電気窃盗

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電気窃盗(でんきせっとう)とは、電気を目的物とした窃盗のこと。盗電(とうでん)ともいう。電気の様態が他の財物とは大きく異なるため、過去にその犯罪の成否をめぐって激しい論争が繰り広げられた。

目次

[編集] 概要

窃盗罪は、窃盗の目的物が「物(=有体物)」であることを想定している。しかし、電気は、その窃盗罪が想定する「有体物」ではないため(法的には無体物という分類となる)、窃盗としてはかなり特殊な様態のものとなる。

[編集] 日本における電気窃盗の法的歴史

日本では、まず判例によって電気に対する窃盗が認められ、その後条文上で明記されるという流れをたどった。

1880年(明治13年)に太政官布告で発表された刑法(旧刑法)は「物ではない電気」の窃盗を想定していなかった。そのため、電力会社に電気代を支払わずに勝手に電力を使用する行為について、それが窃盗にあたるかどうかについて争われた。

1901年横浜共同電灯会社(のちに東京電燈に吸収される)が、契約に定められた以上の電力を使用したとして、利用者を告訴した。一審で有罪判決を受けた被告は控訴したが、その際「電気はモノではない」と主張した。当時の刑法においては窃盗は具体的な財物を掠め取る行為と規定されていたが、この主張によって、果たして「電気とは何か」という当時最先端の科学的命題が法廷で争われることとなった。控訴審では、証人として呼ばれた東京帝国大学物理学教授・田中舘愛橘エーテル理論に基いて「電気はエーテルの振動現象であり、物質ではない」と証言したため、被告に無罪の判決が下された。このままでは事業に致命的な影響を受けてしまいかねず、電力会社は直ちに上告した。大審院(現在の最高裁判所に相当)はこの問題をどう取り扱うかに苦慮したが、最終的に「電気は、可動性と管理可能性を持っているため、窃盗罪が成立するモノである」[1]と判断し、1903年に被告に有罪判決を下した[2]

その後、1907年(明治40年)に施行された刑法(2008年時点の現行刑法)は、245条に「この章(第36章 窃盗及び強盗)の罪については、電気は、財物とみなす(口語化後の表現)」という明文規定が置かれ、電気窃盗は明確な犯罪行為であることを規定するという方法で立法的解決がはかられた。

[編集] 法的な問題点

この刑法245条によって、電気窃盗に関してはそれが窃盗にあたるということが明らかとなった。しかしながら、他の無体物は窃盗の対象になるのかならないのか、という問題が残された。

学説には、「有体物説」と「管理可能性説」の2つがある。有体物説は「刑法245条の規定は限定的な規定であり電気についてのみ刑法は有体物と考えると宣言したにとどまる。他の無体物は窃盗の目的物とはならない」とする。管理可能性説は「刑法245条の規定は、注意的・例示的な規定であり、管理可能である限り、無体物も窃盗の対象となる」とする。今日では、管理可能性説が通説となっており、他の無体物にも準用できるとするが、このあたりは新たな無体物の類型が登場するたびに論争となり、判例・実務上では安定しているとは言えない。

たとえば情報窃盗などの場合、情報そのものが窃盗の対象となるかどうかについては争われており、「有体物である媒体の窃盗(具体的にはフロッピーディスクやプリント用紙の窃盗)」として立件されることが多いという現象が見られる。情報窃盗の場合典型的だが、情報窃盗の被害額が巨額にのぼったとしても、窃盗の対象物の価格はきわめて安価なものにすぎないといったケースは珍しくない。

これら情報窃盗などで生じている問題点は、明治36年の判決が出る前の電気窃盗をめぐる状況を、時代を超えて再現しているとも言うことができるだろう。

[編集] 各国における盗電事例

インドにおいては盗電は深刻な問題である。総発電量の30~40%が消え、電力料金の回収率は40%以下であるという。こういった盗電事例はフィリピン[3]中国[4]ネパール[5]パキスタン[6]など発展途上国に止まらず、オランダ[7]などでも電力会社を悩ませている。また、頻繁に停電があるところでは停電中に私設架線を勝手に設置するケースまで聞かれるが、この中にはいい加減な架線がショートして火を吹いたり、接続作業中に感電する事故も後を絶たない。停電中には正規の架線が金属泥棒に遭うケースもあり、地域内の電力事情悪化を招いている。

[編集] 派生的な電気窃盗

2000年頃から、携帯電話ノートパソコンデジタルカメラなどの持ち運べる電子機器が一般化したことに伴い、出先でバッテリーが切れた時やバッテリーの消耗を避けるために、他者が管理するコンセントを勝手に使うといった行為が目立つようになり、問題視されるようになった。これは借電(しゃくでん)などと呼ばれる[8]

コンセント所有者が使用を容認していなければ、その被害額が微々足るものであっても犯罪とされる。2007年には携帯電話の充電のためにコンビニエンスストアの店外のコンセントを15分間ほど使用して、約1円分の電力を電気窃盗した少年らがパトロール中の警察官に発見され書類送検されている。これらは「電気窃盗」とされることが多い。

なお、レストランファミリーレストラン)や喫茶店ファーストフードチェーン店などでは、客へのサービスとして「自由にお使いください」と明示したコンセントを設置している店舗も見られ、これを店側が許容する範疇内で利用する分には問題はない。明示されていなくても、店側などコンセント所有者の了解を得て一時的に電力を利用させてもらう場合などは犯罪とはならない。

[編集] 脚注

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  1. ^ 『東京電燈株式会社開業50年史』
  2. ^ 大判明治36・5・21刑録9・874
  3. ^ "海上保安人材育成プロジェクト、コラム:紹介 職場のご近所". 国際協力機構業務調査員 大町敏行. 2007年9月22日 閲覧。
  4. ^ "北京立法严惩窃电贼 偷电罚金最高可达电费5倍". 中国新聞網、2003年09月01日14:00. 2007年9月22日 閲覧。
  5. ^ "開発関連記事、2004年7月16~22日(英字週間新聞ネパリー・タイムズ)". 国際協力機構・デスク ネパール. 2007年9月22日 閲覧。
  6. ^ "円借款事業事後モニタリング報告書、パキスタン「ビンカシム火力発電所6号機増設事業」、有効性・インパクト(3)財務的内部収益率‐マイナスとなる主な原因". 国際協力銀行. 2007年9月22日 閲覧。
  7. ^ "オランダクライムストッパーズの概況 通報内容の転送先". 財団法人 社会安全研究財団. 2007年9月22日 閲覧。
  8. ^ "借電(しゃくでん)". Yahoo辞書. 2007年9月22日 閲覧。

[編集] 参考文献

「概要」項「日本における電気窃盗の法的歴史」
  • 『思い違いの科学史』「電気はモノではない」青木国夫 著、2002年、朝日文庫 ISBN 4-02-261368-8

[編集] 関連項目


最終更新 2009年8月29日 (土) 03:20 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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