成年後見制度
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成年後見制度(せいねんこうけんせいど、成年後見ともいう[1])とは判断能力(事理弁識能力)の不十分な者(名称は「成年」であるが、制度上成年者に限定する理由はない。民法7条、11条本文、15条1項本文の請求権者に未成年後見人、未成年後見監督人が入っているのもそのためである)を保護するため一定の場合に本人の行為能力を制限すると共に本人のために法律行為をおこない、または本人による法律行為を助ける者を選任する制度である。ドイツの世話法、イギリスの持続的代理権授与法を参考にして2000年4月、旧来の禁治産・準禁治産制度にかわって設けられた。
裁判所の審判による「法定後見」と、本人が判断能力が十分なうちに候補者と契約をしておく「任意後見」とがある。
- 民法について以下では、条数のみ記載する。
目次 |
[編集] 法定後見
法定後見は、本人の判断能力が不十分になった場合に家庭裁判所の審判により後見人(保佐人・補助人)が決定され開始するものである。本人の判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助の3類型がある。
[編集] 根拠法
制度は民法に基づく。実際の手続は家事審判法および家事審判規則に基づき、家庭裁判所が行う。後見登記は、後見登記等に関する法律による。市区町村長申立の根拠は老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)である。
[編集] 3類型
[編集] 成年後見
- 後見開始の審判
- 精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者を対象とする(7条)。
- 後見開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人または検察官である(7条)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。
- 家庭裁判所の後見開始の審判により後見人を付すとの審判を受けた者を成年被後見人、本人に代わって法律行為を行う者として選任された者を成年後見人とよぶ(8条)。
- 家庭裁判所は後見開始の審判をするときは職権で成年後見人を選任する(843条1項)。未成年後見人は1人でなければならないのに対し(842条)、成年後見人については複数の者が選任されることがある(843条3項・859条の2)。また、法人が成年後見人となることもある(843条4項)。後見開始の審判については請求権者の請求に基づいてなされるが、成年後見人の選任は家庭裁判所の職権による。なお、禁治産者制度の下では夫婦の一方が禁治産宣告を受けた場合にはその配偶者が後見人となるという法定後見人制度(改正前の旧840条)があったが成年後見制度の下で廃止されている。
- 成年後見人の権能と成年被後見人の法律行為
- 成年後見人は成年被後見人について広範な代理権(859条1項)と取消権(120条1項)、財産管理権(859条)、療養看護義務(858条)をもつ。
- 取消権については成年被後見人の日常生活に関する行為については取り消すことが出来ない(9条但書)。また、遺言や婚姻などの身分行為や治療行為などの事実行為に関する同意など本人だけで決めるべき(一身専属的)事項についても取消権や代理権は行使できない。
- 同意権については保佐人や補助人とは異なり認められていないと解するのが通説である[2]。成年被後見人は精神上の障害により判断能力を欠く常況にある(7条)ため、成年後見人が予め同意をしていても同意の直後に成年被後見人が判断能力を失ってしまうおそれがあるためである[3]。したがって、成年後見人には同意権がないので成年被後見人の行為については成年後見人が同意した行為であっても取り消しうる[4]。なお成年後見人とは異なり、未成年後見人は未成年者の法定代理人として同意権が認められている(5条1項)。
- 成年後見人の義務
- 成年後見人は、成年被後見人の生活・療養看護・財産管理事務を行うにあたり、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(858条)。
- 利益相反行為
- 成年後見人と成年被後見人との利益相反行為について、成年後見人は成年被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(860条本文・826条)。ただし、後見監督人(後述)が選任されている場合には後見監督人による(860条但書)。
- 後見監督人
- 家庭裁判所は必要があると認めるときは、成年被後見人、その親族もしくは成年後見人の請求または職権により後見監督人を選任することができる(849条の2)。後見監督人の職務については851条・863条等に規定があり、後見監督人が選任されている場合には特にその同意を要する場合(864条・865条)がある。
[編集] 保佐
- 保佐開始の審判
- 精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者を対象とする(11条本文)。後見開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。10条参照)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。10条参照)、補助人、補助監督人または検察官である(11条本文)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは保佐開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。ただし、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者については7条により後見開始の審判を請求すべきであるから保佐開始の審判を請求することはできない(11条但書)。
- 家庭裁判所の保佐開始の審判により保佐人を付すとの審判を受けたものを被保佐人、保佐の事務を行う者として選任された者を保佐人とよぶ(12条)。
- 保佐人の権能と被保佐人の法律行為
- 保佐人は13条1項に定める重要な財産行為について同意権(13条1項)および取消権(120条1項)、追認権(122条)を有する。
- 保佐人の同意を要するとされる行為は保佐開始の審判の請求権者または保佐人もしくは保佐監督人の請求により家庭裁判所の審判で拡張できるが(13条2項本文、老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)、被保佐人の日常生活に関する行為にまでは拡張できない(13条2項但書)。
- 家庭裁判所での手続上は、同時に並行して進められる)。:保佐人の同意を得なければならない行為について保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は被保佐人の請求により保佐人の同意に代わる許可を与えることができることとされている(13条3項)。
- 被保佐人が保佐人の同意を要するとされた法律行為を、保佐人の同意またはこれに代わる家庭裁判所の許可を得ずに行った場合は、当該法律行為を取り消すことが出来る(13条4項)。
- 代理権は、保佐開始の審判の請求権者または保佐人もしくは保佐監督人の請求(本人以外が請求する場合には本人の同意も必要)に基づいて代理権付与の審判を受けている場合には、申し立てられた特定の法律行為についての保佐人が有する(876条の4第1項・第2項)。
- なお、保佐人は身分行為など本人だけで決めるべき(一身専属的)事項については同意権・取消権・代理権は行使できない。
- 保佐人の義務
- 保佐人が保佐の事務を行うにあたっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身状態及び生活状況に配慮しなければならない義務を負う(876条の5第1項)。
- 利益相反行為
- 保佐人またはその代理人と被保佐人との利益相反行為について、保佐人は臨時保佐人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(876条の2第3項本文)。ただし、保佐監督人(後述)が選任されている場合には保佐監督人による(876条の2第3項但書)。
- 保佐監督人
- 家庭裁判所は必要があると認めるときは、被保佐人、その親族もしくは保佐人の請求または職権により保佐監督人を選任することができる(876条の2第1項)。保佐監督人の職務権限については後見監督人の規定が準用される(876条の2第2項)。
[編集] 補助
- 補助開始の審判
- 精神上の障害により判断能力が不十分な者のうち、後見や保佐の程度に至らない軽度の状態にある者を対象とする(15条1項本文)。補助開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。10条参照)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。10条参照)、保佐人、保佐監督人または検察官である(15条1項本文)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは補助開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。ただし、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者及び精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者については7条の後見開始の審判もしくは11条の保佐開始の審判を請求すべきであるから補助開始の審判を請求することはできない(15条1項但書)。家庭裁判所の補助開始の審判により補助人を付すとの審判を受けたものを被補助人、本人の行う法律行為を補助する者として選任された者を補助人とよぶ(16条)。補助は事理弁識能力の低下が後見や保佐の程度に至らない軽度の状態にある者を対象としており、自己決定の尊重の観点から本人の申立て又は同意を審判の要件とする(15条2項)。
- 補助開始の審判には必ず併せて17条第1項の同意権付与の審判あるいは876条の9の代理権付与の審判の一方又は双方の審判がなされる(15条3項)。補助人の権能は補助開始の審判を基礎としてなされる同意権付与の審判や代理権付与の審判の組み合わせによって内容が定まる。したがって、被補助人に同意権付与の審判と代理権付与の審判の双方がなされている場合にはその補助人には同意権・取消権・代理権が認められ同意権付与の審判のみの場合には同意権・取消権のみが、代理権付与の審判のみの場合には代理権のみが認められることになる。ただし、いずれの場合も身分行為など本人だけで決めるべき(一身専属的)事項については同意権・取消権・代理権を行使できない。
- 補助人またはその代理人と被補助人との利益相反行為について、補助人は臨時補助人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(876条の7第3項本文)。ただし、補助監督人(後述)が選任されている場合には補助監督人による(876条の7第3項但書)。
- 家庭裁判所は必要があると認めるときは被補助人、その親族もしくは補助人の請求または職権により補助監督人を選任することができる(876条の8第1項)。補助監督人の職務権限については後見監督人の規定が準用される(876条の8第2項)。
- 同意権付与の審判
- 同意権付与の審判の請求権者は補助開始の審判の請求権者または補助人もしくは補助監督人である(17条1項)。市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは同意権付与の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。本人以外の者の請求による場合に本人の同意がなければならないのは補助開始の審判と同様である(17条2項)。被補助人に同意権付与の審判がなされている場合には、被補助人は13条1項に列挙されている行為の一部の法律行為について補助人の同意を要する(17条1項)。補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは家庭裁判所は被補助人の請求により補助人の同意に代わる許可を与えることができる(17条3項)。 被補助人が補助人の同意を要するとされた法律行為を補助人の同意またはこれに代わる家庭裁判所の許可を得ずに行った場合は、当該法律行為を取り消すことができる(17条4項)。
- 代理権付与の審判
- 代理権付与の審判の請求権者は補助開始の審判の請求権者または補助人もしくは補助監督人である(876条の9第1項)。市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは代理権付与の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。被補助人に代理権付与の審判がなされている場合には、特定の法律行為について補助人に代理権が付与される(876条の9第1項)。ただし、被補助人本人以外の請求によるときは本人の同意を要する(876条の9第2項)。
[編集] 法定後見開始の手続
- 判断能力が低下した場合、4親等内の親族、検察官や市区町村長等の申立権者が本人の住所地の家庭裁判所に対して、後見、保佐または補助開始を申し立てる。法律上は、本人の申立ても可能である。
- 本人の財産が親族等の第三者により勝手に処分されるおそれがある等、必要がある場合には裁判所の審判が出るまでの間に裁判所の命令により、財産の管理人をおくなどの「審判前の保全処分」が行われる場合がある。
- 報告家庭裁判所の命令により2ヶ月に一度程、財産目録の報告を義務付けされる。
- 解任:後見人任務の終了。被後見人の死亡。後見開始審判の取り消し。後見人の辞任。後見人の解任。よって終了。
- 申立ての際に申立書、財産目録、判断能力に関する医師の診断書等の書類の提出が求められる。弁護士による代理申立ても認められる。ただし申立書などの書式は定型化されており、申立人が手続きについて分からないような場合でも家庭裁判所の職員(裁判所書記官等)の助言を得ながら書類を作成することは可能である。申立ての費用としては申立て自体に1,600円分程度の収入印紙の貼付(申立て類型の組合せ等によって異なる)と裁判所により若干異なるが、郵便切手を4,000円分程度、登記費用4,000円程度の予納が必要となる。
- 申立てが受理された後、家庭裁判所が本人や後見人等候補者(いる場合)の面接などによる調査を行う。必要に応じて家庭裁判所の職員(家庭裁判所調査官等)は、裁判所外での面接を行う場合もある。調査が簡略化される場合もあるが本人の知らないところで勝手に申し立てられるなどの濫用を防ぐため、必ず本人の陳述を聞かなければならないと規定されている。実際には、調査官等の面談によって本人の意向が確認されている。東京家裁では申立時に本人及び後見人等候補者を同行させれば申立と同時に面接が行われる扱いになっており(即日面接)、日程の短縮が図られている。
- いわゆる植物状態にある場合や幼少時からの重い知的障害者など、明らかに鑑定が必要でない場合(家裁によって若干基準が異なる)、又は補助の場合を除いて調査が終了後、必ず本人の判断能力について医師の鑑定が行われる。
- 鑑定の結果を踏まえて家庭裁判所の裁判官(家事審判官)の判断で開始の決定、又は申立ての却下決定が行われる。裁判官の判断によって、たとえば後見開始の申立てであっても本人の状況に応じて保佐、補助等、申し立てた内容よりも能力制限の少ない類型で開始決定されることもある。開始決定がされた場合、必ず本人にも通知される。
- 開始決定は、裁判所からの嘱託によって特別な登記がされる。登記事項は登記事項証明書に記載される。この証明書は本人、後見人等、相続人、公務員以外は交付請求できないとされ、プライバシーに配慮されている。
- 後見が開始されると法定後見の種類、後見人の氏名、住所、被後見人の氏名、本籍、が東京法務局に登記される。登記された内容を証明するのが登記事項証明書でこれが後見人の証明になる。
[編集] 鑑定
後見、保佐の場合、申立て後に、原則として全例、本人の判断能力についての鑑定が行われる。鑑定医は、本人の主治医等がいれば、まずはその主治医等に家庭裁判所から依頼される。しかし、主治医が専門ではない場合など、鑑定をすることができない場合には、専門の医師を探す必要があり、家庭裁判所が鑑定医を探し依頼する。鑑定費用は、東京家裁で10万円程度、横浜家裁では5万円〜10万円とされるが、医師の設定による。
- 被後見人の精神鑑定は精神科医の専門医の判断が必要で、費用は10万円程度掛かる。
[編集] 報酬の付与
後見人の報酬は、家庭裁判所の審判で特に定められない場合は、無償である。第三者が後見人に就任する場合などは、1年程度経過後に、報酬付与の申立に基づき、裁判所が本人の財産の状況、事務量や内容を総合的に勘案して、報酬額を決定する。成年後見監督人がついている場合の監督人の報酬についても同様である。
- 成年後見監督人は家庭裁判所の決定で裁定される。
[編集] 法定後見終了の手続
[編集] 任意後見
任意後見は、将来の後見人の候補者を本人があらかじめ選任しておくものである。法定後見が裁判書の審判によるものであるのに対し、任意後見は契約である。後見人候補者(受任者)と本人が契約当事者である。この契約は、公正証書によって行われる。
将来後見人となることを引き受けた者を「任意後見受任者」という。任意後見が発効すると、受任者は「任意後見人」となる。任意後見人の行為は、定期的に裁判所の選任する任意後見監督人により監督を受ける。任意後見監督人は裁判所に報告することで、国家は間接的に監督するものである[5]。
[編集] 根拠法
法定後見が民法上の制度であるのに対し、任意後見は民法の特別法である「任意後見契約に関する法律」に定められた制度である。
同法の仕組み等については「任意後見契約に関する法律」を参照
[編集] 優先劣後
任意後見契約は、法定後見に優先する。任意後見契約が締結されているときに法定後見の開始申立てをしても、原則として受理されない(任意後見契約に関する法律第10条)。成年後見の理念は本人意思の尊重であり(民法第858条)、本人意思により締結された契約を国家(裁判所)による行為である審判に優先させるという考えに基づくものといわれている。
[編集] 任意後見契約の発効
本人の判断能力が不十分となった場合に親族、任意後見受任者等が裁判所に対し「任意後見監督人」の選任を申し立てる。任意後見監督人の選任がなされたときに、当該任意後見契約は発効する。
[編集] 任意代理との違い
任意後見契約は後見人が常に判断能力を欠く状況にある本人を代理して法律行為を行うことを規定して事前に契約しておくものであるが、通常の委任契約と異なるのは公正証書によるという要式契約であるという点、任意後見監督人が後見人を監督する点、が挙げられる。
とくに後者は、任意代理契約との比較上重要な差異である。任意代理では本人の判断能力が十分な場合は代理人の行動を本人が監督でき、もし代理人の行動に権限ゆ越等の問題があれば原則としていつでも解除できる。しかし任意代理契約発効後に本人が判断能力が不十分となった場合は当然本人からの監督は期待できないにもかかわらず判断能力を欠くことは委任契約終了の事由ではないから任意代理契約は継続し、代理人は代理権を有するまま監督者不在で法律行為を行うことができてしまい本人の保護が十分になされないのである。
任意後見契約では、その発効のために任意後見監督人の選任が必要である。つまり、本人の判断能力が不十分となった場合には裁判所におり選任された任意後見監督人が後見人を監督するのである。任意後見監督人は裁判所に状況報告を行うこともあり、裁判所が間接的に後見人を監督する。これにより本人保護が図られるのである。
[編集] 法定後見との違い
法定後見では一定の場合を除き、必ず本人の判断能力に関する鑑定が必要であるのに対して任意後見では鑑定は不要である。
任意後見には、本人の行った行為の取消権はない。クーリングオフ等については、日本成年後見法学会等で120条に基づいて取消権を行使しうるとする意見が出されている[6]。
[編集] 任意後見契約の態様
任意後見契約は、通常3種別に分類される。
- 将来型
- 移行型
- 即効型
[編集] 将来型
将来、本人の判断能力が不十分となったときに任意後見契約を発効させるものである。親族が受任者である等の場合に利用される。
[編集] 移行型
本人の判断能力が十分な間は任意代理契約(又は「見守り契約」)とし、判断能力が落ちた場合に任意代理契約を終了させ任意後見契約を発効させるものである。弁護士等の士業が契約に関与する場合にはこの方式が好まれる傾向にある。理由としてはいつ判断能力が落ちるか不分明であること、任意代理契約や見守り契約の間に本人の生活状況など(QOL、ADL)を把握することができること、「任意後見監督人選任申立の時期を的確に把握しやすい」ということが挙げられる。任意代理契約・任意後見契約の両方に、受任者の義務として的確な時期に監督人選任を申し立てるという条文が挿入される[7]。士業は同居の親族と異なり、定期的に本人の状況を把握するよう努力しないと本人の判断能力の低下等の状況について把握しづらく、結果として申立て時期を徒過してしまうこともありうるからである[8]。
[編集] 即効型
任意後見契約を締結したあと、すぐに任意後見監督人選任申立てをして任意後見契約を発効させるタイプの契約である。早期に発効させたい場合には利用される。しかし判断能力が不十分であるから任意後見を発効させるのだから、任意後見契約を締結したときに契約内容を理解する十分な能力があったのかどうかが問題となることもある。
[編集] 後見人の報酬
後見人の報酬は、任意後見契約において支払額や方法を取り決めない限りは民法第648条に基づき無報酬である。
[編集] 後見人の養成とその課題
[編集] 後見人の担い手
後見人となる者は2005年の最高裁判所事務総局家庭局編成年後見事件の概況によれば家族・親族が77.4%であり、残余は第三者後見人である。第三者後見人の内訳は司法書士が8.2%、弁護士が7.7%、社会福祉士が3.3%、法人が後見人に選任される法人後見は1.0%、友人・知人名義が0.5%、その他1.9%となっている。また、法定後見において財産管理や遺産分割等の法律事務中心と見込まれる場合は法律職が身上監護を重視すべき事案と裁判所が判断した場合には、社会福祉士等福祉専門職が選任されるといわれている。身上監護を家族後見人、財産管理を第三者後見人が担うなど、様々な事情によって複数の後見人を選任して役割分担することもある。
[編集] 職業後見人
専門職従事者(いわゆる士業)による第三者後見人を、とくに「職業後見人」と呼ぶことがある。
団体として後見人活動に取り組んでいる例としては社団法人成年後見センター・リーガルサポート(司法書士)、日本社会福祉士会の成年後見センター・ぱあとなあ等が著名である。リーガルサポートは本制度発足前より、後見制度の先進国であるドイツ、英国等を視察し2000年4月の本制度発足以降も積極的に提言をしてきたという実績がある。
士業の能力面で言えば、弁護士は法律事務を全て扱える資格であり沿革的にも後見事務に最適と考えられるものの団体としては弁護士会や日弁連としての統一的・実務的な取り組みはなく、日弁連として提言をまとめる等の活動が行われるにとどまっている。なお個人的に積極的に成年後見分野で活動する弁護士も存在し、当分野で著名な中山二基子弁護士を中心とした有限責任中間法人が2005年に発足している。司法書士は限定的に法律事務を扱える資格であり、ある程度後見事務にも適しており前述の通り団体としての活動も資格業の中では一番積極的と言える。社会福祉士は法律事務は扱えないものの、福祉を通じて被後見人に身近な存在であるという実績がある。これらの3士業は後見人に関連する業務を行ってきた実績や能力、その取り組みが評価されているため第三者後見人・職業後見人の就任数も多く、そのほとんどを占めている。
後見人の就任は各団体において研修等を修了し候補者として推薦された者がその団体の名簿に登載され、その名簿が家庭裁判所に提出され家庭裁判所が受領した名簿の中の候補者に対し、後見人就任の打診をするという流れとなっている。しかし、こうした職業後見人およびその候補者の数は現在ではまだ必要とされる数に比して少ないといわれているのが現状である。成年後見分野に積極的に取り組んでいる弁護士の数は弁護士総数からみれば決して多くなく、制度発足時よりこの制度の推進に大きな役割を果たしてきた司法書士[9]の数や社会福祉士の数を合わせても数が足りないという現状がある。
ほかに一部の行政書士が行政書士会もしくは特定非営利活動法人として成年後見活動を独自に行っているが、神奈川県を除き家庭裁判所による名簿受領・選任の実績はない。なお、税理士も全国女性税理士連盟等によって成年後見活動に参画している例がある。
近年では弁護士・司法書士・社会福祉士以外の士業や団体等が後見人養成を行っており、今後後見人の増加が見込まれているところであるが他方で職業後見人による犯罪・怠慢・不当に高額な報酬が露見・報道されるなど、能力不足・倫理欠如・濫造の怖れもある。
[編集] 市民後見人
とはいえ、職業後見人に対しては月額およそ3〜5万円の報酬を本人の財産から支払う必要がある。このため成年後見制度を利用すべき状態にある高齢者であっても後見人となるべき家族等がおらず、または家族から財産侵害(経済的虐待)を受けているために家族を後見人にするのが不相当な場合などは一定の資力がないと職業後見人を付することができないという問題が生じていた。
こうしたなかで都道府県や日本成年後見法学会等では、後見人の養成が急務であると考えており東京都では市民後見人の養成講座が開催され、世田谷区でも同様の取り組みが行われる予定であると発表されている。また、一般の市民の中にも第三者後見人の担い手になる動きが広がっている(「市民後見人」)。滋賀県大津市の特定非営利活動法人「あさがお」、岐阜県多治見市の「東濃成年後見センター」などの民間機関による活動の例がある。
[編集] 後見人の資質向上
このように後見人の担い手は広がりつつあるが、一方で家族が後見人となり財産管理をする傍らで本人の財産を侵奪したり悪徳リフォーム業者が認知症高齢者の任意後見人になり高額の契約を結んだりする等の事例があるのも事実である。年金生活である知的障害者の家族が、年金収入を家族の生計に充てている事例があるとの指摘もされている。監督人がいない場合、後見人を家庭裁判所が監督する建前だが裁判所の人的資源の限界もあって十分な監督ができていないのが実情である。他方、任意後見の移行型については任意後見受任者が監督を忌避して監督人選任申立てを懈怠する可能性も学会や新聞紙上等において指摘されている[10]。
具体的な事例としては、後見人である親族による金銭の着服が発覚し刑事事件となるケース[11]や専門職による職業後見人が不当な報酬額を取得し財産を侵奪したりするケース[12]が全国各地で報告されている。
このようななかで後見人としての資質の向上や倫理観、懲罰制度についての議論が起こっており、とくに裁判所では士業者団体による後見人候補者名簿の作成に当たっては名簿提出をする団体の研修内容や組織体制を重視してきた。また士業者団体に対し、裁判所が適切な懲罰制度を設けることなどを求める例もでている。また民間団体による市民後見人が後見業務を行う場合には複数の法人で相互に活動をチェックする体制をとるなど、権限の濫用を防止するための試みも行われているとの報道がなされている[13]。
[編集] 実務上の問題点
[編集] 医的侵襲に対する同意
医療の現場では手術、輸血、人工呼吸器装着などの高度な延命措置など侵襲的または高度・不可逆的な医療行為の前に本人に代わって説明を受け、その同意を後見人に求めるケースがある。しかし法的には後見人等は遺言や婚姻などの身分行為や治療に関する同意など、本人の一身に専属する行為を代理して行う権限はないと考えられている[14]。
[編集] 成年後見制度発足の経緯
従来の禁治産・準禁治産制度には、差別的であるなどの批判(後述)が多かった。こうした中で1995年に法務省内に成年後見問題研究会が発足して以来、成年後見制度導入の検討が重ねられてきたが従来の制度への批判とともに、制度導入時期決定の契機となったのが介護保険制度の発足である。
福祉サービスの利用にあたって、行政処分である措置制度から受益者の意思決定を尊重できる契約制度へと移行が検討されていた(いわゆる「措置から契約へ」)。高齢者の介護サービスについては2000年から介護保険制度の下で利用者とサービス提供事業者の間の契約によるものとされることとなったが、認知症高齢者は契約当事者としての能力が欠如していることから契約という法律行為を支援する方策の制定が急務であった[15]。
そこで、厚生労働省における介護保険法の制定準備と並行して法務省は1999年の第145回通常国会に成年後見関連4法案[16]を提出、1999年12月に第146回通常国会において成立した。その後、政省令の制定を経て2000年4月1日、介護保険法と同時に施行されることとなったのである。
こうした経緯から、介護保険制度と成年後見制度はしばしば「車の両輪」といわれる[17]。
[編集] 禁治産・準禁治産制度への批判
- 制度が作られたのは明治時代であり、本人の保護・家財産の保護は強調されても本人の自己決定権の尊重や身上配慮など、本人の基本的人権は必ずしも重視されていなかった。
- 禁治産という用語は「(家の)財産を治めることを禁ず」という意を持ち、家制度の廃止された現行の民法(親族・相続法)に合致しない。また国家権力により私有財産の処分を禁ぜられ無能力者とされること、また禁治産・準禁治産が戸籍に記載されることが人格的な否定等の差別的な印象を与えがちであった。これらにより、禁治産制度の利用に抵抗が示されやすかった。
- 裁判所の受理件数が少なく処理が定型化していなかったこともあり、鑑定を引き受ける医師が少なく時間とコストの負担が少なくなかった。
- 比較的軽度の判断能力の低下の場合であっても一律に行為能力を制限する準禁治産者の宣告を受けることになるため、制限が過剰である場合があった。特に浪費者の場合に裁判所の運用によって鑑定なしで準禁治産宣告を行うなど、やや無理が目立っていた。
- 配偶者がいる場合に法律上当然に配偶者が後見人となる旨の規定があり、実情に即した弾力的な運用が困難であった。
- 保佐人の取消権について法律の明文の規定を欠いていたため、その行使の可否について解釈上の争いがあった。
[編集] 禁治産・準禁治産制度との相違点
- 身上配慮義務の明文化(民法第858条(Wikibooks))
- 本人の保護と、自己決定権の尊重との調和をより重視
- 禁治産という用語を廃止
- 戸籍への記載を廃止。代わりに後見登記制度を新設
- 補助」の新設(旧来の禁治産は後見、準禁治産は概ね保佐にあたる)
- 準禁治産の事由に含まれていた「浪費者」を、後見制度の対象から除外
- 鑑定書の書式を専門医向けに配布することなどにより、鑑定を定型化・迅速化
- 配偶者が当然に後見人、保佐人となるという規定を削除
- 複数成年後見人(保佐人・補助人)の導入
- 法人後見の導入
- 保佐人、補助人の取消権の明文化
[編集] 精神保健福祉法との関係
精神保健福祉法第20条は、後見人又は保佐人を精神障害者の保護者になる者の第1順位としている[18]。これにより精神障害者の後見人及び保佐人は当然に「保護者」となり、精神保健福祉法上の義務も負う。
職業後見人が単独で後見人に就任した場合、実際には家族・親族がいて身の回りの世話などを行っている場合でも法律上は職業後見人が当然に精神保健福祉法上の保護者となる。つまり、受療義務など保護者としての法的な義務は家族・親族ではなく後見人が負うことになる。
[編集] 後見に関する証明書
- 登記事項証明書
- 法定後見・保佐・補助が発効、もしくは任意後見契約が成立すると裁判所、公証人の嘱託により東京法務局後見登録課で後見登記がされる。その登記事項は、登記事項証明書により証明される。1通800円。
- 登記なきことの証明書
- この証明書は、後見登記がされていないことを証明するものである。法務局・地方法務局戸籍課(東京は後見登録課)で発行される。従来の禁治産者・準禁治産者でないことは、市町村役所で発行される身分証明書にて破産者でないことと一括で証明されていた。2000年4月以降の成年後見制度では、成年被後見人・被保佐人・被補助人でないことは登記されていないことの証明書にて証明されるようになった。対して、破産者でないことは身分証明書で証明される。主として、国家資格の登録などにおいて欠格事由に該当しないことの証明に用いられる。1通400円。
[編集] 注釈
- ^ 保健・医療・福祉の分野で、当初、成人後見と表現されたことがある。[要出典]
- ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』79頁、岩波書店、1965年
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著『民法2総則・物権法第二版』46頁、勁草書房、2005年
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著『民法2総則・物権法第二版』46頁、勁草書房、2005年
- ^ 法定後見では成年後見監督人の選任は必須ではなく、多くの事例が裁判所の直接監督である。任意後見が間接監督であるのは、民法第858条の具現化のひとつである。
- ^ 論者として、新井誠(日本成年後見法学会理事長・筑波大学法科大学院院長)が挙げられる。日本成年後見法学会編・『成年後見法研究』第3号182ページ。
- ^ 公証人会のモデル等を参照
- ^ 任意後見受任者が適切な時期に監督人選任申立てをしなかった場合、監督能力を喪った本人の代理人として監督を受けないまま行動できてしまうという問題点がある(任意代理における、本人の判断能力喪失後の監督者不在の問題と同様である)この点は、日本成年後見法学会のシンポジウム及び『成年後見法研究第3号』155ページ以下等。
- ^ 社団法人成年後見センター・リーガルサポートとして活動している。
- ^ 2005年開催の日本成年後見法学会のシンポジウム及びその内容を記録した『成年後見法研究第3号』155ページ以下等。
- ^ 福岡県で知的障害の実兄2人の成年後見人であった実弟がヤミ金業者らと共謀して多額の預金を引き出したとして親族相盗例を排除して業務上横領罪を適用し、福岡地方検察庁特別刑事部によって逮捕・起訴されたことが2006年10月5日付けの毎日新聞によって報じられている
- ^ 社団法人成年後見センター・リーガルサポート東京支部の元副支部長である司法書士が任意後見契約において設定された報酬額に加えて日当等を請求し、結果的に年間500万円程度の多額の報酬額を不当に取得したとして問題となった。この司法書士は、2006年春に成年後見に関する書籍を発行するなどの活動を行っていた。
- ^ 日本経済新聞夕刊 2006年10月19日など
- ^ 診療契約、介護契約締結は法律行為なので代理できる点は争いない。医的侵襲については、
- A)診療・介護契約の締結が治療・介護行為への同意と不可分一体のものであると考えれば診療契約締結の代理権に付随して、治療行為への同意権があると解するとする立場
- B)包括的な診療契約の締結(法律行為)と医的侵襲を伴う治療方法(事実行為)の選択とは性質が異なることに基づき、同意権は認められないとする立場
- ^ 2003年からは身体障害者、知的障害者、障害児の利用する福祉サービスについても契約制度が導入されている(支援費制度)。2006年からは、精神障害者も含めた障害者自立支援法の下での障害福祉サービスに衣替えした。
- ^ 民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案、後見登記等に関する法律案
- ^ 介護サービス契約のために後見人等が契約代理を行うことが想定されているが、現実には介護サービスを利用している認知症高齢者等のすべてに後見人がついているわけではなく家族・親族等が代理権ないまま契約を代行している例が少なくない。
- ^ 保護者になる者の第2順位以下の配偶者・親権者・扶養義務者については本人保護のために特に必要であると家庭裁判所が認めた場合、利害関係人の申立てにより保護者となる者の順位を変更できる。しかし、後見人と保佐人に関しては、順位変更の規定から除外されている。
[編集] 関連項目
最終更新 2009年8月6日 (木) 12:22 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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