アローの不可能性定理

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アローの不可能性定理(あろーのふかのうせいていり、:Arrow's impossibility theorem)とは、経済学者ケネス・アローが彼の博士論文、"Social choice and individual values"(『社会的選択と個人的評価』)で明らかにした定理である。「不可能性定理」と呼ばれることが多いが、本来は"general possibility theorem"であり、歴史的にはアローの(一般)可能性定理とも訳されていた。また単にアローの定理 (Arrow's theorem) と呼ばれることもある。

選択肢が3つ以上あるとき、定義域の非限定性、全会一致性、無関係な選択対象からの独立性、非独裁性をすべて満たす「社会的厚生関数」 (英:social welfare function) を作ることはできない、とする。この場合の社会的厚生関数とは、一般に考えられているバーグソン‐サミュエルソン型のものとは異なり、反射性・完備性・推移性を満たす個人の選好関係の集まりから、反射性・完備性・推移性を満たす社会全体の選好関係を導く関数である。これは18世紀以来知られていた投票のパラドックス、もしくはコンドルセのパラドックスと呼ばれるものを数学的に証明したものとも言える。

[編集] 概要

まず、アローは社会の構成員全員の選好関係を変数として、次の3つの公理を満たす社会的選好関係≧(好き嫌いを表す。数字の不等号でないことに注意)を作り出す関数を考え、それを社会的厚生関数と呼んだ。

反射性
任意の選択肢xに関し常にx=xが成立する。ただしこれはあまりに自明なので、言及されない場合もある。
完備性
任意の2つの選択肢x、yに対し、常にx≧yもしくはy≧xが成立する。すなわち選好はどちらかが優先する(x>y、y>x)か同程度か(x=y、これを無差別という)かのいずれかである。
推移性
任意の3つの選択肢x、y、zに対し、x≧y、y≧zならばx≧zである。

選好関係≧がこの3つの公理を満たすならば、選択肢が何個あろうともそれが有限個である限り、最も良い選択肢(1個とは限らない)を選ぶことができる。つまり、その選好関係は決定性を有する。

次にアローは、「民主制」にとってさらに下記の4条件が不可欠であるとした。

  1. 社会を構成するそれぞれの個人の選好は反射性・完備性・推移性を満たす限り表明は自由である(定義域の非限定性、普遍性)
  2. 社会の全員の選好が「xはyよりも良い」とした場合、社会的選好も「xはyよりも良い」となる(全会一致性、パレート原則)
  3. 任意のxとyの社会的選好が、その他の選択肢zに関する個人的選好の変化によって左右されない(無関係な選択対象からの独立性
  4. すべての選択肢に対する社会的選好が、構成員の中の特定の個人の選好と一致することはあってはならない(非独裁性

そして、上述した前提としての決定に関する3つの公理と民主制のための4つの条件をすべて満たす関数は、3つ以上の選択肢があるとき存在しないことを発見した。すなわち社会的選択のための前提となる3つの公理と民主的決定のための4条件とは互いに相容れず、矛盾することを示した。これを、アロー自身は「一般可能性定理」と呼んだ。しかしこの定理のもつ含意から、「アローの不可能性定理」と呼ばれるのが一般的となった。

このことは、決定性と民主主義の両立が困難であることを示唆している。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • Kenneth Arrow: Social Choice and Individual Values, ISBN 0300013647 ケネス・J・アロー(長名寛明訳)『社会的選択と個人的評価』日本経済新聞社, 1977
  • 佐伯胖: 『きめ方の論理―社会的決定理論への招待』, 東京大学出版会, 1980, ISBN 4130430173
  • 松井知己: 『Arrow の一般可能性定理の証明の解説』, オペレーションズ・リサーチ, 46(2001), 93-97.


最終更新 2009年10月12日 (月) 06:42 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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