遺伝子組み換え作物
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遺伝子組み換え作物とは、遺伝子組み換え技術を用いた遺伝的性質の改変によって品種改良等が行われた作物のこと。
日本語ではいくつかの表記が混在使用されている状況である。「遺伝子組換作物反対派」は遺伝子組み換え作物、厚生労働省などが遺伝子組換え作物、食品衛生法では組換えDNA技術応用作物、農林水産省では遺伝子組換え農産物などの表記を使うことが多い。
英語の genetically modified organism からGM作物、GMOとも呼ばれることがある。ただし、GMOは一般にはトランスジェニック動物なども含む遺伝子組換生物を指し、作物に限らない。
目次 |
[編集] 要約
遺伝子組換え作物とは、商業的に栽培されている植物(作物)に遺伝子操作を行い、新たな遺伝子を導入し発現させたり、内在性の遺伝子の発現を促進・抑制したりすることにより、新たな形質が付与された作物である。食用の遺伝子組換え作物では、除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大、などの生産者や流通業者にとっての利点を重視した遺伝子組換え作物の開発が先行し、こうして生み出された食品を第一世代遺伝子組換え食品とよぶ。これに対し、食物の成分を改変することによって栄養価を高めたり、有害物質を減少させたり、医薬品として利用できたりするなど、消費者にとっての直接的な利益を重視した遺伝子組換え作物の開発も近年活発となり、こうして生み出された食品を第二世代組換え食品という。
遺伝子組換え作物の作製には、開発過程の高効率化や安全性に関する懸念の払拭のために様々な手法が取り入れられている。たとえば、遺伝子の組換わった細胞(形質転換細胞)だけを選択するプロセスにおいて、かつては医療用、畜産用の抗生物質と選択マーカー遺伝子としてその抗生物質耐性遺伝子が用いられていた。現在ではそのような抗生物質耐性遺伝子が遺伝子組換え作物に残っていることが規制されており、それ以外の選択マーカー遺伝子を利用したり、選択マーカー遺伝子を除去したりといった技術が開発された。
遺伝子組換え作物の栽培国と作付面積は年々増加している。2008年現在、全世界の大豆作付け面積の70%、トウモロコシで24%、ワタで46%、カノーラで20%がGM作物である。限定的ではあるが2009年には日本も遺伝子組換え作物の栽培国となる。
日本の輸入穀類の半量は既に遺伝子組換え作物であるという推定もある。
遺伝子組換え作物の開発・利用について、賛成派と反対派の間に激しい論争がある。主な論点は、生態系などへの影響、経済問題、倫理面、食品としての安全性などである。生態系などへの影響、経済問題に関しては、単一の作物や品種を大規模に栽培すること(モノカルチャー)に伴う諸問題を遺伝子組換え作物特有の問題と混同して議論されることが多い。食品としての安全性に関して、特定の遺伝子組換え作物ではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているという主張がある。そのような主張の多くが科学的な批評に耐えられる論拠を伴っていない。
[編集] 起源
従来の育種学の延長で導入された1973年以降の遺伝子組換えの手法としては放射線照射・重イオン粒子線照射・変異原性薬品などの処理で胚の染色体に変異を導入した母本を多数作成し、そこから有用な形質を持つ個体を選抜する作業を重ねるという手順で行われた。最初のGMOが作成された後に科学者は自発的なモラトリアムをその組み換えDNA実験に求めて観測した。モラトリアムの1つの目標は新技術の状態、及び危険性を評価するアシロマ会議のための時間を提供することだった。生化学者の参入と新たなバイオテクノロジーの開発、遺伝子地図の作成などにより、作物となる植物に対して、「目的とする」形質をコードする遺伝子を導入したり、「問題がある」形質の遺伝子をノックアウトしたりすることができるようになった。米国では研究の進展とともに厳しいガイドラインが設けられた。そのようなガイドラインは後に米国国立衛生研究所や他国でも相当する機関により公表された。これらのガイドラインはGMOが今日まで規制される基礎を成している。
初めて市場に登場した遺伝子組み換え作物と言われるのは、アンチセンスRNA法(mRNAと相補的なRNAを作らせることで、標的となるタンパク質の生合成を抑える手法でRNAi法の一種)を用いて、ペクチンを分解する酵素ポリガラクツロナーゼの産生を抑制したトマトFlavr Savrである。他のトマトと比較して、熟しても果皮や果肉が柔らかくなりにくいという特徴を持つ。
[編集] 分類
遺伝子組換え植物として開発されているものは、植物自体の研究に用いられるモデル植物として利用されているものと、産業的に利用されている、もしくは産業的利用を目指して研究されている遺伝子組換え作物に分けることができる。更に、遺伝子組換え作物は、非食用作物、食用作物(遺伝子組換え食品)、飼料用作物などに分類可能である。なお、食用作物と飼料用作物との境界は明確ではないため、食用作物と飼料用作物の双方を遺伝子組換え食品の範疇に含めて説明する。また、食用作物と飼料用作物はエタノール生産や燃料用油生産に利用されることもある。
[編集] 非食用遺伝子組換え作物
非食用の遺伝子組換え作物としては、園芸作物と林木が主である。園芸作物としては花卉が主体である。例えば、青い花色のカーネーション「ムーンダスト」は、一般の消費者に花屋で売られている遺伝子組換え作物である。また、2009年に市販が予定されている青いバラ (サントリーフラワーズ)も遺伝子組換え作物である。その他、菊のカロテノイド含量を変化させたり、トレニアのアントシアニン生合成系をオーロン(aurone)生合成系へ変化させて黄色いトレニアの花を作ったりする試みがある。林木の例としては製紙用にリグニンの構造や含量を改変されたポプラやヤマナラシやユーカリやテーダマツが多く、セルロース含量を高めたギンドロなどもある。
なお、食用作物と飼料用作物がエタノール生産や燃料用油生産に利用されることもあるが、バイオエタノールやバイオディーゼル用に非食用植物を分子育種する研究が進んでいる。
[編集] 遺伝子組換え食品の分類
遺伝子組換え食品の分類としては、現在、ほぼ以下のように受け取られている。第三世代に関してはまだ確たる定説はない。
- 第一世代
- 除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大、など
- 第二世代
- 成分改変食品で消費者の利益が強調されたもの。
- 第三世代
- 過酷な環境でも成育できたり、収量が高かったりするような作物か?
日本において第一種使用(食用又は飼料用に供するための使用、栽培、加工、保管、運搬及び廃棄並びにこれらに付随する行為)を認められている組換え品種には、例えば、1品種に6種類の害虫抵抗性や2種類の除草剤耐性の外来遺伝子が導入されたり[1]、除草剤耐性と貯蔵脂質の脂肪酸残基組成の改変を施されるなど、世代をまたいでいるといえるもの[2]もある。
[編集] 第一世代組換え食品の開発状況
[編集] 概説
第一世代組換え食品は、作物に除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大などの形質が導入されたものである。これらの特質は、生産者や流通業者にとっての利点となるだけでなく、安価で安全な食品の安定供給につながるという点で消費者にとっても大きなメリットとなる。また、農薬使用量の減少や不耕起栽培の利用可能性などにより環境面での負荷の減少を図れることや、収量が多かったり、損耗が少なかったりという性質をもつことは持続的農業を進めていく上でも有用である。
以下に、除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物、耐病性作物、保存性を増大させた作物、雄性不稔形質の付与と雄性不稔の回復についての種類と原理について説明する。
[編集] 除草剤耐性作物
第一世代組換え作物としては、ラウンドアップやビアラホス(bialaphos)など特定の除草剤に耐性を持つ品種を作成し、その除草剤による雑草防除を利用するような作物も開発されている。これは農作業の効率化だけではなく、土壌流出による環境破壊を防ぐ不耕起栽培を適用できる。ダイズの主要生産国である北米や南米諸国では表土流出が大問題となっている。前作の植物残渣を放置できるため、植物残渣がマルチ(マルチング)となって風雨から土壌流出を防ぎ、土壌を耕すことによって土壌が流亡しやすくなることを不耕起栽培によって防ぐことができる[3]。その他、有毒雑草の収穫物への混入を減らせるとの主張もある。
単一の除草剤と除草剤耐性作物の組み合わせで長年栽培を続けるとその除草剤に対する耐性雑草が出現する。この現象自体は一般的なものであり、既に除草剤ラウンドアップに対する耐性雑草の出現が報告されている。このような事態を避けるための方策として、複数の除草剤に対して耐性を持つ作物と複数の除草剤の混用、異なる除草剤とその除草剤耐性作物の複数の組み合わせを用いた定期的な輪作などが推奨されている。
除草剤を含めた薬剤に対する耐性化機構として次のものが挙げられる。
- 薬剤とその標的との親和性の低下
- 標的の過剰発現
- 薬剤の分解・修飾による無毒化
- 薬剤の移行・吸収の阻害
- 薬剤が阻害しない別経路の誘導
除草剤に対しても、これらの機構を単独もしくは複数組み合わせて植物を耐性化している。
以下に除草剤の種類ごとの耐性作物について説明する。
[編集] ラウンドアップ耐性作物
ラウンドアップの項を参照。
[編集] ビアラホス耐性作物
ビアラホス(bialaphos)はIgnite/Basta、 Glufosinate (グルホシネート)、Herbiace等の名称で販売されている。放線菌 Streptomyces hygroscopicus, S. viridochromogenesなどが生産する抗生物質であり、窒素代謝においてアンモニウム・イオンの同化に関与するグルタミン合成酵素(グルタミン・シンテターゼ: glutamine synthetase, EC 6.3.1.2, 反応)の阻害剤として作用する。グルタミン合成酵素の阻害剤として実際に作用するのは、ビアラホスから2分子のアラニン残基が遊離したホスフィノスリシン(phosphinothricin)である。グルタミン合成酵素が阻害されると毒性の高いアンモニウム・イオンが植物体内に蓄積して、植物体を枯死させると考えられている。ビアラホス生産菌は、ビアラホスが自身のグルタミン合成酵素も阻害するので自己防御のためにビアラホスを無毒化する酵素phosphinothricin N-acetyltransferase (PAT, EC 2.3.1.183,反応)の遺伝子barを持っている。そこでbarを植物内で発現できるように改変して植物に導入されている(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
[編集] ブロモキシニル耐性作物
ブロモキシニル(bromoxynil: 3,5-dibromo-4-hydroxybenzonitrile, BXN)やアイオキシニル(ioxynil: 3,5-diiodo-4-hydroxybenzonitrile)はオキシニル(oxynil)系除草剤であり、光合成系の電子伝達系を阻害することで除草活性を示す。肺炎桿菌クレブシエラ・ニューモニエKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenae由来のブロモキシニル・ニトリラーゼ(bromoxynil nitrilase, EC 3.5.5.6, 反応)は、ブロモキシニルを3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ安息香酸(3,5-dibromo-4-hydroxybenzoate)とアンモニアに、アイオキシニルを3,5-ジヨード-4-ヒドロキシ安息香酸(3,5-diiodo-4-hydroxybenzoate)とアンモニアに加水分解できる。そこで、このニトリラーゼの遺伝子oxyを植物に導入してブロモキシニル耐性にしている(薬剤の分解・修飾による無毒化)。バイエルクロップサイエンス株式会社の西洋ナタネ・カノーラ OXY-23については、「除草剤ブロモキシニル耐性セイヨウナタネ(oxy, Brassica napus L.)(OXY-235, OECD UI: ACS-BNØ11-5)の生物多様性影響評価書の概要」などで公表されている。
[編集] スルホニルウレア系除草剤耐性作物
スルホニルウレア(sulfonylurea)系除草剤(SU剤)には多数の薬剤が登録されている。SU剤は後述の「ALS遺伝子の特異的置換」の小節で述べているbispyribacと同様にALS/AHAS (EC 2.2.1.6, ALS: acetolactate synthase (アセト乳酸合成酵素), 反応; AHAS: acetohydroxy acid synthase(アセトヒドロキシ酸合成酵素)の両活性を持つ)の阻害剤で分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids: BCAA, バリン(L-valine)、イソロイシン(L-isoleucine)、ロイシン(L-leucine)の三アミノ酸の総称)の生合成系を阻害する。ALS/AHASのSU剤に対する感受性の低下した耐性変異が知られており、耐性型のALS遺伝子を導入して発現させることによりSU剤耐性作物が分子育種されている(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。その他、ヒトの肝臓で発現しているシトクロムP450(cytochrome P450)の分子種のうち、CYP2C9やCYP2C19をイネで発現させてSU剤であるクロルスルフロン(chlorsulfuron)とイマゾスルフロン(imazosulfuron)に対してそれぞれ耐性化させた例もある[4]。ヒトの肝臓でクロルスルフロンがCYP2C9に、イマゾスルフロンがCYP2C19にそれぞれ水酸化されて代謝されるという知見から応用されたものである(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
[編集] イミダゾリノン系除草剤耐性作物
イミダゾリノン(imidazolinone)系除草剤はスルホニルウレア系除草剤と同様にALSを阻害する。そこで、イミダゾリノン系除草剤に対して感受性の低下したALSの遺伝子を導入して耐性作物を育種した(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。その例として、BASFアグロ株式会社のイミダゾリノン系除草剤耐性ダイズがあり、「イミダゾリノン系除草剤耐性ダイズ(改変csr1-2, Glycine max (L.) Merr.)(CV127, OECD UI: BPS-CV127-9) 申請書等の概要」などで公表されている。
[編集] 2,4-D耐性作物
2,4-D(2,4-dichlorophenoxyacetate、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)は植物ホルモン・オーキシン様の生理活性を示し、高濃度では植物を枯死させる作用を持つ。2,4-Dを2,4-ジクロロフェノール(2,4-dichlorophenol)へ変換する酵素2,4-D monooxygenase(2,4-D モノオキシゲナーゼ, EC 1.14.11.-, 反応, タンパク質名: TfdA)を利用して2,4-D耐性のタバコやワタなどの作物が作られた(薬剤の分解・修飾による無毒化)。TfdAはグラム陰性細菌Alcaligenes eutrophusのプラスミドpJP5上の遺伝子tfdA由来のものである。なお、グラム陰性桿菌Sphingobium herbicidovoransの同様の酵素の遺伝子aad-1を改変して導入された2,4-D耐性トウモロコシは、ダウ・ケミカルにより開発されている。複数の系統が開発されており、「アリルオキシアルカノエート系除草剤耐性トウモロコシ (改変aad-1, Zea mays subsp. mays (L.)Iltis.) (DAS40278, OECD UI:DAS-4Ø278-9) 申請書等の概要」などで公表されている。
[編集] 害虫抵抗性作物
害虫に対して毒性を有するタンパク質や害虫の天敵を誘引する物質を生産させることで、害虫の発生を抑える害虫耐性のものも存在する。その機構としては、
- グラム陽性桿菌Bacillus thuringiensisの結晶性タンパク質の遺伝子導入
- マメ科植物由来のトリプシン阻害剤(タンパク質)の遺伝子導入(摂食したタンパク質を消化・吸収しにくくなる)
- インゲン豆由来のα-アミラーゼ阻害剤(タンパク質)の遺伝子導入(摂食したデンプンを消化・吸収しにくくなる)
- 昆虫の外骨格の成分であるキチン(chitin)を分解するキチナーゼ(chitinase, EC 3.2.1.14, 反応)の遺伝子導入
- 殺虫性の線虫(ネマトーダ)の誘因物質の合成遺伝子の導入
が挙げられるが、特にBacillus thuringiensisの結晶性タンパク質(Bt toxin)遺伝子導入による害虫抵抗性作物が成功している。
[編集] Bt toxin発現作物
Bt toxinのBは属名Bacillusの頭文字に、tは種名thuringiensisの頭文字に由来する。B. thuringiensisの性質として、
- 土壌細菌で芽胞を形成するときに結晶性タンパク質を蓄積する。
- 結晶性タンパク質が昆虫の腸に達すると部分消化され、殺虫性毒素ペプチドが遊離する。
- 哺乳類には殺虫性毒素ペプチドと結合する特異的な受容体がないため、毒性を発揮できない。
- 菌株によって生産する結晶性タンパク質が作用する昆虫の種類が異なる。
というものがある。Bt toxinは哺乳類には毒性を持たないため、Bt toxinを生産する植物を人間が食べても害はない。そこでBt toxinを生産する害虫耐性組換え作物の開発に繋がった。生産株の違いによりBt toxinには様々な種類がある。その種類により、殺虫スペクトルが異なってくる。そのため、作物に導入されたBt toxin遺伝子の種類により、殺虫活性を示す昆虫が異なる。Bt作物の導入により、
- 殺虫剤使用量の大幅削減
- 組織内へ侵入済みの害虫にも作用
- 害虫以外への殺虫剤による影響の大幅低下
- 虫害による傷口からの糸状菌感染症が著しく低下し、また収量増加の効用。
- その結果としてカビ毒(mycotoxin)の含量(フモニシン: fumonisin、アフラトキシン: aflatoxin等の総量)の低下。
という結果が得られている。なお、他の殺虫剤と同様にBt toxin抵抗性害虫の発生も報告されている。このBt toxin抵抗性はある遺伝子座の劣性ホモ接合で現れるので、Bt toxin抵抗性害虫の出現率を一定以下にする方策として、Bt toxinを生産しない作物をBt toxin生産害虫耐性組換え作物の近傍に一部作付けすることが推奨されている。
[編集] 天敵誘引物質生産作物
殺虫性の線虫の誘因剤の合成遺伝子の導入による害虫防除の例が報告された[5]。植物食の昆虫による食害が起きると、天敵を誘引する揮発性物質を植物は放出することがある。そこで、作物の害虫防除を改良する上で、これらの揮発性物質の利用が提案されてきた。トウモロコシの重大な害虫であるウェスタンコーンルートワーム(western corn rootworm: Diabrotica virgifera virgifera LeConte)の食害は、多くのトウモロコシ品種の根から(E)-β-カリオフィレン((E)-β-caryophyllene: EβC)を放出させる。EβCは殺虫性の線虫(Heterorhabditis megidis)を誘引する。そして、殺虫性の線虫は根を食害する害虫に感染して殺す。しかし、大部分の北米のトウモロコシ品種はEβCの放出能を失っており、そのため線虫による防除をほとんど受けられない。それらのトウモロコシ品種のEβCを生産能を回復させるために、オレガノ由来のEβC合成酵素((E)-β-caryophyllene synthase: 反応)遺伝子を導入されたトウモロコシは、恒常的にEβCを放出できるようになった。その結果、ウェスタンコーンルートワームが発生している圃場に線虫を散布した試験では、EβC放出トウモロコシでは有意に根に対する被害が減少し、非形質転換の非放出系のトウモロコシに比べ60%少ない成虫しか羽化できなかった。
[編集] 耐病性作物
第一世代組換え作物として耐病性を有するものも作られている。病害抵抗性遺伝子やキチナーゼ遺伝子やディフェンシン遺伝子の導入によるものであるが、その中でも植物ウイルス耐性のものが特に成功している。植物ウイルスによる被害の大きい、ジャガイモなどの栄養繁殖性作物や果樹などの永年性作物に植物ウイルス耐性を付与することは農業上重要である。植物ウイルス耐性を与える手法としては様々な機構が用いられているが、その手法は少なくとも四種類挙げられる。
- decoatingの阻害
- 植物ウイルスが植物細胞内に侵入してゲノムを複製させたりゲノムにコードされているタンパク質を生産させるためには外皮タンパク質(coat protein)を脱ぐこと(decoating、脱殻)が必要である。もし、侵入した細胞内で外皮タンパク質が大量に存在している場合、decoating してもすぐに外皮タンパク質に覆われて(recoating)、植物ウイルスのゲノムはウイルスのゲノムの複製やタンパク質の翻訳に必要な酵素やリボソームと接触できず、ゲノムの複製や翻訳が阻害される。そこで植物細胞に植物ウイルスの外皮タンパク質の遺伝子を導入して大量に生産させてdecoatingを阻害する手法が用いられている。この手法の成功例としては、papaya ringspot virus (PRSV)によってほぼ壊滅したハワイのパパイヤ栽培が遺伝子組換えパパイヤ品種によって復活できた事例が挙げられる。
- PTGS(post-transcriptional gene silencing)という機構の利用
- 多くの植物ウイルスのゲノムはRNAであり、二本鎖RNAの形成が必要である。そのウイルスのRNAと相同性のあるRNAが発現されるように改変された形質転換植物は、対応するウイルスに対して、PTGSと同様の機構により、dicerやsiRNA(short interfering RNA)やRISC(RNA-induced silencing complex)などを通じてウイルスの二本鎖RNAの分解が行えるようになり、植物ウイルスに耐性になる。これはRNAiの一例といえる。
- 植物ウイルスのゲノムの複製に必要なreplicaseの変異型遺伝子の導入による耐性化の利用
- 植物由来のウイルス抵抗性遺伝子(R gene)の導入及び発現強化
[編集] ウイルス抵抗性品種の他の病害虫被害
ウイルス抵抗性品種はウイルスによる被害は少なくなるが、害虫による食害や害虫によって媒介される細菌性の病害を受けやすくなるという報告がある[6]。これはカボチャの仲間であるスクアッシュ(squashu)をウイルス耐性にするとウイルスが広がった場合、当然のことながらウイルス抵抗性品種の方が生産性が高いが、害虫であるキューカンバー・ビートル(cucumber beetle)が健全な植物体であるウイルス抵抗性品種を好んで食害し、キューカンバー・ビートルが媒介するErwinia属細菌などの病害が増すというものである。
[編集] 果実の収穫適期の拡大と保存性の向上
果実等の中には収穫適期が非常に短いものがある。特に、生食用のトマトなどでは色付き始めたらすぐに収穫して流通に乗せる必要性が高い。そうしないと店頭に並ぶ頃には過熟状態になったり、ケチャップやピューレなどへの工業的加工過程に入る前に傷口から腐敗したりして商品価値が低下することが多くなるためである。そこで、熟しても果皮が柔らかくならない様に細胞間を充填しているペクチン(pectin)の分解が抑制された遺伝子組換えトマトが開発された。その手法は三種類知られている。
- ペクチンを分解する酵素ポリガラクチュロナーゼ(polygalacturonase, EC 3.2.1.15, 反応)の生産抑制
- ポリガラクチュロナーゼの生産をアンチセンスRNA法などのRNAiの技法で直接抑制したFlavr Savrなどのトマトが開発された。その結果、熟しても果皮などはあまり柔らかくならない。
- 果実の成熟の制御(エチレン生合成酵素の抑制)
- 果実が熟する過程でポリガラクチュロナーゼの発現が誘導されるため、果実の熟する過程を制御する方向の研究が進んでいる。果実の熟する過程には、植物ホルモンの一種であるエチレンが関与している。そこで、エチレンの生合成を抑制する研究が進んだ。エチレンの生合成系は、次の二過程からなる。
- ACC合成酵素(ACC synthase, EC 4.4.1.14, 反応)の作用により、S-アデノシル-L-メチオニン(S-adenosyl-L-methionine: SAM)から、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(1-amino cyclopropane-1-carbonic acid: ACC)が合成される。
- ACC酸化酵素(ACC oxidase, EC 1.14.17.4, 反応)によって、ACCがエチレンに変換される。
- そこで、この過程に関与するACC合成酵素やACC酸化酵素をアンチセンスRNA法やコサプレッション法などのRNAiの技法で抑制すれば、エチレンの生合成が抑制されるわけである。
- 果実の成熟の制御(エチレン生合成中間体の分解)
- エチレン生合成中間体であるACCを分解することでエチレン生産を抑制する。土壌細菌Pseudomonas chlororaphis由来のACCデアミナーゼ(ACC deaminase, EC 3.5.99.7,反応)遺伝子の導入によって、ACCを2-オキソ酪酸(2-oxobutyrate)とアンモニアに分解することによってエチレン生合成が抑制されたトマトも開発されている。ACCデアミナーゼ遺伝子が導入されたトマトは室温で収穫後121日放置しても瑞々しい状態であった[7]。
エチレン生合成が抑制されたトマト果実は出荷前に倉庫でエチレン処理をすると正常に熟しはじめる。エチレンによる果実の追熟は多くの果実で取り入れられている。たとえばバナナやマンゴーなどの熱帯輸入果実は、害虫移入防止のため未熟果実を輸入しエチレンによって追熟されている[8]。エチレン合成抑制による収穫適期拡大手法ではそのための設備を利用できる。
[編集] 雄性不稔形質の付与と雄性不稔からの回復
収量の増加、病虫害抵抗などの雑種強勢を目的に多くのF1作物が作られている。自家受粉可能な作物では多くの遺伝子座においてホモ接合状態になっているため、異なる品種を掛け合わせた雑種第一世代であるF1状態になれば多くの遺伝子座においてヘテロ接合状態になって雑種強勢の効果も期待でき、収量の増加が期待できる。ただし、自家受粉する作物に他家受粉させて安定的に均一なF1種子を得ることは困難である。そのため、花粉を形成しない、花粉に稔性がないという雄性不稔系統があればF1種子が得やすくなる。そこで、遺伝子組換え技術により人為的な雄性不稔系統と雄性不稔からの稔性回復系統が作られた。
その実現には次の三つが重要な役割を果たす。
- 葯のタペート細胞特異的に発現しているタバコ(Nicotiana tabacum)由来の遺伝子TA29のプロモーター
- グラム陽性細菌Bacillus amyloliquefaciens由来のRNase(リボヌクレアーゼ)であるBARNASEの遺伝子barnase
- BARNASEと特異的に結合して阻害する、同じくB. amyloliquefaciens由来のBARSTARの遺伝子barstar
TA29のプロモーターによって、葯のタペート細胞特異的にBARNASEが生産されると細胞内のRNAが分解されてその細胞は死滅し、花粉が成熟できなくなり、その植物は雄性不稔系統となる。
雄性不稔系統の近傍に花粉親となる品種を栽培すれば、雄性不稔系統に結実する種子はF1であることが期待される。しかし、その種子から得られた植物体も雄性不稔である確率が高く、自家受粉できないと栽培品種としての価値が低下する。そこで、花粉親が雄性不稔からの稔性回復系統であることが望まれる。それには、花粉親として用いる植物において、TA29のプロモーターによる葯のタペート細胞特異的なBARSTARが実現していればよい。
この手法の適用例は多数あるが、その一例としてバイエルクロップサイエンス社のカノーラについて挙げると「除草剤グルホシネート耐性及び雄性不稔及び稔性回復性セイヨウナタネ(改変bar, barnase, barstar, Brassica napus L.)(MS8RF3, OECD UI: ACS-BNØØ5-8×ACS-BNØØ3-6)の生物多様性影響評価書の概要」で公表されている。
なお、F1品種に結実した種子(F2世代)は発芽可能で栽培できるが、遺伝的に不均一な集団であるため、次回の栽培には新たに種子を購入する必要がある。これは、F1品種を栽培する場合、非組換えのF1品種でも毎作ごとにF1品種の種子を購入しなくてはならないのと同じ理由である。
[編集] 第二世代組換え食品の開発状況
[編集] 概説
第二世代組換え食品とは、ワクチン等の有用タンパク質の工場として利用することができたり、栄養素を多く含ませたり、食品中の有害物質を低減させたり、消費者にとって利益が目に見えるものである。例えば、B型肝炎予防の食べるワクチンとしてB型肝炎ウイルスの表面抗原をバナナで発現させ経口免疫によってB型肝炎感染を防除する試みがある[9]。油糧種子中の油脂の脂肪酸残基組成を改変することは、第二世代組換え食品開発の初期からの目標であった。また、日本においてはインシュリンを分泌誘導して糖尿病になりにくくするコメや経口免疫寛容によるスギ花粉症を低減するコメの開発が先行している。
以下に実用化されている第二世代組換え食品と実用化間近なゴールデンライスと実用化のめどは立っていないがスギ花粉症緩和米について解説する。
[編集] オレイン酸高含有遺伝子組換えダイズ
一般的なダイズ油中の不飽和脂肪酸残基の組成はリノール酸(18:2)(約50%)、オレイン酸(18:1)(約20%)、リノレン酸(18:3)(約10%)である。一方、オレイン酸高含有遺伝子組換えダイズ油(高オレイン酸ダイズ油)には約85%のオレイン酸残基が含まれ、リノール酸やリノレン酸などの多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids : PUFAs)残基が少ない。オレイン酸のような一価不飽和脂肪酸(monounsaturated fatty acid)残基を多量に含む油脂は血中の高密度リポタンパク質(high density lipoprotein : HDL)の比率を増やして、動脈硬化を防止すると考えられている。更に、オレイン酸はPUFAsに比べ酸化に安定である。そのため、高オレイン酸ダイズ油は揚げ油などに適している。
これは、炭素数18の脂肪酸の不飽和化に関与している酵素の発現を制御することによって達成された。
ステアリン酸からリノール酸までの不飽和化酵素デサチュラーゼには、ステアリン酸(18:0)のCoAチオエステルであるステアロイルCoA (stearoyl-CoA)からオレイン酸のCoAチオエステルであるオレオイルCoA (oleoyl-CoA)への反応を触媒するΔ9-desaturase (ω9-desaturaseとも, EC 1.14.19.1, 反応)とオレイン酸残基からリノール酸残基への不飽和化に関与している酵素ω6-desaturase (デサチュラーゼ, Δ12-desaturaseとも: FAD2)がある。このω6-desaturaseの遺伝子(FAD2)の発現を抑制することによってオレイン酸残基の含量を高めている。デュポン社のダイス 260-05系統に関しては、「高オレイン酸ダイズ(GmFad2-1, Glycine max (L.) Merr.)(260-05, OECD UI :DD- Ø26ØØ5-3) 申請書等の概要」により、公表されている。
更に、FAD2を抑制するだけではなくFATBも抑制することにより、飽和脂肪酸残基含量が少なくオレイン酸残基含量の多いダイズが開発されている。FATBとは、パルミトイル-ACP チオエステラーゼ(palmitoyl-ACP thioesterase, EC 3.1.2.14, 反応, ACP: acyl carrier protein、アシル輸送タンパク質)であり、炭素鎖14-18の飽和脂肪酸残基を持つアシル-ACPを加水分解でき、その中でも主にパルミトイル-ACP (16:0-ACP)を加水分解する。一方、FATAはオレオイル-ACPを加水分解する(反応)。FATBが抑制され、FATA活性が十分ある場合、飽和脂肪酸残基が減少し、不飽和脂肪酸残基が増加する。更に、多価不飽和脂肪酸残基への変換を触媒するFAD2が抑制されていれば、一価不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸残基の含量は増加する。このような形質を持つモンサント社のMON87705系統に関しては、「低飽和脂肪酸・高オレイン酸及び除草剤グリホサート耐性ダイズ(GmFAD2-1A, GmFATB1A, 改変cp4 epsps, Glycine max (L.) Merr.)(MON87705, OECD UI: MON-877Ø5-6)申請書等の概要」により、公表されている。
[編集] ステアリドン酸含有遺伝子組換えダイズ
エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid(20:5): EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid(22:6): DHA) などの長鎖ω-3脂肪酸は、心臓発作のリスクを軽減することが知られている。これらの脂肪酸の前駆体であるステアリドン酸(stearidonic acid(18:4): SDA)の残基を含むダイズを育種した。ダイズにはSDAが含まれない。これは、炭素鎖18個の脂肪酸のカルボキシル基から数えて6番目と7番目の炭素の間を二重結合を導入するω12-desaturase[10]がダイズにないためである。そこでサクラソウの一種であるPrimula juliaeからω12-desaturaseに対応するコーディング領域が導入された。
また、ダイズのリノール酸残基からα-リノレン酸残基へ変換するω3-desaturase(Δ15-desaturase: FAD3)の活性を高めるために、アカパンカビ(Neurospora crassa)のΔ15-desaturaseの遺伝子も導入されている。その結果、リノール酸のCoAチオエステルであるリノレオイル-CoA (linoleoyl-CoA)からω12-desaturaseによってγ-リノレン酸のCoAチオエステルであるγ-リノレノイル-CoA (γ-linolenoyl-CoA)(反応)に、γ-リノレノイル-CoAからω3-desaturaseによってステアリドノイル-CoA(stearidonoyl-CoA)へと変換される。もしくは、リノレオイル-CoAからω3-desaturaseによってα-リノレン酸のCoAチオエステルであるα-リノレノイル-CoA (α-linolenoyl-CoA)へ、α-リノレノイルCoAからω12-desaturaseによってステアリドノイル-CoA(反応)へと変換される。
ステアリドン酸含有遺伝子組換えダイズに関してはモンサント社のMON87769が、「ステアリドン酸産生ダイズ(改変Pj.D6D, 改変Nc.Fad3, Glycine max (L.) Merr.)(MON87769, OECD UI: MON-87769-7) 申請書等の概要」で公表されている。
[編集] リシン高含有トウモロコシ
リシン(L-lysine)は必須アミノ酸の一種である。イネ科の植物の貯蔵タンパク質にはリシンとトリプトファンとスレオニンの残基が少ないため、タンパク質の有効利用率を表すプロテインスコアやケミカルスコアやアミノ酸スコアが低い。そこで、タンパク質の有効利用率を改善するために、飼料にはリシン等が添加されている。飼料にリシンを添加するコストを低減するために、リシンを多く含むトウモロコシであるモンサントLY038が開発された。
現在、市販されているリシンは、微生物を用いたアミノ酸発酵によって工業生産されているものである。多くの場合、リシン生産菌としてコリネバクテリウム属細菌のCorynebacterium glutamicumが用いられている。各アミノ酸生合成系では、それぞれのアミノ酸濃度が低下すると生合成が促進されるとともに、必要以上にアミノ酸濃度が上昇すると生合成が抑制されるようにフィードバック制御されている。生合成されたリシンによるフィードバック阻害は、リシン生合成系の酵素群の1つで鍵酵素でもあるジヒドロジピコリン酸合成酵素(dihydrodipicolinate synthase: DHDPS, EC 4.2.1.52, 反応)の活性をリシンが阻害することに依存している。一方、リシン生産菌は、リシンのアナログ耐性株であり、リシンによるDHDPSに対するフィードバック阻害が解除されている。そのため、生合成されたリシンによってリシン生合成系が阻害されず、リシンが高濃度で存在していてもリシン生合成が続き、大量のリシンが生合成される。
そこで、リシン・アナログ耐性のC. glutamicumのDHDPS(リシンによるフィードバック阻害が解除されている変異型)をコードしている遺伝子cordapAが利用された。更に、植物の細胞質中で合成されたC. glutamicumの変異型DHDPSが植物のリシン生合成の場であるプラスチドへ移行できるように、トウモロコシのDHDPSの遺伝子mDHDPSのプラスチドへの移行配列(transit peptide)部分の塩基配列が、C. glutamicumのDHDPS遺伝子(cordapA)と連結された融合遺伝子がつくられた。それにトウモロコシの胚乳の貯蔵タンパク質であるグロブリン(globlin 1)の遺伝子のプロモーターと連結されたものがトウモロコシに導入された。導入されたC. glutamicumの変異型DHDPSはフィードバック阻害が解除されているため植物でもリシン生合成がフィードバック阻害されず、また、胚乳中で発現するグロブリン遺伝子のプロモーターによってトウモロコシ種子中のリシン含有量が増加した。モンサントLY038の「生物多様性影響評価書の概要」、「(案)遺伝子組換え食品等評価書 高リシントウモロコシLY038 系統」は、公開されている。形質転換における選択系・選択マーカー遺伝子の除去系として、後述の「選択マーカー遺伝子の除去系」のうちの「Cre-loxP system」が用いられている。
[編集] ゴールデンライス
第二世代の組換え作物として最も有望視されているものの一つがゴールデンライス(golden rice)である。多くの発展途上国において深刻な問題になっているビタミンA(vitamin A)欠乏の解決策として開発された。ビタミンAの前駆体であるβ-カロテン(β-carotene)を内胚乳に含有するため精米された米が黄色を呈することから、このような名称がつけられた。
ゴールデンライスには植物由来のフィトエン合成酵素(phytoene synthase, EC 2.5.1.32, 反応)と細菌Erwinia uredovora由来のフィトエン不飽和化酵素(フィトエン・デサチュラーゼ: phytoene desaturase: CrtI, EC 1.4.99.-)が導入されており、リコペンを合成できる。リコペンはリコペンβ-環化酵素(lycopene β-cyclase, 反応1, 反応2)によってβ-カロテンに変換される。
ゴールデンライス自体を主食としてもビタミンAの必要量を満たさないとの主張が遺伝子組換え食品反対派にあった。しかし、2005年には、新たにゴールデンライス2が発表され、これだけを摂食することでビタミンAの必要量がまかなえるようになった。これはカロテノイド生合成系遺伝子としてゴールデンライスで用いられていたスイセン由来のフィトエン合成酵素のcDNAの代わりにトウモロコシやイネ由来のcDNAを利用することにより達成された[11]。ゴールデンライス2の形質転換に際して、後述の「抗生物質耐性以外の新たな選択マーカー遺伝子」のうちの「phosphomannose isomerase (PMI)」遺伝子が選択マーカー遺伝子として利用されている。
なお、人道的な見地からゴールデンライスの開発者たちは、特許を無償公開し、特許料等の知的財産権に基づく金員の請求をしないことを表明している。
[編集] スギ花粉症緩和米
スギの花粉に対するアレルギー(スギ花粉症)は、日本では大きな社会問題となるほど近年罹患者が増えている。スギ花粉症緩和米とは、主食である米にスギ花粉症のアレルゲンのエピトープ(epitope)を含有させ、毎日食べ続けることにより、スギ花粉のアレルゲンに経口免疫寛容をおこさせ、スギ花粉が飛散する時期のスギ花粉症を低減させることを目指したものである。
スギ花粉のアレルゲンとしてCry j IとCry j IIの二種類の花粉のタンパク質が知られている。Cry j Iから三カ所のエピトープ部分を、Cry j IIから四カ所のエピトープ部分を選択し、それらに対応する合成DNAを作製し連結した。その他にイネ種子貯蔵タンパク質であるグルテリンの小胞体移行シグナルであるシグナル・ペプチド(signal peptide)の塩基配列をそのアミノ末端側に、更に小胞体での繋留配列であるKDEL(リシン・アスパラギン酸・グルタミン酸・ロイシン)配列の塩基配列をカルボキシル末端側に連結した。これをグルテリンの遺伝子のプロモーターの下流に連結して、イネに導入し、形質転換体をえた。この形質転換における選択系・選択マーカー遺伝子の除去系として、後述の「選択マーカー遺伝子の除去系」のうちの「MAT vector法」が用いられている。七種類のエピトープ(7Crp)は米の内胚乳中に蓄積されていた。含まれる7Crpの量は一日一合、米を成人が食べると仮定した場合、十分に経口免疫寛容を起こすことが期待される。
「スギ花粉ペプチド含有イネ(7Crp,Oryza sativa L.)(7Crp#242-95-7)の生物多様性影響評価書の概要」において公開されている。その他、独立行政法人・農業生物資源研究所の「スギ花粉症緩和米の研究開発について」において詳しく解説されている。マカク属の猿の一種でアカゲザルと近縁であるカニクイザル(Macaca fascicularis)を用いて3つのグループに分け、このスギ花粉症緩和米の白米を炊飯して多量、少量、及び非組換えの親株の白米をコントロールとして26週間にわたり摂食させた実験の結果、行動や体重に変化を観察できず、血液的、生化学的な有意差はなく、また、病理的な症状や組織病理的な異常も観察されなかった[12]。このことは、このスギ花粉症緩和米の摂食の安全性を示す結果である。
なお、A rice-based edible vaccine expressing multiple T cell epitopes induces oral tolerance for inhibition of Th2-mediated IgE responses, PNAS 2005 102(48):17525-30は、MAT vector法によって形質転換したものでなくCry j IとCry j IIのタンパク質自体を発現させた米とスギ花粉症を発症したマウスを用いて、スギ花粉症に対する経口免疫寛容を調べたものである。Cry j IとCry j IIのタンパク質を発現している米を食べているマウスにおいては、スギ・アレルゲン特異的な免疫グロブリン IgE、IgGやインターロイキン IL-4,5,10,13やヒスタミンの血中濃度が有意に低下しており、また、スギ花粉によるくしゃみの回数も減少していた。7Crpを発現している米においても同様の効果が期待される。
ただし、スギ花粉症緩和米は厚生労働省によって医薬品とみなされ、まだ、商品化の目処は立っていない。
[編集] 作製法
[編集] 概説
遺伝子組換え植物を作製する上で、植物のホスト(宿主)・ベクター系(host-vector system)が必要とされる。そのホスト・ベクター系を構築する上で以下の4種類の系が必要とされる。
- 植物細胞への遺伝子の導入系(導入系)
- 遺伝子の組換わった細胞(形質転換細胞)だけを選択するための系(選択系)
- 導入した遺伝子を複製させ、細胞分裂後にも伝達させるための系(複製系)
- 単一の細胞から植物個体まで再生させるための系(分化・再生系)
これらについて以下の節で簡単に説明する。
また、遺伝子組換え食品反対派からの反対理由の一つであった「医療用、家畜用抗生物質耐性遺伝子の選択マーカー遺伝子としての利用」を回避するために用いられている、「新しい選択マーカー遺伝子と選択マーカー遺伝子の除去系の利用」についても述べる。
更に、反対理由の一つである「ゲノムの特定の場所を狙って遺伝子を導入できない」という問題を解決するためにジーン・ターゲッティングの技法が導入されていることについても紹介する。
その他、遺伝子組換え作物の作製法とは直接関係ないが、それが商品化され一般の圃場で栽培されるために要求されている「環境に対する影響」と「食品としての安全性」を評価する安全性審査についても述べる。
[編集] 導入系
導入系とは、目的とする遺伝子を細胞の遺伝子が発現する場所に導入するための系である。遺伝子を導入・発現させるための植物細胞内の小器官として、現在、核とプラスチド(plastid)が標的となっている。導入系にはいろいろな手法があるが、現在の主要な方法は、パーティクル・ガン法とアグロバクテリウム法であり、それぞれについて簡単に説明する。
[編集] パーティクル・ガン法
パーティクル・ガン法を参照のこと。
[編集] アグロバクテリウム法
Agrobacterium tumefaciens :(正式名称 Rhizobium radiobacter)が主に用いられている。自然界ではA. tumefaciensは、双子葉植物を宿主としてクラウンゴール(crown gallまたはcrowngall)という腫瘍を形成させ、それをA. tumefaciensは資化できるが植物は資化できないオパイン(またはオピン: opine)という特殊なイミノ酸を生産する工場としている。これを生物学的植民地化という。これはA. tumefaciensに含まれるTi (tumor inducing) plasmidのT-DNA (transferred DNA)が植物細胞の核ゲノムに導入されたことによって生じる。そこで、このDNA導入機構を利用して植物への遺伝子導入方法が開発された。そのうち、現在はバイナリー・ベクター(binary vector)法が主流である。これは、Ti plasmidの本来のT-DNAを除去されたvir helper Ti plasmidと、大腸菌とA. tumefaciensの双方で利用できる小型のシャトル・ベクター(shuttle vector)に人工のT-DNAを付与したものとで構築されている。vir helper Ti plasmidには、本来のT-DNAが存在しないため、植物にクラウンゴール(腫瘍)を形成できないが、T-DNAを植物ゲノムに導入するために必要なvir領域が存在しているため、他のプラスミド上に存在する人工T-DNAを植物に導入できる。このように同一のDNA上に存在しなくても、作用しあえる遺伝子間の関係をトランスという。以下に、バイナリー・ベクター法を簡単に説明する。
A. tumefaciensに存在するTi plasmidは巨大プラスミドであり、これをA. tumefaciensから直接単離し試験管内で操作することは困難である。一方、Ti plasmid上にはvir領域という、T-DNAを植物ゲノムに導入するために必要な遺伝子群が存在するので、Ti plasmidは植物への遺伝子導入には必要である。しかし、本来のT-DNAは植物を腫瘍化するので不要である。そこで、本来のT-DNAが欠損したがvir領域を保持したままのvir helper Ti plasmidとそれを保持するA. tumefaciensの菌株が開発された。A. tumefaciensの染色体上にも、植物への遺伝子導入に必要とされる遺伝子が存在するために、更にTi plasmidの宿主としてもA. tumefaciensはアグロバクテリウム法において必要とされる。
T-DNAの両末端にはRB(right border:右境界配列)とLB(left border:左境界配列)という短い配列が存在している。RBとLBに挟まれた配列が植物に導入され、その間の配列には特異性がないため、植物に導入したい遺伝子や形質転換植物を選択するための選択マーカー遺伝子をRBとLBに挟みこんで人工のT-DNAを構築できる。
更に、vir領域とT-DNAとの作用関係はトランスであり、両者が同一のプラスミド上に存在している必要が無い。そこで、小型のシャトル・ベクターに人工のT-DNAを付与したものを試験管内で改変した後に大腸菌を用いて増幅させる。その後、A. tumefaciensへ導入して、A. tumefaciens内でvir helper Ti plasmidと共存させて植物に人工のT-DNAを導入させている。この小型のシャトル・ベクターは、大腸菌の複製開始点と広範囲のグラム陰性菌の間で複製可能な複製開始点が存在する広宿主域ベクターであり、また、植物の形質転換の選択に用いられる選択マーカー遺伝子(人工のT-DNA部分内に存在)以外にも、大腸菌とA. tumefaciensの形質転換体の選択に用いられる選択マーカー遺伝子を別に保持している。
A. tumefaciensの本来の宿主は双子葉植物であるが、vir領域の転写のインデューサー(inducer)であるアセトシリンゴン(acetosyringone)の利用やvir領域の転写活性が恒常的に高いhypervirulent helper Ti plasmidの開発により、イネなどの単子葉植物などへの応用が可能となってきている。
アグロバクテリウム法は、パーティクル・ガン法に比べ高価な機材は必要なく、また、ランニングコストも低い。T-DNAは植物の核ゲノムに1~2コピー程度の低コピー数で導入されることが多い。一方、アグロバクテリウムの感染後にアグロバクテリウムを除去するなどの煩雑な操作が必要であり、アグロバクテリウムの感染効率も材料の種類や状態によって様々である。
[編集] 選択系
多数の細胞を材料として、それらに遺伝子導入を試みても、それらの中から極少数の形質転換体しか得られないことが多い。そのため、形質転換体のみを特異的に選択する選択マーカー遺伝子を目的遺伝子以外に同時に導入する必要がある。選択マーカー遺伝子の性質としては、形質転換細胞のみが生存・増殖できるポジティブ選択可能であり、更に形質転換細胞と非形質転換細胞とが混在しあったキメラ(chimera)を形成しにくいことが望ましい。多くの場合、アミノグリコシド系抗生物質のカナマイシン(kanamycin)やG418やハイグロマイシンB(hygromycin B)などの耐性遺伝子が遺伝子組換え作物にも用いられてきたが、現在では後述の新しい選択マーカー遺伝子やマーカー除去の技術が用いられるようになった。
[編集] 複製系
導入された遺伝子が植物細胞の細胞分裂にあわせて複製されなくては、一過性の遺伝子発現(transient gene expression)となって、安定した形質転換植物を得ることができない。そこで外来遺伝子の複製系が必要となる。現在、植物の場合は外来遺伝子が植物の核ゲノムに挿入されて、核ゲノムの複製にあわせて一緒に複製される様にすることが主流である。また、プラスチドのDNAに外来遺伝子を相同組換えによって導入する系も存在する。
[編集] 分化・再生系
外来遺伝子が導入された単一の形質転換細胞より植物個体を分化・再生する系である。多くの場合、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンの濃度比を変えることによって植物個体を再生させている。しかし、材料の状態や培養開始からの時間や材料の成熟度などによって大きく変化する。多くの場合、カルスを経てカルスからシュートが分化してくる。そのシュートを発根培地に植え継いでから馴化して鉢上げする。なお、シロイヌナズナ(アラビドプシス: Arabidopsis thaliana)やその近縁のストレス耐性の強いThellungiella halophila (salt cress)などにおいては、未熟な花蕾をアグロバクテリウム溶液につけるfloral dip法や、花蕾にアグロバクテリウム溶液を噴霧したりするfloral spray法が用いられ、それらの処理後に植物体より種子を得て、それらの中から形質転換体を選択する。つまり、種子を発芽させて選択するだけなので再生系は必要とされない。
その他、カルスなどの未分化な状態での形質転換植物を培養することが目的の場合には、分化・再生系は必要とされない。
[編集] 植物の形質転換操作手順
[編集] パーティクル・ガン法による手順
パーティクル・ガン法による一般的な形質転換植物を得る操作手順の例を簡単に示す。
- 植物に導入したい遺伝子と選択マーカー遺伝子が存在するDNA溶液とよく懸濁した金の微粒子とを混和してエタノール沈殿を行う。
- 遠心分離により回収されたDNAでコートされた金の微粒子を風乾し、パーティクル・ガンにセットする。
- 無菌的植物もしくは滅菌した植物の葉の断片や茎の断片などの組織片をシャーレの中の固体培地上に置床してパーティクル・ガンにセットしてから、金の微粒子を打ち込む。
- 植物組織をカルスを誘導する植物ホルモンも含む選択培地に植え継ぎ、選択培地上で増殖するカルスを選択する。
- 増殖したカルスをシュート分化用の植物ホルモンも含む選択培地に植え継ぎ、シュートを分化させる。
- カルスからシュートを切除して、シュートを発根用の選択培地に植え継ぎ、発根した後に鉢上げして馴化する。
- カルスが形成された後の各段階で遺伝子の導入を確認する。
[編集] アグロバクテリウム法による手順
バイナリー・ベクターを用いたアグロバクテリウム法による一般的な形質転換植物を得る操作手順の例を簡単に示す。
- 小型プラスミドのシャトル・ベクター上のT-DNA部分に目的遺伝子を挿入する。T-DNA部分には選択マーカー遺伝子も含まれている。
- 組換わったプラスミドを大腸菌に導入して、大腸菌中で増やしてから回収し、挿入遺伝子を確認する。
- 回収したプラスミドを電気穿孔(エレクトロポーレイション: electroporation)法や三親接合伝達法などを利用してvir helper Ti plasmidを含むA. tumefaciensへ導入する。その際、シャトル・ベクター上のバクテリアでの選択マーカー遺伝子を利用してシャトル・ベクターが導入されたA. tumefaciensを選択する。
- 選択したA. tumefaciensを液体培地で増殖させて集菌し、共存培養培地に懸濁する。
- 無菌的植物もしくは滅菌した植物の葉の断片や茎の断片などの組織片をシャーレの中に移し、A. tumefaciensと共存培養する。この際に、アセトシリンゴンなどを添加すると感染効率が上昇する。
- 共存培養が終わった植物組織片をカルスを誘導する植物ホルモンも含む選択培地に植え継ぎ、選択培地上で増殖するカルスを選択する。この培地には、A. tumefaciensを除菌するためのカルベニシリンなどの抗生物質が含まれている。
- 増殖したカルスをシュート分化用の植物ホルモンと除菌用抗生物質も含む選択培地に植え継ぎ、シュートを分化させる。
- シュートを切除して、除菌用抗生物質も含む発根用の選択培地に植え継ぎ、発根した後に鉢上げして馴化する。
- カルスが形成された後の各段階で遺伝子の導入を確認する。
[編集] 新しい選択マーカー遺伝子と選択マーカー遺伝子の除去系の利用
[編集] 医療用、畜産用の抗生物質に対する耐性マーカー遺伝子の利用制限
現在の遺伝子組換え手法において、多数の細胞を材料としてその中から極少数の形質転換細胞を選択する操作が用いられることが多い。そのため、形質転換細胞を選択するための選択マーカー遺伝子の発現を指標として形質転換体を選択している。この植物の選択マーカー遺伝子は組換え作物においてもカナマイシン(kanamycin)などのアミノグリコシド(aminoglycoside)系抗生物質に耐性を与える遺伝子が用いられることが多かった。そこに、社会政策的な問題が形質転換植物の選択系にも影響をおよぼした。EUは2004年末をもって医療用、家畜用に用いられる抗生物質に対する耐性遺伝子で形質転換植物細胞の選択を禁止した。そして、今後、EUで販売される遺伝子組換え植物や食品は他の選択マーカー遺伝子が用いられているか、選択マーカー遺伝子が除去されていなくてはならないとした(European Parliament 2001)。形質転換植物の選択マーカー遺伝子は基本的には形質転換体の選択という育種の極初期に用いられるに過ぎない。
しかし、遺伝子組換え食品反対派は、組換え作物が持つカナマイシン耐性遺伝子(NPTII: aminoglycoside (neomycin) phosphotransferase遺伝子) やハイグロマイシンB耐性遺伝子(hpt: hygromycin phosphotransferase遺伝子)などの抗生物質耐性遺伝子が腸内細菌に極低い頻度であっても取り込まれる可能性があるとし、これを批判の根拠の一つとしていた。そこで、除草剤として用いられているビアラホス(bialaphos: phosphinothricinとなって作用)の様な農業用抗生物質を除いて医療用・畜産用抗生物に対する耐性遺伝子を選択マーカーとして利用することを規制したわけである。その結果、新たな選択マーカー遺伝子を利用した選択系が用いられるようになった。更に、初めの選択では抗生物質耐性遺伝子を選択マーカー遺伝子として利用するが、後にその抗生物質耐性遺伝子を欠失させる手法が開発された。
なお、EUの予算によって設立・運営されている独立機関であるEuropean Food Safety Authority (EFSA)は、"EFSA evaluates antibiotic resistance marker genes in GM plants" (News Story 11 June 2009)において、"In their joint opinion, the GMO and BIOHAZ Panels concluded that transfers of ARMG (antibiotic resistance marker genes) from GM plants to bacteria have not been shown to occur either in natural conditions or in the laboratory."とあるように遺伝子組換え植物からバクテリアへの抗生物質耐性マーカー遺伝子の移行を自然条件下でも実験室でも観察できなかったと発表している。
[編集] 抗生物質耐性以外の新たな選択マーカー遺伝子
新たな選択マーカー遺伝子の中には、植物の利用できない炭素源を資化または解毒できるようにするものがある。
- D-amino acid oxidase (DAAO):DAAO(EC 1.4.3.3, 反応)は赤色酵母Rhodotorula gracilis由来のDAO1にコードされているものを利用。多くのD-アミノ酸(D-amino acids)をα-ケト酸(α-keto acids: 2-オキソ酸(2-oxo acids))に変換できる。D-アラニン(D-Ala), D-セリン(D-Ser)は毒性を持ち、DAAOによって解毒されるため、形質転換体をpositive selectionできる。(D-Alaからピルビン酸(pyruvate), D-Serから3-ヒドロキシピルビン酸(3-hydroxy pyruvate)へ解毒、α位の炭素の光学活性が無くなる。)。D-イソロイシン(D-Ile), D-バリン(D-Val)の毒性は低いが、それらのα-ケト酸は毒性を持つ。そのため、部位特異的な組換えによりDAO1が形質転換体から除去された組換え体をnegative selection可能である。また、後述のcotransformationにおいては、この酵素遺伝子だけで培地に加えるD-アミノ酸を変えるだけでpositive selectionもnegative selectionも行える。
- phosphomannose isomerase (PMI): フルクトース-6-リン酸(fructose-6-phosphate)は解糖系の中間代謝物であり、マンノース-6-リン酸(mannose-6-phosphate)をフルクトース-6-リン酸へ変換できれば唯一の炭素源として資化できることになる。多くの植物はPMI(EC 5.3.1.8, 反応)を所持せず、マンノース-6-リン酸をフルクトース-6-リン酸へ変換できない。そのため、選択培地中にマンノース(mannose)を唯一の炭素源とした場合、植物はマンノースを資化できないが、大腸菌Escherichia coli由来のPMI遺伝子pmiを導入された形質転換体はマンノースを解糖系へ導入できるため、生育可能となる。なお、培地から取り込まれたマンノースは植物のヘキソース・キナーゼ(hexose kinase)(ヘキソキナーゼ: hexokinaseとも記述される: EC:2.7.1.1 (反応), EC 2.7.1.2 (反応))によってマンノース-6-リン酸へ変換される。
- 2-deoxyglucose-6-phosphate phosphatase: 2-deoxyglucose (2G)はグルコースの2位の炭素の水酸基が水素原子と置換したグルコースのアナログである。2Gはヘキソース・キナーゼによって6位の炭素の水酸基がリン酸化され、2-deoxyglucose-6-phosphateになるが、それ以上解糖系の酵素の基質とはならない。多くの植物にとって、2Gは解糖系の阻害剤であり,細胞の成長を阻害する。そこで、2G耐性の酵母から2-deoxyglucose-6-phosphate phosphataseの遺伝子を単離し、植物で発現させたところ、2G耐性となった。
- D-arabitol-4-dehydrogenase: D-arabitol-4-dehydrogenase(EC 1.1.1.11, 反応)により植物にアラビトール(D-arabitol)資化能を導入する。
[編集] 選択マーカー遺伝子の除去系
その他、選択マーカー遺伝子を除去する系を利用するものもある。
- cotransformation
- 抗生物質耐性などの選択マーカー遺伝子と目的遺伝子を別々のDNA断片として導入して、選択マーカー遺伝子で選択した形質転換体の中から目的遺伝子と選択マーカー遺伝子が植物細胞のゲノムの別々の部位に組み込まれたものを選択して、後代をとり目的遺伝子を持つが選択遺伝子を持たないものを選択するというもの。外来遺伝子を取り込む能力を持つコンピテントセル(competent cell)が限られていることを利用する手法である。
- MAT vector法
- 日本製紙株式会社の開発したMulti-Auto-Transformationの略である。いろいろなタイプがあるが、サイトカイニン(cytokinin)合成遺伝子(iptZ)と耐塩性酵母である醤油酵母Zygosaccharomyces rouxiiの内在性プラスミドpSR1の部位特異的組換え酵素とその標的配列を順方向反復配列(direct repeats)として利用しているものの説明をする。植物ホルモンの一種であるサイトカイニンは頂芽優勢を打破するために、サイトカイニンが多いと側芽が次々伸びて多芽体を植物は形成する。iptZと部位特異的組換え酵素遺伝子を標的配列の順方向反復配列で囲み、その外側に目的遺伝子を配置したDNA(「目的遺伝子+ 反復配列 + iptZ + 部位特異的組換え酵素遺伝子 + 反復配列」カセット)を植物細胞に導入すると、サイトカイニンが過剰生産され、多芽体が形成される。その中から、部位特異的組換え酵素遺伝子が標的配列の順方向反復配列に作用してiptZと部位特異的組換え酵素遺伝子が除去され、目的遺伝子が残ったもの(「目的遺伝子+ 反復配列」カセット)を保持するシュートが正常な頂芽優勢を示す表現型のものとして得られる。それを目的遺伝子のみを所持するものか検定して、確認する。
- Cre-loxP system
- バクテリオファージP1の部位特異的組換え酵素であるCreとその標的配列loxP (5'-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3')を2つ順方向反復配列として用いて、loxP の順方向反復配列間の選択マーカー遺伝子を含む配列を特異的に除去する系を利用したものである。いくつかの手法があり、その1つを紹介する。導入したい目的遺伝子はloxPの順方向反復配列の外側に、選択マーカー遺伝子ははloxPの順方向反復配列の内側に配置して、「目的遺伝子+ loxP + 選択マーカー遺伝子 + loxP」カセットを作製し、それを植物に導入して形質転換植物をつくる。次に、それとCreを生産するようにcre遺伝子が導入された形質転換植物と交配して、「目的遺伝子+ loxP + 選択マーカー遺伝子 + loxP」カセットと「cre遺伝子」カセットの双方を持つ後代を得る。その後代の細胞の中には、loxP 間で組換えが生じた結果、選択マーカー遺伝子部分がループアウトして除去され残された「目的遺伝子+ loxP」カセットと「cre遺伝子」カセットの双方を持つようになった細胞が現れる。そこで、その交配株から後代を得て、その中から「cre遺伝子」カセットを持たないが「目的遺伝子+ loxP」カセットのみを持つものを選択すると選択マーカー遺伝子が除去された個体が得られる。
[編集] 新技術(ジーン・ターゲッティング)の導入
その他、現在、ジーン・ターゲッティング法を用いて遺伝子置換を植物に応用する試みが進んでいる。植物は相同組換え活性が低く、内在性の遺伝子と相同性が高いDNA断片を導入しても内在性の遺伝子と殆ど相同組換えを起こさず、非相同組換えによって標的以外に組み込まれるものが大部分である。そこで様々な工夫が必要となる。
[編集] ALS遺伝子の特異的置換
ひとつの例が、pyrimidinyl carboxy系除草剤であるbispyribacへの耐性を示すイネの開発である。前記の「除草剤耐性作物」の小節で述べたsulfonylurea系除草剤と同様に、この除草剤は分岐鎖アミノ酸(blanched chain amino acids, BCAA)生合成系の酵素の一種であるacetolactate synthase (ALS)の阻害剤である。イネのある変異体は、ALSの2カ所のアミノ酸残基の変異によってbispyribacに対して高度に耐性を示す。そこで、非相同組換えによる耐性形質転換体を除去するためにpromoterとN(アミノ)末端側の配列を欠失したイネ由来の変異型ALSをイネに導入して耐性になった相同組換えによる遺伝子置換体を単離した。そのhomo接合体は著しくbispyribacに対して耐性となっていた[13]。
この過程で変異型ALSのpromoterとN末端側の配列を欠失したものを用いているのは重要である。promoterとN末端側の配列を含む完全な変異型ALSを用いればゲノムの本来のALS以外のところに非相同組換えによって挿入されてもbispyribac耐性になってしまう。また、promoterのみを除去し開始コドンから完全な変異型ALSのタンパク質コード領域(翻訳領域、ORF)を含んでいるものを用いれば、ほとんどの非相同組換えによるbispyribac耐性株を除去できるはずであるが、T-DNA taggingに用いられているようにAgrobacterium(アグロバクテリウム)法ではT-DNAはかなりの高頻度で転写活性の高い領域に挿入されるため、何らかの遺伝子のpromoter下流に挿入され、その転写方向と挿入断片のセンス鎖方向が一致すればbispyribac耐性株が生じる可能性がある。そこで、promoterとN末端側の配列を欠失したものを用いれば、非相同組換えによるbispyribac耐性形質転換体によるバックグラウンドをほぼ排除できるわけである。
この遺伝子置換体は基本的に標的となったALSの配列のみが野生型と一部異なるだけであり、他の選択マーカー遺伝子が存在しないため、突然変異により育種されたものと区別がつかない。このことは遺伝子組換え食品の実質的同等性を確保する上で大きな意味を持つ。
[編集] 任意の遺伝子の特異的置換
また、変異型ALSのようなそれ自体が選択マーカーとなる遺伝子だけでなく、任意の遺伝子を遺伝子置換により遺伝子破壊する方法が開発された。この方法は、diphtheria toxinが真核生物の細胞質の蛋白質合成を阻害するため、diphtheria toxinを生産する真核細胞が死滅することを利用している。Agrobacterium法による形質転換においてT-DNAのright borderとleft borderの内側近傍にdiphtheria toxin-A(ジフテリア毒A)遺伝子を1個ずつ逆方向反復配列(inverted repeats)として配置し、更にその内側に遺伝子破壊したい配列と相同な配列と選択マーカー遺伝子を挿入することによって、相同組換えを起こしたもののみ生存できるようにしたものである。相同組換えによって2個のdiphtheria toxin-A遺伝子が除去され選択マーカー遺伝子が導入された細胞は生存可能であるが、非相同組換えによって標的遺伝子以外のところにright borderとleft borderとともにdiphtheria toxin-A遺伝子が導入された細胞は死滅すると考えられる。
ただし、この方法によってもイネにおいて選択された形質転換体のうち目的とする遺伝子破壊体の頻度は1.9%であった[14]。今後の更なる効率上昇に関する研究は必要であろう。
[編集] 安全性審査
組換え作物に対する安全性審査は、生物多様性の確保に関するカルタヘナ法に基づく「環境に与える影響の評価」と「食品としての安全性の評価」に分けられる。
日本においては、遺伝子組換え食用作物(遺伝子組換え食品)の商業的栽培は行われていないが、多量の組換え食品が輸入されている。それらの安全性を確保するため、厚生省は平成3年から「安全性評価指針」に基づいて個別に安全性審査を行ってきたが、任意の仕組みであった。安全性審査を法的に義務化することとし、平成13年4月1日から、安全性審査を受けていない遺伝子組換え食品の輸入・販売等が禁止された。
また、平成15年7月1日に食品安全基本法が施行され、内閣府に食品安全委員会が発足したことに伴い、遺伝子組換え食品の安全性審査は食品安全委員会の意見を聴いて行うこととなった。「遺伝子組換え食品の安全性審査について」に関連の規則や安全性評価基準についてのリンクがある。詳細はリンク先参照。食品としての安全性審査における基本的な検討事項は、
- 組み込む前の作物(既存の食品)、組み込む遺伝子、ベクターなどはよく解明されたものか?
- 食経験はあるか?
- 組み込まれた遺伝子はどのように働くか?
- 組換えることで新しくできたタンパク質はヒトに有害でないか?
- アレルギーを起こさないか?
- 組換えによって意図しない変化が起きないか?
- 食品中の栄養素などが大きく変わらないか?
である。
飼料としての安全性審査は、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)」に規定されている。
遺伝子組換え作物を一般圃場で栽培する前に環境への影響は、カルタヘナ法に基づき、競合における優位性があるか有害物質を産生しないか、交雑性の主に3点から科学的に評価されている。
- 競合における優位性
- 野生生物と栄養分、日照、生育場所等の資源を巡って競合しそれらの生育に支障を及ぼす性質
- 有害物質産生性
- 野生動植物又は微生物の生息又は生育に支障を及ぼす物質を産生する性質
- 交雑性
- 近縁の野生植物と交雑し、法が対象とする技術により移入された核酸をそれらに伝達する性質
それぞれ、「競合における優位性による生物多様性影響が生ずるおそれが無い」、「有害物質産生性による生物多様性影響が生ずるおそれが無い」、「交雑性による生物多様性影響が生ずるおそれが無い」と評価されてから、農林水産大臣及び環境大臣より一般圃場での栽培が承認(第1種使用)される。
なお、花卉などの非食用の遺伝子組換え作物に関しては、カルタヘナ法に基づく第1種使用の承認だけが要求されており、食品としての安全性審査は必要とされない。
[編集] 世界各国での栽培と輸出入の現状
[編集] 概説
1994年にFlavr Savrが発売された後に、GM作物は、1996年にアメリカで大豆の栽培が始められて以降着々と普及してきた。2008年現在、全世界の大豆作付け面積の70%、トウモロコシで24%、ワタで46%、カノーラで20%がGM作物である(ISAAA調査[1])。特に食生活の変化による肉類消費の増加を背景とした飼料用穀物の需要増加は、害虫、除草剤への耐性が高く、生産性も高いGM作物の需要増加に繋がっている[15]。アメリカを初め、中国やインド、ブラジル、カナダなど各国へ普及しており、2006年時点で22カ国で約1億200万ha栽培され[16]、更に2007年には23カ国で約1億1430万ha、2008年には25カ国で約1億2500万ha栽培された(ISAAA調査)。ちなみに2008年現在の日本の全耕地面積は約462万haである。2008年の遺伝子組換え作物生産国は(北米)アメリカ、カナダ、(中南米)メキシコ、ホンジュラス、コロンビア、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ボリビア、(アジア、オセアニア)中国、インド、フィリピン、オーストラリア、(アフリカ)南アフリカ、ブルキナファソ、エジプト、(ヨーロッパ)ポルトガル、スペイン、ドイツ、チェコ、ポーランド、スロバキア、ルーマニアである。
近年の特徴として、複数の形質(stacked traits)が導入された品種の栽培面積が増えてきている(ISAAA調査)。複数の形質とは、複数の除草剤に対する抵抗性や、除草剤耐性と害虫抵抗性を併せ持つものである。多くの場合、異なった遺伝子が導入された複数の組換え作物を交配して作られている。
日本は大量の穀類を輸入しており、その相当量は既に遺伝子組換え品種であると推定されている。
[編集] 遺伝子組換え作物の主要栽培国と日本での栽培の現状
- アメリカ
- 最初に栽培が始まったアメリカは遺伝子組み換え作物の生産が最も盛んな国の一つである。2007年に報道されたところによると米国産作物の半分以上は遺伝子組み換え作物であり、大豆はほぼ100%、トウモロコシは約70%を占める[15]。また、加工食品の多くにもGM作物が使用されている[15]。なお、米国農務省のNASS(National Agricultural Statistics Service)によると2008年の組換え作物の作付けの割合は、ダイズで92%(約2770万 ha[17])、トウモロコシで80%(約2820万 ha[18])、ワタで86%(約320万 ha[19])であった[20]。また、2009年の組換え作物の作付けの割合は、ダイズで91%、トウモロコシで85%、ワタで88%である[21]。
- カナダ
- 2007年のダイズの栽培面積の62.5%(約68.8万 ha)は組換え品種であった[17]。2007年のトウモロコシの栽培面積の84%(約117万 ha)は組換え品種であった[18]。カノーラの2007年の栽培面積の87%(約510万 ha[22])は組換え品種であった。
- ブラジル
- 当所、ブラジル政府はGM作物に対して態度を明確にしていなかった。そのため、隣国であるアメリカでGM作物が問題となっていたことを利用して、2002年大統領選では候補者が「ブラジルではGM作物を作らない」と宣言して自国農作物をアピールする動きも見られた。ところが、そのときにはすでに密輸されたGM作物が国内に流通しており、2005年にブラジル政府はGM作物を認めることになる[15]。2007年のダイズの栽培面積の64%(約1450万 ha)は組換え品種であった[17]。
- アルゼンチン
- 組換えダイズの栽培が盛んであり、2007年のダイズ栽培面積の98%(約1600万 ha)は組換え品種であった[17]。2007年のトウモロコシの栽培面積の84%(約280万 ha)は組換え品種であった[18]。また、2008年のワタの栽培面積の95%(約38万 ha)は組換え品種であった[19]。
- ウルグアイ
- 2007年のダイズの栽培面積の100%(約47万 ha)は組換え品種であった[17]。
- パラグアイ
- 2007年のダイズの栽培面積の93%(約260万 ha)は組換え品種であった[17]。
- インド
- 組換えワタの栽培が盛んであり、ナスなどの組換え品種の育種も進んでいる。2008年のワタの栽培面積の76%(約695万 ha)は組換え品種であった[19]。
- 中国
- GM作物を積極的に取り入れる動きがある。中国政府が積極的に取り組んでおり、研究は1986年から行われている[16]。2006年時点では、GM作物のほとんどは綿花とタバコだが、基礎食品である米の開発に力を入れており、商業栽培も間近な状況となっている[16]。2007年のワタの栽培面積の68%(380万 ha)は組換え品種であった[19]。
- 日本
- 一部自治体で環境や消費者団体などへの影響への懸念から条例で栽培を規制している。北海道、新潟県など10都道府県では実質的に栽培が禁止されている。また、スギ花粉症緩和米などは医薬品としての規制を受ける。厚生労働省医薬食品局食品安全部が安全性審査を終えた組換え作物を公表している[2]。青いバラ (サントリーフラワーズ)は国内で栽培されるため、2009年には日本も遺伝子組換え作物の商業栽培国となる。
[編集] 日本の遺伝子組換え作物の輸入量
「農林水産物輸出入概況2008年(平成20年)確定値」[23]による主要穀類の日本の輸入量とその輸入相手国は以下の通りである。
- トウモロコシ:16,460,160トン(内 飼料用 11,877,772トン) 主要輸入相手国(重量比) アメリカ 16,277,542トン(内 飼料用 11,726,815トン)(98.9%)、アルゼンチン 86,724トン(内 飼料用 85,991トン)(0.5%)、インド 72,578トン(内 飼料用 57,868トン)(0.4%)
- ダイズ:3,711,043トン 主要輸入相手国(重量比) アメリカ 176,882,857トン(73.5%)、ブラジル 568,024トン(15.3%)、カナダ 325,010トン(8.8%)、中国86千トン(2.3%)
- 菜種(採油用):2,312,536トン 主要輸入相手国(重量比) カナダ 2,208,754トン(95.5%)、オーストラリア 103,450トン(4.5%)
これらの作物の主要輸入相手国は、上記のようにそれらの作物の遺伝子組換え品種の栽培の盛んな国である。よって、日本は遺伝子組換え作物を大量に輸入していると推定されている。その推定値の中には日本の輸入穀類の半量は既に遺伝子組換え作物であるというものもある[24][25][26]。
[編集] 遺伝子組換え作物と有機栽培
上記の節のように日本は大量に遺伝子組換え作物を輸入している。その結果、遺伝子組換え作物に由来する大量の廃棄物が発生している。それらは有機質肥料の原料として用いられることもある。「有機農産物の日本農林規格」[27]によれば、本来は種苗や防除資材や肥料などに組換えDNA技術を用いたものを利用できない。しかし、特例として遺伝子組換え作物から油を絞った油粕や、飼料として用いた結果生じた糞尿をもとに作った有機質肥料である堆肥を有機栽培に用いることは、現状では許可されている。堆肥に関しては、組換えDNA技術を用いていないものの入手やその確認が困難であることを理由に、「有機農産物の日本農林規格」の附則において、
| (経過措置) 2 この告示による改正後の有機農産物の日本農林規格(以下「新有機農産物規格」という。)別表1に掲げる肥料及び土壌改良資材のうち、植物及びその残さ由来の資材、発酵、乾燥又は焼成した排せつ物由来の資材、食品工場及び繊維工場からの農畜水産物由来の資材並びに発酵した食品廃棄物由来の資材については、新有機農産物規格第4条の表ほ場における肥培管理の項基準の欄1に規定するその原材料の生産段階において組換えDNA技術が用いられていない資材に該当するものの入手が困難である場合には、当分の間、同項の規定にかかわらず、これらの資材に該当する資材以外のものを使用することができる。 |
と明記されている。
また、「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A」[28]の「(問95) 遺伝子組換え作物に由来するたい肥の使用は認められますか。」の回答としても、
| 平成18年度の改正において「肥料等の原材料の生産段階において組換えDNA技術が用いられていないものに限る。」と規定され、たい肥についても組換えDNA技術の使用が明確に排除されることとなりました。
しかしながら、現状では植物及びその残さ由来の資材、発酵、乾燥又は焼成した排せつ物由来の資材、食品及び繊維産業からの農畜水産物由来の資材、発酵した食品廃棄物由来の資材のそれぞれについて、遺伝子組換え作物に由来していないことを確認することが現実的には難しい状況にあります。このため、これらの資材の活用が困難となることを考慮し、今回の改正では附則において、当分の間使用することができるとされています。 なお、ここで言う当分の間とは、有機農産物のJAS規格の平成23年度の定期見直しの改正までの期間を指します。 |
と解説されている。
[編集] 論争
遺伝子組換え作物(GM作物)については健康や環境に悪影響があるのではと不安を抱く者も多く、英国や日本などの一部の国では商業目的でのGM作物を栽培していない。GM作物を否定する者と肯定する者の間でその影響などについて論争が起きている。
[編集] 生態系などへの影響
[編集] 概説
遺伝子組換え作物の生態系への影響を含めた評価をする上で重要なことは、何と比較するのかということを明確にすることである。細胞融合や種間交雑、変異体育種、古典的交配を含めた従来の手法によって育種された品種や、慣行農法(慣行栽培)や有機栽培や自然農法との比較を行い、様々な観点からの評価を遺伝子組換え作物に対して総合的に行う必要がある。
[編集] 外来遺伝子による遺伝子汚染とその防除法
本来、組換え作物が持っていて野生植物が持っていない形質が、組換え作物の花粉の飛散等によって近縁の植物との間に雑種を作り、拡散してしまう可能性がある(遺伝子汚染)。そのため、組換え作物においても生態系への影響として、組換え品種と在来種や野生種との交雑の危険性があげられることがある。ただし、在来種や野生種との交雑に関しては、組換え品種のみではなく伝統的手法で育種された品種でも同様の問題を含んでおり、組換え品種にのみ限定された問題ではない。
組換え作物と在来種や野生種との交雑を防ぐ手法の一つとして、花粉を作らない雄性不稔の形質が求められている。その他の解決法として、葉緑体などのプラスチド(plastid)のゲノムは基本的に母系遺伝のため、花粉を通して拡散しないということを利用することもある。すべての形質転換植物に利用できるわけではないが、プラスチドのDNAに目的の外来DNAを相同組換えによって導入してプラスチド内で発現させる訳である。このような形質転換植物の外来DNAは形質転換植物自身に結実した種子を通してのみ後代に伝達されるため、花粉を介した遺伝子拡散を回避できる。その他、自家受粉するイネやダイズなどの作物においては、閉花受粉性を利用する試みが進んでいる。閉花受粉性とは、開花せずに雄蕊の花粉によって雌蕊が受粉する性質である。この性質を利用できれば、花粉を介した遺伝子拡散の可能性を低減できる。
[編集] 遺伝子組換え作物と遺伝的多様性
更に、組換え品種を大量に栽培すると遺伝的多様性が失われるのではないかという懸念も、組換え品種特有の問題ではなく、在来品種においても少数の品種の大規模栽培に伴う問題である。農業も産業である以上、経営上有利である高品質で低コストなどの競争力の高い品種が現れれば、遺伝子組換え作物に限らず栽培が広がる。その過程で競争に敗れた品種は淘汰される。しかし、野生種や競争力の低い旧来の品種にも重要な遺伝子やゲノム構造が存在しているため、その維持・保存は重要である。
一方、遺伝的多様性を維持していく上で、遺伝子組換え技術は大いに役立つという意見もある。その意見は、「従来の育種法において、多くの品種を育種材料として用いてそれらに新たな形質を導入することは、きわめて多数の試料を扱うことになり困難である。そのため、比較的少数の品種等しか育種の材料になれず、育種材料として選ばれなかったものの遺伝子やゲノム構造の消失する可能性が高くなる。一方、遺伝子組換え技術を利用した場合では、新たな形質を発現させるための遺伝子発現カセットを多数の品種に導入することは比較的容易である。よって、多数の品種を維持・保存する上で有利である。」という考えに基づいている。つまり、在来品種に遺伝子組換え技術によって有用な遺伝子を導入し競争力を高めることにより、在来品種のゲノム構造が残りやすくなるという意味である。
[編集] Btトウモロコシ花粉の生態系に与える影響
生態系に与える他の影響として、Btトウモロコシの花粉がトウモロコシ畑の近傍の有毒雑草であるトウワタにかかり、それを食草とする蝶・オオカバマダラの幼虫の生育を阻害して生存率を下げたという報告が有名である[29]。この論文は、実験室内でトウワタの葉にBtトウモロコシ、トウモロコシ栽培品種の花粉をかけたものとかけなかったものを餌としてオオカバマダラの幼虫を飼育して経時的に体重と生存率を測定したものである。その際に、トウワタに散布した花粉の密度が、"Pollen density was set to visually match densities on milkweed leaves collected from corn fields."と非定量的であるにもかかわらず、体重変化や生存率を定量的に示したという問題点を含んでいる。著者らが、"it is imperative that we gather the data necessary to evaluate the risks associated with this new agrotechnology and to compare these risks with those posed by pesticides and other pest-control tactics."と述べているように、Btトウモロコシの栽培と慣行栽培によるリスク評価の比較を行うことは重要である。すなわち、殺虫剤の散布に伴う生態系への影響や残留農薬、食害に伴う微生物汚染などのリスクとBtトウモロコシのリスクを比較する必要がある。たとえば、慣行農法によって殺虫剤をまくことによって害虫以外への影響とBtトウモロコシの栽培による影響を相互比較した場合、どちらが生態系への影響が大きいかを検定することなどである。なお、Bt toxinを生産させるための発現カセットのプロモーターを花粉で発現しないものに交換したことにより、花粉に含まれるBt toxinの量は激減した。
[編集] 経済問題
[編集] 概説
組換え品種を開発した企業が、種子の支配を通じて食料生産をコントロールすることにつながるのではないか、という懸念が出されている。多くの場合、組換え種子の販売会社と生産農家は、収穫した種子の次回作への利用を禁止する契約を結んでいる。更に、組換え種子を毎作毎に農家に購入させるための手法として、一時期、結実はできるが得られた種子から発芽できないようにする、いわゆる「ターミネーター遺伝子」を導入した組換え品種の開発が行われたが、批判も多く、現在、販売されているものの中にはない。
上記のラウンドアップ耐性作物を開発・販売しているモンサント社は農家の種子の採取に対して「特許侵害」として数多くの訴訟を起こしており、これに反発する農家も存在する[3]。
[編集] 種子の支配と種苗会社の寡占化
毎作毎に種子を購入する必要性を通じて、開発した種苗会社による種子の支配が強化されるという批判がある。これは、農民には収穫した種子の一部を次回作に利用する権利があり、それを侵害することになるという意見である。しかし、これは、組換え品種に限定された問題ではない。現在、交雑によるF1品種が多く栽培されている。F1品種に実った種子はF2世代であり、F2世代は遺伝的に不均一であるため、F2世代は栽培可能ではあるが、F2世代を栽培すると様々な表現型の植物の集団となってしまう。そのため、栽培上著しく不利になってしまう。そこで、F1品種を栽培する場合、安定して同一形質の作物を得るためには、毎作毎に種子を購入しなくてはならない。更に、F1品種でなくても自家採取した種子は、遺伝的な純粋性の問題、病原菌汚染や種子の品質の問題、その品種名を名乗って販売する場合の種苗法の問題があり、多くの農家が種子を種苗会社から購入している現状がある。つまり、特定企業による種子の支配の問題は、遺伝子組換え品種に特有の問題ではない。
一方、この意見に対する反論もある。従来の交配や突然変異による育種において優良な品種を開発するためには、扱う材料が膨大で、人員や時間が大量に必要でコストがかかる一方、優良な品種が得られる確率が低かった。それに対して、遺伝子組換え育種では、アイデアさえよければ比較的短期間・低コストで優良な品種を育種できる確率が高いために、小資本のベンチャー企業や小規模な研究機関でも組換え品種の開発に参入できた。ただし、組換え品種を開発すること自体は比較的容易であっても、それを商品化して上市するためには安全性審査に合格する必要がある。安全性審査には多額の費用と時間がかかるために、小資本のベンチャー企業や中小資本の種苗会社や中小研究機関にはその余裕がなく、それに耐えられる大資本の種苗会社に企業ごと買収されたり、特許を売却したりすることにつながった。つまり、遺伝子組換え品種に対する規制の強化の結果として、大資本の種苗会社による寡占化が進んだという解釈も成り立つ。
[編集] シュマイザー事件
1998年、カナダモンサント社はカナダ、サスカチェワン(Saskatchewan)州の農民、パーシー・シュマイザー(Percy Schmeiser)の農場でラウンドアップ耐性ナタネ(カノーラ: canola)が無許可で栽培されていることに対し特許権侵害で訴訟を起こした。シュマイザーは種子に特許が存在しないこと、農場のナタネの9割以上がラウンドアップ耐性ナタネになっていたのは意図的に栽培したのではなく周辺で栽培されているラウンドアップ耐性ナタネによる「遺伝子汚染」の結果であると主張した[4]。しかし、交雑等の可能性があっても約400 haに植えられたナタネの9割以上のナタネがラウンドアップ耐性ナタネになることは現実にはあり得ないとしてカナダ最高裁はモンサント社に対する特許侵害を認めた。下級審の判決を妥当としシュマイザーは敗訴した。[5]
種子に対する特許が認められたことに対しカナダの市民団体と生産者団体は強く反発している。
被告のシュマイザーは自らを遺伝子汚染の被害者として、遺伝子組換え作物反対派と共に日本国内でもたびたび反対活動を行っている。
[編集] 倫理面
宗教上やその他の信念により遺伝子操作自体を忌み嫌う人も存在し、反対活動を行っている。一方、ゴールデンライスのように人道的なものにまで反対することに対しては反発もある。
[編集] ゴールデンライスと遺伝子組換え食品反対運動
ビタミンA欠乏症を解消することは世界保健機構(WHO)やユニセフ(UNICEF)においても主要目標である(Vitamin A Defeciency Control WHO/UNICEF Strategy)。WHOによるとビタミンA欠乏症によって、"An estimated 250 million preschool children are vitamin A deficient and it is likely that in vitamin A deficient areas a substantial proportion of pregnant women is vitamin A deficient."、"An estimated 250 000 to 500 000 vitamin A-deficient children become blind every year, half of them dying within 12 months of losing their sight." (A few salient facts)とあるように、推定2億5千万人の未就学児がビタミンA欠乏症であり、ビタミンA欠乏地域では多数の妊婦もビタミンA欠乏症である。そして、推定25万人から50万人の子供たちが毎年、ビタミンA欠乏症で失明し、その半数が一年以内に死亡している。そのような子供たちは南アジアや東南アジアの都市部のスラムに住む貧困家庭に多い。ビタミンA欠乏症を解消するために、主食であるコメにビタミンAの前駆体であるβ-カロテンを含むようにしてビタミンA欠乏症を緩和しようと育種されたものがゴールデンライスである(goldenrice.org)。このゴールデンライスに対しても反対する遺伝子組換え食品反対派はいる。この様な反対に対して、ゴールデンライスの開発者や推進派の中には、人道に反すると反発する考えもある。
[編集] 食品としての安全性
[編集] 概説
- 従来考えられないほどの短い期間で新品種の開発が行われる。
- 従来はありえなかった「種の壁を越えた」品種開発が可能である。
などを根拠に安全性を保障する実績がないとして忌避する意見も根強い。しかし、従来の非GM作物であっても100%の安全性証明がなされているわけではなく、暗黙のうちに「危険性」が許容されている。また、「種の壁」は一般に信じられているほど強固なものではなく、遺伝子の水平伝播や雑種形成も知られていることなどを考えるべきで、GM作物だけを問題視するのは公正とはいえない。GM作物の安全性については「実質的同等性」の概念に基づいた議論が重要である。ヒトのタンパク質消化において大部分はアミノ酸にまで分解されてから吸収されるため、よほどでない限り遺伝子組換え作物によって変化したアミノ酸配列の僅かな違いが消化・吸収に大きな影響を与えるとは考えにくい。
また、組換え食品は解放系での栽培や上市されるまでにさまざまな安全性審査を受けて、それに合格したものである。一方、組換え作物の比較対象となる在来品種は、組換え作物が受けるような安全性審査を経たものはほとんどなく、その安全性は組換え作物に比べ未知数であるという解釈も成り立つ。
以下の節でいくつかの特記すべき事例について論じる。
[編集] 害虫抵抗性トウモロコシにおけるカビ毒含有量の低下
ある種の組換え作物の方が食品としての安全性が高いという報告がある。これはBt toxinを発現しているトウモロコシYieldGardの方が野生型の栽培種に比べ含有しているカビ毒(mycotoxin)量が数倍から20倍程度少ないというものである[30]。昆虫などによって摂食された傷口からカビが侵入し繁殖するため、Bt toxinを発現していると摂食されにくくなるためカビ毒が大幅に減少したと考えられている。カビ毒には発ガン性や女性ホルモン活性などを有し、様々な疾患を引き起こすものがあることが知られている。このように現在判明している食品としての安全性検査ではある種の組換え作物の方がむしろ有利であるとの解釈も成り立つ。
[編集] ブラジルナッツ 2S アルブミン蓄積ダイズ
ダイズ種子の貯蔵タンパク質のアミノ酸組成では、含硫アミノ酸であるメチオニンやシステインが少ない。そのため、ダイズ・タンパク質の有効利用率を表すプロテインスコアやアミノ酸スコアが低い。そこで、ダイズ種子にメチオニンやシステイン含量の高いタンパク質を蓄積させてタンパク質有効利用率を向上させようという研究が行われた。メチオニン残基が18%、システイン残基が8%と高含量で含まれているため、蓄積させるタンパク質としてブラジルナッツ(Bertholletia excelsa)の2S アルブミン(S: 沈降定数、Svedberg単位)が選ばれた。ただし、既にブラジルナッツなどのナッツ類に対するアレルギーが知られていた。主要なアレルゲンとして分子量9 kDaの2S アルブミンと42 kDa タンパク質、その他の複数のアレルゲンとなるタンパク質があることが判明している。遺伝子組換え作物は、上市される前に安全性審査を経なければならず、その中にはアレルギー試験も含まれている。その審査過程で、ブラジルナッツ 2S アルブミン蓄積ダイズは、一部のブラジルナッツ・アレルギー患者にアレルギーを誘発する可能性があることが判った[31]。一部のブラジルナッツ・アレルギー患者由来の血清中の免疫抗体IgEは、形質転換ダイズ中の9 kDaのブラジルナッツ 2S アルブミンやその前駆体と抗原抗体反応を起こすことが判明した。また、ブラジルナッツ・アレルギー患者に対するアレルギー試験の一種である皮膚プリックテストにおいても同様の結果が得られた。この結果を受けて、この形質転換ダイズの上市は中止された。植物に遺伝子を導入する以前に遺伝子産物に対するアレルギーの確認が可能であったにもかかわらず、商品化の過程の安全性審査で判明したことに問題がある。この件は、導入される遺伝子の産物に対する事前の細心の注意が必要であることと、安全性審査が有効に機能したことを示している。
[編集] ニューリーフ・ポテト
モンサント社のニューリーフ・ポテトはアメリカの環境保護局(U.S. Environmental Protection Agency: EPA)に農薬として登録された。しかし、日本では農薬としては登録されていない。ニューリーフ・ポテトBT-6系統やSPBT02-05系統とはBacillus thuringiensisの結晶性殺虫タンパク質(Bt toxin)を生産してコロラドハムシというジャガイモの害虫に抵抗性を持たせたジャガイモのことである。付け加えて、更にある種の植物ウイルスに抵抗性も持たせたニューリーフ・プラス・ポテトやニューリーフY・ポテトの系統も存在する。ニューリーフ・ポテトにおいて生産されているBt toxinは哺乳類に対する安全性が確認されたタンパク質であり、ニューリーフ・ポテトに関する安全性は様々な安全性試験によって確認されている。農薬を使い害虫駆除をするようなこととは違い、ポテト自体に害虫を殺す作用があるという理由で、ポテト自体が通常の農薬としてEPAに登録されている。なお、ニューリーフ・ポテトと同様にBt toxinを生産しているトウモロコシやワタの複数の系統が組換え作物として認可されており、これらにもニューリーフ・ポテトと同様に作物自体に害虫を殺す作用があるが、これらは農薬として登録されたことはない。
[編集] ラウンドアップレディー・ダイズを給餌した多世代飼育試験
遺伝子組換え食品の安全性審査においては、急性および亜急性毒性の審査しかしていない、多世代にわたって給餌した際の安全性を調べていない、という批判がある。そこで、ラウンドアップレディー・ダイズの安全性に関しては、多世代の動物飼育における給餌実験によって試験された。例えば、サウスダコタ大学のグループは4世代にわたってマウスにラウンドアップレディー・ダイズを給餌しても、何ら悪影響を見いだすことができなかった、と報告した[32]。また、東京都の健康安全研究センターも2世代にわたるラットへの給餌試験を行ったが何ら有意差を見いだせなかった[6]。同様な研究は多数行われている。2-4世代にわたる多世代飼育実験の世代数が十分かどうかについては異論があるかもしれないが、これらの実験においては少なくともこの世代数では有意な危険性を検出できなかったといえる。
[編集] パズタイ事件
一方、健康への影響例としてよく挙げられるものに「遺伝子組換えジャガイモを実験用のラットに食べさせたところ免疫力が低下した。」と世間に大きな衝撃を与えたレポート(Pusztai(パズタイ、プシュタイまたはプッタイとも表記される)事件)がある。1998年8月10日、スコットランドのアバディーン(Aberdeen)のロウェット研究所(Rowett Research Institute)のArpad Pusztai博士が、英国のテレビ番組で、組換えジャガイモにより、ラットに免疫低下などがみられたと公表した。その真偽を巡り、大騒ぎになったが、論文としては1999年のLancetの10月16日号まで公表されなかった。そのため、この間、この報告を検証できない状態であるにもかかわらず、一部の間ではさも真実であるかのように受け取られた。しかし、公表された論文からは実験そのものがずさんであり、A. Pusztai博士の主張には無理があることが判明した。使用した遺伝子組換えジャガイモが安全性が確認され商品化されているジャガイモとは全く別なレクチンという哺乳動物に対し有害な作用を持つタンパク質を作る遺伝子を組み込んだ実験用ジャガイモであり、有害な遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物は有害だったと当たり前の結果が出たに過ぎない。この実験は、マツユキソウの殺虫活性のあるレクチンを生産する組換えジャガイモ、親株のジャガイモにレクチンを注入したもの、親株(母本)のジャガイモ、を生のままものと茹でたものに分け、6頭ずつのラットに10日間与えて消化管を調べたところ、炎症や免疫の低下が組換えジャガイモを飼料としたものにみとめられたというものである[33]。
この実験には栄養学的な問題や検定数が少ないという問題以前に実験の設計段階での欠陥として、
- レクチンの遺伝子を含まない空のベクターを用いて形質転換した、つまりレクチンを生産しない組換えジャガイモと、更にそれにレクチンを注入した2種類の対照(コントロール)がない。
- 注入したレクチンが複数のレクチンの混合物でないことを証明していない(組換え体は単一の遺伝子に由来するレクチンを生産しているが、実験で用いられたレクチンは単一の遺伝子産物であるという証明がなされていない)。
- 遺伝子組換えと関係がない、組織培養に伴う体細胞変異を考慮していない。(組織培養に伴うトランスポゾンの活性化による変異以外にも、ジャガイモのような栄養繁殖植物の場合、植物体は変異の蓄積した細胞のキメラ集団として存在していることが多い。そのため、何ら変異処理をしなくても単細胞となるプロトプラストにして植物体を再生させると様々な表現型の変異株が得られることがある。)
という点が挙げられる。実験設計の不備のため、この実験によって遺伝子組換え自体によって危険性が増すという結論を導き出すことはできない。この論文に関しても、社会的な問題が大きいから論文の内容にかかわらず掲載することにしたという異例の編集者の意見が明記されて掲載された経緯がある[34]。それには以下のように記されている。
- While criticising the researchers' “sweeping conclusions about the unpredictability and safety of GM foods”, he pointed to the frustration that had dogged this entire debate: “Pusztai's work has never been submitted for peer review, much less published, and so the usual evaluation of confusing claim and counter-claim effectively cannot be made”. This problem was underlined by our reviewers, one of whom, while arguing that the data were “flawed”, also noted that, “I would like to see [this work] published in the public domain so that fellow scientists can judge for themselves… if the paper is not published, it will be claimed there is a conspiracy to suppress information”.
この論文に関しては更に著者らとの異例の誌上討論が行われた[35]。そこでは空のベクターを用いていないという指摘に対して、著者らは、 "If our experiments are so poor why have they not been repeated in the past 16 months? It was not we who stopped the work on testing GM potatoes expressing GNA or other lectins or even potatoes transformed with the empty vector, which are now available." と、実験において空のベクターを用いていなかったことを明確に認めている。
[編集] 背景
上記のような一般消費者の不安の背景として以下のようなことも指摘、主張されている。
- GM作物を推進する側の研究・行政サイドから市民へのGM作物に関する広報活動はこれまで充分であったとは言いがたく、反対派の先行を許してしまったことが今日の混乱を生んだ面がある。
- 一般人の科学知識の欠如により正確にGM作物が理解されていない。
以上2点は、研究開発に関わる側からよくなされる指摘であるが、反対派からは自らの視点が絶対に正しいと決め付けているとの批判もある。
- 「遺伝子組換え作物を人体に危険なものと消費者に訴え、自社商品の売り上げを伸ばそうとする非遺伝子組換え食品商法に走る業者」等[7]のネガティブキャンペーンがある。
- 「種子の特許を利用してアメリカ大企業は世界支配をたくらんでいる」と主張する「反米団体」や「環境団体」がいる。
- 政府に対する信用が低い。イギリス政府はBSE問題の収拾に失敗し、日本では薬害など厚生労働省の失態や国内でのBSE発生(農林水産省)が報じられ国民の信用が低下していた。どちらの国も遺伝子組換え作物の規制が厳しい。しかし、各国の政府に対する信用と各国の遺伝子組換え作物に対する政策に対する相関性は報告されていない。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ チョウ目及びコウチュウ目害虫抵抗性並びに除草剤グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ (cry1A.105, 改変cry2Ab2, cry1F, pat, 改変cp4 epsps, 改変cry3Bb1, cry34Ab1, cry35Ab1, Zea mays subsp. mays (L.) Iltis)(MON89034×B.t. Cry1F maize line 1507×MON88017×B.t. Cry34/35Ab1 Event DAS-59122-7, OECD UI: MON-89Ø34-3×DAS-Ø15Ø7-1×MON-88Ø17-3×DAS-59122-7) ( MON89034, B.t. Cry1F maize line 1507, MON88017 及びB.t. Cry34/35Ab1 Event DAS-59122-7 それぞれへの導入遺伝子の組合せを有するものであって当該トウモロコシから分離した後代系統のもの(既に第一種使用規程の承認を受けたものを除く。)を含む。)申請書等の概要
- ^ 低飽和脂肪酸・高オレイン酸及び除草剤グリホサート耐性ダイズ(GmFAD2-1A, GmFATB1A, 改変cp4 epsps, Glycine max (L.) Merr.)(MON87705, OECD UI: MON-877Ø5-6)申請書等の概要
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- ^ 家庭においてもキウイフルーツを追熟させたい場合、エチレンをよく発生するリンゴと同じビニール袋に入れて保存するのも同じ原理である。
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- ^ Nature Biotechnology 2005 Apr;23(4):482-7, "Improving the nutritional value of Golden Rice through increased pro-vitamin A content.", Paine JA, Shipton CA, Chaggar S, Howells RM, Kennedy MJ, Vernon G, Wright SY, Hinchliffe E, Adams JL, Silverstone AL, Drake R., PMID: 15793573
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- ^ 「講師の三石誠司・宮城大学教授は、大豆やトウモロコシなど輸入穀物の半分を遺伝子組み換え農産物が占めている現状を解説。」 遺伝子組み換えに賛否 新潟で農水省農産物シンポ 新潟日報2009年9月17日
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[編集] 外部リンク
- 遺伝子組換え食品ホームページ(厚生労働省医薬食品局食品安全部)
- バイオテクノロジーQ&A(財団法人バイオインダストリー協会)
- 遺伝子組換え農作物/遺伝子組換え食品関係情報
- 遺伝子組換え作物の栽培に関する検討委員会
- 食品の安全性と遺伝子組換え生物の将来展望に関する情報と解説
- 本当はどうなの?遺伝子組み換え食品
- 世界の遺伝子組換え作物の栽培状況
- 人類生態学の視点からみた遺伝子組換え技術
- 農林水産技術会議事務局技術安全課遺伝子組換えに関するQ&A
- 日本版バイオセーフティクリアリングハウス(環境省)
- 遺伝子組み換えの科学的情報を提供する バイテク情報普及会
最終更新 2009年12月1日 (火) 15:59 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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