福音派

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福音派ふくいんは: Evangelical)は、キリスト教プロテスタントを神学や信仰の姿勢によって比較分類する際に用いられる用語である。

福音派自身による簡潔な定義は、「福音に献身する者」である[1]日本福音同盟の「自由主義神学(リベラル)に対しての福音主義エキュメニカル派に対しての福音派」という表現に、これが表されている。 日本の福音派とは、「聖書は神の霊感によって書かれ、誤り無い神のことばであるという、聖書の十全霊感(聖書信仰)を信じるすべての教会[2]」である。この聖書信仰は、「福音派全体の恵みの絆」と呼ばれる[3]

組織としては、日本プロテスタント聖書信仰同盟から日本福音同盟世界福音同盟が代表的であるが、そこに属さない福音派の教会も存在する。

現在、世界的に福音派の信仰として広く認められているのはローザンヌ誓約である。

福音派」の語源はギリシア語の「εὐαγγέλιον(euangelion):福音)」である。

目次

[編集] 定義

  • 福音派の代表的神学者J・I・パッカーは、「福音派とは使徒的キリスト教を継承し、証しする者」と定義する[4][5]
  • 日本福音同盟初代理事長の泉田昭は、「福音主義とか福音派というとき、信仰的自由主義に対して福音主義、エキュメニカルなグループに対して福音派という意味で使っている。つまり、聖書は誤りない神のことばであると信じ、基本的教理を保持し、伝道と教会形成に励んでいる者たちのことである」としている[6]

[編集] 歴史

福音派(evangelical)のルーツは、ギリシャ語のεὐαγγέλιον(euangelion)、すなわち福音である。形容詞の場合「福音的」「福音主義的」となり、名詞の場合「福音派」「福音主義者」と訳される。[8] 教会史と神学からは、16世紀宗教改革にルーツを持つ。カトリック主義(教会主義的)に対する、福音主義的、福音主義者という呼称である。[9]

歴史的源流の一つは信仰復興運動、第一次大覚醒にあり、新生(ボーン・アゲイン、Born again)の強調、キャンプ・ミーティングによる伝道活動、「(旧分類)教派」の枠を超えた「運動」であることなどの特徴が明白に継承されている。自覚的な回心の経験を持つ「新生した者のみが真のキリスト教徒」とし、伝統的主流派の信徒を「信仰の冷めた形だけのキリスト教徒」と規定する信仰は「福音主義の父」と呼ばれるジョージ・ホウィットフィールドに見ることが出来る。またジョン・ウェスレーは、イングランド国教会の会員たちが「半分だけしかクリスチャンでない」と考えていたという[10]

フリードリヒ・シュライエルマッハーから始まるリベラルに抗して、福音主義同盟1846年、9ヶ条からなる福音主義の信仰基準を確認した。また20世紀初頭にはキリスト教根本主義運動が起こった。さらに第二次世界大戦後の教界はエキュメニカル派(リベラル派)と福音派(聖書信仰派)に二分されている[11][12][13][14]

[編集] 特徴

  • 英国の学者ディヴィッド・ベビントンは、「福音派は、四つの顕著な特徴によって、正統派と識別される」としている。
  1. 回心主義 個人的にイエス・キリストを受け入れる信仰によって変えられなければならない(ヨハネ3:7)。
  2. 行動主義 キリスト教信仰、特に福音伝道の実践。
  3. 聖書主義 霊的生活の中心としての聖書。
  4. 十字架中心主義 キリストの十字架とそれがもたらした幸いの強調。[15]

[編集] 用語

  1. 福音主義Evangelicalism)の違訳、異称。福音主義者、教会、教派。
  2. 聖書信仰のクリスチャン、教会、教派[16]
  3. 自由主義神学に対抗する正統的立場[17][18]。但しこれは福音派の自己言及としての見解であり、他者(特に自由主義神学)からは「旧守的立場」と位置付けられる事もある[19][20]
  4. 主流派エキュメニズムに反対する、神学的立場[21][22]
  5. 信仰復興運動(リバイバリズム)の末裔にして今日の担い手[23]
  6. 初期の神学的キリスト教根本主義者。
以上の諸定義が重複して用いられるため簡潔な記述は困難であるとする考えもある。

[編集] 西方教会

  • 従来は単に福音書的なプロテスタントを指す語としても使用されてきた(定義1)。但し、今日福音主義の語が用いられる場合、福音派とエキュメニカル派で意味が異なっている。
  • 現在では19世紀ごろドイツから始まったリベラリズムに対抗する立場として使われる事が多い。福音派に分類されない教派の中でも、考え方が保守的な者からリベラルな者までを幅広く含み、それにより教派内で反目しあっている場合もあるが、福音派は各教派を横断する「保守的な信仰者」の総称である。
  • メインライン(主流派)のプロテスタント教会のうちで保守的かつ伝統的な立場に立つ教会、教団、教派を指すこともあるが、その場合の含意は話者や文脈により微妙である。
  • 「保守的」「伝統的」の語も文脈によっては、礼拝・神学において保守的ではあっても福音派と呼ばれるグループとは様々な点で見解を異にする者を指す場合に用いられている場合もあり、西方教会内で「保守的」と評される者がいたとしても、それがそのまま福音派と同義である訳では無い。
  • この語の示す概念はルター派カルヴァン主義聖公会などの教会史的な教派分類とは全く別の、神学潮流や礼拝スタイルの視点によるもので、互いの分類法同士に相関傾向がないものもある。

[編集] 東方教会

東方教会正教会東方諸教会)は神学的枠組みや歴史が西方教会とは多分に異なるため、福音派と自由主義神学といった議論の軸そのものが存在せず、従って「福音派」も「リベラル派」も存在しない。西方教会で福音派と言った場合には「保守的」「守旧的」との表現と共に語られる場合もあるが、東方教会の文脈で用いられる「保守派」は福音派とは全く別系統の概念である。「正教会は伝統的である」との言及がされる事は正教会内部からも多いが[24]、この場合の「伝統的」が指す概念・観念は西方教会における福音派の「保守的」が指す概念とは全く次元が異なる。

[編集] エキュメニカル派との関係

福音派では、リベラル神学に基づくエキュメニカル運動(世界教会合同運動)に対抗する福音派の組織の必要が訴えられていた[25]1959年には、エキュメニカル派と福音派が分かれて、日本プロテスタント100周年記念行事を実行した。翌年の1960年日本プロテスタント聖書信仰同盟が成立し、日本福音同盟の三創立会員の一つとなった。こうしてエキュメニカル派と福音派の分離が実現した。プロテスタントはエキュメニカル派と福音派の二つに分かれ、日本ではその区別が特に明確だといわれており[26]日本キリスト教協議会系の日本基督教団等は、エキュメニズム(教会合同運動)であり、福音主義的ではないとされる[27]

[編集] 日本基督教団

日本基督教団はエキュメニカル派(世界教会協議会系)として福音派から区別される[28]。歴史的経緯と神学的立場の違いから、日本基督教団の指導者と福音派の指導者の間には溝がある[29]。日本基督教団内部には教会派社会派の対立があるが、福音派はこれに関わっていない[30]。「日本基督教団をはじめとするエキュメニカルの諸教会は・・社会派と教会派に分極化して行った。それに対し、福音派は一致と協力の道を歩んで行った。[31]」 日本基督教団内の教会派自身は「社会派に対比して、社会的な取り組みより教会がイエス・キリストの十字架と復活によって示された神の愛による人間の罪からの救いを生活、態度、言葉によって伝える伝道によって社会に積極的に出て行くことを重視する教会、関係者」と自己定義するが、教会派の聖書観は植村正久の線にあり、教会派と福音派は聖書観が異なっている[32][33][34]。この態度は、神学や聖書学自体を否定するほど敬虔主義的な信仰姿勢とも定義される[35]

[編集] 聖公会

福音派の指導者マーティン・ロイドジョンズは、英福音同盟の会議において、リベラルと福音主義の混合した聖公会から、福音的なクリスチャンが出てくるように呼びかけたが、イングランド国教会内部の福音派指導者ジョン・ストットが反対したために、連合王国では福音派とエキュメニカル派の完全な分離が実現しなかった。これは日本と状況が異なっている。日本においてエキュメニカル派に所属する教会は、福音派の日本福音同盟に加盟することができない。現在、聖公会内福音派の代表的な神学者はアリスター・マクグラスである。

[編集] 合衆国におけるキリスト教根本主義と福音派

詳細は「キリスト教根本主義」を参照

アメリカ合衆国では、有名な「進化論論争」や、また、昨今は「宗教右派」とかなり重複していることで世界的に有名になっているが、政治的立場は必ずしも右翼タカ派)とは限らず、たとえば共和党でもマーク・ハットフィールドのような議員や再洗礼派系の教団や教派のように聖書の使信は平和主義であると称える教派も多い。

[編集] 望まざる負の印象

アメリカ合衆国2001年ジョージ・W・ブッシュ政権が発足した後はアブグレイブ刑務所における捕虜虐待ハリケーン・カトリーナでの特に黒人被災者への救援の遅れなどから福音派という言葉自体が人種差別を初めとする負の印象で捉えられがちになり日本で福音ルーテル派の教会が看板やパンフレットにある宗派名を止むを得ず「ルーテル教会」等別の表現に置き換えるなどの動きが生じた。

[編集] キリスト教用語を超えた俗用法

近年、マスコミは報道の中で福音派を原理主義と呼ぶことがある。なお、福音派キリスト教根本主義を包含し、それよりマイルドな領域をもカバーするより広い概念だが、福音派をファンダメンタルとする用法も確実に実在するため、両者の混同の原因を全て部外者の無理解に帰すことは妥当ではないとする見方も存在する。 キリスト教以外でも、極度に頑迷で他者の存在を許容しない主張をする性格が強い勢力を揶揄する言葉として少々批判的な意味で用いられることがある。用例として日蓮正宗を「日蓮宗福音派」、浄土真宗親鸞会を「浄土真宗福音派」等。これはユダヤ教パリサイ派についてもほぼ同様である。この用法では「福音派」は完全に「原理主義(キリスト教根本主義)」や「急進派」と同義と捉えられた上で適用範囲の拡張が行われており、キリスト教外での「福音派」認識を客観的に示す例といえる。ある程度世俗化された現代的な価値観も許容する穏健派の福音派信者にとってはこれらの用法は不快感、不信感を招くこともあるので注意を要する。

[編集] 脚注

  1. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』いのちのことば社
  2. ^ 中村敏『日本における福音派の歴史』
  3. ^ 日本福音同盟『日本の福音派』p.50いのちのことば社
  4. ^ J・I・パッカー『福音的キリスト教と聖書』
  5. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』
  6. ^ 日本福音同盟『日本の福音派』p.49
  7. ^ 宇田進『宣教ハンドブック』p.248
  8. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』いのちのことば社
  9. ^ 宇田進『現代福音主義神学』いのちのことば社
  10. ^ A・E・マクグラス『キリスト教の将来』教文館
  11. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』いのちのことば社 ISBN 9784264014232
  12. ^ 古屋安雄『激動するアメリカ教会』ヨルダン社
  13. ^ 尾山令仁『クリスチャンの和解と一致』
  14. ^ 教界全体では東方教会東方諸教会正教会)、西方教会ローマ・カトリック教会、プロテスタント教会)に別れ、プロテスタントは聖書信仰派(福音派と聖霊派)とリベラル派(エキュメニカル派)に分かれている。尾山令仁『クリスチャンの和解と一致』地引網出版
  15. ^ A・E・マクグラス『キリスト教の将来』教文館
  16. ^ 「聖書信仰は、ただJPCだけではなく、福音派全体の共通した恵みの絆であり、伝統的キリスト教教理の敷石であり、救霊と伝道への情熱の源泉である。」日本福音同盟『日本の福音派』p.50いのちのことば社
  17. ^ ジョン・グレッサム・メイチェン『キリスト教とは何か』いのちのことば社
  18. ^ 共立基督教研究所『宣教ハンドブック』東京キリスト教学園
  19. ^ 「正統」はあくまで自己言及としてなされるものであって、客観的に正統という立場はあらゆる教派に存在しない。一方、自らの「伝統性」を主張する東方諸教会正教会カトリックなどを考え合わせると、「旧守的」という表現にも問題が残る。後述するように、福音派の定義については簡潔な記述は困難である
  20. ^ 福音主義神学と聖書学は福音派陣営で発達を見た。代表的神学者は、J.G.メイチェン、ウォーフィールド、J.I.パッカー、カール・ヘンリー、A・E・マクグラス、岡田稔、尾山令仁、内田和彦らである
  21. ^ 『福音主義キリスト教と福音派』宇田進
  22. ^ 「福音派の諸教団はエキュメニカルなグループとは独立して、その交わりを育ててきたのであり、日本では特にその区別が明確である。」日本福音同盟『日本の福音派15』p.49
  23. ^ マーティン・ロイドジョンズ『リバイバル』いのちのことば社
  24. ^ 高橋保行『ギリシャ正教』講談社学術文庫
  25. ^ 日本福音同盟『21世紀の福音派のパラダイムを求めて』いのちのことば社 p.62
  26. ^ 日本福音同盟『日本の福音派-21世紀に向けて』p.44
  27. ^ 日本福音同盟『はばたく日本の福音派』p.142
  28. ^ 共立基督教研究所『宣教ハンドブック』p245
  29. ^ 片岡伸光『汝の若き日に』キリスト者学生会
  30. ^ いのちのことば社『敬虔に威厳をもって』
  31. ^ 日本福音同盟『日本の福音派-21世紀に向けて』p.39
  32. ^ 岡田稔『キリストの教会』小峯書店
  33. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』いのちのことば社
  34. ^ ケアンズ『基督教全史』
  35. ^ 自由主義神学者海老名弾正と論争した植村正久は、キリストの贖罪を教会の告白の中に含めることは間違いだと主張した「植村・高倉神学の行方」(『改革派世界』)岡田稔著。また植村は、ウェストミンスター信仰基準など歴史的なプロテスタントの信条は日本に必要ないとも主張した『著作集』6「信条制定に関する意見」植村正久著

[編集] 関連文献

  • 『福音主義キリスト教と福音派』宇田進著 いのちのことば社 ISBN 9784264014232
  • 『現代福音主義神学』宇田進著 いのちのことば社 ISBN 4264020492
  • 『日本における福音派の歴史』中村敏著 いのちのことば社 ISBN 4264018269
  • 『21世紀の福音派のパラダイムを求めて』日本福音同盟 いのちのことば社 ISBN 4264024323
  • 『日本の福音派』日本福音同盟 いのちのことば社
  • 『クリスチャンの和解と一致』尾山令仁著 地引網出版 ISBN 9784901634144
  • 『聖書の権威』尾山令仁著 羊群社

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年9月5日 (土) 11:00 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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