議長決裁

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議長決裁(ぎちょうけっさい)とは、議会などで採決を行って可否同数となった場合、議長自身がその議案の可決・否決を決めることをいう。

英語では英米で表現が異なる。イギリスでは casting vote(“議長の投じる票”)、アメリカでは tie-breaking vote(“均衡を破る票”)、または単に tie break ともいう。

目次

[編集] 各国の例

[編集] 日本

憲法第56条第2項により、国会本会議で採決の結果が可否同数となった場合は、議長の決裁により可決・否決を決めることができることになっている。憲法上は国会議員である議長も採決に加わることができ、さらに可否同数となった時はあらためて決裁権を行使できると規定されているが、実際には慣例として議長は採決には加わらない。

旧憲法下の帝国議会では、慣例として「議長決裁は消極的にする」ことが原則とされていた。消極的決裁とは現状維持ということであり、基本的には否決を意味する。ただし予算案はこの限りではなく、予算案を否決してしまうと年度内に予算が成立しない恐れがある場合[1]などは、混乱を避けるため議長は可決の決裁をするということが申し合わされていた。

新憲法下ではこれが一変した。決裁は議案に応じて議長や委員長の政治的判断により決するようになったのである[2]。国会の本会議で議長決裁が行われたことはこれまでに一例しかないが、時の参議院議長は議案が極めて党利党略にかかわる性質の強い法案だったのにも関わらず、政権与党に有利なかたちで決裁している(後年「本来は議長としては否決するのが正しい方法だが、先に可決された公職選挙法改正案との関連性が強く、政治資金規正法改正案を否決してしまった場合には両法の間に矛盾が生まれてしまう事を危惧してやむなく可決とした」と述べている)。

国会本会議における議長決裁の例
採決 議院 議長 案件 決裁
1891年(明治24年)12月17日 衆議院 津田真道
(副議長)
商法及び商法施行条例の一部施行に関する法律案の第三読会開会案 64 64 否決
1897年(明治30年)3月15日 衆議院 鳩山和夫 自家用酒税法改正案の第二読会開会案 54 54 否決
1897年(明治30年)3月24日 衆議院 鳩山和夫 重要輸出品同業組合法案の第二読会開会案 87 87 否決
1907年(明治40年)3月27日 衆議院 杉田定一 第二女子高等師範学校位地に関する建議案 131 131 否決
1975年(昭和50年)7月4日 参議院 河野謙三 政治資金規正法改正案 117 117 可決

委員会の場合は委員長決裁と呼ぶ。国政選挙では、与党が安定多数を取れるかというのが勝利の一つの目安となるが、これはとりもなおさず「各国会委員会で法案が可否同数となった場合でも、委員長さえ確保しておけば与党寄りの委員長決裁ができるから法案は委員会を通過する」という現実が前提になっているからに他ならない。

また委員会における委員長決裁は例が多いが、近年では案件のほぼすべてが委員長の出身政党である政権与党寄りの決裁となっている。

[編集] イギリス

議会制度発祥の国イギリス下院にも議長決裁権があるが、その基本は「現状維持」であり、行使にあたっては「デニソン[3]議長の規範 (Speaker Denison's rule)」と呼ばれる指針が厳格に守られている。その大要は「のちになって覆すことができない結果をもたらすような決定を議長はしてはならない」という理論である。

それに基づいたルールのひとつが、「政府提出法案の採決が可否同数に割れた場合、議長は常に政府寄りの決裁票を投じるべきである」というものである。これを考えるにあたっては、イギリスの議会制度が日本とは異なり、審議入りするかを決める第一読会、法案の概要の賛否を議論する第二読会、委員会での修正を受け入れるかを決める報告段階、そして法案の最終決定をする第三読会と、複数の採決のステージがあることを踏まえなければならない。政府提出法案が可否同数となり、これに議長が否決の決裁票を投じたとしたら、それにより法案は即刻廃案となり、立法府による行政府の否定ということを意味する。敗北した政府は総辞職するか下院を解散することがあり得る。こうなると、どちらに転んでも行政府または立法府の構成員が全員クビになるので、これが「覆すことができない結果」である。一方、議長が可決の決裁票を投じるということは、次のステージに結論を持ち越すことになり、当面のあいだは政府を(または政府の政策を)存続させ、次のステージで決着を目指すことを意味する。この決定は「覆すことができる結果」である。

日本の国会で議長決裁や委員長決裁が政府寄りになるのは、議長や委員長が多数党である政権与党から選ばれるからであり、その意味で方法論的な政府寄り決裁である。しかしこのケースにおけるイギリスの下院では、慣習となっている「規範」にもとづく制度論的な政府寄り決裁をするのが特徴である。

一方、基本原則は「現状維持して先伸ばし」であるので、議長が反対票を投じる事もある。審議打ち切りの動議や修正案(出されている法案を変えるかどうか)については、賛否同数になれば、「審議を続けるべき」、「現状維持にすべき」との視点から、否決とされる。

[編集] アメリカ

アメリカ議会上院は定数が比較的少なく(建国時26、現在100[4])、また二大政党制により伝統的に与野党の勢力が伯仲しているため、上院が与野党同数に割れることが度々ある。また上院は任期が6年と長いため特に党議拘束が緩やかなので、法案によっては自らの信ずるところにより所属政党の枠を超えた交差投票(クロスボーティング)をする議員も多く、そのため本会議採決の結果が可否同数になることも少なくない。したがって上院議長が議長決裁権を行使することも比較的多いことが特徴だが(これまでに243件)、アメリカの上院議長は副大統領が兼務しているため、こうした場合の議長決裁は常に行政府を握る政党寄りのものとなる。

近年では、2000年の上院改選の結果、民主党共和党の議席が50対50となり、2001年1月20日から始まった第107議会でディック・チェイニー上院議長兼副大統領は、可否同数で採決が割れた7件の議案に対して議長決裁権を行使した。したがってこの期間の上院は民主・共和両党の議席が同数であるにもかかわらず「共和党支配」と呼ばれる。ところが同年6月6日に共和党議員の1人が離党して民主党寄りの無所属議員となると、民主党+無所属対共和党の議席は51対49となったため、その後の上院は「民主党支配」と呼ばれる。

なお副大統領は憲法が定めるところにより上院議長の職を兼務しているのであって、副大統領自身は上院議員ではない。したがって副大統領が採決に加わることはないばかりか、副大統領が実際に上院議長として上院本会議場の議長席につくことも通常はない[5]。そのため上院には副大統領に代わって実際の議長職を司る上院仮議長が常設されており、また一日議長として日々の議事進行を行う上院仮議長代行がおかれているが、それでも議長決裁権は憲法上の上院議長である副大統領の専権であって、仮議長やその代行がこれを行使することはできない。

[編集] ニュージーランド

ニュージーランドの下院にもかつてはイギリスと似た議長決裁権があったが、今日ではこれが廃止されている。議長は他の下院議員と共に採決に加わる。可否同数となった法案は過半数に満たなかったので否決されたものとして扱われる。

[編集]

  1. ^ 旧憲法では、新年度予算が年度開始前までに成立しなかった場合には、前年度の予算と同額の予算がそのまま新年度予算として施行されることになっていた (大日本帝国憲法第71条)。しかしそれでは新規の事業が極めて困難になることから、予算案の年度内成立は政権与党の最重要課題だった。
  2. ^ 議院の会議運営に関する先例を収録した『衆議院先例集』でも、昭和38年度版には「決裁権は消極的にする(否決にする)」と記載されていたが、昭和53年度版以降では「消極的」の三字が削除されている。
  3. ^ ジョン・エヴェリン・デニソン。1857年から1872年まで下院議長をつとめた。
  4. ^ 上院議員は人口にかかわらず各州から二名を選出する。
  5. ^ ただし副大統領が議長決裁を行う際、ごく短時間ながら実際に上院議長席に着くこともある。また上下両院合同本会議が開かれるときは下院本会議場で下院議長と共に共同議長を務める。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

最終更新 2009年11月18日 (水) 01:02 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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