電気車の速度制御

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電気車の例動力を伝える台車
機関士による制御速度計

電気車の速度制御(でんきしゃのそくどせいぎょ)は、電気機関車電車など電気を動力とする鉄道車両を対象とした、速度の制御方法である。本項では電気車に用いられる電動機の特性、および起動時や加速時など力行における出力制御について、定トルク制御域定出力制御域特性領域と呼ばれる速度領域とともに述べる。

目次

[編集] 概要

基本用語
  • 電気車 - 電車や電気機関車など電気を動力として走行する車両。
  • 力行(りっこう) - 車両が駆動力を発して走行する状態。
  • 惰行(だこう) - 車両が惰性で走行する状態。
  • 電動機 - いわゆる電気モーター。電力を回転運動に変換する原動機。
  • トルク - 回転力とも。回転運動における力に相当。
  • 回転数 - 回転速度。単位時間あたりの回転回数。
  • 出力 - パワー・馬力とも呼ばれる仕事率。力×速度、あるいはトルク×回転数で表せる。

1879年シーメンスドイツ)が電車の試験運行を実施して以来、電気を動力とした鉄道は発展を続け、現代では鉄道の主たる方式となっている。

一般に電気車は下図に見られる構成を採っており、パンタグラフ等の集電装置によって外部より電力を取り入れ、運転席からの指令によって制御装置にて走行に適した電力に変換。さらに、制御装置から台車に装荷した電動機に電力が送られ、トルクすなわち回転力を発する。

一般的な電気車の構成


牽引力と速度の関係

電動機から車輪に伝達されたトルクは列車を動かす牽引力となり、走行にともなって発生する列車抵抗を差し引くと、電気車の加速力が得られる(右図)。

ここで特徴的であるのは、レシプロエンジンを搭載した鉄道車両や自動車とは異なり、電動機と車輪の間はほぼ直結に近く、複雑な変速装置を持たないことである。すなわちギア比は固定であり、かつトルクコンバータクラッチなどの機構を有することなく、始動から高速走行までを可能としている。これは、始動トルクが大きい特性を持つ電動機の採用と、速度に応じた電動機の制御方法によって実現されるもので、起動時から低速域では一定の大きなトルクを発し、中速域に達すると出力を最大に保ったまま加速する制御が用いられている。

以下、電気車に用いられる電動機の特性について述べ、その代表例として直巻整流子電動機かご形三相誘導電動機について解説。さらに、電動機の特性や電化方式、技術の変遷によって分類されるさまざまな制御方式を、従来の抵抗制御・弱め界磁制御から最新のインバータ制御に至るまでその機構について説明する。

[編集] 電気車と電動機

[編集] 電気車に求められる電動機特性

電動機には多数の形式があり、その特性の違いに応じてさまざまな用途に使い分けられる。鉄道車両は停止状態から高速域まで幅広い速度で走行し、勾配や牽引重量の変化により負荷が変動することから、電気車の動力源として電動機には次のような特性が求められる。

  1. 起動時のトルクが大きいこと。
  2. 速度の向上とともにトルクが減少していくこと。
  3. 幅広い速度域で性能を発揮でき、速度の制御が容易であること。

産業用の電動機、たとえば送風機ポンプは起動時の負荷が小さく、速度とともに負荷が上昇するものが多いが、鉄道車両は始動時に牽引重量や出発抵抗といった大きな負荷が作用するため、起動時に大きなトルクが必要である。

また、一般の鉄道は、レールと車輪に生じる摩擦によって駆動力(トルク)を伝達する。これを粘着と呼ぶが、鉄同士の小さな摩擦であることから、しばしば空転を引き起こす。ここで、電動機が速度の向上とともにトルクが減少する特性を持っていれば、空転を起した車輪は回転速度が急激に上がることでトルクを失い、再粘着して空転が収束しやすい。

このほか、負荷や電圧の変動に耐えられることや、複数の電動機を用いても負荷の不均衡が生じにくいことなどが必要とされる。

[編集] 直流整流子電動機

直流と交流
  • 直流 - 流れる方向が変化しない電流。電池のようにプラス・マイナスの電源電極が定まっている。
  • 交流 - 時間とともに流れる方向が変化する電流。家庭用のコンセントから得られる単相交流や、3系統からなる三相交流などがある。
整流子電動機の動作。外側に配置される界磁と、内側で回転する電機子による構成。手前は整流子とブラシ。

電動機は回転する軸を持つ回転子と、回転子との相互作用によりトルクを発生させる固定子から構成される。電気車には、回転子に電機子、固定子に界磁と呼ばれる電磁石をそれぞれ配置した直流整流子電動機電磁石界磁形整流子電動機)が古くから用いられてきた。この電動機は、電機子の回転に応じて極性を変えるための整流子やブラシを必要とするが、始動トルクが大きい、速度制御が容易などの利点を持つ。

さらに直流整流子電動機は、界磁と電機子を並列に接続する分巻、直列に接続する直巻、これら双方を合わせ持つ複巻に分類され、下表のように特性が異なる。このほか界磁を別電源とする他励方式もあり、その特性は分巻に類似する。

直流整流子電動機の種類と特性

図中 - M-電機子 ・ f-界磁
種別 分巻電動機 直巻電動機 複巻電動機
界磁 電機子と並列
(図-A)
電機子と直列
(図-B)
並列および直列
(図-C)
特性 トルクは負荷電流に比例
定速度特性
始動トルク大
トルクは電流の2乗に比例
負荷に応じ速度変化
分巻と直巻の中間特性

上記の中では、始動トルクが大きく速度変化の容易な直巻電動機が電気車の電動機として適しており、古くから使われている。また、界磁の制御がしやすい複巻電動機も、定速度制御や回生ブレーキを目的に採用されることがある。

直巻整流子電動機における回転速度(横軸)と発生トルク(縦軸)の関係。

ここで、直巻電動機の特性について整理しておく。整流子電動機においてトルク(T)は、界磁による磁束(\phi\,)と電機子電流(I_a\,)の積に比例する。

  • T = k \cdot \phi \cdot I_a

また、磁束は界磁電流(I_f\,)に比例し、直巻電動機では界磁電流と電機子電流が一致することから、磁束は電機子電流に比例する。したがって、直巻電動機のトルクは電機子電流の2乗に比例する。

  • \phi = k_1 \cdot I_f = k_1 \cdot I_a
  • T = k \cdot \phi \cdot I_a = k_2 \cdot I_a^2

(ここにk , k_1 , k_2\,は任意の定数)

一方、電動機は発電機と基本構造が同じであり、界磁の中で電機子が回転すると起電力が発生する。これは電動機に与える電圧と逆向きに作用するため、逆起電力と呼ばれる。逆起電力は回転数と磁束の積に比例して増加することから、回転数が上がると電機子電流が流れにくくなりトルクが低下する。

これらの結果をまとめると、直巻電流機の特性は、

  • 電流は回転数に反比例する。
  • トルクは回転数の2乗に反比例する。

となり、右図に示す性能曲線が得られ、電気車が求める特性に合致したものとなる。

[編集] 三相交流電動機

単相交流と三相交流
単相交流 三相交流
単相交流 三相交流
かご形三相誘導電動機。
固定子に三相交流を流すと、誘導電流を生じた回転子が回転。

前項では直流電源による電動機について述べたが、さらに交流電源を使用する電動機について解説を加える。

整流子電動機も交流電源で使用が可能であるが、交流電源には誘導電動機同期電動機が一般に広く使われる。整流子電動機が整流子とブラシにより極性を変えて回転するのに対し、これらの電動機は電圧の向きが周期的に変化する交流電源に同期して回転するものである。

これらの電動機は回転速度が電源周波数に依存するため、細かな速度制御が難しく、鉄道車両のような使用速度域の広い電動機には不向きとされてきた。しかし、20世紀後半のパワーエレクトロニクスの発展によって、電圧や周波数を自在に制御できるインバータが開発されると、一気に電気車の電動機として採用が進んだ。

とりわけ電気車に採用が多いのは、かご形三相誘導電動機である。この電動機は三相交流を流す固定子と、かご形構造の回転子により構成される。固定子に電流を流すと、三相交流の波形に応じた回転磁界が発生し、かご形の回転子に誘導電流が流れて回転する仕組みである。整流子電動機とは異なり、回転子の誘導電流は回転磁界によって自然に生じるものであり、回転子へ電流を流すための整流子・ブラシを必要としないことから、小型・軽量化が図れるとともに高回転・高出力化も容易で保守性にも優れる。

かご形三相電動機のトルク(T)は、電源電圧(V)、電源周波数(fi )、回転磁界の回転速度(ns )、回転子の回転速度(nr )と、

  • f_s = s \cdot f_i = (n_s - n_r) / n_s \cdot f_i
  • T = k(V / f_i)^2 \cdot f_s

の関係にある。ここに、sすべりfsはすべり周波数と呼ばれるもので、すべりは磁界と回転子の回転速度の差であり、回転子に自励電流を生じさせ誘導電動機にトルクを与えるものである。上式から、誘導電気の特性は、

  • トルクは電圧の2乗に比例し、電源周波数の2乗に反比例する。
  • トルクはすべり周波数に比例する。

となり、ここで電源電圧およびすべり周波数を一定とすれば、直巻電動機と同様に『トルクが回転数の2乗に反比例』の特性が得られる。

このほか、インバータと組み合わせる三相交流電動機として、永久磁石同期電動機(PMSM)がある。回転子として永久磁石を用いたもので、誘導電動機に比べ損失が少なく、高い効率が得られることが特長である。また、熱の発生が小さいことから密閉構造とすることができ、騒音軽減や電動機内部への粉塵浸入の抑制も容易である。このような特長から、電気自動車ハイブリッドカーではPMSMの採用が目立っている。その一方で、惰行時に速度が落ちる、複数の電動機を同期させて制御するのが難しいなどの課題も抱えており、鉄道車両への本格採用はTGVフランス国鉄)など一部に留まっている。

[編集] 速度制御の基本

[編集] 電気車における速度制御

本来、速度制御とは電動機に与える特性値を調整して、負荷とつり合う回転速度を得ることを指す用語である。しかし、鉄道車両は負荷が大きく、目標とする速度に達するまで相応の時間を要することから、異なる手法が採られる。

一般に電気車では、各速度領域における可能な限りの出力を得て、目標となる速度までいち早く加速するよう制御する。目標速度に達すると、電動機の出力を切ってしまい(ノッチオフという)惰性で走行するか、もしくは出力を低減して速度を維持するといった手法が採られる。このように、電気車においては、出力の制御を行った結果として得られる速度を、慣例的に速度制御と呼んでいる。

電動機と電気車における速度制御の違い
電動機の速度制御 電気車の速度制御
電圧や界磁を制御

負荷とつり合う速度で定回転
電圧や界磁を制御し
最大の加速力を得る

目標の速度に達する

加速を止め惰行運転
または定速度制御
図A - 速度制御の考え方
低速域ではトルクを抑え、高速域ではトルクを向上させる
図B - 速度に応じて特性曲線(細線)を変え、太線に沿った制御を行う。

前述のとおり電気車の電動機は始動トルクが大きく、速度とともにトルクが低下する特性が求められる。しかしながら、このような特性の電動機は速度が低いほどトルクや電流が大きくなるため、低速度から所定の特性を発揮させると、粘着力以上のトルクを発生して空転を起こしたり、過剰な電流が流れて電動機を焼損するといった問題を生じる。また、速度が上がるにつれて急速にトルクが低下するため、高速化の障害となりかねない。

そこで多くの場合、低速域では電流およびトルクを抑制して一定値に保ち、高速域ではトルクがあまり低下しないよう制御を行う。図Aはこの制御の考え方をグラフに示したものであり、回転数が低いときはトルクを抑えてT1に保ち、回転数がV1を越えると低下するトルクの向上を図る。これを実現するため、速度に応じて電圧や界磁等を変化させ、異なる特性曲線(図Bの細線)を得てトルクの制御を行う。

以下、図Bを参照しながら速度域ごとに制御方法を概説する。

[編集] 定トルク制御

起動時から低速域においては、必要とする以上のトルクを電動機が発生するため、電流を抑制して一定のトルクに保つ。主として電動機への電圧を変えることで制御する。起動時は電圧をごく低くしておき、図Bにおける左端の細線の特性を得る。速度が上がるとトルクは低下するため、これに合わせ徐々に電圧を上げていくと、特性曲線は順に右へ移動していき、トルクをほぼ一定に保つことができる。このとき、電動機の電流は一定に制御され、出力は速度とともに増加する。この制御は電圧が最大となる回転数V1まで行う。

鉄道車両の走行抵抗は一般に小さく、低速領域では速度にかかわらず大きな変化はないことから、電動機の発生トルクが一定であれば、ほぼ一定の加速度が得られる。このことから、定トルク制御を行う速度領域を定加速度領域と呼ぶことがある。

[編集] 定出力制御

回転数がV1に達し電動機へ与える電圧(印加電圧)が最大となると、電動機の特性により電流が低下しはじめ、速度の上昇にともなってトルクが急激に低下する。ここでさらに加速をしたい場合は、電圧制御以外の方法で電流やトルクの低下を抑制する制御方法が採られ、これを定出力制御と呼ぶ。すなわち印加電圧はそのままに、整流子電動機では界磁の制御、誘導電動機ではすべり周波数の制御を行って、電流を一定に保つよう制御する。これにより、出力は一定に保たれ、トルクの低下を防いで加速力を確保する。

定出力制御は必ず行われるものではなく、定トルク制御領域を広く取り、そのまま特性領域へ移行する方式もある。交流電化では印加電圧の制御幅が広いため、このようなケースがしばしば見られる。

[編集] 特性領域

速度が上がり定出力制御が限界に達すると(回転数V2)、これ以上の速度向上は電動機の特性に依存する。すなわち、速度に反比例して電流は低下し、トルクは速度の2乗に反比例して低下していく。

以下、表に各速度領域における速度上昇と印加電圧、電流、発生トルク、出力の関係について示す。

表 - 各速度領域における速度上昇と特性の関係
速度領域 定トルク制御域 定出力制御域 特性領域
起動から低速域 中速域 高速域
電圧 増加
速度に比例
一定(最大値) 一定(最大値)
電流 一定 一定 低下
速度に反比例
トルク 一定 低下
速度に反比例
急激に低下
速度の2乗に反比例
出力 増加
速度に比例
一定 低下
速度に反比例

[編集] 速度やトルクを制御する方法

[編集] 電動機の印加電圧を変える方法

整流子電動機の速度制御にあたってもっとも効果的な方法は、電動機に作用する電圧(印加電圧)を変えることである。速度やトルクの制御が容易で、広い速度範囲を制御できるため、定トルク領域で用いられる。

下図は速度変化と電圧の制御について概念を示したものである。回転速度が低いときは逆起電力が小さく、高い電圧を電動機にかけると過大電流が流れることから、低い電圧で起動する(図中Step-1)。やがて回転速度が上がってくると、電機子の逆起電力が増加し、電機子電流が減少して発生トルクが下がってゆく(図中Step-2)。そこで印加電圧を上げ、電機子電流を確保する(図中Step-3)。この要領で速度の上昇とともに電圧を上げ、電機子電流とトルクを一定に保ちながら制御を行うのが、電圧による速度の制御である。

図解 - 速度の変化と電圧の制御
step-1 step-2 step-3
起動時。逆起電力が小さいので、印加電圧を低くして起動する。 回転速度が上がるにつれ、逆起電力が増加して電機子電流が減少する。 そこで、印加電圧を上げて、電機子電流を確保する。

電圧を変えるには、簡便な手法からパワーエレクトロニクスを用いた手法まで、さまざまな手法が用いられてきた。以下にその方法を概説する。

抵抗制御
電動機の始動時には始動抵抗を電動機と直列に配置し、過大電流を防ぐことがしばしば行われる。抵抗制御は始動抵抗を段階的に用意し、速度制御に応用したものである。簡便な方法であり、電気車の速度制御として古くから広く用いられている。一方で、抵抗による損失が避けられないこと、抵抗値を変える際(進段時)にショックが生じ、滑らかな加速ができないことが欠点として挙げられる。
直並列組合せ制御
複数の電動機の配列を、直列・並列に切り替えることによって、各電動機の印加電圧を変える方法である。細かな制御はできないが、抵抗制御と組み合わせることで、抵抗損失を減らしたり、制御段数を増やして進段時のショックを和らげる効果がある。
位相制御
電圧制御
電源電圧を直接変化させる方法で、制御の応答が速く効率的であるが、直流電圧を制御するのは難しく、装置が大がかりで高価となりやすい。この方法は交流電化から発展が見られた。ワードレオナード制御は交流電源に電動発電機を組み合わせたもので、発電機の界磁制御によって出力電圧を制御する方式である。電圧を自在に制御でき、直流への整流も同時に行えるが、電動機や発電機が別途必要なことから、重量が大きく設備費が高額となることが欠点で、電気車において主たる方式とはならなかった。また、交流は変圧器を用いて電圧を簡単に変えることができることから、変圧器の巻数を可変として出力電圧を制御し、直流に整流する仕組みがタップ制御である。さらに、整流器に制御電極を組み合わせると、連続的に電圧を変化できる位相制御が可能である。当初、水銀整流器が用いられ、その後シリコン整流器に制御電極を設けたサイリスタの登場によって、無接点のサイリスタ連続位相制御へと発展した。位相制御は交流波形の一部分を取り出し、パルス状の電源を得て平均電圧を制御するものである。
一方、直流電化では、サイリスタを直流電源に適用したサイリスタチョッパ制御(電機子チョッパ制御)がある。直流電源に対し高速でスイッチオン・オフを行い、平均電圧を制御するもので、連続制御が可能となり、安定した回生ブレーキも得られる。このような方式をパルス幅変調(PWM)と言う。その一方、交流とは異なりスイッチをオフにするための機構が別途必要で、装置も高価であった。

[編集] 界磁を制御する方法

界磁が強いとき。逆起電力が大きく、流れる電流は小さい。
界磁が強いとき。逆起電力が大きく、流れる電流は小さい。
界磁が弱いとき。逆起電力が小さくなり、たくさんの電流が流れる。
界磁が弱いとき。逆起電力が小さくなり、たくさんの電流が流れる。

整流子電動機に界磁調整器を取り付け、界磁の磁束を調整してトルクを制御する方法である。界磁の制御は、印加電圧を制御する方法に比べ効果は小さいが、電流の一部のみを扱うため装置が小型で費用も抑えられる。そこで、電圧による制御が限界に達した中速域から高速域において、加速特性の向上を目指した定出力制御に広く用いられる。

さて、直流整流子電動機の節で前述のとおり、整流子電動機においてトルク(T\,)は界磁による磁束(\phi\,)と電機子電流(I_a\,)の積で表されることから、一見するとトルクは界磁に比例するように見える。

T = k \cdot \phi \cdot I_a

しかしながら実際には逆で、回転する電動機においてトルクは界磁の強さに反比例する特性を持つ。電機子が回転すると逆起電力を生じ、電機子電流が流れにくくなる。一方、逆起電力は回転数と界磁の強さに比例するため、界磁が強いと電機子電流は小さくなり、逆に界磁を弱めると多くの電流が流れるようになる。結果として、電機子電流が大きい後者の方が、トルクは大きくなる。このように、界磁を弱めることでトルクを増加させる方法を弱め界磁と呼ぶ。弱め界磁は中・高速域でのトルク特性の改善に用いられる。電圧の制御とは異なり、速度の上昇にともなうトルクの低下そのものは免れないものの、低下幅を抑制し、出力(=回転速度×トルク)を一定に保つことができる。

速度ともに上昇する逆起電力に着目し、電圧の制御と比較すると、

  • 電圧の制御 - 逆起電力に合わせ印加電圧を制御する
  • 界磁の制御 - 逆起電力そのものを制御する

このように言い換えられる。

この特性を活かし、複巻電動機を用いて界磁を制御すると定速運転が可能となる。これは、速度が上昇すると逆起電力を上げて速度を下げ、速度が下がりすぎると逆起電力を低下させて速度を上げる機構である。

このほか界磁の制御方法として、複巻電動機を用いた界磁チョッパ制御界磁位相制御や、直巻電動機を対象とした界磁添加励磁制御などがある。これらは、比較的高価なチョッパ制御位相制御を、装置が小型で済む界磁制御に適用し、低コストで回生ブレーキを可能としたものである。加速時の制御においては、弱め界磁と原理に大きな差はない。

[編集] 電圧と周波数を制御する方法

インバータによる交流出力波形。低回転域では電圧・周波数ともに増加させ、高速域では周波数のみを増す。

かご形三相誘導電動機の速度を制御する場合は、印加電圧だけでなく周波数も変える必要がある。初期の電気車では、機械的な回転変流器を車内に設置し、電圧・周波数を可変とした三相交流を作ることを試みたが、必ずしも成功とは言えず、広く普及するには至らなかった。その後、パワーエレクトロニクスの進歩によりPWMを用いたインバータが開発されると、無接点による可変電圧可変周波数制御(VVVF制御)が可能となり、旧来の整流子電動機を凌駕するようになった。

インバータを用いた制御では、定トルク領域において、電圧と周波数の双方を速度に応じて増していく(右図前半)。このとき、電圧と周波数はほぼ一定の比率に保たれる。初期のものは電圧と周波数の比を等しくする制御(V/f一定制御)が主流であったが、トルク特性の改善のため、より最適な制御を行うベクトル制御に移行している。

また、電圧が最大限に達すると、すべり周波数を上げていくことで定出力制御を行う。すべり周波数が上限に達した後は、特性領域となり、電源周波数のみを増加させる制御が行われる(右図後半)。

[編集] 制御方式の変遷と各制御方式の詳説

この節は執筆の途中です この節は執筆中です。加筆、訂正して下さる協力者を求めています

本節では、実際に用いられる代表的な制御方法を変遷とともに示し、各速度領域における制御の実際について述べる。まず、下表におもな速度制御の手法について、一覧を示した。速度制御の名称は特徴的な部分を抜き出したものとなっているが、実際は速度領域によって複数の制御方法を併用しているものがある。たとえば、界磁制御に特徴のあるものは、定トルク領域では大半が抵抗制御を採用している。

表 - おもな制御方式と各領域での実制御
制御方式 電化方式 電動機 速度制御の方法 回生ブレーキ 摘要
定トルク制御域 定出力制御域
抵抗制御 直流・(交流)* 直巻 抵抗制御
(+組合せ制御)
分流回路による
弱め界磁
一般に不可
チョッパ制御
(電機子チョッパ)
チョッパ装置による
電圧制御
他励界磁制御
界磁チョッパ制御
複巻 抵抗制御
(+組合せ制御)
分巻界磁の制御
による弱め界磁
界磁添加励磁制御 直巻 位相制御電流の添加
による弱め界磁(※)
※界磁の位相制御に別途三相交流電源が必要。
タップ制御 交流 直巻 変圧器のタップ切換
による電圧制御
分流回路による
弱め界磁(※)
不可 ※定トルク制御のみとする場合もあり。
無電弧タップ切換 タップ切換と位相制御
併用による電圧制御

(要サイリスタ
インバータ)
サイリスタ位相制御 位相制御による
電圧制御
インバータ制御 直流・(交流) かご形誘導 可変電圧
可変周波数制御
すべり周波数制御

*電化方式の『(交流)』は、交流でも可能であるが、いったん直流に整流してから制御するものを示す。

[編集] 古典的な直流電気車の制御

ジーメンス(左)とスプレイグ(右) ジーメンス(左)とスプレイグ(右)
ジーメンス(左)とスプレイグ(右)

電気鉄道の始まりはドイツの電気技術者ヴェルナー・フォン・ジーメンスによるものであった。ジーメンスは1879年ベルリンで開かれた商業博覧会で電気機関車の展示と電車の試験運行を実施し、その2年後の1881年、ベルリン・リヒターフェルデ間において路面電車の営業運転を開始した。この電車は小型の二軸車であり、2本のレールから直流電源を得て走行する方式であった。一方アメリカでは、電気駆動の父と呼ばれるフランク・スプレイグ1888年リッチモンド (バージニア州)で路面電車の運行を開始するとともに、架線集電や弱め界磁、総括制御といった直流電気車の基本システムを確立した。

この直流電化で直巻電動機を駆動する手法は、電圧の制御に損失が伴う課題を抱えているものの、変圧器や整流器が不要であり、構造が簡便かつ低コストで構成できる利点を有していた。このことから、さまざまな改良を加えながらも、基本のシステムはインバータ制御が普及する20世紀末まで広く用いられた。

[編集] 抵抗制御

抵抗制御の概念図。速度上昇とともに抵抗を減らし、電圧を上げていく。
抵抗制御における回転速度と電流の関係の例。1N(全抵抗状態)から5N(抵抗なし)まで赤線をたどって制御する。

古くから用いられてきた直流電気車の制御は、以下を基本とする。

電化方式 直流電化 (数百ボルトから数千ボルト)
電動機 直巻整流子電動機
定トルク制御 抵抗制御・直並列組合せ制御
定出力制御 弱め界磁制御

ここで基本となるのは抵抗制御である。直巻整流子電動機は電流が回転速度に反比例することから、停止状態で電源電圧をそのまま作用させると、過大電流が流れ電動機を焼損したり、過大なトルクを発して車輪が空転を起こしてしまう。そこで、右図に示すように抵抗器を電動機と直列に配置して起動する。これによって電流は低く抑えられ、電源電圧は抵抗値に応じて電動機と抵抗器に分配される。起動時では、電動機の抵抗値に相当する逆起電力はほぼゼロであるため、電源電圧の大半は抵抗器に作用する。

やがて回転速度が上がってくると、電動機には印加電圧と逆向きの逆起電力が増加し、これにともなって電流が減少し発生トルクも下がっていく。ここで抵抗器の一部を短絡すると、電動機の印加電圧が上昇するとともに、電流とトルクが回復する。この要領で、回転速度に応じて電流が変化する電動機の特性に合わせ、段階的に抵抗を減らし、電流とトルクをほぼ一定に保つのが抵抗制御である。

抵抗値の切り替えを進段と呼び、機関車では機関士電流計を見ながら手動で操作し、電車では制御装置が電流値を検出して自動進段する方法が主流である。このときの電流値を限流値という。また、抵抗器は電流を流すと熱を発するため、進段せずに電流を流し続けると過熱して損傷する。したがって、抵抗制御は速度を上げるための過渡的な制御であり、速やかに進段してすべての抵抗を短絡しなければならない。速度制限のある上り勾配など、進段途中の速度を維持したまま力行を行う場合は、運転士のノッチ操作により電源のオン・オフを繰り返す『ノコギリ運転』[註 1]を行う必要がある。

抵抗制御のひとつの問題として、段階制御であることが挙げられる。抵抗値の進段を行う瞬間に電流値が跳ね上がり、これにともなってトルクが急変する。抵抗制御の電車が発車してしばらくの間、加速に段階的なショックを伴うのはこのためである。トルクの急変は乗り心地を損ねるばかりでなく、空転を引き起こす原因ともなることから、進段段数を多くして影響を抑えることが望ましい。図示の事例では4個の抵抗器を順に短絡する5段階の制御を示したが、抵抗値の異なる抵抗器を用意し、これらを組み合わせれば多段階の抵抗値が得られる。たとえば、抵抗値の比率が1:2:4:8である4組の抵抗器を用意すれば、理論上得られる抵抗値の組み合わせは16通りとなる。さらに空転に対して条件の厳しい電気機関車などでは、数段階の副抵抗器を別途用意し、進段時に小刻みな制御段を挿入して電流の微調整を可能とするものがある。これを超多段制御、またはノギスの副尺(バーニヤ)に例えてバーニア制御と呼ぶ。

[編集] 直並列組合せ制御

抵抗損失上段 - 組合せ制御なし下段 - 組合せ制御あり
抵抗損失
上段 - 組合せ制御なし
下段 - 組合せ制御あり

抵抗制御におけるもう一つの問題として、抵抗損失がある。抵抗制御は電動機の印加電圧を抑えるため、余分となる電圧を抵抗器にかけ、電力の一部を熱として捨てる方法である。起動時は大半が抵抗器で消費され、進段にともなってその量は減っていくが、すべての抵抗を短絡するまでに消費する電力の半分が熱損失となってしまう(右図上段)。この損失は抵抗制御では避けられないが、これを低減する手法として組合せ制御の併用が一般に行われる。

一般に電気車では単一ではなく、複数の電動機が用いられる。組合せ制御は、これら複数の電動機配列を直列・並列に切り替えることで、個々の電動機に印加電圧を変えるものである。たとえば4個の電動機について考えてみると、4個直列の場合は電動機には電源電圧の4分の1しか作用しないが、2個並列につなぎ替えると電源電圧の2分の1が電動機に作用する(下図左)。この特性を利用すると、起動時には直列として印加電圧を抑え、速度が上がった段階で並列に切り替え印加電圧を起動時の2倍にすることができる。

この方法は電動機個数の組合せに限りがあることから、2段階ないし3段階程度の大雑把な電圧制御しかできないが、抵抗制御と併用することで抵抗損失を減らすことができる。たとえば2段階の組合せ制御に対し、直列および並列でそれぞれ抵抗制御を行なうと、右図下段に示すように抵抗損失を半分にすることができる。さらに、制御段数も増やすことができ、進段時のショックを小さくする効果も得られる。

また、抵抗制御は抵抗器の過熱を避けるため進段途中の速度維持が制限されるが、組合せ制御を併用することによって、途中段階の速度維持が可能となる。下図右に示す直列最終段は抵抗器を使用しないため、連続使用が可能である。

直列と並列
電源電圧 E
印加電圧 - 1/4E(直列)・1/2E(並列)
抵抗制御と組合せ制御による速度と電流の関係
2段組合せの例。上段直列、下段並列。
並列時は直列時の2倍の電圧が電動機に作用する。
抵抗制御と組合せ制御による速度と電流の関係。直列および並列最終段は、抵抗を用いないので連続使用が可能。

[編集] 弱め界磁制御

界磁を弱めると(青線)、回転速度nにおけるトルクはT1からT2に増加する。

抵抗制御・組合せ制御が最終段に達すると、電動機の印加電圧は最大となり、これ以上の電圧向上はできなくなる(下図step-1)。この状態で回転速度をさらに上げていくと逆起電力が増加し、回転速度に反比例して電機子電流(I_a\,)が低下する(下図step-2)。また、直巻電動機電機子界磁を直列としていることから、電機子電流がそのまま界磁電流となり、磁束(\phi\,)・電機子電流とも低下し、結果としてトルク(T\,)は回転数の2乗に反比例して急激に低下してしまう(右図赤線)。

T = k \cdot \phi \cdot I_a

ここでトルクの低下を抑制するには弱め界磁を用いる。下図step-3に示すように、界磁電流の一部を短絡したり別回路に流すことで界磁を弱めると、逆起電力が低下し電機子電流が回復する。このとき界磁磁束は小さくなるためトルクの低下は免れないものの、電機子電流を確保することで速度上昇にともなうトルクの低下幅を抑制できる(右図青線)。

界磁を弱める方法として、界磁の中間にタップを設けて界磁の一部を短絡する方法や、界磁と並列に抵抗を配置して界磁電流の一部をバイパスさせる方法がある。いずれも段階的に界磁を制御する方法が採られ、ほぼ電機子電流が一定となるように制御する。これにより出力(=トルク×回転速度)を一定に保ったまま、加速することができる。

図解 - 弱め界磁制御
step-1 step-2 step-3
回転速度が上がり、印加電圧が最大となった状態。 さらに回転速度を上げると、逆起電力が上昇し電流が減少する。電圧はこれ以上上げられない。 界磁電流をの一部をバイパスして界磁を弱めると、逆起電力が低下し、電流が確保できる。

弱め界磁は電圧を変えることなく中高速域のトルク特性を向上できるが、際限なく界磁を弱めていくと電機子反作用により磁束が乱れ、整流不良を起こしてしまうことから、一般に全界磁(弱め界磁を用いない状態)の40%程度にまで弱めることが限界とされる。さらに界磁を弱める場合は、電機子反作用を抑える補償巻線を界磁に付与することで25%程度まで可能となる。

また、弱め界磁はトルク向上の手段として用いられる以外に、逆にトルクを抑制する目的で使われる場合もある。逆起電力は回転速度に比例するため、回転速度がごく低い起動時はほとんど発生しない。したがって起動時に界磁を弱めた場合、逆起電力の影響はごく小さく、電機子電流はほとんど増加しない一方で、界磁磁束のみが小さくなることから、トルクは抑えられる方向へ作用する。この特性を利用して起動時のトルクを低く抑え、発車時の衝動を抑制する方式を弱め界磁起動と呼ぶ。


[編集] 交流電気車の制御

ここでは車両外部から交流電源の供給を受け、直流整流子電動機で駆動する電気車について述べる。交流電化では1万ボルト以上の高い電圧が用いられていることから、電動機に適した数百ボルトまで電圧を下げ、さらに直流電動機を駆動するため交流を直流に整流する必要がある。

電化方式 交流電化 (1万数千ボルトから数万ボルト) 交流電気車の電圧制御には、電圧を直接制御するタップ制御と、波形の一部を取り出す位相制御が用いられる
タップ制御と位相制御
電動機 直巻整流子電動機
定トルク制御 タップ制御・位相制御
定出力制御 弱め界磁制御
特記事項 変圧器による降圧・直流への整流が必要

交流は変圧器を用いて電圧を簡単に変えられる特性を持っており、変圧器を可変として電圧を制御するタップ制御が利用できるほか、波形の一部を取り出し平均電圧を制御する位相制御も可能である。この二つの電圧制御は幅広い速度制御に応用でき、抵抗制御に代表される直流電化に比べ損失が少なく、粘着性能においても有利である。

[編集] タップ制御

低圧タップ制御の概念図。実際にはもっと多くのタップがある。
低圧タップ制御の概念図。実際にはもっと多くのタップがある。
交流の直流(脈流)への整流と、波形の平滑化。
交流の直流(脈流)への整流と、波形の平滑化。

変圧器は入力側の1次巻線と出力側の2次巻線から構成され、1次巻線に交流を流すと電磁誘導により2次巻線に電流が流れる仕組みである。2次巻線の出力電圧は1次巻線と2次巻線の巻数比率に比例することから、数万ボルトに及ぶ架線電圧を巻線比率を調整することによって、電動機に適した電圧(千数百-数百ボルト)に下げることができる。

ここで、巻線にタップを設けて巻数を可変とすれば、タップの切り換えによって異なる出力電圧が得られる。これを電動機の電圧制御に応用したのがタップ制御である。1次側で切り替えを行なうものを高圧タップ制御、2次巻線に対して行なうものを低圧タップ制御と呼ぶ。高圧タップ制御はタップで扱う電流が小さく、切り替え段数が多く取れる利点を有しているが、単巻変圧器を組合せてタップ切換を行うため、変圧器が大型となり重量も増加する。このため、日本においては後年は低圧タップ制御が主流となった。右図上段は低圧タップ制御の事例である。電動機の回転速度に合わせタップを切り替え、電動機の印加電圧を制御する。

一方、変圧器のタップ制御で得られるのは交流であり、直巻電動機を駆動するためには、整流器を用いて直流に変換する必要がある。初期の交流電気車では水銀整流器が用いられた。水銀整流器は位相制御が可能であったが、振動対策や取り扱いが難しく、後に開発された半導体素子によるシリコン整流器へ移行した。また、元々の交流は正弦波であり、整流器で得られる電流は周期的に波を持った脈流となることから、平滑回路を挿入してなだらかな直流とする(右図下段)。

変圧器のタップ制御は、抵抗制御とは異なり損失がほとんどなく、電圧の制御幅も自由度が高いことが特長である。また、抵抗制御・直並列組合せ制御で空転が発生した場合、直列に配置した他の電動機や抵抗器に作用していた電圧が、空転を起こした電動機に集中し、空転が収まりにくい欠点がある。これに対し、印加電圧を直接制御するタップ制御では、電動機を並列とすることができ、空転が収束しやすく再粘着性に優れる。

[編集] 位相制御と無電弧タップ切換

位相制御による電圧連続制御。制御極に信号電流(トリガ)を流すと整流器がオンになることを利用。
位相制御による電圧連続制御。制御極に信号電流(トリガ)を流すと整流器がオンになることを利用。
サイリスタによる無電弧タップ制御。二組のサイリスタ(T1,T2)を用いて、タップ間の電圧を連続制御する。サイリスタのほか磁気増幅器でも可。
サイリスタによる無電弧タップ制御。二組のサイリスタ(T1,T2)を用いて、タップ間の電圧を連続制御する。サイリスタのほか磁気増幅器でも可。

タップ制御は電力効率や再粘着性能に優れる一方で、有限個のタップ切換による段階制御であることから、抵抗制御と同様に切換時のトルク急変が伴い、空転そのものが発生しにくいわけではない。また、タップ切換時には大きな電流を切り入りするため、タップに電弧(アーク放電)を生じやすく、変圧器を損傷しやすいリスクを抱えている。

これらの問題は、切り換えるタップの電圧差を連続的に制御して、トルクの急変や電弧発生を解消することで解決できる。これを電弧(アーク)が生じないことから無電弧タップ制御、またはタップ間連続電圧制御と呼び、電圧の連続制御には位相制御を用いる。整流器に制御極(ゲート)を設けると、特定のタイミングで整流器をオンにできる。この特性を利用し、交流電流の波形に合わせてオンするタイミングをずらすことにより、平均電圧を連続的に制御するのが位相制御の仕組みである(右上図)。

位相制御の歴史は比較的古く、1935年には水銀整流器による格子位相制御と組合せ制御を併用した電気機関車がドイツで試作されている。その後、第二次世界大戦を挟んで、1950年代から交流電気車の技術開発が活発化し、水銀整流器によってタップ間の電圧を連続的に制御できる車両が開発される。この当時は、トランジスタが発明され真空管に取って代わっていった時代であり、ほどなく水銀整流器も半導体素子であるシリコン整流器へと移行し、安定した性能が得られるようになった。その一方で、シリコン整流器は位相制御ができなかったため、無電弧タップ切換を行うには磁気増幅器の併用を必要とした。その後、制御極付きのシリコン整流器であるサイリスタが開発され、1960年代から電気車の位相制御に用いられるようになった。

右下図は、サイリスタを二組用いて無電弧低圧タップ切換を行う場合の概念を示したものである。1段目のタップを投入するとき、サイリスタT1を無点弧(出力ゼロ)の状態にしておくと、タップに電流が流れないためアークを生じない。次に、サイリスタT1によって位相制御を行い、1段目のタップ電圧をゼロから最大まで制御したのち、2段目のタップをサイリスタT2に投入し同様に連続位相制御を行う。サイリスタT2の電圧が最大に達すると、T1はすべてT2に包含され電流が流れなくなるため、1段目のタップを切ってもアークはやはり生じない。この要領で、二組のサイリスタを交互に用いることにより、タップ切換でアークを生じることなく連続的な電圧制御が可能となる。図の例ではサイリスタを用いたが、二組の磁気増幅器を用いても同様の制御が行える。

[編集] サイリスタによる連続位相制御

サイリスタ連続位相制御(4分割)の回路(上)と動作(下)。サイリスタT1からT4まで順に位相制御し、電圧を連続制御する。
サイリスタ連続位相制御(4分割)の回路(上)と動作(下)。サイリスタT1からT4まで順に位相制御し、電圧を連続制御する。

サイリスタの開発によって小型軽量な半導体素子による連続電圧制御が可能となると、さらに考え方を一歩進めて、タップ切換器をなくしてしまうことが考えられた。タップ切換は機械的なスイッチによって行われるが、これをサイリスタに置き換えて完全な無接点化を実現し、機器構成の簡素化・軽量化やメンテナンス性の向上を図るものである。この方式を一般にサイリスタ連続位相制御、あるいは単にサイリスタ制御と呼ぶが、タップ制御を併用する無電弧タップ切換と区別するため全サイリスタ制御と称する場合もある。

右図はサイリスタ連続位相制御の構成を示したものである。変圧器の2次巻線を分割してそれぞれにサイリスタを配置し、ダイオードブリッジを介して接続する。サイリスタを順に位相制御すれば、右図下段のように出力電圧を連続的に変化させることができる。本方式において、サイリスタは分割された2次側出力の位相制御を行うとともに、タップスイッチの役目も兼ねており、故障の原因となりやすい機械的なスイッチをまったく用いないことが特長である。図は4分割の事例を示したが、容量に応じて6分割としたり、出力の小さい電車では2分割の例もある。

また、サイリスタを用いた交流電気車は制御回路を逆にして、比較的簡単に電力回生ブレーキが使用できる。直巻整流子電動機を直流発電機として用い、サイリスタブリッジでインバータ回路を構成して、得られた交流電力を架線に戻すものである。このとき、回生電力と架線の位相と合わせる必要がある。

サイリスタ制御は優れた特性を持つ一方、位相制御は滑らかな正弦波(サインカーブ)を途中でカットする方法であり、出力電圧が不連続で乱れたものとなる。これによって交流電源の周波数とは異なる高調波を生じ、変電所信号設備などの地上設備に有害な誘導障害を引き起こすことがある。位相制御を行う無電弧タップ切換も同様であるが、タップ段数に比べてサイリスタ制御の2次巻線分割数は少なく、波形の乱れが大きい後者の問題はとりわけ顕著である。これを防止するため、車両や地上設備にフィルタを設けるなどの処置を必要とする。

[編集] 交流電気車と弱め界磁の組合せ

直流電気車と交流電気車の速度-牽引力特性の例

抵抗制御を用いた直流電気車では印加電圧が最大に達すると弱め界磁制御により中高速域のトルク特性を改善するが、同様に直流整流子電動機を用いる交流電気車でも弱め界磁を用いることは可能である。しかしながら、電源電圧と電動機個数の組合せで最大印加電圧が決定する直流電気車とは異なり、交流電気車では変圧器の設定で幅広い電圧制御が可能であることから、必ずしも弱め界磁を必要としない場合がある。

右図は、抵抗制御と弱め界磁制御を用いた直流電気車(青線)と、交流電気車(赤線)の速度と牽引力の関係を示した事例である。一般に直流電気車は定トルク領域(抵抗制御)が低い速度で頭打ちとなり、弱め界磁により定出力制御を行って中高速域のトルク特性を補うのに対し、交流電気車では比較的高い速度まで定トルク(電圧制御)で制御できる。したがって、とくに弱め界磁を利用しなくても、あるいはわずかに界磁を弱めるだけで十分な高速性能が得られる。初代新幹線車両である0系は定トルク領域を167km/hの高速度まで設定し、弱め界磁を用いない設計であった。一方、さらなる高速性能を確保したい場合は、弱め界磁の併用も有効である[註 2]

[編集] 註記

  1. ^ ノコギリ運転 - 目標速度に達したところでノッチオフし、速度がある程度下がると再加速を行う運転方法。速度と時間をグラフにするとノコギリの歯のようなギザギザな線を描くことからこの名がある。特定の速度領域で連続力行できない場合に行う。
  2. ^ 新幹線0系電車の後継である100系も同様に弱め界磁を用いない設計であったが、270km/h運行を目指したグランドひかり編成(100N系)では高速性能向上のため80%の弱め界磁を追加した。

[編集] 参考文献

  • 松本雅行 『電気鉄道』 森北出版、2007年、41-58頁。
  • 前田隆文 『電気応用と情報技術』 東京電機大学出版局、1999年、37-50頁。
  • 石井幸孝 『入門鉄道車両』 交友社、1970年、6-53頁。
  • 伊原一夫 『鉄道車両メカニズム図鑑』 グランプリ出版、1987年、26-37,180-190頁。
  • Michael C. Duffy; Institution of Electrical Engineers (2003). Electric railways 1880-1990. IET, pp247-248. 
  • 交流調整機に関するQ&A PDF (218 KB) 富士電機テクニカ、14頁

[編集] 関連項目

最終更新 2009年11月13日 (金) 17:09 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
【電気車の速度制御】変更履歴

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