IT業界離れ
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IT業界離れ[1]とは、労働者が新卒や中途採用において、就業先に情報処理産業を選択しなくなる傾向である。
目次 |
[編集] 概説
日本のIT業界はそのイメージと異なり、サービス産業であり労働集約的な産業である。ユーザー企業のシステム自前主義に対応するために、フルオーダーメードのシステムを開発する受託開発に偏っている[2]からである。多くの人手を必要とする受託開発において、人件費の上昇はコストの上昇に直結する。よって低賃金の若年労働者や派遣、下請けに頼らざるを得ない。またそれを口実に、産業の成熟化や法整備を怠ってきた。しかし労働者のIT業界離れが進行しており、難しい岐路に立たされている。
[編集] 歴史
1980年代、ソフトウェア技術者の不足が心配され、Σプロジェクトが企画されたが、失敗に終わった。1990年代にはシステムのオープン化やネットワーク化の発達により、業務のIT化が進んだため、IT業界は人手不足に陥るかに思われた。しかし、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、バブル崩壊の後遺症で就職氷河期の時代に突入したため、インターネット接続環境普及の黎明期であったために不景気の中でも比較的求人が多かったIT企業が、就職の受け皿として、熱心に大学の就職指導などにおいて勧められた。その結果、低賃金の新卒若年労働者や派遣労働者の過酷な労働に支えられて、IT業界はインターネット・バブルに覆われることとなった。
しかし、2000年代半ばになるとライブドア事件により、新興のITベンチャー企業の実態が、「IT」とは名ばかりで、金融業などで粉飾決算に手を染めている実態が明らかになった。また、新3Kと呼ばれる労働環境[3]、人海戦術とデスマーチが横行する[4]産業の未成熟さ、ITゼネコンとそれを支える下請けブラック企業といった日本特有のIT産業の多重請負構造も問題となった。2000年代後半の景気回復に伴い、IT業界離れが進むことになった。
[編集] 新卒におけるIT業界離れ
2000年(平成12年)のインターネット・バブル崩壊以降、IT企業への就職希望者は一貫して下がり続けている[5]。2009年(平成21年)の就職の人気企業ランキング300社に情報処理業は10社程度しか含まれておらず、最も人気が高い野村総合研究所ですら57位である[6]。また大学の情報系学部・学科の人気も下がっている [7]。2008年(平成20年)の調査では上位14%のトップ校以外は深刻である。これはアメリカでも同様であった。2004年(平成16年)の調査では、コンピュータ科学を専攻する大学生は60パーセント以上減少している[8][9]。2008年の調査でようやく下げ止まった[10]。
現在、IT業界のイメージが悪化している。2007年(平成19年)10月30日にIPAが開催した「IPAフォーラム2007」では「きつい、帰れない、給料が安い」の「3K」に加えて「規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない」の「7K」というイメージを学生から持たれたほか、「ITコーディネータ」や「ITアーキテクト」などの仕事内容が曖昧ではっきりしないという学生のイメージもあった[11]。なお、約4割の企業が若者のIT業界離れを感じている[12]。
[編集] 転職におけるIT業界離れ
IT産業から離れる現象は新卒だけではなく、転職市場でも起きている。IT業界で働く者の2人に1人がIT業界からの転職を希望している[13]。また「消える人(退職者)が多い」との問題意識を持つ人が多い[14]。
2008年の調査によると[15]、IT業界の転職者は約半数(45.5%)が業界を離れている。転職先は商社・流通・小売業(17.2%)や建築・土木・不動産(10.6%)が上位である。ユーザー企業の社内システム部門への転職は少ない。また業界内の転職でも総務や人事などに職種転換する場合があり、結果として転職者の6割強がIT業務から離れてしまう。20歳代と30歳代の職種転換は4割前後、40歳代以上は5割を超える。一方、業界外からの転職は2割弱であり、流出が目立つ。業界外への転職の理由は給与(18.8%)と労働時間(11.9%)が上位である。職種はプログラマ(22.3%)と運用・サポート(10.7%)が多く、プログラマ35歳定年説との関連を指摘する意見もある[16]。しかしシステムエンジニアが少ない訳ではない(合計27.7%)。
[編集] 情報サービス産業の就業構造
[編集] 全体構造
2007年(平成19年)の『特定サービス産業実態調査』によると[17]、日本の情報サービス産業の従事者は約80万人とされる。ソフトウェア業が約56万人、インフラ等の情報処理・提供サービス業が24万人である。そのうちシステムエンジニアは約31万人、プログラマは約14万人である。この調査によると、情報サービス産業の従業員数は一貫して増加しており、「IT業界離れ」は見られない。特に、2006年(平成18年)は従業員数が急増している。しかし、これは調査対象の見直し・拡大があり、調査対象が2倍以上になったため、「統計のマジック」との批判がある[18]。
[編集] 人身売買
IT業界は「人月」によって評価され、ノウハウやサービスではなく、人間を商品として扱うのが商慣行となっている。中には、名実共にマンパワーの売買(人材派遣)で儲けている企業もある。技術者の売買は利益が大きい。例えば専門職派遣は、一般事務職派遣と比べて派遣料金が高く、原価率が低い。普通の派遣会社でも、メイテックやVSN、ジェイテックの粗利は3割を超えると言われる[19]。
情報サービス産業の企業から、外部へ派遣されている従業員はソフトウェア業が約3万人。情報処理・提供サービス業が約2万人である[17]。この他に業界の外からも人を集めており、 合計約7万人が別経営の事業所からの派遣である。なお、この中に「偽装請負」が含まれるのかは不明である。2002年(平成14年)の「情報サービス業の動向と雇用」によると[20]、派遣される職種はシステムエンジニアやプログラマが多い。
また、非正規雇用の問題がある。情報処理・提供サービス業は、4人に1人がパートやアルバイト、臨時雇用などの非正規雇用である。この他に派遣社員が加わる。なお、ソフトウェア業は9割が正社員であるが、正社員待遇の「特定派遣」が多い[21]。
[編集] 多段階の下請け構造
現在の日本のIT産業では、「ITゼネコン」を頂点としたピラミッド型の多重請負構造のヒエラルキーが存在している。年間売上高に占める同業者への売上高の割合は、ソフトウェア業が2割弱。情報処理・提供サービス業が1割強である。なお、情報サービス産業は零細企業が多く、ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業ともに従業者29人以下の事業所が全体の7割を占め[17]、従業者の1割強が在籍している。ちなみに、従業者の3割強は、従業者500人以上の大企業に在籍している。
[編集] 長時間労働
IT業界は、金融・保険・不動産、建設・資材・林産と並んで残業の多い業種として知られている[22]。
IPAの調査によると[23]、IT技術者の4割は月200時間以上の労働で、1時間/日以上の時間外労働をしている[24]。また繁忙期には約2割が月300時間以上の労働で、5.6時間/日以上の時間外労働をしている。また、約6割がサービス残業をしている。不規則労働・長時間労働の結果、心身を壊すケースもある[25]。
[編集] 企業との意識の乖離
2001年(平成13年)10月、富士通社長の秋草直之が「業績下方修正は社員が働かないため」と発言し話題となった[26]。成果主義のゆがみとしても注目された[27]。
2008年(平成20年)5月28日、IPAが開催した「IPAX2008」において、IPA理事長の西垣浩司がイベントに参加した学生に対して「10年は泥のように働け」と発言したとして話題になった[28]。これは伊藤忠商事の取締役会長であった丹羽宇一郎の「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」を引用し、発言したものだった。会場において、西垣浩司の意見に賛同し、10年は泥のように働けると挙手した学生は一人も居なかった。
[編集] 人手不足による産業の危機
IT産業は人手不足に陥りつつある[12]。 少子化による若年労働者の減少。団塊労働者の定年退職[29]。 団塊ジュニア世代は「プログラマ35歳定年説」の年齢に差し掛かっている。一方、外国人労働者を活用したオフショア開発はリスクを伴う[30]。 IT産業は難しい岐路に立たされている[31]。
[編集] 出典
- ^ ITエンジニアは技術で新大陸を目指せ! 長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
- ^ 経済産業省『中間とりまとめ(案) 我が国産業の強さを活かすIT投資の在り方』(2007年)
- ^ 「化粧のらない」「結婚できない」 IT業界就職不人気の理由 J-CAST
- ^ 『日経エレクトロニクス』「ケータイ・ソフト開発 人海戦術の破綻」2001年5月7日号
- ^ アクセンチュア試算
- ^ 魅力復は道遠し? ITサービス業界、学生の人気が低迷 IT-PLUS
- ^ @IT. "学生の「人気」「質」低落傾向で大丈夫? 大学情報系学部を調査". 2008年8月25日 閲覧。
- ^ CNET Japan (2005-4-25). "コンピュータ科学はもはや斜陽か--米学生の間で不人気ぶりが浮き彫りに". 2009年1月27日 閲覧。
- ^ Jay Vegso. "Interest in CS as a Major Drops Among Incoming Freshmen". 2009年1月27日 閲覧。
- ^ IT Pro. "北米でコンピュータ・サイエンスを専攻する大学生が急増". 2009年3月18日 閲覧。
- ^ IT業界不人気の理由は? 現役学生が語るそのネガティブイメージ @IT
- ^ い ろ IT PRO. "IT組織:9割の企業で要員が不足". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ IT人材不足を解消するためにすべきこと 富士通総研
- ^ IT PRO. "3300人大調査――ITの仕事に携わって「良かった!」". 2008年11月5日 閲覧。
- ^ IPA. "IT人材市場動向予備調査報告書(中編)". 2009年3月21日 閲覧。
- ^ 40歳代を境にIT以外の業務に転職増加「プログラマ35歳定年説」を思い起こさせるIPAの調査結果 @IT
- ^ い ろ は 経済産業省. "平成19年特定サービス産業実態調査(速報)". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ IT-PLUS. "情報サービス産業急成長?統計マジックがあぶり出した業界実態". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ ビジネスリサーチ・ジャパン. "グッドウィルは業界トップクラスの利益構造だった". 2008年11月5日 閲覧。
- ^ 経済産業省. "情報サービス業の動向と雇用". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ @IT 自分戦略研究所. "第2回 正社員が8割。IT業界には派遣が少ない?". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ 第10回 優秀な人材が逃げるIT業界の長時間労働――放置すれば罰金刑も
- ^ @IT. "IT技術者の4割は月200時間以上労働". 2008年11月5日 閲覧。
- ^ 週休2日、4週間/月。30日/月として計算。
- ^ IT PRO. "調査のコメントで浮き彫りになった「こころの病」の実態". 2008年11月5日 閲覧。
- ^ 『週刊東洋経済』2001年10月13日号
- ^ 城繁幸『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』 光文社、2004年7月23日。ISBN 4-334-93339-4
- ^ "IPAイベントにて 「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論". 2008年8月23日 閲覧。
- ^ IT PRO. "メインフレーム技術者が足りない". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ IT PRO. "これがITのチャイナリスクだ 人材の確保は困難,IT担当者はいなくなることを前提に". 2008年10月9日 閲覧。
- ^ IT PRO. "ITサービス業の産業構造は近い将来、間違いなく崩壊する". 2008年10月9日 閲覧。
最終更新 2009年9月15日 (火) 23:24 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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