カルスト地形

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カルスト台地(秋吉台

カルスト地形(独: Karst)とは、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって溶食されてできた地形(地下地形を含む)である。

目次

[編集] 概説

岩石はごく微量であるが水に溶解する。その溶解性は岩石を構成する鉱物種の化学性によって大きく異なる。石灰岩は大体において石灰質の殻をもつ生物の遺骸が海底に厚く堆積して生じたものであるが、鉱物学的には主として方解石炭酸カルシウムCaCO3)からなり、他の岩石に比べて酸性水に対する溶解性が非常に高い。地表流によって削り取られる侵食が作用することももちろんあるが、そのような侵食作用が働かない所でも、炭酸の作用による溶食で石灰岩が少しずつ水に溶け、地表にはドリーネが、地下には鍾乳洞が発達する特異な地形が生じていく。こうして生じた地形をカルスト地形と呼んでいる。

炭酸を生じる二酸化炭素の主要な供給源は土壌である。一般に高温湿潤な地域ほど土壌中の微生物活動が活発なため、二酸化炭素の生産量が大きく、また降水も豊富なため、カルスト地形の発達が激しく、石灰岩が高い尖塔/柱状、あるいは塔状、円錐状に残る地形が生まれる。カルスト地形を形成する岩石には、石灰岩のほかに苦灰岩(白雲岩)や石膏岩があるが、後二者のカルスト地形は日本では見られない。

[編集] 語源

「カルスト」という語は、スロベニアのクラス地方(岩石を意味する古代の地方名 Carusadus、Carsusに由来)に語源がある。この地方には中生代白亜紀から第三紀初頭にかけて堆積した石灰岩が厚く分布し、溶食による地形が広く見られるが、地政的にスロベニア語で Kras、ドイツ語で Karst、イタリア語では Carsoと呼ばれてきた。とくに1893年のJ. ツィーチによるドイツ語論文「Das Karstphänomen」によって、同種の地形を表す呼び名として「カルスト」がヨーロッパで広く使われるようになり、世界的に定着した[1]

[編集] 地表地形

雨水が石灰岩の割れ目に沿って集中的に地下に浸透する過程で周囲の石灰岩を溶かすため、地表にはドリーネ(doline, sinkhole)と呼ぶすり鉢型の窪地が多数形成される(ドリーネは地下の空洞の天井部が陥没することによってもできる)。直径は10mから1,000m、深さは2mから100mくらいである[2]。雨水がドリーネを通じて地下に流入するため、一般には地上に川が生じない。地下に浸透した雨水はやがて集まって地下川をなし、大小の洞窟をつくりながら下流へと流れ、山麓に開口した洞窟や湧泉から再び地上へと現れる。

ドリーネが徐々に拡大して隣り合った複数のドリーネがつながってより大きな窪地に成長したものがウバーレ(uvala)である。さらに溶食が進み、大きくなった盆地底に地下水面が現れ、広い沖積地が生じた地形をポリエ(polje)という。大きいものでは数100平方kmの広がりを有することがある。

ドリーネと共に地表には、土壌水の溶食から溶け残った石灰岩の突出部(石灰岩柱;ピナクル pinnacle)が無数に土壌中から顔を出す。古くはこのような地形を日本では石塔原とか墓石地形と呼んだ。通常、石灰岩柱は雨水による溶食でギザギザと尖っていることが多いが、熱変成をうけた結晶質の石灰岩(大理石)では石灰岩柱は丸みを帯びた形を成す。福岡県の平尾台にはこのような円頂型石灰岩柱が無数に発達し、これらを羊群に例えて、それらが特徴的によく発達した地域を羊群原と呼んでいる。

石灰岩柱の表面には、また石灰岩柱と石灰岩柱の間の土壌に埋もれた潜在部にも、雨水や土壌水によって形成された大小の溶食性の小溝が多く生じている。これを独語でカッレン(Karren)と呼び、世界的に使用されている。石灰岩柱が林立し、カッレンが沢山生じた小起伏の地形を、欧米ではこの凹微地形に視点を置いて、カッレンフェルト(karrenfeld;直訳すれば岩溝原か)と呼んでいる。しかし日本では逆に突出する石灰岩柱の方に視点を置いて、上述のように古くは石塔原とか墓石地形と呼んだ。土壌による被覆が少なく、石灰岩の露岩が主の地帯を裸出カルスト、逆のものを被覆カルストという。

石灰岩はその成分の大部分が、風化(溶食)の結果として流れ去ってしまうため、日本のような純度の高い石灰岩では鉱物質の微粒子が残りにくく、風化残留性の土壌(テラロッサ)の蓄積がよくない。土壌の発達が少なく、かつ岩盤中の浸透水も流れやすいという性質を併せ持つため、カルストの山地は一般に保水性が悪い。このため植物群落の発達が限定されることがあり、森林が形成されず草原となっている例が多い。これがカルスト地形の見晴らしの良さに繋がっている。ただ、永年の人類活動による伐採で森林が消失し、土壌流失によって荒涼化した場合や、草原としての利用維持あるいは景観保全目的で野焼きを行っている場合がある[3]。しかし地域によっては長い地質時代の間に、風成のレスや降下火山灰が厚く堆積し、それらが温暖湿潤な気候のもとで土壌化した赤茶色の土壌が見られることもある。そのようなところでは森林の発達も良い。

一方、ポリエ内は湿性で、季節的な氾濫が起こることが多い。しばしば広い範囲に湛水し、一時的なポリエ湖を生じることがある。単なる河川の氾濫ではなく、石灰岩体内の地下水位が広く沖積面よりも高く上昇し、生じるものである。山口県秋吉台の上流側にある赤郷地区では数年に一度くらい、豪雨時にポリエ湖が発生することがある。数日から1週間くらいにわたって水田や畑地が広く冠水する。また地下水位が浅くあるドリーネでは、同じように一時的なドリーネ湖が生じることがある(代表例:秋吉台の帰水ドリーネ)。

カルスト地形の地表(秋吉台)

上述したカルスト地形の形成は、気候の影響(二酸化炭素生産量や降水量)が大きいが、一般には起伏量の小さい地帯で教科書的に進行している(日本の例では西南日本内帯のカルスト地帯や南西諸島の隆起サンゴ礁カルスト)。溶食によって原面よりも低下してはいるが、原地形を反映した平坦面をもつ台地地形や段丘地形が発達している。

逆に起伏量の大きい地帯では、石灰岩の地塊はしばしば急斜面や急崖をもち、上部にカッレンフェルトやドリーネをもつこともある独立峰的な高い山をつくる(四国カルストや青海カルスト、伊吹山霊仙山藤原岳武甲山など)。

これは石灰岩が化学的溶食性を有する反面、他種の岩石に見られるような化学風化を受けないために、軟岩化が進まず、岩盤としての抗侵食性が大きいためである。起伏量の大小を決めるものは、最近の地質時代における隆起速度とその継続時間、ならびに河川侵食の進行度(降水量や隆起後の経過時間、海岸からの距離、下流域の地質による)である。

特異なカルスト地形として、地質時代に形成された沿岸域のカルストが気候変動等による海水準の上昇によって海面下に没した沈水カルストがある。カリブ海沿岸のもの(ドリーネの沈水地形であるブルーホールや海中鍾乳洞など)が有名で、よくメディアによって紹介されている。日本では沖縄海域沿岸部で海中鍾乳洞が幾つか発見されており、宮古島通り池がブルーホールの例である。

[編集] 地下地形(石灰洞;鍾乳洞)

カルストの地下地形が発達していく過程には、大きく三つの過程がある。第一の過程は、石灰岩の割れ目に沿って流れる地下水の作用で溶食が進み、洞窟空間ができていくものである(石灰洞の形成)。第二の過程は、地下水中に溶けた石灰分が洞窟内において晶出し、石灰分からなる特異な沈殿物(広義の鍾乳石)が生じていく過程である(鍾乳洞の形成)。第三の過程は、年齢を重ねた洞窟が終末期を迎え、崩壊していく過程である。

[編集] 溶食過程

水 H2Oに溶けた二酸化炭素 CO2から炭酸 H2CO3が生じ、炭酸と石灰岩の主成分である炭酸カルシウム CaCO3との化学反応によって溶食が進むものである。土壌中を浸透した地下水には多量の二酸化炭素が土壌空気からとけ込んでいる(大気から雨水に溶け込む量の数倍から百倍程度)。最初は微小な割れ目に沿って石灰岩が溶食されていくが、やがて水みちは大きくなり、いずれかの流れやすい流路を選んで水が流れるようになる。こうして水量が増えてくると、砂礫や砂などが流れ込むようになり、溶食以外に水流による侵食(磨食)も加わって洞窟と呼ばれるような大きな空間が形成される。空間がある程度大きくなると天井や壁面の崩落・崩壊が起こることがあり、空洞が一時的に埋まるが、地下川がある場合には局所的に流速が早くなり、溶食作用が強く働くようになって洞窟の拡大がより進行する。

この溶食過程を化学反応式で示すと次のようになる。

CaCO3 + CO2 + H2O → Ca(HCO3)2

反応の結果生じる炭酸水素カルシウム Ca(HCO3)2はカルシウムイオンと炭酸水素イオンに分離した形でのみ存在し(つまり水に溶けている状態、その結果流れ去って溶食が起こる)、次のように記される。

Ca(HCO3)2→ Ca2+ + 2HCO3-

洞窟形成環境を水文地質学的な観点からみると以下の3つの型(循環水帯型、地下水面型、飽和水帯型)に分けられるが、実際には各タイプの洞窟が時間的、空間的に組み合わさり、他の地質的な要因も加わって複雑に発達していることが多い。

  1. 雨水が直接に石灰岩体内に流れ込む場所として、ドリーネがある。ドリーネ底には大小さまざまの縦穴や斜めに落ち込んだ洞窟がある。多くの場合は泥や岩礫などで埋まっていて直接見ることができない。また、石灰岩以外の山から流れてきた水流(外来河川)が石灰岩の地帯に達したところにも、同じように洞窟が開口していることが多い(川の水が自然と石灰岩の河床の割れ目に浸透して涸れ谷となり、洞窟が見られないことも多い)。洞窟へ流れ込んだ水は下方に地下水面まで流れ落ちていく(地下水面が浅くある所では、水は横穴を穿って流れ込んでいく)。このように地表流が地下へ流れ込んでいく所にある穴や洞窟を広くポノール(独: Ponor; 英: swallet;吸い込み穴、飲み込み穴)と呼ぶ。起伏量の大きいカルスト地帯では深い縦穴をつくる。(代表例:新潟県の白蓮洞)
  2. 地下水面に達した水は横方向へ流れ、次第に合流して主流へと成長し(地下水面の等高線的形状から地下水谷という)、最後には石灰岩体の下流部、山麓に開口した洞窟あるいは湧泉から再び地上へ流れ出る。地下水面に沿って溶食が進み、横断形が扁平な洞窟ができる。流量も多くなり、大型の横穴洞窟をつくることが多い。流域上流部の地下水面は降雨(季節)によって大きく高度を変えるので、地下水面に沿う洞窟は発達しにくいが、地下水谷では洞窟の発達によって排水能力が増すため、地下水面は安定的なものとなり、長大な洞窟形成が加速される。地盤の隆起によって排水され、人が入ることが可能になったもの。(代表例:山口県の秋芳洞や景清洞)
  3. 地下水面帯よりも深層の地下水はふつう流れがほとんどないため、洞窟形成作用は大きくない。しかし水理的条件がととのうと、割れ目に沿って被圧性の地下水の流れが生じることがある。この型の洞窟は溶食作用が上下左右いずれの方向にも働いたことを示す円形や楕円形などの断面形を示し、時には地下水流が重力に逆らって上方へ向かって流れたことを示す流痕のある縦穴や斜洞が見られる。(代表例:熊本県の球泉洞

[編集] 沈殿過程

石灰分の晶出は、外気と洞内気の温度差によって人が通過できないような割れ目や穴をも流れる気流(煙突効果)のために、洞内気の組成は外気とほとんど変わらないという理由で起こる。つまり洞内気の二酸化炭素は外気(0.04%)とそう変わらない(せいぜい数倍)ために、土壌空気に由来する多量の二酸化炭素によって多量の石灰分を溶かしている地下水が洞窟内に滲出すると、二酸化炭素は水中から洞内気の方へ逃げていく(ビールから二酸化炭素が逃げるように)。すると溶存していた石灰分は二酸化炭素が逃げた分だけ水に溶けていることができなくなり、沈殿を始める。こうして鍾乳石二次生成物)ができる。

この沈殿過程を化学反応式で示すと、上述の式とは逆に次のように記される。

Ca(HCO3)2→ CaCO3 + CO2 + H2O   あるいは  Ca2+ + 2HCO3-→ CaCO3 + CO2 + H2O

鍾乳石はできる場所や水量、不純物の量などによって様々に形や色、大きさを変えるので、色々の形態名があるが、成分は炭酸カルシウム(鉱物名は方解石)である。まれに同じ化学組成で、結晶構造が異なる霰石からなるものも見られる。これらが洞窟内に特異な風景をつくっている。中には光を当てるときらきら光り美しいものがあるが、細かい方解石の結晶面が暗い洞窟内で照射光を反射するためである。主な種類には次のようなものがある。

  • 鍾乳石:天井から垂れ下がるもの(つらら石とも言う)。広義には二次生成物の意。
  • 石筍:床面から上に向かって生えるもの。
  • 石柱:鍾乳石と石筍が繋がったもの。
  • 畦石:緩い傾斜面に生じた棚田のような形のもの(秋芳洞の百枚皿が有名)。
  • フローストーン:流華石。壁面を被って流れた形のもの(よくクラゲの滝登りとか、石の滝というような名称が付けられている)。「流れ石」という訳語がしばしば用いられるが、イメージとしてそぐわず、適当でない。
  • カーテン:石幕。オーバーハングの壁面に垂れ下がった旗状のもの。

[編集] 崩壊過程

地表の侵食(溶食)が進んで洞窟の天井をなす岩層が薄くなったり、空洞が極度に大きく成長した場合などには、洞窟は崩壊を始める。地下川系をなす空洞の天井の一部が崩落し、陥没ドリーネが生じると、地上から底を流れる地下水が見えることがある。これをカルストの窓(天然井戸とも)という(代表例:鹿児島県沖永良部島の水蓮洞や田皆暗川)。洞窟内の局地的な天井や壁の崩落は、地表侵食の進行度とは関係なくよく見られる現象である(代表例:山口県秋芳洞千畳敷)。

洞窟系全体にわたって崩壊が進むと、時にごく一部の天井が橋のように残ることがある。これを天然橋と呼び、カルスト地帯に多い(代表例:広島県帝釈峡の唐門や雄橋、岡山県阿哲台の羅生門など)。

[編集] カルスト地形の例

[編集] 日本

[編集] 世界

[編集] 脚注

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  1. ^ Slovene Classical Karst - Kras -, pp.11-14;ZRC SAZU, Ljubljana, 1997
  2. ^ 地形学事典, p.461;二宮書店, 1981
  3. ^ カルスト-その環境と人びととのかかわり-, pp.29-56;大明堂, 1996

[編集] 関連項目

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[編集] 外部リンク

最終更新 2009年11月26日 (木) 04:35 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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