを担当する外征専門部隊である。世界の海兵隊の中で唯一、独立した軍となっており、現在のアメリカ軍では陸軍、海軍、空軍に並ぶ4番目の規模となる。ただし、陸海空軍には元帥位があるが、海兵隊の階級には元帥位が設定されていない。
アメリカ海兵隊はヘリコプターのほか、戦闘機や攻撃機による独自の航空部隊を保有し、他軍に依存せず航空支援任務を実施できる。アメリカ海兵隊が国外で行動する場合、議会の承認が必要な他軍と異なり、大統領命令のみで作戦を実施できる。アメリカ海兵隊はホワイトハウスや在外米国大使館での警備及び儀仗任務も担当しており、大統領専用ヘリの運用も担当する[p]。
アメリカ海兵隊の出発点はアメリカ独立戦争の際、酒場で募兵を行い、対イギリス海軍用に整備された大陸海兵隊である。アメリカ海軍と共に独立戦争後には予算削減のため廃止されたが再編され、その後も平和な時代には何度も廃止の危機にあったものの、海賊退治や税関の強行摘発、沿岸警備隊などに協力して存続した。
第二次世界大戦の上陸作戦でも活躍しており、現在のアメリカ海兵隊は独自に戦闘機、戦車などを保有し、海軍の強襲揚陸艦により水陸両用作戦を行って橋頭堡を作ることができる。海兵隊の主任務は水陸両用作戦であるが、ベトナム戦争においても活躍した。徴兵制が実施されていたベトナム戦争当時でも、アメリカ海兵隊に関しては全員志願兵だった[n][o]。
[編集] ロシア
ロシア海軍の歩兵部隊は、日本語で「海軍歩兵」(Морская пехота России)とも呼ばれる。もともとロシア海軍は、陸軍を補佐する沿岸防衛海軍という考え方が強く、海軍歩兵も地上部隊の一つとして地対艦ミサイル、長距離砲、沿岸レーダーを装備して海軍の支援任務に主眼が置かれている。艦艇を失った海軍軍人を海軍歩兵として運用することが多いため、アメリカ海兵隊のように独立した軍種にはならず、海軍の歩兵部隊という地位に留まっている。
第二次世界大戦においては艦艇を失った多くの海軍軍人が地上部隊として同部隊に配属され、対ドイツ戦で活躍したが、戦後、海軍歩兵部隊は廃止された。海軍歩兵部隊が復活したのは1960年代になってからであった。
実戦経験は豊富であり、内陸で行われたアフガニスタン戦争やチェチェン紛争においても出動している。また、陸軍、空軍にも存在するスペツナズと呼ばれる特殊部隊も保有している。
[編集] フランス
フランスの海兵隊は歴史的に英国、米国、ロシアのとはやや異質で、組織としては陸軍の海兵隊(Troupes de marine)と海軍の海軍歩兵部隊(Force maritime des fusiliers marins et commandos:通称FORFUSCO)の二つがある。
Troupes de Marineは1622年にリシュリューの発案で編成された植民地警備部隊で、元々は海軍の指揮下にあったが、各地の植民地が次々に独立していったために1967年には陸軍に移管された。歴史的経緯から「海兵」と名乗っているもので、上陸作戦能力は無く標準的な陸軍部隊となっている。部隊は歩兵8個連隊と6個大隊、落下傘歩兵4個連隊、砲兵3個連隊、戦車2個連隊、1個混成連隊からなる。第9海兵軽機甲旅団を中心に陸軍の主要な戦闘旅団にも海兵連隊が配備されているほか、多数の連隊ないし大隊がフランス領ギアナやフランス領ポリネシアなどの海外領土及びジブチやガボンなどの旧フランス領アフリカ諸国に展開しており、かつての植民地の防衛、警備任務の伝統を継いでいる。海外領土に展開している部隊の場合は、現地住民も入隊できる。
FORFUSCOは規模こそ小さいが本来の海兵隊(海軍歩兵)であり、こちらは基地と艦艇の警備を担当する海洋歩兵(Fusilier marin)及びコマンド作戦を行う海軍コマンド(Commando marine)で構成されている。
[編集] イタリア
イタリアでは、海軍に所属するサンマルコ両用戦連隊(サンマルコ海兵隊、Reggimento "San Marco")と、陸軍に所属するセレニッシマ上陸強襲連隊(Reggimento lagunari "Serenissima")が上陸戦を担っている。
[編集] スペイン
[編集] ギリシャ
ギリシャの海兵隊は陸軍に属している。
[編集] スウェーデン
スウェーデンでは海軍沿岸砲兵部隊を改編した海軍水陸両用軍団が上陸戦を担っている。
[編集] 中華人民共和国
中国人民解放軍の海兵隊は、人民解放軍海軍に所属する海軍陸戦隊である。人民解放軍海軍陸戦隊は2個旅団あり、比較的規模が大きい。また、人民解放軍陸軍も独自の上陸作戦部隊を保有しているが、海兵隊や海軍歩兵とは称していない。
[編集] 中華民国(台湾)
台湾では海軍に属している。海軍陸戦隊(英語:Republic of China Marine Corps:通称ROCMC )が正式名称である。
[編集] 大韓民国
大韓民国にも海兵隊(英語:Republic of Korea Marine Corps [ROKMC] 韓国語:대한민국 해병대)が存在しており海軍に属するとされる。
[編集] インドネシア
[編集] コロンビア
コロンビアの海軍歩兵(Infantería de Marina Colombiana)は、3個旅団が編制されており、コロンビア海軍の傘下にある。
[編集] 日本
旧日本海軍は、1871年(明治4年)から1876年(明治9年)の間だけ、英国海軍を模して「海兵隊」という名の戦闘部隊を保有していた。砲兵科、歩兵科、楽隊、鼓隊で構成されていたが、使用目的が不明確であり、国家財政の逼迫から廃止となった。海兵隊廃止後は必要に応じて艦艇の乗組員を武装させ、臨時に陸戦隊を編成した。のちに陸上戦闘専門の特別陸戦隊を創設し館山砲術学校で兵員を育成したが、上陸戦部隊というよりも占領地の警備部隊としての性格が強いもので、上海海軍特別陸戦隊などがある。また太平洋戦争末期では、多くの海軍将兵が地上戦要員として港湾や飛行場の守備にあたった。1940年(昭和15年)ころには陸戦隊関係者から海兵隊復活の提言もされていたが、採用されなかった。(詳細は海軍陸戦隊参照)
旧日本陸軍では、船舶部門の中心地の宇品港(現広島港)付近に所在する第5師団(司令部:広島県広島市)が、上陸戦部隊としての性格をもっていた。日本陸軍は「特殊船」と呼んだ揚陸艦や上陸用舟艇である「大発動艇」など多くの船舶機材、船舶工兵や船舶砲兵などの専門部隊(陸軍船舶兵)を保有しており、海上機動力は諸国の陸軍と比較して大きかった。第二次世界大戦中には、敵前上陸専門部隊である海上機動旅団や、「海洋師団」と呼ばれる限定的な上陸作戦機能を有する歩兵師団なども編成した。
第二次世界大戦後に旧軍が解体され、自衛隊が創設されてからは、海兵隊と名のつく部隊は存在していない。
陸上自衛隊の第13旅団(広島県海田町)は、有事の際は日本全国に増援のための揚陸作戦を行う「機動旅団」としての性格付けがなされており、その輸送を担当する海上自衛隊はLCACホバークラフト揚陸艇を搭載したおおすみ型輸送艦を呉基地に集中配備している。北方機動特別演習の際には、第13旅団が呉基地からおおすみ型輸送艦に乗り込んで海上機動訓練を行っている。また、陸上自衛隊の離島防衛部隊である西部方面普通科連隊は、海と空からの侵入、強襲能力を持つ。
[編集] 脚注
- ^ 当時は軍艦と民間船の線引きも曖昧であったため、「艦船」と表記した。
- ^ 最初に艦船へ艦載砲を装備したのは16世紀イングランド海軍であり、ヘンリー8世の発案による。[a]
- ^ 陸軍に制服が導入されたのは17世紀であるが[g][h][i]、海軍士官に制服が制定されたのは18世紀中頃であり、水兵には1850年代(1953年[j]や1957年[k]等諸説がある。)まで制服が無かった[l]。
[編集] 参考資料
- a b 小林幸雄 『図説イングランド海軍の歴史』 原書房、2007年1月。ISBN 978-4-562-04048-3。
- c m n p 上田信 『U.S.マリーンズ ザ・レザーネック』 大日本絵画、1996年9月。ISBN 978-4-499-22665-3。
- d f Philip J Haythornthwaite; William Younghusband; Martin Windrow (1993). Nelson's navy : text by Philip Haythornthwaite. London: Osprey. ISBN 978-1-85532-334-6.
- e William Fowler; Paul Hannon (1984). The Royal Marines 1956-84. London: Osprey. ISBN 978-0-85045-568-7.
- g リチャード・ブレジンスキー 『グスタヴ・アドルフの歩兵 : 北方の獅子と三十年戦争』 小林純子訳、新紀元社、2001年6月。ISBN 978-4-88317-881-0。
- h ルネ・シャルトラン 『ルイ14世の軍隊 : 近代軍制への道』 稲葉 義明訳、新紀元社、2000年。ISBN 978-4-88317-837-7。
- i Michael Barthorp,New Orchard Editions by Poole, Dorset (1982). British infantry uniforms since 1660. New York, N.Y.: Distributed by Sterling Pub. Co.. ISBN 978-1-85079-009-9.
- j 辻元 よしふみ,辻元 玲子 『スーツ=軍服!?―スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!』 彩流社、2008年3月。ISBN 978-4-7791-1305-5。
- k 田所昌幸 他 『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』 田所昌幸、有斐閣、2006年4月。ISBN 978-4-641-17317-0。
- l ハーディ・エイミス 『ハーディ・エイミスのイギリスの紳士服』 森 秀樹訳、大修館書店、1997年3月。ISBN 978-4-469-24399-4。
- o Lee Russell (1985). United States Marine Corps Since 1945. London: Osprey Publishing. ISBN 978-0-85045-574-8.


