虚偽報道
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虚偽報道(きょぎほうどう)は、マスコミ等において故意に事実と異なる情報を報道すること。虚報、捏造報道ともいう。
従来、誤報の文脈で語られることが多かったが、誤報が過失によるものであるのに対し、虚偽報道ないし虚報は故意に行われるものである。
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[編集] 新聞における虚偽報道
新聞における虚偽報道の事例をいくつか挙げる。新聞などの活字系メディアは、いわゆる「筆先三寸」(「舌先三寸」の洒落)で虚偽報道が可能なので、テレビの出演者を巻き込んでの大掛かりな「やらせ」を伴う虚偽報道に対し、比較的単純である。ここでは代表的な虚偽報道事件をあげるが、過去に多くの新聞社で虚偽報道事件が発生している(各社での事件は各社の項目「疑義が持たれた報道、スキャンダル」の節を参照)。
[編集] 虚偽報道の事例
[編集] 西郷隆盛生還偽報道事件
1891年(明治24年)3月31日の東京日日新聞(現在の毎日新聞)に、西南戦争(1877年)で戦死したはずの西郷隆盛がシベリアで存命中との記事が掲載され、全国各地の新聞にも転載され、折りしもロシア皇太子(後の皇帝ニコライ2世)が来日することになっており、西郷も帰国するとの噂で持ちきりとなったが、実際には西郷が生きているはずは無かった。
[編集] 淡路丸沈没虚偽報道事件
1917年(大正6年)3月26日、報知新聞に日本郵船の華北連絡船「淡路丸」が玄界灘で沈没したと至急電報がもたらされ、同社はただちに号外を出した。当時は第一次世界大戦の最中であり、日本近海にドイツ帝国海軍が敷設した機雷で沈没したとして株式市場が混乱した。実際は淡路丸は無事であり、株価の混乱を引き起こすことで巨額の資金を得ようとした詐欺事件であった。容疑者として東京朝日新聞記者の山中峯太郎と国民新聞記者の松岡泰助、証券会社社員のグループなどが検挙された。
[編集] 伊藤律会見報道事件
詳細は伊藤律会見報道事件を参照
昭和25年(1950年)9月27日付け朝日新聞夕刊に、当時レッドパージにより地下に潜伏中だった日本共産党幹部伊藤律と宝塚市の山林で会見したとする記事が載ったが、その後に記事が完全な虚偽であったことを判明した。朝日新聞は3日後社告で謝罪した。担当記者は退社、神戸支局長は依願退社、大阪本社編集局長は解任となった。
[編集] 「ジミーの世界」事件
1980年9月28日、アメリカ・ワシントン・ポスト紙はジャネット・クック(en:Janet Cooke)記者の署名の入ったジミーの世界(en:Jimmy's World)という長文の記事を報じた。それはワシントン市に住む8歳のヘロイン常習患者について描くもので、彼の母はヘロイン常習者がたむろする食堂を経営し、その愛人は麻薬の密売人。ジミーの腕には注射のあとが残っているなど、生々しい2256語にのぼるルポルタージュであった。当時ヘロインはワシントンの深刻な問題になっており、関心が高まっていた。
記事は市民に衝撃を与え、大きな反響があった。ワシントンの警察もジミーを保護するために大捜索を行った。しかし、そのような少年は見つからなかった。市長や警察はワシントンポストの記事に対する疑念を抱くようになっていた。
この記事で、ワシントン・ポスト紙は1981年、ピューリッツァー賞を受賞した。
しかし、やがてAP通信がクック記者の経歴を報道すると、その中に多くの嘘があることが明らかになった。不審を抱いたポスト紙編集幹部はクックを追及し、彼女は功名心にかられてすべて嘘の記事を書いたことを認めた。「ジミー」は架空の少年だった。クック記者は「人に漏らせば自分の生命に危険が及ぶ」という理由で、当事者の身元も情報源も自社の編集責任者に明らかにしていなかった。ワシントン・ポスト紙はピューリッツァー賞を辞退し、同紙におかれているオンブズマン(外部の大学教授がその任にあった)による調査を実施した。
調査結果は5面にわたって紙上に詳細に公表された。調査結果は捏造の経過と社内の問題点について明らかにし、次のような点を指摘している。
- 幹部が疑いを持ちながらも、厳しい追及を怠った。
- 記者を信頼する仕事の仕方が限度を超えた。上司は取材源を確かめて聞くことさえしていない。
- 特ダネを期待する過度の功名心の弊害が社内に強かった。
などである。一度は地に落ちたワシントン・ポストの評判は、この調査とその公表によって挽回されたという。
[編集] 「日出処の天子」事件
1984年1月24日の毎日新聞夕刊に、「えっこれが聖徳太子?法隆寺カンカン」との記事が掲載。当時連載中だった山岸凉子作の少女漫画『日出処の天子』に登場する聖徳太子の同性愛描写を法隆寺関係者が問題視し、抗議を検討しているという内容で、作者と連載誌編集長の反論コメントも掲載されていたが、その全てが毎日新聞社奈良支局の若手記者による創作であり、2月4日に誤りを認める「おわび」記事が掲載された。
実際には記事掲載前日に法隆寺を訪れた記者の側から「このような漫画があるが問題ではないか」という話をもちかけていたが、法隆寺は「そんな漫画は知らないし、読んでみないことには何とも言えない」と態度を保留。しかし、それで話が通じたと思い込んだ記者は取材を断られた作者と編集部のコメントも創作して記事にしていた。
[編集] 珊瑚落書き報道事件
詳細は朝日新聞珊瑚記事捏造事件を参照
1989年4月20日の朝日新聞夕刊に、「沖縄県西表島のサンゴに『K・Y』の落書きがされている」という記事が載った。しかし、その後朝日新聞は5月16日「報道に行き過ぎがあったこと」としお詫び記事を掲載するが、さらに5月20日に至ってようやく捏造であったことを認めた。当事者の本田嘉郎カメラマンは懲戒解雇され、その他関係者も停職・辞任した。
[編集] 秋篠宮「お言葉」創作
2005年4月15日付け産経新聞社会面で、秋篠宮文仁親王が第14回地球環境大賞の授賞式に出席した際、「お言葉」の中で「フジサンケイグループの主催」に言及したとする記事を掲載したが、実際にはそのような事実はなかった(皇族が私企業の活動を讃えたりする事は発言が利用されるのを防ぐ為、控えるべきとされている)。産経は後日誤りを認め、該当部分の撤回を行なった。
[編集] 新党日本に関する捏造事件
詳細は朝日新聞の新党日本に関する捏造事件を参照
2005年8月21日の朝日新聞で当時田中康夫長野県知事が新党を結成すると噂されていたことに関し、長野総局記者の取材による記事を掲載したが、田中康夫本人から取材を受けた事実は無いと指摘されたことで、記事の捏造が発覚した、記者は懲戒解雇、朝日新聞は8月30日に謝罪文を発表した。
[編集] ニューヨークで発生した著名ラップ歌手銃撃事件に関する報道
1994年に起きたこの事件に関する、ロサンゼルス・タイムズの「連邦捜査局から入手した資料」を基にした“マネジャーらが関与”とする特ダネ記事は、ピューリッツァー賞受賞歴もある執筆者の記者による捏造であった事が2008年3月に判明した。同紙は虚報であった事を全面的に認め謝罪・記事を撤回。
[編集] 毎日デイリーニューズ英語コラム虚偽報道
詳細は毎日デイリーニューズWaiWai問題を参照
毎日新聞社の英語報道メディアMainichi Daily News(「毎日デイリーニューズ」)で日刊紙時代の1989年10月に連載が始まり、2001年春のWeb サイト移行時にも継承されたコラム「WaiWai」において、日本人についての虚偽にもとづく低俗な内容の記事が掲載・配信された問題。2008年に表面化し、同コラムの閉鎖、担当記者や上司の処分、Web サイト配信分に関する社内調査結果の公表などに発展。
[編集] テレビの虚偽報道
[編集] コメントやテロップによる虚偽報道
テレビにおける虚偽報道はいわゆるやらせと密接な関係を持つことが多い。映像・音声(カメラ、マイク、場合によっては照明など)を伴うテレビにおいては新聞、雑誌のような活字メディアより手の込んだ手段、いわゆるやらせ(出演者による演技)を伴う場合が多く、また、出演者が絡まなくとも制作者が介入して「いい絵」を撮るために現場の状況に手を加える場合があり(例:後述の「ムスタン」の流砂の例)、状況が複雑である。
まず新聞や雑誌などと同様な単純な虚偽報道として「虚偽コメント(ナレーション)」「虚偽テロップ」がある。これはいわゆる「やらせ」にはあたらない虚偽報道である。例えば1992年にNHKで放映された『NHKスペシャル』「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン」[1]の事例では、取材中、少年僧が雨乞いの祈りをするのだが、わずかな量の雨が降ったにもかかわらず、「少年僧の願いもむなしく、雨は一滴も降らなかった」とコメント(ナレーションでの解説)を付けている。これは調査報告書でも虚偽であったとされた。
これとは別に、NHKの「ムスタン調査報告書」では問題が無いとされたが、番組内ではあたかも「ムスタン」が独立王国であるかのようにコメント・編集されていた件もある。実際には「ネパール王国(当時)」の一部であった。これを虚偽コメントとする見方もある。
[編集] いわゆる「やらせ」による虚偽報道
ジャーナリストのばばこういちは「やらせ」を分類し、「単純再現」「悪質再現」「捏造」を挙げている。ばばは「単純再現」は許され、「悪質再現」は許されないとのスタンスを取っているが、「単純再現」と「悪質再現」の線引きは難しい。
「ムスタン」では高山病にかかったスタッフが回復後にディレクターの指示で高山病の演技をしたが、ディレクターはスタッフにもっと大げさに苦しむ演技を要求したという。これは「単純再現」と見る見方もあるかもしれないが、事実の再現にあたっては誇張や歪曲をせず、出来るだけ正確にすべきという観点からすれば「悪質再現」と見ることも出来る。
また、故意に流砂現象を引き起こしたとされる件もあったが、これは厳密に言うとやらせを伴わない再現行為であり、許されるかどうか微妙なところである。
「捏造」を伴うやらせが虚偽報道であることは論を待たない。「ムスタン」で言えば小学校の理科の授業として「山羊の解剖」を行なったケースがそれである。この小学校では日常的にそのようなことは行なわれていないため、再現行為には当たらず、「捏造」であることが明らかになっている。
[編集] 映像・音声の編集による虚偽報道
テレビでは撮影された映像をそのまま放送するわけではない。撮影してきた映像の中から必要な部分だけ切り取り、他の多くの映像とつないで編集する。例えばインタビューの場合、前提条件の部分をカットし、結論の部分だけ放送するなども行なわれ、発言者の真意が歪曲され、時には反対の意味で報道されることがある。
また、インタビューでなくても、関係のない映像を編集してつなぐことにより視聴者に一定の意味を伝えることができる(モンタージュ)ので、非言語的な虚偽報道も可能である。
[編集] その他のメディアにおける虚偽報道
[編集] ドキュメンタリー映画
ドキュメンタリー映画やビデオにおいてもテレビと同様に映像と音声の問題を抱えている。例えば初期のドキュメンタリー映画の名作とされるフラハティー監督の『アラン』はアイルランドのアラン島に生きる人々の過酷な生活を記録したものだが、撮影時より50年も前の島の生活の再現が入っているという。[2]テレビのやらせの原点はドキュメンタリー映画にすでに潜んでいたわけである。
また、レニ・リーフェンシュタール監督のベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』や、市川崑監督の『東京オリンピック』にも再現映像があるという。実際のオリンピック競技の映像のほかに選手に競技を「やらせ」て撮影し放映したのである。芸術的な映像を追求するために事実性を犠牲にしたわけである[3]。例えば、『オリンピア』での西田修平と大江季雄の棒高跳の対決(俗に「友情のメダル」と称す)は再現映像である。
[編集] ラジオ
ラジオでは最近は虚偽報道が表面化することは必ずしも多くはないが、音声を扱っていることから、単純な虚偽コメントだけでなく、出演者を巻き込んで演技させるいわゆる「やらせ」による虚偽報道が行なわれている可能性を指摘する者もいる。音声は映像よりはるかに加工しやすく、編集した跡が映像と違って分からないという特性もある。また擬音を用いることもできる。映像の拘束を受けずに細かい編集も簡単なので、編集による虚偽報道はきわめて容易である。マイナーなメディアなので表面化しにくいので、問題化されにくいが、ラジオに虚偽報道がないと信じることは早計である。
[編集] インターネットがらみの虚偽報道
また、近年ではインターネットとテレビや映画などのメディアを融合させたメディアミックス型の演出も多用されるようになってきているが、一部においては「やらせ」ではないかという疑惑も持たれている。たとえば、映画「ノロイ」では、登場する架空のジャーナリスト小林雅文のホームページや小林のファンのブログなどが実際にインターネット上で閲覧できるようになっている。このケースでは、映画そのものがフィクションであることは容易に想像がつくため、インターネット上でのページ開設も映画のリアリティを増すための演出としてとらえることが出来る。
一方、2009年1月10日にテレビ朝日系列で放送された「情報整理バラエティー ウソバスター!」の「ネットの情報が本当であるかを検証する」という趣旨のコーナーは、複数のブログの記述にウソが書かれていることを検証する内容であったが、これが捏造ではないかという疑惑が持たれている[1]。この放送の趣旨は番組タイトルからもわかるように「ウソ情報を撃退する」というものであり、視聴者は放送内容が事実に基づいていると認識してしまうため、番組内で紹介されたブログがスタッフの作ったものであれば悪質な捏造報道ととらえることが出来る。
[編集] エイプリルフール報道
英国放送協会BBCは、かつて朝夕に日本向けに短波ラジオで日本語放送を行っており、毎年4月1日にはエイプリルフールのニュースも放送していた。1980年に「ビッグ・ベンの時計がデジタルになり、針が不要になったので聴取者のみなさんにプレゼントします」と放送したところ、日本から真に受けた聴取者から問い合わせが相次いだ。故意ではあるが、悪意のないユーモアに基づいた報道により、視聴者が騙されることになった。ちなみに「ビッグ・ベンのデジタル時計化」は、2008年にも英デイリー・エクスプレス紙がエイプリルフール・ニュースとして掲載した。
テレビのエイプリルフールのジョーク番組としては「第三の選択(Alternative 3)」(製作英・アングリアTV)が、現在に至るまで影響を与えている。詳細はアポロ計画陰謀論の項を参照。
[編集] 虚偽報道の背景
虚偽報道が後を絶たないことに様々な理由が挙げられる。
根本的な理由としては、記者・ディレクターや取材チームが取材を開始する以前に、記事に対する評価の期待値を計算し、自分なりの見通しや願望を立てていることがある。特にドキュメンタリー番組・映画などでは撮影以前に企画者がシナリオを作成している事が当たり前である。取材・撮影の進展によって予想外の事態が発生したり、思わぬ事実、さらには自分の理想・思想と相反する実態が判明することも、当然多々起き得るものである。取材者・企画者がそれを受け入れて、自分で組み上げた見通しやシナリオを、取材した事実に沿って修正する事ができるならば虚偽にはならない。だが、当初のままで押し進め、映像やコメントを自らの意図に沿う形に編集したり、取材対象者に自身の発言ではなく取材陣の求める内容の発言をさせるなどして、事実を歪めれば虚偽報道に陥る。
また、報道機関により、虚偽報道に関与した社員に対する処分にはかなりの差がみられる。解雇という厳罰で臨む社もあれば、口頭での「厳重注意」処分程度で済ませる社もあり、その企業体質も強く関連すると見られる。
[編集] 組織ぐるみの虚偽報道・国家レベルの虚偽報道
伊藤律会見報道、「ジミーの世界」報道、皇族スピーチ報道などはいずれも組織内の個人が功名心などに駆られて行なった虚偽報道であり、組織全体からすれば一種の誤報と見られなくもない。
一方で記者個人のみに一切の責任があるとし、校正を行うべき編集者や責任者たるメディアの反省がなされないため、体質改善が出来ずに虚偽報道が続くとの批判がある。逆に徹底した原因究明と明確な謝罪を行ったワシントン・ポストはむしろ評判をあげた。
かつての日本の第二次世界大戦中の大本営発表や、戦後の占領下でのGHQによる言論統制下に於ける報道ではあえて事実を改変した報道が行われた。また、中国・北朝鮮やミャンマーなどの独裁国家のメディア、またイラク戦争におけるアメリカの対外発表のように、現在でも国家レベルで虚偽報道がなされる例もある。
[編集] 脚注
- ^ 1992年9月30日・「第1回 幻の王城に入る」、10月1日・「第2回 極限の大地に祈る」
- ^ 今野勉『テレビの嘘を見破る』
- ^ 今野勉『テレビの嘘を見破る』
[編集] 参考文献
- 後藤文康『誤報 新聞報道の死角』(岩波新書、1996年) ISBN 4004304466 著者は新聞協会審査委員
- 藤田博司『アメリカのジャーナリズム』(岩波新書、1991年) ISBN 4004301831 著者は元共同通信記者、現在早稲田大学客員教授
- 今野 勉『テレビの嘘を見破る』(新潮新書、2004年) ISBN 4106100886 著者はテレビマンユニオン取締役、武蔵野美術大学教授
- 大塚将司『新聞の時代錯誤 朽ちる第四権力』(東洋経済新報社、2007年) ISBN 9784492222775 著者は元日本経済新聞記者(ベンチャー市場部長)。社内の不正経理問題を告発し懲戒解雇されるも裁判の結果、和解復職。
[編集] 関連項目
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最終更新 2009年9月16日 (水) 17:37 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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