AO入試

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AO入試(エーオーにゅうし、アドミッションズ・オフィス入試)は、出願者自身の人物像を学校側の求める 学生像(アドミッション・ポリシー)と照らし合わせて合否を決める入試方法である。学力試験の結果で合否が決まる従来の一般入試とは異なり、志望理由書や面接などにより出願者の個性や適性に対して多面的な評価を試み学力は問わない点に特色がある。現在では、大学入学者の半数近くが従来の学力検査(「一般入試」)とは異なる方式で大学へ進学している[1]。従来「スポーツ推薦」として、運動選手に対して開かれていた門戸が、芸能・文化活動の領域にまで広げられたものとも考えられ、現に多くのスポーツ選手など有名人がこの方式により入学している。

こうした「一般入試」と異なる新たな選抜形式が、一様に「AO入試」と呼ばれているわけではなく、「自己推薦入試」、「公募制推薦入試」、「自由選抜入試」、「特別総合入試」、「一芸入試」等、明確な基準がないこともあり様々な名称が与えられているが、実態はほぼ同じものである。

目次

[編集] 概要とその広がり

この選抜方式は、アメリカ合衆国で広く行われてきた方式に相当するとされる。但し、アメリカの場合、「SAT大学進学適性試験)という統一学力テスト(日本のセンター試験に相当する)の成績を踏まえた上での選抜が原則であり、また卒業するには相応の学力と努力が必要である為、一旦入学すれば卒業は容易い日本の大学に置ける「AO入試」などとは異質のものと捉える向きもある[2][3]。 アメリカとほぼ同様に、日本でも国公立大学を中心に「センター試験を課す推薦入試」を実施する大学も存在するものの、入試全体から見ればごく少数に限られる。

1990年平成2年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC2学部)が、他に先駆けて導入した(その後、他学部でも実施)。文部省(現文科省)により主唱された「新しい学力観(1989年〜)」にもとづく、いわゆる「ゆとり教育」の推進と時を同じくして、他の多くの大学に普及していった。

今日では、大学院入試においても、従来型の学力試験から、「自己PR」(「入学前の自己の実績」のPR)など「AO入試型」の選抜が広まっており、北海道大学早稲田大学などでは「高卒」者でも大学院に入学が可能となっている。実際、高卒のスポーツ選手[4][5]や高卒の芸能人[6]などが、従来の学力試験によらない方式で大学院へと進学している。

さらに、今日、こうした「自己推薦」「自己PR」による人物評価の手法は、大学・大学院入学者の選定に留まらず、他の教育現場にも広まりつつある。たとえば、学校の教員に対し、「自己評価」の書類(「教育評価の自己申告書[7][8])を作成させ、提出を義務づけ、人事考課に利用する仕組みが広がっている[9][10]。 ただ、こうした動きを、「自己PR合戦」であり、「自分がいかに優秀であるか」、「いかに成果を達成したか」の自己アピールを競わせることで、「自己宣伝」に長けたものを評価する仕組みだと疑問視する向きもあり、心理学者[11]の中には、「陰日向なく、こつこつ努力する日本人のメンタリティー」を蝕み、教育現場に無用の混乱を生じさせているとの指摘もある。

[編集] 現状

現在では、私立大学全体の7割超にあたる400校以上で「AO入試」が実施されている。国公立大学でも、旧来型の「推薦入試」は、以前から広く実施されてきた(国公立大学の実に9割以上で「推薦入試」は実施されている[12])が、近年、東京大学など一部の難関大学を除いた、国立大学でも「AO入試」の採用が増加し、推薦入試とともにAO入試の実施は、過去10年間で最高を記録し、現在、国公立大学の約4割、60校以上が「AO入試」を実施している[12]

しかし、最近になって、AO入試を取り止める大学が少数ながら、難関国立大学を中心に出てきている。2009年度入試からは、筑波大学(社会・国際学群)および、一橋大学で廃止され、2010年度からは九州大学(法学部)でも廃止される予定だ。ちなみに、筑波大学と九州大学は、2000年度に、国立大学初のAO入試を導入した大学であるが、「AO入試組」の学力不足・入学後の学業不振を理由に、見直すという。

九州大学は、読売新聞[13]の取材に、「2005、2006年度に一般入試とAO入試で入学した学生の成績を比較したところ、授業が進むに従い、AO入試で入学した学生の成績に低下が見られた。」とし、「実施10年で見直し」と答えている。 また、朝日新聞[14]の取材に対し、「AO入試で入学した学生の成績がほかよりも低い傾向にあった」、「センター試験を課す学部では目立った差がなく、基礎学力の不足が原因と判断、廃止を決めた。」と答えている。 一橋大学の方も、産経新聞[15])の取材に対し「(AO入試入学者は)しっかりした学力を身に付けているかどうか判断できない」と廃止の理由を挙げた。

このように、入学後の学力追跡などの検証が進んだ結果 [16]、非マスプロ教育を行う難関国立大学の一部で、AO入試組の学力の低さが顕在化したため導入から、10年足らずで廃止の動きが出てきている。

他方、私立大学を中心に、一般入試による入学者の比率が50%を割っており、定員確保のため推薦入試・AO入試に頼らざるを得ないのが現状である。加えて、有名私立大学では、学生の「数」を推薦入試やAO入試で確保し、他方の「一般入試」の定員(合格者)を絞りこむことで、大学の「ブランドイメージ」に直結する、偏差値を高く維持することができるため、AO入試や推薦入試が盛んに利用されている[2]。このため、同じ大学内で、学力の低い「AO入試組」と、「一般入試組」の学力格差が大きな問題になっていると指摘する向きもある[2]

[編集] 特徴

旧来型の指定校推薦入試とは異なり、より多様な人材の確保を目指すため、浪人生や社会人であっても出願できるケースが多い。

受験生は、スポーツの成績やボランティア活動の履歴、個人的な活動(伝統芸能の継承や芸術活動、芸能活動など)を出願時に願書等に記述するなどして自己申告でき、それらが合否の判断材料として使われる。また、英語検定漢字検定TOEFLTOEIC簿記検定などの資格試験の結果を判定材料のひとつとする大学も増えている。

学校側は、合否の判定について「受験者を多面的に評価した結果、合否を決定する」としている。そのため合否の基準が明確でないとの批判もあるが、AO入試が求める能力が数値化しにくいことに起因する。大学は建学の精神に基づいた「アドミッションポリシー」や「求める学生像」を設定しているとし、それらの条件を満たすかどうかで合否を判定しているという。

[編集] 課題

当初の「多様な人材の確保」、「意欲のある人材の確保」というAO入試の「建前」 とは裏腹に、「AO(アドミッション・オフィス)」が「ALL OK(オールオケー入試)」になっている実態がある。現に、推薦入試やAO入試の入学者は、全体の4割を超す約26万人にまで膨らみ、このうち約23万人が学力検査を経ていないとされる[1]。 こうしたことから「AO・推薦入試」が「大学生の学力低下の元凶」との認識が広まりつつあり、日経新聞は社説の中で、「形ばかりのAO入試など学力軽視の選抜をやめるべき」と主張した[17]。また、教育評論家の和田秀樹氏は、「建前上は、多様な学生を集めるためのものだが、有効に機能しているとは思えない。」、「推薦組、とくにAO入試組の低学力が、各大学で問題」であるとし、大学生の学力低下の原因を「推薦AO入試の激増」にあると指摘している[2]

実際、政府も「中教審中央教育審議会)」や「教育再生懇談会」の場で、「AO・推薦入試」が、「大学生の学力低下につながっている」と問題視しており、学力を担保するために、最低限、新たに設ける学力試験「高大接続テスト(仮称)」を実施すべき[1][3]との検討がなされるに至っており、ここに来て、AO・推薦入試に対する否定的な評価も目立ちはじめ、安易な制度の濫用に対する反発も見られる。

[編集] 青田買い批判

多くの私立大学においてAO入試が、青田買いの手段となってしまっているという指摘がある。旧来型の推薦入試では出願が11月以降という決まりがあるが、AO入試にはこの規制がないため、青田買いが過熱し夏休み前に合格者を出すケースも少なくない[18][19]

試験実態・学生レベルも、予備校偏差値40台のある首都圏の私立大学教員によると「面接に来た受験生が『ぜひこの大学に入学したい』と言えばたいてい合格を出す。しかし実際は高校教師に言われたまま来た生徒が多い。」「AOと推薦で定員の9割ほどを埋めた上で残りを一般入試で採る。そうすれば一般入試の競争倍率もそこそこに見える」「入ってきた学生の学力は中学2、3年レベルである。英語なら過去形が分かれば上級コースである。しかし大半はちゃんと就職している」といった具合である[20]

このため、大学進学予定者の約4割が、高3秋の勉強時間が1時間以下であるという調査結果もあり[1]、AO入試のせいで、本来、最も高校生が勉強に励む時期であったものが、一転して、勉強しなくていい時期に転じてしまっているとの批判もある[2]

読売新聞は、社説で「少子化で定員確保に苦しむ多くの大学が、実施時期に制限のないAO入試を「青田買い」に利用してきたのが実態だ。」と指摘し、AO入試の「建前」とその「実態」の乖離を指摘している[1]

一方で、入学までに空白期間が生じることを利用し、一般入試組との学力格差を埋めるための「入学前教育」を実施している大学が多く出てきている。ベネッセが2005年度にAO入試を実施した大学を対象に調査したところ、74%の大学が入学前教育を行っていた[21]

[編集] 制度への評価

AO入試への評価は2つに分かれる。慶應義塾大学のSFC2学部(藤沢市にある、環境情報学部・総合政策学部)では、AO入試で入学した学生の成績は学内でも良いと評価しているという。但し、この2学部の一般入試は、「英語か数学のどちらか」と小論文という独特の方式を採用しているため、一般入試とAO入試の差異が、他大学のそれと比較して小さい。

この2学部は、AO入試を初めて導入した学部であるが、導入して18年が経過し、AO入試を振り返った際、「AO入試で入学してきた学生は元気がよく、一般受験で入学した学生とはまた違った個性で、学生を引っ張り大学の活性化に良い影響を与えている」と、評価している[22]

一方で、広告塔としての有名人集めに、この制度が濫用され、「意欲や入学後の将来性」を見込んで入学させたはずのタレントなどが、入学後の成績が振るわないばかりか、ほとんど出席もせず、休学あるいは退学するケースも散見され、入試制度への不信を招くのみならず、当該大学(教員)の無責任ぶりや、教育機関としての大学(教員)の能力に疑問符がつけられることもある。

前述のような「資質不足」の学生を入学させているという評価の他に、AO入試が「きめ細かく検討して時間をかける割に、他の入試で入った学生と目立った違いがなかった(筑波大学アドミッションセンター)[14]」と、「AO入試」そのものの意義を計りかね、廃止へ向かう大学も出てきており、この制度に対する評価は定まっていない。

[編集] 芸能人の利用

芸能人(アイドル)が、これらの入試制度を利用して有名大学に入学するケースがあり、近年の芸能人は高学歴化が進んでいると言われている[23]

当時アイドルタレントだった女優広末涼子の「自己推薦入試(自己推)」に絡み、出願すら行われていない、合格発表の半年以上前から、当該学部の複数の教授らにより、この芸能人の入学(合格)が既定事実として、教え子の学生達に漏らされていたため、これは大学・学部ぐるみの「不正入試」ではないかとして、一般入試で入学した学生を中心に、問題提起の「立て看板」が学内に設置されるなどの動きがみられた[24]。但し、この学部は、毎年、多くのスポーツ選手など有名人を入学させている実績があり、広末の入学のみを不正とする根拠はないが、まじめに勉学に励む学生達の意欲を挫く副作用をもたらした。

早大での教鞭経験を持つ評論家の金美齢氏が、コメンテーターとして出演したテレビ朝日スーパーモーニングで、彼女の入学を「上手く行くはずがない」と厳しく批判したり、雑誌[25]でもその実態が取り上げられるなどしたため、かえって大学のイメージダウンに力を貸す結果となった。一方で、ほぼ同時期、スキャンダルでテレビを干されていた東国原英夫氏(現宮崎県知事)のように、「AO入試」で入学しながらも、知事選出馬前まで政治経済学部へまじめに通い、政治学を学んでいたとされるケースもある。

[編集] 大学経営との関係

定員数の確保といった以外の経営上の理由(受験料収入の確保など)から、知名度向上を目的に、大学側が積極的に有名人獲得に動くケースも目立つ。「学園紛争のあおりを受け、多くが取りやめていた」という「スポーツ推薦(スポ推)」制度が、20〜30年前から私立大学を中心に再開され[26]、運動選手を積極的に入学させて、大学の広告塔として利用してきた経緯があり、「AO入試」は、その対象をタレント活動や文化活動など、スポーツ以外の課外活動にまで拡大していったものとも考えられる。実際、AO入試を入学者選抜の中心に据えている大学・学部では、スポーツ選手・棋士・歌手・タレントなど有名人の在校生・卒業生が目立ち、入学案内などでこれらの有名人を「広告塔」として利用するケースもある。

事実、ジャーナリストの生島淳氏は、大学関係者の証言として、「箱根駅伝への出場がそのまま大学の宣伝になり、受験料収入につながる。」、「中継では、往復11時間にもわたって学校名が連呼される」ため、「箱根を上位で走行した場合、受験料収入が数億円の単位で増える」[27]との話を紹介し、大学の「箱根駅伝への入れ込み」、「高校生に対する激しい勧誘合戦」の背後に存在する本音、すなわち「大学経営に絡んだ思惑」の存在を明らかにしている。

箱根駅伝の出場校が、私立大学に占められていることからも判るように、スポーツ推薦に限れば、これまでは私立と筑波大学など一部の国立大学での利用が主であった。しかし、近年、国立大学でも従来型の推薦入試に加え、2002年度から「AO入試」の爆発的な増加[28]が起きている。この背景には、政府が進める構造改革による、国立大学の「独立行政法人化」(国立大学法人への移行)がある。文科省は、国立大学法人への移行により「『民間的な発想』での運営[29]が可能になる」とその意義を強調しているが、その内実は、私立大学と同様の「大学経営」が求められることに他ならず、国立大学においてもスポーツ選手などの「有名人獲得」競争が過熱している。たとえば、和歌山大学経済学部では2009年度入試から新たに「スポーツ推薦」を実施[30]する他、「スポーツ推薦」という名称は避けるものの「AO入試」「自己推薦入試」等の名称で、スポーツ選手など有名人獲得競争に参入しているケースは少なくない。

[編集] 脚注

  1. ^ a b c d e 「高大接続テスト 大学生の学力低下をどう防ぐ」 読売新聞 社説 2009年1月7日
  2. ^ a b c d e 「【正論】和田秀樹 どこまで落ちる大学生の学力」」 産経新聞 2008年9月1日
  3. ^ a b 「学力確保へ高校でテスト 大学と連携して検討」 朝日新聞 2009年2月8日
  4. ^ 「『高卒で大学院受かるのか』桑田合格で早大に質問相次ぐ」 J-CASTニュース 2009年1月30日
  5. ^ 競艇選手・江口晃生が早大大学院合格 デイリースポーツ 2009年1月29日
  6. ^ 「53歳秋吉久美子 早大院に合格」 スポーツ報知 2007年 8月19日
  7. ^ 東京都 「教育職員自己申告書(おもて)」
  8. ^ 東京都 「教育職員自己申告書(裏面)」
  9. ^ 文科省  「自己点検・評価、教員の教育面の業績評価等の実施状況」
  10. ^ 文科省  「新しい教員評価システムの取組状況」
  11. ^ 「教師の心を折る、教育評価の書類の膨大」 小倉千加子 週刊朝日 2009年02月13日号
  12. ^ a b 文科省 「平成21年度国公立大学入学者選抜の概要」
  13. ^ 「九州大法学部がAO入試を廃止、入学後の成績低下で」 読売新聞 2008年2月14日
  14. ^ a b 「AO入試、廃止の動き 九大・筑波大など『成績低い』」朝日新聞、2008年2月15日
  15. ^ 「AO入試廃止も 21年度の国公立大入試要項まとまる」 産経新聞 2008年8月11日]
  16. ^ 「速報! 2010年度国公立大入試変更点」 河合塾、2008年10月29日
  17. ^ 「『大学全入』が問う入試改革」 日経新聞 社説 2009年1月18日
  18. ^ "<3> AO入試 青田買い過熱". 入試は変わったか. 読売新聞 (2007-05-02). 2008-08-14 閲覧。
  19. ^ 「AO入試 青田買いの手段ではならぬ」 読売新聞 社説 2008年5月12日
  20. ^ AO入試の今 下」 朝日新聞、2007年11月19日
  21. ^ 『第2部・「全入時代」の幕開け/3 入学前教育』 毎日新聞、2006年12月6日東京朝刊
  22. ^ 「AO入試「完全に定着」 導入18年、慶應 SFC2学部」 朝日新聞、2008年3月18日
  23. ^ 「ジャニーズタレントの“高学歴”事情」 日刊サイゾー
  24. ^ 「週刊新潮」1998年7月16日号、「週刊現代」1998年9月26日号ほか
  25. ^ 「早大キャンパスからも姿が消えた広末涼子プッツン奇行癖の真相」20001年09月号「噂の眞相」
  26. ^ 「大学がスポーツ強化合戦 少子時代生き残りのカギ? 推薦入試拡充やチームに支援金/知名度向上に期待」 神戸新聞 2006年8月4日
  27. ^箱根駅伝は『経済戦争』だ」 生島淳 「読み解く スポーツ」 「朝日新聞」朝刊 別刷特集 2009年1月10日
  28. ^ 東北大学助教授 倉元直樹氏へのインタビュー 河合塾進学情報誌「ガイドライン」2008年1・2月号
  29. ^ 文科省「国立大学の法人化をめぐる10の疑問にお答えします!」
  30. ^ 「スポーツ推薦入学実施へ 和歌山大学が平成21年度に」 和歌山新報 2008年7月18日

[編集] 関連項目

最終更新 2009年9月16日 (水) 01:55 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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