禁煙ファシズム
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禁煙ファシズム(きんえんファシズム)とは、喫煙を擁護する言論や表現が封殺されていると受け止めた愛煙家や禁煙運動の評論として批判的に捉えて形容する言葉である。ナチス・ドイツ政権下では「健康は国民の義務」を厚生事業のスローガンとし喫煙に対しても強烈な国家統制をかけていた事から、それらに準えて禁煙運動へ批判的な意味合いでこの言葉が使用されている。
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[編集] 概要
日本では1988年、作家の山田風太郎が「“禁煙ファシズム”の今後は?」というエッセイを『文藝春秋』に発表している(『死言状』所収)。過剰な禁煙運動批判立場からの造語であり、健康ファシズム(health fascism)の一形態と看做し、ナチスの優性思想に基づく政策[1]との関連性を唱える向きもある。
日本では、2003年の健康増進法施行以後、喫煙の可能な場所を次第に狭め、同法が「分煙の配慮義務」を訓示規定としているに過ぎないのに対し、建物内、敷地内、路上、特急、新幹線などを全面禁煙にする動きが加速化している[2]。これに対して、1999年に斎藤貴男が「禁煙ファシズムの狂気」で、過剰防衛的な社会のあり方を批判、2005年には同論文をも収録した小谷野敦・斎藤貴男・栗原裕一郎共著の『禁煙ファシズムと戦う』が刊行されたが、以後もこの動きは続いている。また、山崎正和、養老孟司、蓮實重彦、宮崎哲弥、小松美彦、宮崎駿[要出典]らも禁煙ファシズムを批判している。
[編集] 禁煙ファシズムは存在するか?
[編集] 禁煙ファシズムを主張する人物・団体
健康ファシズムの一形態として批判する人物も含める。なお、主張する人物は全面禁煙には反対、分煙を主張している。
[編集] 團伊玖磨
初めて嫌煙権運動を危惧し、禁煙をファシズムとなぞらえて例えたのは、團伊玖磨が1987年3月27日付けの夕刊コラムにおいて
一斉禁煙などはファシズムにつながるのではないか。と述べている。
團は嫌煙権訴訟において、体に良くない物を排斥すれば、極論は生命活動そのものが一番体に良くないし、本来は市民におけるマナー問題であるはずの物に訴訟や賠償を求める事が疑問と断じた。そして、香水や体臭と言った物にも同様のことを求めるのか、禁煙があるなら喫煙もバランス良くあるのが、本来の公平と言えるとしている。
[編集] 筒井康隆
1987年10月には『小説新潮』において筒井康隆が『最後の喫煙者』を発表、嫌煙権運動がヒステリックに喫煙者への差別や排斥運動となって過激化していく様を、主人公で小説家の視点で描いている。
健康ファシズムという表現で行われているが、世界保健機関に赤十字や警察および自衛隊と言った存在までもが、たばこを排斥する側に回っていったと作中にあり、氏の独特な風刺で表現されている。現在においても禁煙運動のたとえに作品が取り扱われる事が多い。 その後も禁煙運動に対して、作者のコラムや作品で触れるケースが多く見られる。
[編集] 宮崎哲弥
宮崎哲弥は朝日新聞の禁煙推進の社説内容に対し、- 社説は喫煙の自由を政府の力で縛れと煽動している、禁煙ファシストとの指摘は誇張でもなんでもない、健康は国民の義務がナチスの厚生事業のスローガンであった、露骨に国家統制を要求するとは一体どこのファシストか、朝日新聞はタバコをやめたくない人もやめざるをえないよう政府が強制措置を採るべきだとでもいうのか -、などと朝日新聞社説の禁煙論を批判。個人の嗜好の問題に公権力の介入を許すのであれば、反対論や喫煙者へ配慮があるべきであると語っている。 なお、宮崎哲也は喫煙者ではない。
[編集] 斎藤貴男
斎藤貴男は著書『国家に隷従せず』内『禁煙ファシズムの狂気』において国家が国民の嗜好や健康を管理下におこうとする事を批判している。
健康増進という視点で、たばこにかかる医療費の費用などをあげ予防医学をすすめるのであれば、飲酒や読書やスポーツなども体に良くないという事になることから、同じくその対象になりうるとしている。医療費に関しては老人や重度障害者、難治性の患者ひいては生産性を低下させるジャーナリストや評論家なども医療費削減の対象となるのではないか?と疑問を示している。
斎藤は非喫煙者であり、たばこ嫌いを公言しているが、個人の趣味嗜好や健康に国が介入するのは「明らかに第三者へ致命的なダメージがあると、殆ど完全に確定された時」でなければいけない、として国・行政レベルにおける疫学を根拠とした健康管理や全面禁煙はその妥当性がなく、個人での嫌煙権を主張するまでに留めるべき、とした。また、喫煙規制に海外からの外圧があると示唆、海外では喫煙の健康における因果関係はすでに決着したものとされ、それに異論や反論を唱える事すらタブー扱いがなされて居る事と指摘、アメリカにおける喫煙裁判の賠償金は禁煙活動には数%ほどしか使われず、州や世界保健機構、連邦政府を巻き込んで利権化したとしている。
そして、日本の健康増進法の序文を提示、国家によって健康増進とたばこ規制という同一点をあげ、プロクターの『健康帝国ナチス』から国家による全体主義への危惧を示し、禁煙ファシズムを批判している。
[編集] 小谷野敦
小谷野敦は最も先鋭な禁煙ファシズム批判者であり、「中庸」を重んじる立場、および喫煙者として、「分煙」で良いのに、嫌煙家は1ccたりともタバコの煙を吸いたくないという過剰な運動を展開しており、その動きが過剰であるとして批判を続けている。また、大気を汚すという点では自動車の方が大きく影響しているのに、なぜ自動車には甘いのか、また他人に迷惑を及ぼすという点では酒も同じなのに、日本では酒に対しても非常に寛容であると述べている。
また2006年には、代議士の杉村太蔵が「若い人にとっては、タバコはくさい、汚い、金がかかるの3K」と発言したことを受けて、東京地裁に国家賠償法による損害賠償を求めて提訴、国の政策を批判したが敗訴、二審でも敗訴、上告は受理されなかった。なおこの際、小谷野は弁護士を探したが引き受ける者はなく、法曹界でも禁煙ファシズムが広がっていると批判した。
さらに2007年には、新幹線、特急などを全面禁煙にしたJR東日本に対して、差止め訴訟を行ったが、敗訴。
なお政治学上のファシズムは、山口定『ファシズム』の定義によれば極めて強力なものなので、この場合の「ファシズム」は比喩的用法であるとしている。また小谷野は、哲学者カール・ポパーの、「社会をよくしようとする正真正銘の親切心から起こったものが多くの惨禍を生んだ」という語を援用して、フランス革命、ソ連、ピノチェット、ポル・ポトなどの例をあげている。
小谷野・斎藤らの『禁煙ファシズムと戦う』について、活字によるまともな反論は存在せず、日本禁煙学会は『文藝春秋』2007年10月号における山崎・養老対談に対しては抗議文を公開したが、小谷野・斎藤・室井尚らに対してはウェブページで批判しつつ、内容は一個人のウェブページへのリンクを示しただけであった。
[編集] ピエール・ルミュー
フランスのエコノミストであるピエール・ルミュー(Fr:PierreLemieux(economist))により雑誌The Independent Review(En:IndependentReview)の1999年vol.4 No.2にて『Heil Health』[3]と言う題名で発表され、のちに編集されたものが『Fascism and the Campaign to End Smoking』というタイトルで 1999年10月2日のナショナルポストとフィナンシャルポストにも掲載された。本文[4]ではナチスの禁煙政策と現代の禁煙化をなぞらえて批判、 折に触れプロクターの著書をふまえて発言していたことで、プロクターにより反論がなされるがルミューも再反論を行った[5]。
[編集] 日本パイプクラブ連盟
パイプ喫煙の普及等に努めている「日本パイプクラブ連盟」は、同連盟のサイトのコラムにおいて喫煙規制や禁煙団体、喫煙者の雇用をしない企業等に対する批判コラムと連載を展開しており[6][7]、同コラムにおける「禁煙狂連中のネチネチとしたシツコサはそれこそ正真正銘のビョ―キです。インターネットのたばこ関係の膨大な書き込みの内容を眺めるだけで、連中のパラノイア症状の深刻さが覿面にわかります」等といった内容のコラムがネット上で話題になっているとジェイ・キャストニュースにより報道された。同社がコメントを求めたところ、「一部の過激な嫌煙者の圧力を受けて、地方自治体や公共輸送機関などが、有無を言わさずに強引に全面禁煙を強制する昨今の社会風潮は、穏当を欠き、甚だしく危険なものだと考えます。JR東日本は、これまで分煙を掲げてきましたが、急に全面禁煙を利用客に強制するようになりました。喫煙者の利用客の立場を一方的に無視する傲慢な経営姿勢の現われだと受け止めております。従いまして全面禁煙の強制には当連盟は真正面から反対いたします」と表明した[8]。
[編集] 否定派
[編集] プロクター
プロクター自身は、現在の国家主導の環境・健康保護運動を「ファシズム」とみなす態度を「誤解」だとして明白に否定している。
- 具体的には「最後にひとつ、本書が誤解されるかもしれないのであらかじめ言っておきたいことがある。ナチスが環境問題に関心を寄せていたことを指摘する人々は時として、国家主導の環境・健康保護運動にはファシストを生む危険が内在していると主張することがある。(中略)こうした似非論理は昔から論理学の演習でよく扱われたものであり、論理的な誤りは明白である。ヨーロッパで肺ガンの八〇〜九〇パーセントが喫煙に起因するものであるというのは事実で、ナチスの時代の科学者が喫煙と肺癌の因果関係を初めて証明したという事実があるからといってこの数字が下がるわけでもない。」[9]としている。
[編集] 関連語
[編集] ルイセンコ疑似科学
ジェームス・エンストローム(James E. Enström)らは「喫煙を擁護する言論を封殺する動き」がルイセンコ疑似科学(Lysenko pseudoscience)に見られた動きと同様であると批判している。
2003年、エンストロームらは、他の多くの研究と異なり「環境たばこ煙と死亡リスク上昇の相関はかなり低い」と結論する論文(エンストローム論文)を発表したが、研究自体の疫学上の瑕疵と研究資金をたばこ会社関連の組織から得ていたことを学界や政府機関から激しく批判された。これに対しエンストロームは、これらの不当な批判は政府による正当な科学の弾圧であり、かつてソ連政府がルイセンコの提唱した根拠の薄い学説を支持し他の学説を唱える学者を粛清したルイセンコ論争と同じ流れであると主張した。 [10] [11]
[編集] 主な論者
- 斎藤貴男--フリージャーナリスト
- 福田和也--文学者、評論家
- 小谷野敦--比較文学者、評論家
- 筒井康隆--小説家、劇作家、俳優
- 室井尚--横浜国立大学教授
- 養老孟司--解剖学者
- 山崎正和--劇作家、評論家、演劇学者
[編集] 脚注
- ^ ナチスの政策に関してはロバート・N・プロクター『健康帝国ナチス』を参照のこと。(ロバート・N・プロクターのホームページ)
- ^ 『禁煙ファシズムと戦う』 序文
- ^ http://www.independent.org/publications/tir/article.asp?a=292 The Independent Review社の見出しアーカイブ 閲覧 2009/06/15
- ^ http://www.pierrelemieux.org/artproctor.html ルミューのサイトによるミラー 閲覧 2009/06/15
- ^ http://www.pierrelemieux.org/proctor-lemieux.html ルミューのサイトによる反論と再反論のミラー 閲覧 2009/06/15
- ^ http://www.pipeclub-jpn.org/column/column_01_list.html 日本パイプクラブ連盟 禁煙ファシズムにもの申す
- ^ http://www.pipeclub-jpn.org/cigarette/index.html 川原遊酔の紫煙を楽しむ
- ^ http://www.j-cast.com/2009/04/09039180.html J-castニュース「たばこモクモク吸う人は健康で長生き」「日本パイプクラブ」が超過激コラム
- ^ 『健康帝国ナチス』序文
- ^ Enstrom JE, Kabat GC, Ungar SB (2006 6). “Reassessment of the Longterm Mortality Risks of Active and Passive Smoking” (PDF). Symposium, 2nd North American Congress of Epidemiology, Seattle: 987–990. 2008-05-02 閲覧。
- ^ James E. Enström (2007 10). “Defending legitimate epidemiologic research: combating Lysenko pseudoscience”. Epidemiologic Perspectives & Innovations 4 (11). DOI: 10.1186/1742-5573-4-11. PMID 17927827. 2008-05-02 閲覧。
[編集] 参考文献
- ロバート・N・プロクター『健康帝国ナチス』草思社 2003年 ISBN:4794212267 (プロクターのウェブサイト)
- 山崎正和「ソフト・ファシズムの時代」『世紀末からの出発』文藝春秋、1995
- 斎藤貴男『国家に隷従せず』「『禁煙ファシズム』の狂気」 筑摩書房 2004年 ISBN: 448042024X
- 小谷野 敦、斎藤 貴男、栗原 裕一郎 『禁煙ファシズムと戦う』 (ベスト新書) ベストセラーズ 2005年 ISBN:4584120994
- 宮崎哲弥『新書365冊』(朝日新書)小谷野ら前掲書に関する肯定的な短評がある。
- 『ユリイカ』2003年10月「煙草異論」特集
- 養老孟司・山崎正和「変な国・日本の禁煙原理主義」『文藝春秋』2007年10月
[編集] 関連項目
最終更新 2009年6月15日 (月) 01:38 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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