秦郁彦

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秦 郁彦(はた いくひこ、1932年昭和7年)12月12日 - )は、日本歴史学者。元日本大学教授法学博士東京大学、1974年)。山口県出身。日本の近現代史に関する研究や著作などで知られる。両切りの缶入りピースを愛好する喫煙者[1]である。

目次

[編集] 略歴

[編集] 学歴

[編集] 職歴

同期に小粥正巳(大蔵事務次官)、大橋宗夫(関税局長)など。為替局、中国財務局名古屋国税局経済企画庁などで勤務。
大蔵省大臣官房参事官を最後に大蔵事務官を1976年依願退官

[編集] 学風

専攻は、日本の近現代史第二次世界大戦を中心とする日本の軍事史。その他、昭和史に数多くの著作がある。緻密で客観的な実証を重んじる実証史家として知られ、史料の発掘・研究だけでなく、現地での調査と証言の収集によって検証している。著書『日中戦争史』は、この分野における古典的名著であると評価されている[2]

東京大学在学中に丸山真男の指導を受けてA級戦犯を含む多くの旧日本軍将校らからのヒアリングを実施、大蔵官僚時代には、財政史室長として昭和財政史の編纂に携わり、自身もアメリカの対日占領政策についての執筆を行なった。さらに、日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部による共同プロジェクトに参加し、研究の成果は後に『太平洋戦争への道』として出版された。同書は現在も開戦に至る日本外交を描いた先駆的業績として高い評価を得ている[3]。近現代史に関わる多くの事典の編纂でも知られ、東京大学出版会より刊行した事典類は実証研究に必須の資料となっている。

歴史の効用として「教訓」「説得の技術」「エンターテイメント」の3つがあるという意見を持つ。

[編集] 発言

諸君!』に多くの寄稿をしている。昭和史の争点をあげ、他の研究者との対立を恐れない視点を提示した手法は多くの読者を集めた[要出典]。最近は盧溝橋事件や慰安婦なども研究している。家永三郎を『変節組』と批判し、家永教科書裁判においては、国側証人として出廷した(家永三郎の項参照)。第二次大戦期における日本軍による慰安婦の組織的強制連行の可能性については否定的であり、いわゆる南京事件(南京大虐殺)については自著『南京事件』(中公新書)において、日本軍の不法行為による犠牲者数を「3.8万~4.2万人」とし、以後も、いわゆる中間説(被虐殺者数は約4万人程度)を自身の見解としている。但し、2007年に出した同著の増補版では、「4万の概数は最高限であること、実数はそれをかなり下まわるであろうことを付言しておきたい」と追記している(週刊新潮2007年12月27日号では、「だいたい4万人」という表現でコメントしている)。

百人斬り競争については、犯人とされる旧日本陸軍少尉が故郷鹿児島県において地元の小学校や中学校で捕虜殺害を自ら公言していたことを調べ上げて、1991年に日本大学法学会『政経研究』42巻1号・4号にて発表している。

東條英機は、仮に東京裁判が無くても死刑に値する犯罪者である、と著作『現代史の争点』で主張している。また、昭和天皇靖国神社に参拝しないようになった理由は「A級戦犯合祀」であると主張して、三木武夫首相の「私的参拝発言」原因説を唱える岡崎久彦渡部昇一櫻井よしこらを『諸君!』誌上や産経新聞「正論」欄で批判している。同じく、張作霖爆殺事件に関しても一次史料に基づく先行研究に依拠して河本大作大佐を中心とする日本陸軍の犯行であることを主張し、「近年開示されたソ連政府の機密文書から判明したこと[4]」として「張作霖爆殺はコミンテルンの仕業」と主張する人間たちを事実に基づかない妄言であり歴史を捏造するものとして『文芸春秋』や産経新聞「正論」欄で批判している。

日本経済新聞社に依頼されて、富田メモ研究委員会委員をつとめ、このメモが本物であると認定した。

[編集] 慰安婦論争についての評価

慰安婦に関する秦の'90年代の調査は、吉田証言を否定し、慰安婦強制連行(吉見義明のいうところの狭義の強制)の論拠を否定した。慰安婦強制連行を正面から肯定した議論は以後でていない。しかし、慰安婦に対する社会的強制(吉見のいうところの広義の強制)を問題とし慰安婦の歴史的事実に関する研究を発表している一部の研究者からは、秦の慰安婦の実体に関する記述はほとんど参照されておらず、秦の調査内容は事実上無視されている。例えば朱徳蘭は、その台湾の慰安婦に関する研究書「台湾総督府と慰安婦」(明石書店、2005年)で、今までの研究結果として多くの研究書を列記しているが秦の本はない。また吉見義明は「日本軍性奴隷(「従軍慰安婦」)制度研究の現段階」(戦争責任研究(38)2002年冬季)で12年間の研究を振り返っているが秦への言及はない。一方で、慰安婦の歴史資料を収集、整理し歴史の教訓とすることを事業内容の一つとしており、基金内部に慰安婦関連資料委員会を設置しているアジア女性基金は、秦の研究もとりあげている。

この問題は対立が激しく、かつ対立点が複数あり、ある学者が中立的な立場と見られることが概して成立しにくいため、中立的と見られる学者による安定した評価も学者間では成立していない。

秦のこの問題についての見解は、権力によって具体的に強制されたかどうかという点に判断基準を置かないなら、当時の世代すべてが強制連行されたことになってしまう、というものである。

1999年に出版された、それまでの議論や様々な資料を広く参照し、おもに時代背景やその変化などから慰安所制度や慰安婦の実態を明らかにすることをこころみた著書「慰安婦と戦場の性」は、大きな反響を呼んだ。

肯定

嶋津格千葉大学法哲学教授)は、秦の著書『慰安婦と戦場の性』の裏表紙で「このような結論を導くに際して、秦は、自らが国内外にわたって収集、調査した資料を駆使する歴史学的態度を堅持している。そして、その結果生まれた本書は、総合性の上で、既存の類書の水準を超えた、「慰安婦」及び「慰安婦問題」の百科全書ともいうべき力作になった。これでやっと、冷静な遠近法の中で慰安婦問題を語る土壌が作られたのではないか」との賛辞を寄せている[5]

否定

アジア女性基金資料委員会の委員を秦がつとめた際の和田春樹との論争については、和田春樹の項目参照。

歴史学者林博史関東学院大学教授)は、『慰安婦と戦場の性』における資料の引用に際して、出典を示していないものがある、数値を誤っている、証言の一部分だけを抜き取って都合よく引用している、などの点を批判している[6]

日本近現代史や軍部の政治史を専門とする永井和京都大学教授)は、1998年になって自由主義史観を教材対象とするときにこの問題を調べ始め、この問題の中心はいわゆる広義の強制の責任問題であり、それを『もっぱら「強制連行」の有無を争う』ことに絞ろうとする自由主義史観派が対立の因であり、それに実証的な立場のはずの学者(秦)が協力的だったと批判している[7]。また自身のブログで、『慰安婦と戦場の性』について、秦が「おそらく、(略)大多数を占めるのは、前借金の名目で親に売られた娘だったかと思われるが、それを突きとめるのは至難だろう。」と結論については支持しつつも、結論に至る論証の手続きについて実証史家としては問題がある、などとしている[8]

刑事人権論を専攻する前田朗東京造形大学教授、朝鮮大学校政治経済学部刑法専攻講師)は、上記著作には国連組織への初歩的な間違いや憶測に基づいている記述が多いとも述べ、秦の手法に対して方法論的な疑問を提示している[9]。これに対する秦の反論が「前田朗氏への反論」(『戦争責任研究』 2000年夏季)。

[編集] 受賞歴

[編集] 著書

[編集] 単著

  • 『日中戦争史』(河出書房新社、1961年/増訂版、1972年/新装版、原書房、1979年)
  • 『軍ファシズム運動史――3月事件から2・26後まで』(河出書房新社、1962年/増訂版、1972年/新装版、原書房、1980年)
  • 『実録第二次世界大戦――運命の瞬間』(桃源社、1968年)
  • 『太平洋国際関係史――日米および日露危機の系譜 1900-1935』(福村出版、1972年)
  • 『昭和財政史 終戦から講和まで(3) アメリカの対日占領政策』(大蔵省財政史室編、東洋経済新報社、1976年)
  • 『太平洋戦争六大決戦――なぜ日本は敗れたか』(読売新聞社、1976年)
  • 『史録日本再軍備』(文藝春秋、1976年)
  • 『八月十五日の空――日本空軍の最後』(文藝春秋、1978年/文春文庫、1995年)
  • 『太平洋戦争航空史話(上・下)』(冬樹社、1980年/光風社出版、上中下巻に変更、1984年/中央公論社[中公文庫]、上中下巻、1995年)
  • 『昭和史の軍人たち』(文藝春秋、1982年/文春文庫、1987年)
  • 『官僚の研究――不滅のパワー・1868-1983』(講談社、1983年)
  • 『裕仁天皇五つの決断』(文藝春秋、1984年/「昭和天皇五つの決断」に改題、文春文庫、1994年)
  • 『実録太平洋戦争――六大決戦、なぜ日本は敗れたか』(光風社出版、1984年/新訂版、1995年)
  • 『実録第二次世界大戦――運命を変えた、六大決戦』(光風社出版、1984年/「第二次世界大戦鋼鉄の激突」に改題、中央公論社[中公文庫]、1998年)
  • 『昭和史を縦走する――柳条溝事件から教科書問題まで』(グラフ社、1984年)
  • 『南京事件――「虐殺」の構造』(中央公論社[中公新書]、1986年/増補版、2007年)
  • 『昭和史の謎を追う(上・下)』(文藝春秋、1993年/文春文庫、1999年)
  • 盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会、1996年)
  • 『日本人捕虜――白村江からシベリア抑留まで(上・下)』(原書房、1998年)
  • 『錯誤の戦場』(中央公論社[中公文庫], 「実録太平洋戦争」の増補改訂版、1998年)
  • 『過信の結末』(中央公論社[中公文庫], 「実録太平洋戦争」の増補改訂版、1998年)
  • 『現代史の争点』(文藝春秋、1998年/文春文庫、2001年)
  • 『現代史の光と影――南京事件から嫌煙権論争まで』(グラフ社、1998年)
  • 『慰安婦と戦場の性』(新潮社[新潮選書]、1999年)
  • 『なぜ日本は敗れたのか――太平洋戦争六大決戦を検証する』(洋泉社[新書y]、「実録太平洋戦争」の増補改訂版、2001年)
  • 『現代史の対決』(文藝春秋、2003年/文春文庫、2005年)
  • 『旧制高校物語』(文藝春秋[文春新書]、2003年)
  • 『漱石文学のモデルたち』(講談社、2004年)
  • 『歪められる日本現代史』(PHP研究所、2006年)
  • 『統帥権と帝国陸海軍の時代』(平凡社[平凡社新書]、2006年)
  • 『現代史の虚実――沖縄大江裁判・靖国・慰安婦・南京・フェミニズム』(文藝春秋, 2008年)

[編集] 共著

[編集] 編著

  • 『戦前期日本官僚制の制度・組織・人事』(戦前期官僚制研究会編、東京大学出版会、1981年)
  • 『世界諸国の制度・組織・人事 1840-1987』(東京大学出版会、1988年/2000年までを追加した増補版、2001年)
  • 『真珠湾燃える(上・下)』(原書房、1988年)
  • 『日本陸海軍総合事典』(東京大学出版会、1991年/第二版、2005年)
  • 『ゼロ戦20番勝負』(PHP研究所[PHP文庫]、1999年)
  • 『日本官僚制総合事典 1868-2000』(東京大学出版会, 2001年)
  • 『検証・真珠湾の謎と真実――ルーズベルトは知っていたか 』(PHP研究所、2001年)
  • 『太平洋戦争のif「イフ」――絶対不敗は可能だったか?』(グラフ社、2002年)
  • 『日本近現代人物履歴事典』(東京大学出版会、2002年)[10]
  • 『昭和史20の争点 日本人の常識』(文藝春秋、2003年/文春文庫、2006年)
  • 『沖縄戦「集団自決」の謎と真実』(PHP研究所、2009年)

[編集] 共編著

  • 日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部編『太平洋戦争への道 第4巻 日中戦争 下』(朝日新聞社、1963年)
  • 日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部編『太平洋戦争への道 第6巻 南方進出』(朝日新聞社、1963年)
  • 三宅正樹藤村道生・義井博)『昭和史の軍部と政治(全5巻)』(第一法規出版、1983年)

[編集] 監修

  • 『連合艦隊海空戦戦闘詳報(全18巻・別巻2巻)』(アテネ書房、1996年)

[編集] 共監修・共著

[編集] 訳書

  • デイヴィッド・カーン『暗号戦争』(早川書房、1968年/ハヤカワ文庫、1978年)
  • ウォルター・ロード『南太平洋の勇者たち――ソロモン諜報戦』(早川書房、1981年)

[編集] 脚注

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  1. ^日本の論点』文藝春秋1999
  2. ^ 復刊の際のパンフ(池井優慶大教授)より
  3. ^ 新装版刊行に際しての朝日新聞社の書評「開戦外交史の通史としてこれをしのぐものは現れていない」
  4. ^ 産經新聞記者内藤泰明(モスクワ支局長)の取材によれば、その説の主張者ドミトリー・プロホロフは既出の文献を総合して書いたもので、「旧ソ連共産党や特務機関に保管されたこれまで未公開の秘密文書を根拠としているわけではない」と認めたとしている(『正論』2006年4月号)。
  5. ^ 『慰安婦と戦場の性』裏表紙推薦文
  6. ^ 林博史秦郁彦『慰安婦と戦場の性』批判」 『週刊金曜日』 290号 1999年11月5日 - 林博史研究室
  7. ^ 永井和 日本軍の慰安所政策について『二十世紀研究』創刊号、2000年
  8. ^ 2007-04-15 従軍慰安婦問題を論じる - 永井和の日記 - 掲示板への投稿から―その2― - 従軍慰安婦問題を論じる - 永井和の日記
  9. ^ 前田朗 『秦郁彦の「歴史学」とは何であるのか?』 (日本の戦争責任資料センター『戦争責任研究』 2000年春季)
  10. ^ 「日本近現代人物履歴事典」秦郁彦【著】
  11. ^ 文藝春秋 80周年記念出版 世界戦争犯罪事典

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年11月18日 (水) 11:04 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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