薬物依存症

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薬物依存症(Substance Dependence、やくぶついそんしょう、やくぶついぞんしょう)とは精神疾患の1つで、脳内の神経伝達物質として報酬系などに作用する薬物である「脳に直接作用する物質」に対する依存が多い。ほかの依存症には、脳内麻薬が多量に分泌する「状況への依存」(ギャンブル依存症、ショッピング依存症など)や「人間関係の依存」(共依存など)がある。

医学上は、あらゆる薬物への依存が薬物依存症に含められる。また「薬物」を法制上禁止されている薬物という意味合いに捉え、特に麻薬や違法とされる向精神薬覚せい剤などによる薬物依存症のことを指す言葉として用いられることもある。一般的に幻覚剤には強い依存性はなく、さらに他の薬物の依存症の治療に良好な結果が見られるものもある。

薬物依存の症状としては、精神的依存と身体的依存がある。両者の違いは依存症の項に詳しい。

目次

[編集] 依存

薬物依存症は、意志や人格に問題があるというより、依存に陥りやすい脳内麻薬分泌を正常に制御できない状況が引き起こした「病気」である。「まだ大丈夫」と問題性を否認しているうちに、肉体・精神・実生活を徐々に破壊していく。家族などの周囲をも巻きこみながら進行し、社会生活や生命の破滅にいたることも稀でない。また、以前は薬物中毒、略して薬中と言われたこともあるが、差別用語(薬物で誘発された精神疾患は、重篤になりやすい)にあたることから現在ではほとんど使われていない。

また、精神疾患の強迫性障害に伴う気分変調を紛らわすという目的で薬物に依存し、アルコール依存症などに陥る場合もある。

それだけでなく、ニコチンに対する依存症である喫煙のように、依存者自身やその周囲にいる他者へ受動喫煙として悪影響を与えることで、生活習慣病や重大な死因、気管支の疾患や胎児へ影響し、健康に対する影響が社会的に甚大である薬物もある。アルコールへの依存も、未成年者の脳の発育や胎児、生活習慣病や肝臓の疾患に影響する。これらを日本での社会的な費用に換算すると、喫煙は社会全体で約4兆円の損失、アルコールは社会全体で医療費や収入源などを含め約6兆6千億円になるとされる[1]

[編集] 離脱症状と耐性

離脱症状とは、摂取した薬物が身体から分解や排出され体内から減ってきた際に起こるイライラをはじめとした不快な症状である。このような離脱症状を回避するために、再び薬物を摂取することを繰り返し薬物に依存することとなる。またアルコールのように、手の振るえなどの身体に禁断症状が出る場合もある。

依存性薬物の中には、連用することによってその薬物が効きにくくなるものがあるが、これを薬物に対する耐性の形成と呼ぶ。薬物が効きにくくなるたびに使用量が増えていくことが多く、最初は少量であったものが最後には致死量に近い量を摂取するようになることすらある。耐性が形成されやすい薬物として、アンフェタミン類、モルヒネ類(オピオイド類)、アルコールなどが挙げられる。

依存性のある治療薬の濫用が問題として取り上げられることもある。例えば、覚醒作用のある薬物で、眠気を発作的に引き起こすナルコレプシーや、アメリカで注意欠陥・多動性障害(ADHD)に処方されるメチルフェニデート(リタリン)やアンフェタミンである[2][3]。(アンフェタミンは、日本では覚せい剤取締法で覚醒剤に指定され規制されている。)日本では、2007年ごろ「リタリン依存」が社会問題化し、厳しく管理されるようになった。[4]

[編集] 薬物依存症の回復

ニコチンの依存では、さまざまな禁煙プログラムなども考え出されている。

[編集] 生理的な回復

摂取した薬物は、脳内で本来働いている物質と似たような物質として働く。この本来働いている脳内物質をリガンド、摂取しリガンドの代わりに働く薬物はアゴニストと呼ばれる。

依存性がある薬物の血中濃度が下がってくると、生理的に不快な感覚が離脱症状として表れ、再び薬物を摂取したいという欲求が高まる。薬物ごとに血中濃度が半分になる半減期が薬物の特性としてわかっている。アゴニストとして働いていた物質が不足すれば、生理的に不快な離脱症状が起こるが、再び薬物を摂取せずに薬物摂取のため分泌が少なくなっていたリガンドの分泌が回復していくことで離脱症状が薄れ依存症から回復する。

[編集] 心理的なサポート

アルコール依存症を回復する目的で、同じような境遇の人々が集まりお互いに影響を与える自助グループがある。

[編集] 幻覚剤による心理療法

ロシアの薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは20年間にわたり、麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった[5]などのいくつかの報告[6][7]がある。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られた[8][9]。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある[10]。幻覚剤のアヤワスカがアルコールや麻薬の常習を減らしたという報告もある[11]

[編集] 治療とリハビリテーションのための社会体制の整備

薬物乱用を早期発見し、早期治療に結びつけるため、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)は次の社会体制整備を必須としている。

  • 薬物乱用を早期発見し、治療施設につないでゆく。
  • 医療施設のない地域にも活動を拡大していく。
  • 医療者・ソーシャルワーカーカウンセラーらのチームによる精神的・社会的介入。
  • カウンセリング、回復のための薬物治療、復職など社会復帰への支援、の協同

[編集] 脚注

  1. ^ 健康日本21
  2. ^ 「脳を活性化する薬」が米国知識層に蔓延:読者からも多数の使用報告(1)WIRED VISION、2008年5月19日)
  3. ^ 覚醒剤の助けで戦闘に臨む米軍兵士たちWIRED VISION、2003年2月20日)
  4. ^ 科学者の2割が向精神薬を使用:『Nature』の調査WIRED VISION、2008年4月15日)
  5. ^ ジョン・ホーガン 『科学を捨て、神秘へと向かう理性』 竹内薫訳、徳間書店、2004年11月。ISBN 978-4198619503。210頁。(原著 Rational mysticism, 2003)
  6. ^ E. M. Krupitsky et al. "The Combination of Psychedelic and Aversive Approaches in Alcoholism Treatment: The Affective Contra-Attribution Method" Alcoholism Treatment Quarterly 9(1), 1992
  7. ^ E. M. Krupitsky et al. Ketamine Psychedelic Therapy (KPT): A Review of the Results of Ten Years of Research J Psychoactive Drugs. 1997 Apr-Jun;29(2), pp165-83. Review.
  8. ^ Krupitsky EM, Burakov AM, Dunaevsky IV et al. "Single versus repeated sessions of ketamine-assisted psychotherapy for people with heroin dependence" J Psychoactive Drugs 39(1), 2007 Mar, pp13-9. PMID 17523581
  9. ^ E. M. Krupitsky et al. Ketamine psychotherapy for heroin addiction: immediate effects and two-year follow-up (PDF),Journal of Substance Abuse Treatment23, 2002, pp273-283
  10. ^ Jovaisa T, Laurinenas G, Vosylius S, Sipylaite J, Badaras R, Ivaskevicius J (2006). "Effects of ketamine on precipitated opiate withdrawal". Medicina (Kaunas) 42 (8): pp625-34. PMID 16963828
  11. ^ ジョン・ホーガン 『科学を捨て、神秘へと向かう理性』 竹内薫訳、徳間書店、2004年11月。ISBN 978-4198619503。213頁。(原著 Rational mysticism, 2003)

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年10月18日 (日) 13:35 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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