鉄の処女
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鉄の処女(てつのしょじょ)は中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたとされる拷問具。ただし、空想上の拷問具の再現であるという説もある。怪奇要素のあるフィクション作品に登場することも多い。
ドイツ語では「アイゼルネ・ユングフラウ(Eiserne Jungfrau)」、英訳は「アイアン・メイデン(Iron Maiden)」、または「バージン・オブ・ニュルンベルグ(Virgin of Nuremberg)」と表記される場合もある。 16世紀にドイツのニュルンベルクで作られたとされるものが特に有名であり、各地の模造品も多くはこれにならっている。 なお、名称とは裏腹に大部分のものは木製の本体で、鉄製なのは釘のみ、または釘とその留め金と扉の蝶番のみである。
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[編集] 構造
聖母マリアをかたどったともいわれる女性の形をした、高さ2メートルほどの大きさの、中が空洞の人形である。前面は左右に開くようになっており、中の空洞に人間を入れる。前述のとおり、木製のものがほとんどである。木製のものは十分な強度を持たせるために肉厚な構造になっているが、鉄製のものは比較的薄いため、写真でも区別できる。
左右に開く扉からは、長い釘が内部に向かって突き出しており、本体の背後の部分にも釘が植えられているものもある。犠牲者の悲鳴は外に漏れないように工夫されていたとも言われるが、物理的には不可能であると考えられる。
なお罪人が死亡した後に、前の扉を開けることなく死体がそのまま下に落ちるように「落し扉構造」があったと記述された文献がある。しかし、よほどの「大量処刑」でもない限り、死亡を視認することなく死体を床下に落とす意味がない上に、罪人を短時間に死に至らしめるほどの釘が死体に刺さっていれば、死体は釘に引っかかって落下しないため、これは虚構の説明だと推測される。
[編集] 使用方法
罪人はこの鉄の処女の内部の空洞に入れられ、扉を閉じられる。同時に扉の部分にある多くの棘に全身を刺される。 現存するものは、釘の長さがさまざまで、生存空間はほとんどないようなタイプから、身体を動かせば刺し傷で済みそうなタイプまである。この点は罪人の身長や肥満度などの体型によっても変わるはずだが、その調整機構は見当たらず、罪人の体型に合わせた複数の鉄の処女が用意されていたという記録もない。
このあたりが「鉄の処女」に対する、「処刑具」説、「拷問具」説、「脅迫道具」説(自白を迫るために見せるだけ)などに分かれる原因となっている。 もし、実際に使用されて、罪人が死亡するとすれば、棘に刺されたことによる出血多量かショック死だったであろう。
[編集] 現存する鉄の処女の一覧
(スイスのキーブルグ城博物館副館長シルビア・シュレーゲル氏と、明治大学博物館学芸員織田潤氏のレポートによる)[1]
- ドイツ
- シュトルペン城
- ZAM(珍品博物館)
- ローテンブルク中世犯罪博物館
- イギリス
- 拷問博物館
- リーガースブルグ魔女博物館
- スコットランド国立博物館
- チリンガム城
- イタリア
- サンジミヤーノ拷問博物館
- スイス
- キーブルグ城博物館
- オランダ
- アムステルダム拷問博物館
- チェコ
- クシヴィオクラート城
- 日本
- 明治大学博物館
(上記レポート以外で存在が確認できる鉄の処女)
- オーストリア
- ウィーン拷問博物館
[編集] 「鉄の処女」は実在したか
現存する「鉄の処女」は、ほとんどが19世紀半ば以降の再現品である。ニュルンベルクの鉄の処女も、本物は空襲で焼失している。
各地の「鉄の処女」の原型は、オーストリアの「ファイシュトリッツ城」にあるものと、1857年からニュルンベルクに存在したものの二種に分けられる。
中世から近世にかけてヨーロッパで行われた「恥辱の刑」と呼ばれる、晒し刑に用いられる懲罰具(拷問処刑具ではない)として、「処女のマント」、また「恥辱の樽」と呼ばれたものがあったが、これは当時の刑罰の資料によれば、受刑者は樽から頭と足だけを出して市内の広場に立たされる、というものである。
ビーレフェルト大学のシルト教授は、『鉄の処女、詩と真実』(ローテンブルク犯罪博物館叢書第三巻)で、『「鉄の処女」はこの「恥辱の樽」の内側に、19世紀になってから鉄の針を付け、頭の部分を覆うよう改造されたものである』としていて、以下のように、欧州各地の「鉄の処女」を調査・検分し、すべてが「ニセモノ」だと断定している。
「ファイシュトリッツ城」にある「鉄の処女」は、城主ディートリッヒ男爵がフランス革命時にニュルンベルクから購入し修復改造したもので、男爵がオーストリアで上記の「恥辱の樽」に、17世紀にベネチアで流行したマリア像の頭部と、内部の棘を付けたものとされる。
「ニュルンベルク」にあったという「鉄の処女」は、1857年に当地の銅版彫刻師のG・F・ゴイダーが、「ファイシュトリッツ城」にあったものを手本に、ヴィルトという錠前屋に作らせた何体かのうちのひとつである。1944年に連合軍の爆撃で焼失した。
ローテンブルクの「中世犯罪博物館」の「鉄の処女」は、釘を外して展示しており、これは釘の存在が製造当初からのものであるか、後の改造によるものであるか、断定できないためと説明されている。これも構造的に「恥辱の樽」の改造品であり、ゴイダーが何体か作らせたもののひとつで、1889年にロンドンの美術商がこれを買い、1968年のオークションで「中世犯罪博物館」が競り落としたものである。
日本でも展示されたことがある、イタリアの「拷問博物館(Museo della tortura)」の「ニュルンベルグの処女(La Vergine di Norimberga)」も、ゴイダーの作らせたもののひとつである。
ウィーンの拷問博物館の鉄の処女は、本体部分も鉄製で、人形の頭部は固定され、円筒形の胴体の部分のみが左右に開いて罪人を入れるようになっているが、これもおそらく後世の模造品であろう。
日本では唯一、明治大学博物館(刑事部門)に「鉄の処女」の複製が展示・収蔵されている。これは本体も鉄製となっていて、生存空間がほとんどないタイプである。
シルト教授は以上の調査の結果、「鉄の処女」は「恥辱の樽」を元に作られたものであり、下段にあるような「鉄の処女伝説」は根拠のないフィクションであると結論付けている。[2]
[編集] 類似した刑具の伝説について
鉄の処女に類似した拷問あるいは処刑用の刑具として、両腕で罪人を抱きかかえて、像の胸部から飛び出した釘が身体を刺すという「鋼鉄のアガペ」や、像の前に落とし穴があって、近づいた罪人を穴に落すという「バーデン・バーデンの処女」などが、文献上は存在している。しかしいずれも、実物はもちろん複製品も残っておらず、実在はかなり疑わしい。
[編集] 近代伝説としての鉄の処女の物語
この伝説の出所は、アルトドルフ大学哲学教授ヨハン・フィリップ・シーベンケースが1793年の本で広めた聖フェーメ団の私刑裁判の話である。「1533年のニュルンベルク年報に基づく」とされているが、そのような記録書類は実在しない。そもそも聖フェーメ団は、ケルンを中心とするヴェストファーレン地方の秘密結社であり、たしかに同時代に皇帝カール4世が公認したとはいえ、地域と状況が違いすぎる。また、このジーベンケース報告以外には、実物はもちろん、記録や図像も存在しない。
このジーベンケース報告を元にブラム・ストーカーが恐怖小説『牝猫(Squaw)』(1893年)において、ニュルンベルクの鉄の処女を登場させた。おりしもニュルンベルクその他のドイツ都市は空爆で完全破壊されており、連合国の占領と裁判に際し、小説に合わせて数多くのニセモノが捏造され、本国に持ち帰られ、世界的に有名になった。
ハンガリーの伯爵夫人、エリザベート・バートリーが作らせたとの話があるが、当時の裁判記録には無く、これも後世の創作と考えられている。伝説では、犠牲者が死んだ後、棺の扉を開けると棺の床が抜けて死体は水で城の外に流されるようになっており、また、そのための水路には刃物が設置されているので、死体が城外に出る頃には原形をとどめていないという。 一説では、「メイドの少女がエリザベートの髪を櫛でとかしていた所、運悪く髪が櫛に絡まってしまった。激怒したエリザベートは、髪留めでメイドの心臓部を刺した。返り血がかかった手を拭うと肌が金色に輝いたように見えたため、処女の血を浴びると肌が綺麗になると信じたエリザベートが、村中の美しい処女を集め、血を絞り取るために作らせた」とも言われている。棺から流れた処女の血は、管を通してバスタブへと注ぎ込まれる仕組みだったという説もある。
[編集] 参考文献
- 柳内 伸作 『拷問・処刑・虐殺全書―現代も行なわれている残酷刑のすべて』 ベストセラーズ、1999年。ISBN 978-4584183984。
- 高平鳴海 『拷問の歴史』 新紀元社〈Truth In Fantasy〉、2001年。ISBN 978-4883173570。
- マイケル ケリガン 『図説 拷問と刑具の歴史』 岡本千晶、原書房、2002年。ISBN 978-4562035526。
- ジェフリー・アボット 『処刑と拷問の事典』 熊井ひろ美、原書房、2002年。ISBN 978-4562035496。
- マルタン・モネスティエ 『図説死刑全書完全版』 吉田春美、原書房、2002年。ISBN 978-4562034789。
- 秋山裕美 『図説 拷問全書』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2003年。ISBN 978-4480037992。
- 大場正史著 『西洋拷問刑罰史』 雄山閣、2004年、新装版。ISBN 978-4639018711。
- 晨永光彦 『世界拷問刑罰史―どこまで人は残酷になれるのか!?』 日本文芸社、2007年。ISBN 978-4537251166。
- 浜本隆志 『拷問と処刑の西洋史』 新潮社〈新潮選書〉、2007年。ISBN 978-4106035951。
[編集] 脚注
- ^ 明治大学刑事博物館編 世界のアイアン・メイデン 明治大学博物館研究報告8
- ^ 浜本隆志 『拷問と処刑の西洋史』 新潮社〈新潮選書〉、2007年。ISBN 978-4106035951。
[編集] 外部リンク
[編集] 関連項目
最終更新 2009年10月25日 (日) 04:27 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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