ファツィオリ

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ファツィオリFAZIOLI)は、イタリアピアノメーカー、及びそのピアノをいう。イタリア語の標準的なアクセントは、後ろから2つ目の音節の母音につくため、「ファツィオーリ」ともカタカナ表記される。

1978年に創業した新興のピアノ・メーカーである。独立アリコート方式や「第4のペダル」などの独特の機構を持ち、最高級の材料を使用して手作業で製造される。世界最大級のサイズを持ち、最も高価なピアノ[1]としても知られる。

2008年10月に東京に日本総代理店のショールームができ、2009年7月には名門の桐朋学園 元別館ホールがファツィオリ(国内初の4本ペダル仕様)を納入してファツィオリが聴ける都内初のコンサート・ホールとして公開し、2010年にはショパン国際ピアノコンクールの新公式ピアノに起用が決定した報道が広がり、それに追従して、社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA)による日本最大のピアノコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」が先んじてコンクール会場に導入し、ピアノ界の重鎮杉谷昭子が2010年に創設する「ヨーロッパ・ピアノコンクール・イン・ジャパン」もファツィオリを高く評価して先見の目を持ってコンクール会場に導入し、各メディアでの取り上げ頻度が急激に上がっている。

目次

[編集] 概要

創始者兼現社長、パオロ・ファツィオリは、家具職人の家柄に生まれ、ロッシーニ音楽院でピアノを、ローマ音楽院で作曲を専攻した。家業を継ぐ道と演奏家としての将来を悩む中、同時に両方を叶える道として、最高級の木材を用い工場生産では不可能な職人技によって作り上げる世界一のピアノを製作することを目指し、ファツィオリ社を1978年に創業した。

ファツィオリ社の工場はイタリア北部のサチーレにある。ピアノ調律師兼製作者のチェーザレ・アウグスト・タローネ(ミケランジェリの専属ピアノ調律師)の弟子らを招聘し、音響学や木工技術などの専門家と共に研究を積み、1980年に最初のモデルを完成させた。その後創業20年あまりで、スタインウェイベーゼンドルファーなどのメーカーに並ぶ新時代の名器との評価を受けることもある。有名ピアニストを含む一部のピアニストは、それら既存メーカーを上回る品質であるとファツィオリを評価している要出典

ピアニスト兼作曲家である創業者の知見が設計に生かされており、高級木材をふんだんに使用している。また職人による細かな手作業を製造工程に組み込んでおり、近代化の進んだピアノ製造においては異色のメーカーと言える。1台のピアノ製作に約3年、約800時間の作業をかけると言われる要出典

製品ラインナップは本格的なグランド・ピアノに限定されており、生産量は2009年時点で年間100台程度とされる。

[編集] 特徴

[編集] フィエンメ峡谷産レッドスプルースを使用した響板

ピアノの音色を決定づける響板は、アラスカ産のスプルースがよく用いられるが、ファツィオリにおいてはフィエンメ峡谷産のレッドスプルース(赤トウヒ)が使用されている。フィエンメ峡谷産レッドスプルースからは非常に軽量で均質な材が得られ、良好な振動伝達を実現する木材とみなされている。 ファツィオリの響板は、製作が終わってから2年間、空気管理された倉庫で熟成される。このシーズニングにより、ファツィオリのピアノは、空気の異なる世界各地へ空輸されても優れた安定性を発揮するという。

[編集] ハンマーのフェルト

最高級の羊毛を素材としたフェルトを用いている。他メーカーでは機械によるハンマーのフェルト作りが一般的であるが、ファツィオリはフェルトに硬化剤を使用せず、手作業でフェルト作りを行う。これにより弾力に優れたハンマーが得られる。

[編集] フレームの鋳造

現代の一般的なピアノ製造工程では、ピアノ内部の鉄製フレームを鋳造する際、真空吸引法を用いる。これは鋳型の隅々に鉄を確実に流し込み、作業を短時間で進めることができるという利点を持つ。しかしファツィオリでは、伝統的な古い方法で時間をかけて鋳造している。

[編集] 可変式ブリッジによる倍音の調律

多くのピアノの中高音部には、倍音を豊かに響かせるためのブリッジが駒の奥側のフレーム部分に取り付けられている。この従来のピアノのアリコート部は、一体型でできた固定式のサプリメンタルブリッジが多いため、各アリコートにおけるピッチの調律をすることが不可能であった。ファツィオリでは各音のブリッジを個別に移動させられる独立アリコート方式を採用しているため、倍音を正しく響かせることができ、美しく整った高音部の効果が期待できる。

[編集] 駒の材質の使い分け

ファツィオリでは、駒の基礎上に位置する木材にカエデシデツゲの3種を用い、硬度の違いを生かして音域ごとに3種を順に使用するよう設計している。駒の表面の加工も、熟練した職人の手作業で時間をかけて精密に仕上げられる。

[編集] 音色の変わらない弱音ペダル

ファツィオリは「音色の変わらない弱音ペダル」(通常の3本のペダルに続くものとして「第4ペダル」と称する)の特許を取得している。第4ペダルの原理は、ハンマーを弦に近付け、音色を変えずに音量を小さくすることである。第4ペダルを踏むとハンマーが弦に近付き、鍵盤が下がった状態となり、打鍵時の鍵盤の沈む深さ(あがき)が浅くなって操作が軽快になる。弱音ペダルとしての用法だけでなく、超絶技巧のパッセージを高速で弾くためにも用いることができる。

4本ペダルは、モデルF308のみに標準仕様とされている。他機種ではオプションで4本ペダル仕様にすることが可能であるが、追加料金が必要となる。また購入後にペダルの増設はできない。

[編集] 金属部品のメッキ

多くのピアノ・メーカーの金属部品は剥き出しの真鍮などであるが、ファツィオリでは防錆と美観を考慮し、金属部品に金メッキ処理を採用している。

[編集] 表現媒体としての哲学

ファツィオリでは各音域の音色が均質となるよう設計されている。よってピアノ自身が持つ各音域の音色の違いを利用することはできず、奏者が自らの演奏技術で各声部ごとに音色を作り出す必要がある。これは、楽器とは音色づけの補助をするものではなく、どんな場合でも奏者の意志を表現できるものであるべきだという方針によるものである。同じような哲学を持った楽器に、かつてのベヒシュタインなどがあげられる。

[編集] 全体として

まったくゼロから新しくピアノを設計する計画に参加してもらえないか[2]という打診から始まった新しい楽器ではあるが、フレームや響板の形状、アクション部分などを見ても特筆すべき新奇な特徴などはなく、昔ながらの製作工程と最高級の材料にこだわった少量生産の特注品といったものである。また生産が始まってより30年ほどということもあり、今後この楽器と音色がどのような変遷を迎えるかも定かではない。とはいえほとんどのメーカーが量産のために工程を安易な方向へ変えてしまった今、手作業による楽器作りを守るという点において、またその成功は現代において大変に貴重なものではある。

[編集] 現行機種一覧

ファツィオリは、6種類のグランド・ピアノを製造している。[3]

  • F156
  • F183
  • F212
  • F228:通常のセミ・コンサート・グランド・ピアノ
  • F278:通常のフル・コンサート・グランド・ピアノ
  • F308:ファツィオーリ独自の特大コンサート・グランド・ピアノ

機種番号のFに続く数字は、ピアノの奥行きを(cm単位で)表している。

[編集] F308

F308は、全長308cm[4]、重量690kgと現在において世界最大のピアノである。F308は、大ホールでの演奏やピアノ協奏曲など従来のグランドピアノでは困難であった状況に対応することを目指して設計された、特大サイズのモデルである。グランドピアノは、奥行きの長いものほど低音の音量が強くなり、特に経年変化によって高音との音量バランスを保つことが困難である。F308は全音域でのバランスを保つことを目指した設計となっている。またF308には4本ペダルが標準装備されている。

[編集] 他メーカーのピアノとの機種対照表

奥行きサイズに応じて、同等機種を一覧とする。

ファツィオリとスタインウェイ、ベーゼンドルファーの対応表
Steinway Bösendorfer FAZIOLI 備考 日本国内で弾ける音楽施設の納入先
- Model 130 CL - - -
S-155 - F156 - -
M-170 Model 170 - - -
O-180 Model 185 F183 - -
A-188
B-211 Model 200 F212 - 石川県こまつ芸術劇場うらら
Model 214
C-227 Model 225 F228 セミ・コン 仙川アヴェニュー・ホール“ve quanto ho......”(旧 桐朋学園第二別館ホール)
D-274 Model 280 F278 フル・コン 栗東芸術文化会館「さきら」, 幕張ベイタウン・コア
- Model 290 Imperial - - -
- - F-308 - -

[編集] 世界における支持と評判

下記をはじめとする、多くの名ピアニストたちがこの楽器に最大の賛辞を残している。

マルタ・アルゲリッチマウリツィオ・ポリーニクリスティアン・ツィマーマンアンドラーシュ・シフヴラディーミル・アシュケナージマレイ・ペライアアルフレート・ブレンデルイェルク・デームスラザール・ベルマンニキタ・マガロフアルド・チッコリーニアニー・フィッシャー、オリ・ムストネン、エリザーベト・レオンスカヤギャリック・オールソンフリードリヒ・グルダアンジェラ・ヒューイットハービー・ハンコック、ほか。

マウリツィオ・ポリーニや、クリスティアン・ツィマーマンなど、高い演奏テクニックを有する現役の名ピアニストも、自分用にファツィオリを購入したと言われる以上、要出典。

[編集] 日本における支持と評判

日本では、1988年にラザール・ベルマンが使用したのが初めてといわれる。アルド・チッコリーニは、2003年10月のファツィオリ・フェスティバルでも来日してファツィオリを演奏し話題を呼んだが、ショパン夜想曲集などの録音によってファツィオリを採用している。2004年には、アンジェラ・ヒューイットがファツィオリを弾いて録音したショパン夜想曲即興曲集が発売された。

最近では、スタニスラフ・ブーニンがファツィオリを持参して日本ツアーを行っており、中村紘子仲道郁代、鈴木謙一郎、辛島文雄など、多くの日本人演奏家も、この新時代の名器を絶賛している。

[編集] 日本における納入先施設

  • 一般に開かれており、ファツィオリが弾ける施設を、納入順に下記に記す。

2008年10月、正規の日本総代理店であるピアノフォルティ株式会社が設立され、FAZIOLIの国内における知名度が上昇し始めている。

ファツィオリが弾ける国内の施設一覧
納入順 施設名 場所 納入機種 ペダル 納入時期 使用できるホールの客席数 備考
1 栗東芸術文化会館「さきら」 滋賀県栗東市 F278 3本 YYYY年MM月DD日 149席:小ホール 406席:中ホール 810席:大ホール 日本で初めてファツィオリを納入したホール。
2 北上市文化交流センター 岩手県北上市 F278 3本 YYYY年MM月DD日 264席:小ホール 461席:中ホール 1406席:大ホール 2005年10月にアルド・チッコリーニが再来日し、ファツィオリを演奏。
3 石川県こまつ芸術劇場うらら 石川県小松市 F212 3本 YYYY年MM月DD日 250席:小ホール 詳細は公開されていない。
4 仙川アヴェニュー・ホール“ve quanto ho......”(旧 桐朋学園第二別館ホール) 東京都調布市 F228 4本 2009年春公開 160席前後:増減可 一般利用のできるホールとしては関東初のファツィオリであり、4本ペダル装備のファツィオリのある日本初のホールとなったため注目を浴びている。世界的に高名な建築家ノーマン・フォスター設計による特別モデル「Silver」が納入で、アート・コレクション・シリーズとしても日本初登場となった。


  • 広く一般に開かれていない、ファツィオリが納入されている施設を、納入順に下記に記す。

(非公開施設のため、ここに掲載されていないものが全てとは限らない。)

ファツィオリが納入されている国内の非一般向け施設一覧
施設名 場所 納入機種 ペダル 納入時期 客席数 備考
幕張ベイタウン・コア 千葉県千葉市美浜区 F278 3本 2002年4月26日 200席 あくまでも地元美浜区住民に限られた公民館であり、利用希望の1ヶ月前でないと予約できないばかりか、営利を目的とする興行での申込や個人からの申込は認められていないため、広く一般に利用できる施設とは言えない。そのため、東日本初導入といっても、閉ざされた施設であることから、一般に予約のできる施設としてのカウントには全くならない。
渋谷教育学園幕張中学・高等学校 田村記念講堂 千葉県千葉市美浜区 F278 3本 2009年MM月DD日 XXX席 学内用途のみ。

[編集] FAZIOLI国内納入施設 外部リンク

[編集] 脚注

  1. ^ 出典:吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』、青弓社、2006年、227ページ。
  2. ^ 出典:『パリ左岸のピアノ工房』、新潮社、2001
  3. ^ The six models (F156 - F308)公式サイト
  4. ^ これまで最大であったのはベーゼンドルファー製のインペリアルが290cm

[編集] 関連文献

  • 斎藤信哉著『ピアノはなぜ黒いのか』(幻冬舎)
  • 吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』(青弓社)

最終更新 2009年11月23日 (月) 19:39 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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