運動論的方程式

運動論的方程式の最新ニュースをまとめて検索!

運動論的方程式(うんどうろんてきほうていしき、kinetic equation)は、流体中の粒子の速度分布関数の振る舞いを記述する方程式。統計力学の基本となる方程式の一つである。平衡状態に限らず、非平衡状態(特に熱伝導電流拡散などの輸送現象)も記述する。

目次

[編集] 一般形

時刻 t における速度分布関数 f\, (\mathbf{x}, \mathbf{v}, t) を考える。ここで、\mathbf{x}, \mathbf{v}はそれぞれ位置、速度で、f(\mathbf{x},\mathbf{v},t)\,d\mathbf{x}\,d\mathbf{v}位相空間の体積要素 d\mathbf{x}d\mathbf{v} 内の粒子数を表す。するとこの速度分布関数の時間発展は


\frac{\partial f}{\partial t}
+ \mathbf{v} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{x}}
+ \frac{\mathbf{F}}{m} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{v}}
= \left. \frac{\partial f}{\partial t} \right|_{\mathrm{coll}}

の形の方程式により定まる。ここでmは粒子の質量、\mathbf{F} は外力で、右辺は粒子間の衝突の効果を表し、衝突項と呼ばれる。

この形の方程式を運動論的方程式という。そして右辺の衝突項としてボルツマンの衝突項を用いたものがボルツマン方程式である。

[編集] 導出

時刻 t(\mathbf{x},\mathbf{v}) にあった粒子は時刻 t+dt には (\mathbf{x'},\mathbf{v'}) に移る。ここで \mathbf{x'}=\mathbf{x}+\mathbf{v}dt,\mathbf{v'}=\mathbf{v}+(\mathbf{F}/m)dt、そして体積要素d\mathbf{x}d\mathbf{v}d\mathbf{x'}d\mathbf{v'} へ移行する。

粒子間の衝突がない場合は、粒子とともに動く体積要素内の粒子数は変化しないので、 f(\mathbf{x'},\mathbf{v'},t+dt)d\mathbf{x'}\,d\mathbf{v'} - f(\mathbf{x},\mathbf{v},t)d\mathbf{x}\,d\mathbf{v}=0 が成り立つ。すなわち、


f(\mathbf{x}+\mathbf{v}dt,\mathbf{v}+\frac{\mathbf{F}}{m}dt,t+dt)\,d\mathbf{x'}\,d\mathbf{v'}-
f(\mathbf{x},\mathbf{v},t)d\mathbf{x}\,d\mathbf{v}=0

衝突を考慮すると、衝突によるdt 間の粒子数の変化は d\mathbf{x}d\mathbf{v}dt に比例すると考えられるので


f(\mathbf{x}+\mathbf{v}dt,\mathbf{v}+\frac{\mathbf{F}}{m}dt,t+dt)\,d\mathbf{x'}\,d\mathbf{v'}-
f(\mathbf{x},\mathbf{v},t)d\mathbf{x}\,d\mathbf{v}=
\left. \frac{\partial f}{\partial t} \right|_{\mathrm{coll}}d\mathbf{x}\,d\mathbf{v}\,dt

と書くことが出来る。ところで一般に体積要素は時間とともに形は変わるが、体積は変わらないことが容易に示される。すなわち d\mathbf{x'}d\mathbf{v'} = d\mathbf{x}d\mathbf{v}。これを用いて上の式を dt で展開して整理すると、


\frac{\partial f}{\partial t}
+ \mathbf{v} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{x}}
+ \frac{\mathbf{F}}{m} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{v}}
= \left. \frac{\partial f}{\partial t} \right|_{\mathrm{coll}}

を得る。これが運動論的方程式である。

[編集] 衝突項

上記の方程式は右辺の衝突項を具体的に与えないと解くことができず、役にたたない。衝突項は厳密には(1体)速度分布関数だけでは書くことが出来ず、2体分布関数の知識が必要なので問題が閉じないが、適当な近似を使って1体分布関数を用いて書き下すことにより近似的に閉じさせることができる。ここではそのうちの典型的なものの解説を行う。

[編集] ボルツマンの衝突項

粒子密度が小さければ、粒子間の相互作用は2体間の衝突だけが効くと考えられる。こうした2体衝突の効果を出来るだけ精確に取り入れたものがボルツマンの衝突項であり、それを右辺に持つ次の方程式がボルツマン方程式である。


\frac{\partial f}{\partial t}
+ \mathbf{v} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{x}}
+ \frac{\mathbf{F}}{m} \cdot \frac{\partial f}{\partial \mathbf{v}}=
\iint(f^'f_1^' - ff_1)gd\Omega d\mathbf{v_1}

ただし、ここでは 速度がそれぞれ \mathbf{v},\mathbf{v}_1 である2粒子が衝突してそれぞれ \mathbf{v}^',\mathbf{v}_1^' になったとし、


f \equiv f(\mathbf{v},\mathbf{r},t),f_1 \equiv f(\mathbf{v}_1,\mathbf{r},t), f^' \equiv f(\mathbf{v}^',\mathbf{r},t),f_1^' \equiv f(\mathbf{v}_1^',\mathbf{r},t)

と略記してある。 また g は衝突する2個の粒子の相対速度 g = \mathbf{v}_1 - \mathbf{v} の大きさで、dΩ は衝突の微分断面積を表していて、2粒子間にはたらく力と相対位置を決めれば定まる量である。

ボルツマン方程式は1872年ボルツマンによって導入され、彼のH定理の証明に用いられた。 またこの方程式は気体の輸送現象などを扱う気体分子運動論の基礎方程式として極めて重要である。

[編集] ブラソフ方程式

プラズマにおいてはそれを構成する荷電粒子間の相互作用は主として荷電粒子の集団運動に起因する電磁場の作用を通して働き、個々の粒子間の衝突の効果はそれに比べるとはるかに小さい。そこで運動論的方程式において右辺の衝突項を 0 とおき、かつ外力 F は粒子の集団運動による電磁場の作用を含むとした式がよい近似で成り立つ。

右辺を 0 と置いた運動論的方程式を無衝突ボルツマン方程式(collisionless Boltzmann equation)と呼ぶ。そして荷電粒子の集団運動がつくる電磁場を速度分布関数から定める式と無衝突ボルツマン方程式とを連立させて得られる閉じた方程式系をブラソフ方程式(Vlasov equation )と言う。典型例はプラズマ振動参照。ブラソフ方程式は 1945年にプラズマ振動の議論を目的にブラソフ(A.A.Vlasov)によって初めて導入され、プラズマの性質をもっとも適切に表現する方程式として広く用いられている。

プラズマの基本的性質はブラソフ方程式で定まるが、一方でその結果に対して荷電粒子間の衝突がどのような補正を与えるかを調べるために、簡便な緩和型衝突項をはじめとする精粗さまざまな衝突項が提案され使われている。


最終更新 2009年9月21日 (月) 06:31 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
【運動論的方程式】変更履歴

ご利用上の注意