燃料噴射装置

燃料噴射装置の最新ニュースをまとめて検索!

フュエル・インジェクターの構造図

燃料噴射装置(ねんりょうふんしゃそうち、 "fuel injection system" )とは、エンジンに採用されているパーツで、キャブレターの代わりに燃料を直接噴射する装置のこと。電子制御式が主流。

目次

[編集] 概要

古くからある技術の一つであり、燃料を吸気バルブの直近で吐出できること、霧化が良いこと、およびキャブレターの様な絞り部(ベンチュリー)が無く吸入空気流路の抵抗が低減できること 等により、高レスポンス / 高出力を得ることが可能となった。

第二次世界大戦前にはドイツ空軍戦闘機メッサーシュミットBf109」のエンジン「DB601」にも用いられており、短時間のマイナスGにも耐えられたという。日本でもドイツからの技術輸入で三菱重工が開発・製造した航空機用エンジンの「火星」の後期型や「金星」の末期型で採用した。前者を搭載した局地戦闘機雷電」は、高高度から飛来する「B-29」の迎撃に活躍した。

レシプロ機関を持つ民間用航空機への電子制御式燃料噴射装置の採用は、信頼性その他の理由で自動車用に比べやや遅かった。だが1990年代以降の新製機ではほぼ全面的に置き換わった。高度により大気圧(空気密度)が変化する航空機では、混合比コントロール操作が操縦者の負担であったが、電子制御により自動化が容易となった。

自動車への適用は、1954年に発表された「メルセデス・ベンツ 300SL」が最初であり、同時に世界初のガソリン直噴エンジンでもあった。 現代においては、ECUコンピュータ)により噴射量を細かに制御しており、空気と燃料の混合割合を理論空燃比に近づけることや、運転状況に応じた空燃比の制御が可能となっている。そのため、燃費向上と環境にやさしい燃焼やパワー重視の燃焼が可能で、多くの四輪車や一部の二輪車にも搭載されている。ただし、作動には電気が利用されるため、完全にバッテリーの上がった車両ではエンジンを始動させることは困難である。また、燃料はポンプにより圧送されており、燃料パイプには高い圧力が掛かるため、当初は金属製であったが、現代では樹脂製に置き換わっている。

オートバイでは、1980年代本田技研工業が電子制御の燃料噴射装置付きエンジンを実用化し、日本国内では川崎重工業1982年発売のZ750GP(Z750V1)により各社の先頭を切って車両を販売したもののキャブのフィーリングに親しんだライダーにはなかなか受け入れられず、さらにはトラックなどの高出力の違法無線(CB無線パーソナル無線)により、暴走したりエンストするなどの都市伝説まで語られて結局普及には至らなかったが、最近では信頼性の向上や技術的に熟成されてきた事もあり、性能向上に伴う出力の大幅な増加や近年の環境問題に対する対策で、400cc超の大型自動二輪車から採用されてきている。

2003年10月3日には本田技研工業が最小となる燃料噴射装置つきの49ccの4サイクル原動機付自転車用のエンジンを開発したことを発表して話題になり、2004年10月にはスズキが燃料を重力落下式とした燃料噴射装置(ディスチャージポンプ式)を開発したが、この技術は燃料ポンプや金属パイプを不要とし、樹脂ゴムパーツを多用した燃料噴射装置となっている。これは同社の49ccの4サイクル原動機付自転車「レッツ4」から採用されており、メーカー側では安価かつ機構の信頼性が高いことを売りにしている。

なお大型自動二輪車などでは、一つのボアに直列に二つのバタフライバルブ(ツインバルブなどとも呼ばれる)を設け、片方をアクセルワイヤーで駆動し、もう一つをECUで制御する方式を採用している車種がある。これは燃料噴射装置が直接開閉式キャブレターに近い特性を持っており、エンジン出力が急激に立ち上がる特性のため、ECUによってバルブを制御し、負圧開閉式キャブレターに近い特性を与えて操縦性を向上させる工夫がされている(実際にヤマハ発動機では燃料噴射装置にバタフライバルブに加えて負圧開閉式バルブを採用した車種を発売したことがある)。一種のTCSでもある。

なお構造上クランクケース圧縮式の2サイクルエンジンへの採用は難しい。1990年代にホンダが2サイクルエンジンのレース用バイクNSR500に採用したが、2サイクルの市販車に採用されることはなかった。

[編集] インジェクターの動作原理

燃料タンクに備え付けられた燃料ポンプにより燃料系統パイプに常時高い圧力が掛けられる。燃料系統パイプの末端に設けられたインジェクターは、電気信号の入力若しくは機械制動により内部のプランジャーが作動し、開弁する事でインテークパイプ内に燃料を噴射する。

電子制御式インジェクターは1分間に噴射できる燃料(300cc/min等の数値で判別できる)が定められており、エンジンの排気量や性能に応じて最適な容量のインジェクターが設計時に選択される。実際にエンジン内に噴射される燃料の量はインジェクターの1分当たり噴射量と、開弁時間によって制御されている。基本的な噴射時間はエアフロメーターで計測された吸入空気量により決定されるが、そのままではラフなアクセル操作などにより急激に燃調が濃くなった際にエンジンが不調となったり、排気ガスの濃度が増す為、排気管内に設けられたO2センサーで空燃比を計測し、その計測結果に応じて開弁時間の補正を行う事で高性能と排気ガスの低減を両立している。

近年のインジェクターはスプレーチップ部に複数の穴が開けられた樹脂カバーが装備され、燃料の霧化をより促進させる事でさらなる燃焼効率の向上を図っている物もある。

[編集] 制御方式

[編集] 機械式

燃料噴射量の決定に電子式の演算装置を用いないもの全般を指す。

プランジャーポンプ式
基本構造、システムとしては、ディーゼルエンジンの燃料噴射と同様で、気筒数分のカムとプランジャーを内蔵させたインジェクションポンプをエンジンの動力によって作動させ、各気筒の吸気ポートに噴射させる方法をとる。噴射量の制御も、ディーゼル同様、アクセル開度に連動した遠心ガバナーとラックアンドピニオンによる、プランジャーの圧縮ストローク制御となる。1960年代から1970年代前半のポルシェ、メルセデス・ベンツに使用されたボッシュ社製やBMW、プジョーに使用されたクーゲルフィッシャー、アルファロメオに使用されたスピカ社製などがある。
ボッシュ・Kジェトロニック
ディーゼル機関用の燃料噴射装置の流用では機構構造が複雑で高価となるので、量産車用として開発されたのがKジェトロニックである。フラップ式のエアフローメータが噴射量を制御するプランジャーに機械的に直結している。燃圧は、フューエルポンプで圧送された燃料をレギュレーターで制御するのみで、カムとプランジャーによる加圧は行わない。また、燃圧も上記ディーゼル流用タイプに比べ、低い(おおむね5bar程度と、後年の電子制御式燃料噴射に比べればやや高いが)ことが特徴で、全気筒に対し連続的に燃料噴射を行う。
名称の「K」は、ドイツ語で「連続的な、持続的な」を意味する「Kontinuierlich」から来ている。
ボッシュ・KAジェトロニック
三元触媒装着車に対応するため、排気ガス中の酸素濃度に応じた噴射量の制御機能を追加したタイプ。酸素濃度を測定するO2センサー信号を、簡単なコンピュータにより処理し、燃料噴射量を制御するという意味では「電子制御式」であるが、主要な燃料噴射の制御は、Kジェトロニック同様のフラップ式エアフローメータが、制御プランジャと構造的に直結しているもの。

この時期の機械式インジェクションは、主にエンジンの出力アップを目的としていたため、その後の排気ガス浄化には適応できず、電子制御式に取って代わられた。

[編集] 電子制御式

燃料の噴射に電子的な演算を行うタイプを広く指す。現在「燃料噴射装置」や「インジェクション」と言うと大抵こちらの電子制御式である。

KE ジェトロニック
吸入された空気量をフラップ式のエアフロセンサーで計測するシステムで、その他は機械式のインジェクションシステムと変わりが無かった。排気ガス浄化としてO2センサーと三元触媒を装着して対応するようになった。
D ジェトロニック
吸入された空気量を直接計測するシステムではなく、圧力センサーで計測したスロットルボディ付近の吸入空気圧を基本データとし、吸気温センサーで計測した吸入空気温度とスロットル開度センサーからのスロットルバルブ開度の情報を補足データとして、吸入された空気量を予測する。これも初期タイプは出力アップのみを目的としていたが、O2センサーと三元触媒を装着することによって、排気ガス浄化システムとして継続している。
コストが抑えられるため、日本では気筒数の少ない軽自動車や小型自動車用のインジェクションシステムとして使用されている。
名称の "D" は、圧力センサーをドイツ語で "Drucksensor" と呼ぶことから来ている。
Lジェトロニック
吸入された空気量をエアクリーナーとスロットルボディの間に装着したエアフローセンサーで直接計測することで、吸入空気量を基本データとして燃料噴射量を決定する。
エアフローセンサーは、初期タイプではフラップ式の物が使われていたが、これだと吸気管内での抵抗になるため、ホットワイヤー式やカルマン渦流式のエアフローセンサーが採用されるようになった。
吸入空気の脈動による計測誤差が少ないので、気筒数の多いエンジンに採用されることが多い。また、吸入空気を過給するターボチャージャースーパーチャージャーを装着させたエンジンにも向いている。
三元触媒が排出ガス浄化に用いられるようになり、O2センサを用いたフィードバック制御が必要になった時期から急速に発達した。
名称の "L" は、エアフローセンサーをドイツ語で "Luftmengenmesser" と呼ぶことから来ている。

なお、二輪車等で排出ガス規制の対象外の車種においては、電子制御式ながら、主としてアクセル開度とエンジン回転数から噴射量を決定しており、実際の吸入空気量(質量)を計測していない。

[編集] 各自動車メーカーでの呼称

  • EFI ( Electronic Fuel Injection ) - トヨタ自動車ダイハツ工業ヤマハ発動機での呼称。また、フォードGM大宇[1]も使用していた。初期の物はフラップ式エアフロメーターを使用していたが、最近の物は圧力センサーを用いたDジェトロニックが主流である。
  • EGI ( Electronic Gasoline Injection ) - 日産自動車マツダ富士重工業。初期の物はフラップ式エアフロメーターを使用していたが、最近の物はホットワイヤー式エアフロメーターが主流である。(日産自動車では、日産・ECC(電子制御キャブレター)からの流れを引き継ぎ、燃料噴射装置を含めたエンジン集中制御システムECCS ( Engine Central Control System )として併記している場合が多い)
  • PGM-FI ( ProGraMmed Fuel Injection ) - 本田技研工業での呼称。採用されていればF1から4サイクル50ccまで同一の名称が使用される。
  • ECI-MULTI ( Electronic Controlled Injection-Multi ) - 三菱自動車工業での呼称。尚、Multiとは、各シリンダーに1つずつ噴射装置が装備されているということを表す。シングルポイントインジェクションの場合単にECIと称していた。初期の頃から独自のカルマン渦流式エアフロメーターを使用し続けている事が特徴である。
  • EPI ( Electronic Petrol Injection ) - スズキでの呼称
  • ECGI ( Electronically Controlled Gasoline Injection ) - 1970年いすゞ自動車が日本で最初に開発した自動車用アナログECUによるシステム。最初に採用されたモデルは117クーペ
  • DFI ( Digital Fuel Injection ) - 川崎重工業製のオートバイに採用されている燃料噴射装置の呼称。
  • EMPi (Electric Multi-Point injection ) - 富士重工業が軽自動車向けのエンジンコントロールシステムを呼ぶ場合に使用している呼称。
  • MPFI ( Multi-Point Fuel Injection ) - 1990年代から富士重工業が、海外輸出向け車両のエンジンコントロールシステムを呼ぶ場合に使用している呼称。

[編集] シングルポイントインジェクション

シリンダーごとではなく、全シリンダーに対して一括して1基の噴射装置で混合気を供給する方式。SiSPIなどと省略される。低圧燃料噴射装置とも呼ばれる。

燃料を噴射するインジェクターと、撹拌し均一性の高い混合気にするミキサー、それらを収めるハウジングからなる。

キャブレター方式のエンジンにも最小限の設計変更で搭載が可能で、吸気抵抗の低減、旧い設計のエンジンの電子制御化などが比較的ローコストで実現できる。インジェクター総数が1本ないし2本程度で済む為、MPI形式に比べてインジェクター不良によるエンジン始動不能の確率が相対的に低くなる事や、インジェクター不良による各気筒への噴射量のバラツキに起因するエンジントラブルが起こらないというメリットがある。しかし、相対的な性能ではMPIのポート噴射式インジェクターには及ばない。

航空機用としては、日本では中島飛行機が、「」や「」の末期型用に開発した。しかし、空冷星型エンジンの各シリンダーに均一な混合気を均一な圧力で供給することが難しく、改良も進められたが、実用化とほぼ同時に終戦を迎え、実績はほとんど上げていない。

自動車用では、日本車での採用例はトヨタのCi(採用エンジン例:1S-iLU、4S-Fi)、日産のEi(採用エンジン例:CA18i、SR18Di、VG30i)、また中島飛行機の後衛である富士重工が、1,800ccエンジンのレオーネアルシオーネ(EA82系)やレガシィ(EJ18)の初期にSPFIと称して採用した例などがある。

これらのメーカーは燃料噴射装置付きエンジンの中でも比較的低廉なグレードの物にSPIを採用していたが、三菱のECI(採用エンジン例:G63B、G54B、G32B等の縦置きエンジン)は、各ポート噴射式のMPI(ECI-MULTI)を本格的に採用するまでの間は、ターボエンジンなどの上級グレードの車種にも積極的にSPIを搭載していた。三菱のSPIはスロットルボディの前に配置された大容量インジェクターがスロットルに向けて集中的に燃料を噴射する独自の形式で、WRCに参戦する車両(ランサーEXスタリオン)のエンジンにも市販車と同じ構造のSPIを使用し、多数の実績を収めている。こうしたSPIの中で一番の成功例はホンダの第1期F1用エンジンであろう(1964年1968年にかけて2勝を記録)。海外メーカーで、日本での馴染みの深い車種としてはイギリスローバー製のMiniが、その末期で採用した。

[編集] コールドスタートインジェクタ

気筒毎にインジェクタを持つ(マルチポイント)エンジンでは、冷間時の始動性の向上の為にコールドスタートインジェクタを持つものがある。キャブレタ時代のチョーク機構の代わりというべきもので、冷却水の温度が一定以下の状態や、排気温度が一定以下の状態で作動するようコンピュータで管理されている。真冬の寒冷地などでエンジン冷却水路内のサーモスタットが開きっぱなしになった場合など、水温がなかなか上がらない状況などでは動きっぱなしとなり、燃費の悪化に繋がる。

[編集] 追加インジェクタ

所謂チューニングカーでもターボチャージャーの大容量化などの著しい出力の向上を図るための改造を行った場合に、標準のインジェクタでは勿論、純正を置き換えるタイプのインジェクタでも燃料噴射量が不足する場合がある。過給圧に対し燃料がリーンとなればノッキングの原因となり、結果燃焼室(ピストントップ)の冷却が追いつかず、熱を持ったピストンが棚落ちするなど、エンジンブローの原因となる。そこで、元々のインジェクタに加え、高過給圧条件下で燃料を噴射するようなインジェクタを設け出力空燃比に近づけるセッティングを行うことで、高過給圧下での燃料噴射を確実に行う。実際のセッティングは、排気温度計とA/F計を主に用いて行う。当然、エンジンブローに至るまでのマージンは至極薄くなる。

[編集] 燃料噴射装置のメンテナンス

インジェクターはキャブレターに比べて経年劣化や長期放置による不具合の発生は少ない。 その為、バッテリーを上げない限りは、殆どの場合始動や通常走行に支障が出る事は無いといえる。

しかし、下記の要件によりエンジンの初期性能は次第に発揮できなくなってくる為、旧式化した車両を維持する際には各項目につき個別のメンテナンスは必要になる。

  • 燃料ポンプやプレッシャーレギュレータの経年劣化による燃圧の乱れ[1]
  • インジェクター内のフィルター詰まりによる噴射量の低下
  • インジェクターと燃料パイプの接続部のOリング劣化による燃料漏れ[2]
  • インジェクターのプランジャーへの異物噛み込みによる燃料漏れ[3]
  • インジェクターのスプレーチップ部の樹脂カバー破損による噴射パターンの乱れ
  • O2センサーやエアフロメーターの故障や汚損による噴射制御の乱れ

これらの経年劣化のうち、燃料ポンプやエアフロメーターに起因する物はエンジンの始動困難など、その車両の円滑な運行に重大な支障をきたす恐れがある。 また、インジェクター本体に起因する物は特にMPI形式の場合、各気筒に供給される燃料の量にバラツキが生じる直接の原因となる為、アイドリングの不安定や低速トルクの低下などの発生の要因となる。基本的には不具合が生じたインジェクターは新品に交換するしかないが、近年では超音波洗浄機を用いてインジェクターの噴射パターンの改善や噴射量の均一化を行うサービスなども行われている。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

  1. ^ インジェクター側の開弁時間が同じ時、燃圧が低い程噴射される燃料が減る為、燃圧の低下はエンジンの性能低下に繋がる。逆に燃圧が強すぎる場合は噴射量が増大する為排ガス浄化性能に悪影響を与える。
  2. ^ インテークパイプの外部に直接燃料が漏れ出す為、放置すれば車両火災の発生に繋がりかねない。
  3. ^ 俗に「後垂れ」とも呼ばれる。軽微な場合でもエンジン停止中の燃料パイプ内の燃圧が次第に低下する為、再始動時に始動不良などに陥る事がある。重度な場合はシリンダー内に燃料が溜まってしまい、クランキング時にウォーターハンマー現象を起こしてエンジンの破壊に繋がる恐れもある。

最終更新 2009年10月24日 (土) 08:30 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
【燃料噴射装置】変更履歴

ご利用上の注意